巡りゆく星たちの中で > ユピトル・観光

―――サー・フォス本庁

サー・フォス本庁は、都市の心臓部に屹立する壮麗な巨塔だった。黒曜石の尖塔が青藍の空を切り裂き、陽光を鋭く跳ね返して星々の盟約を象徴する輝きを放っていた。広大なアトリウムでは、星間協定の歴史を紡ぐホログラム壁画がゆらめき、機械の微かな脈動が空気を震わせる。重厚な会議室の扉が静かに開き、セレスとイズモが姿を現した。磨き上げられた大理石の床に靴音が響き、静寂を破る旋律が空間に活気を織り込んだ。

「会議は終わった? どうだった?」 セレスの声は、絹の帯を滑らせるように滑らかで、緑玉色の瞳に好奇心がきらりと宿った。星雲の色彩を織り込んだ流麗な衣装に身を包む彼女は、柱に軽く寄りかかり、穏やかな佇まいの中に鋭い知性を湛えていた。

イズモの顔に、陽気な笑みが弾けるように広がった。実用的な装いに埋め込まれた回路が微かに瞬き、行動を愛する彼の性質を物語っていた。「結構おもしろい会議になったよ!」 彼の声は勝利の余韻に満ち、嵐を抜けた航海者の高揚感を漂わせる。

セレスの眉が優雅に上がり、安心と興味が交錯する微笑が唇に浮かんだ。「おもしろい会議ね……その様子だと悪い結果にはならなかったようだね。」 彼女の言葉はそよ風のように軽やかに舞い、柔らかな余韻を空間に刻んだ。

「うん! お互いの利益になるいい会議だった!」 イズモが胸を張り、自信に満ちた口調で応じた。成功の熱気が彼の身振りに滲み、アトリウムの光を鮮やかに映し出していた。

セレスは首を傾け、遊び心に満ちた視線を投げかけた。「それなら良かった。時間あまってるんでしょ? これから街を観光してみない?」 彼女の声は冒険へと誘う軽やかな調べを奏で、瞳に期待がきらめいていた。

「いいね!! そうしよう!」 イズモの目は都市の未知なる魅力に引き寄せられ、子供のような無垢な興奮が声に溢れていた。

―――サー・フォス市街

漆黒の自動運転車が、サー・フォスの賑やかな街路を流れるように進んだ。高度なアルゴリズムがホバーカーや人々の喧騒を縫う動きは、星々の軌道をなぞる舞踏のように優雅だった。車内のキャビンは豪奢な革張りのシートとパノラマ窓に囲まれた安息の場として佇み、窓の外には結晶ガラスの塔と翡翠の滝のように流れ落ちる緑のテラスが織りなす異世界の景観が広がっていた。

「ああ、これ自動運転だから安心して寛いでね。」 セレスが柔らかな声で囁き、座席にゆったりと身を沈めた。窓から差し込む光が彼女の衣装に虹色の輝きを添え、星屑をまとうようにきらめいていた。

「やっぱ自動運転は楽だねー。」 イズモが窓の外を眺め、子供のようにはしゃいだ声で応じた。都市の鼓動が彼の好奇心を掻き立て、瞳に活気が宿っていた。

セレスは軽く笑い、いたずらっぽい視線を向けた。「さてと……今日は無粋な護衛も秘書官もなし。許可なしで出てきたから貴方も同罪だよ。」 彼女の声には自由を謳歌する軽やかな旋律が宿り、唇に悪戯な微笑が浮かんでいた。

「まあそうねw 護衛との会話もいいけど、やっぱりいないと自由にまわれるからねーw」 イズモが豪快に笑い、肩をすくめた。車窓を流れる色とりどりの看板が彼の笑顔を鮮やかに照らしていた。

セレスの表情が一瞬、深い思索に沈んだ。「この平和な時間を大切にね。きっと君はこれから大変な苦労をすることになるだろうから。」 彼女の声は遠くの嵐を予見する静けさを帯び、窓の外の光景に溶け込んでいた。

「まあそうだろうね。戦闘は雑魚か模擬戦くらいしかないと思うけど、外交はかなりハードになりそうだもんね。」 イズモが軽く頷き、楽観的な口調で答えた。瞳には未知の挑戦への覚悟が宿っていた。

セレスはくすくすと笑い、目を細めた。「雑魚か模擬戦ときたか。あはは! 共立世界は見た目以上に広いんだってこと、これから理解できると思う。狭い世界でたかが知れてると思ってるでしょ~。」 彼女の声はからかう軽快さと深い洞察が溶け合い、車内の空気を温かく満たしていた。

「国家間レベルの戦闘ないからセーフ?www」 イズモが冗談めかして笑い、肩を揺らした。都市の喧騒が彼の軽妙な口調を引き立て、車窓の光景に彩りを添えていた。

「その曲者だらけの勢力が纏まるまでの歴史を後で見てみなさい。面白いんだから。」 セレスが指を軽く振って教え諭すように言い、窓の外の異世界建築が連なる街並みを眺めた。

「たしかにそうかもw」 イズモが素直に頷き、興味をそそられた様子で車窓に目を凝らした。

「転移者が多い分、変人も多いのよ。だから今のうちに慣れておくんだよ。」 セレスの声が親しい友に忠告する温かみを帯び、都市の多様性を愛おしげに映し出していた。

「そうするよ。」 イズモが真剣な眼差しで答え、決意を胸に刻んだ。

セレスは視線を遠くに投げ、思案するように言った。「ピースギアとかいう謎の巨大組織に関係してて、どんな御大層なキャラクターかと思ったら、なんてことはない。意外と素直で話が通じるのね。連邦のあの人にも見習ってほしいものだわ。」 彼女の口調には軽い皮肉と賞賛が交錯し、微笑が言葉を柔らかく包んでいた。

「うちはあくまで平和維持、治安維持しかやってこなかったからね。」 イズモが肩をすくめ、控えめに答えた。車が緩やかにカーブを描き、都市の光景に彼の声が溶け込んでいた。

「面白い話をしてあげよう。治安維持は誰の要請でするの? ピースギアの判断でするのかしら? 内政不干渉の原則って知ってる?」 セレスが探る視線を向け、言葉に鋭い刃を忍ばせ、車内の空気を引き締めた。

「そこらへんのことはもともと指揮権はあるけど、あくまで上からのミッションを遂行してただけだからなぁー。」 イズモが少し考え込みながら率直に答え、窓の外の光景が彼の記憶を呼び起こしていた。

「なるほど。ピースギアのことがまた一つ分かっちゃったよ。まぁあれだね。ざっくりとした解釈にはなるけど軍政の一種だね。」 セレスが満足げに微笑み、結論を下した。彼女の瞳には知的好奇心がきらりと光っていた。

「自分が持ってる異能で技術や戦闘に特化してて軍部にいたってだけだよ。」 イズモが軽く笑い、自身の役割を簡潔に説明した。車窓の光が彼の顔に柔らかな影を落としていた。

「そうなんだ。興味深いわね。共立世界では平和維持軍と言えど簡単には介入できないから。」 セレスが思案するように顎に手を当て、窓の外の都市を見つめた。

「たしかに内政干渉になるもんね。ピースギアができるはるか昔に‘地球’にも国連っていうのがあって、そこがそんな感じだったなぁ。」 イズモが遠い記憶を辿り、懐かしげに言った。

「あはは……うちにもそういう系統の転移者がいるし、国際連合のことなら私も把握はしてるけど、同じではないんだよね。そのへんの話をするだけで日が暮れてしまいそうだから、いまは省くけどね。」 セレスが笑いをこらえ、話題を軽やかに切り替えた。

「そうだね。今度オフの時にでも話そう。」 イズモが気軽に同意し、車内の和やかな雰囲気を楽しんだ。

「実行力と不正干渉のバランスを考えるだけでも時間が潰せちゃう。気になるなら提示された資料をもとに質問してみるといいんじゃないかな。後でメレザさんにでも。」 セレスが実践的な助言を添え、都市の光景に目を戻した。

「それがいいかも。」 イズモが頷き、彼女の言葉を心に留めた。

セレスが窓の外を指差し、生き生きとした声で言った。「というわけで、現在走行中のこちらがユピトル名物、異世界ギルドの大通りだよ。見ての通り、わけのわからない建物がいっぱいあるよね。ここには色々な世界線の転移者達が自主的に立ち上げた組合でごった返してるんだよ。」 車窓にはゴシック風の尖塔と近未来的なネオンが混在する奇妙な街並みが広がり、異世界の香辛料の香りが漂っていた。

「異世界ギルドは一気にファンタジーな世界感!」 イズモが目を輝かせ、子供のようにはしゃいだ。通りを行き交う異装の転移者たちが彼の好奇心を刺激していた。

「同じ転移者でも世界線が異なれば時代も異なるときて、価値観もバラバラ。そんな中、ユピトルでは転移者の価値観を最大限に尊重していて、その結果がこれというわけ。」 セレスが解説し、街の多様性を愛おしげに眺めた。

「なるほどぉ。」 イズモが感心して頷き、通りを埋め尽くす人々の活気を吸い込んだ。

「ファンタジーだと思うでしょ。違うんだよねぇ。言葉では説明しきれないくらい色々な世界観の人達がいて、てっとりばやく印象に残りやすいネーミングがこれになった……ていうだけの話だから。それにしても、もう少し、センスのある名称がほしいところではあるのだけども。」 セレスが苦笑し、派手な看板の書体をチラリと見た。

「そうねぇ。そういえば、どこからの転移者が多いの?」 イズモが興味津々に尋ね、車窓の外に目を凝らした。

「あなた、やっぱり資料読んでないでしょ。まあ、解析が追いついてないって? いいよ。教えてあげる。強いていうなら地球系列が多いわね。その程度のことは共立英語を主要語としてる、この国では常識だったりするんだけど。キリスト教がはやる程度には、ね。」 セレスがからかうように笑い、知識を披露した。

「確かに、転移してきてすぐに英語で話されたからマジでビビったよwww」 イズモが大笑いし、驚きの記憶を振り返った。

「ああ……ピースギアのことがまた分かってしまった気がする……あなた、パラレルワールドのことは管轄外だったりするのでは?」 セレスが探る視線を投げ、微笑んだ。

「まあ実働部隊ではあったんだけど、英語で話されたのは初めてかなぁ。‘日本語’とか独自な言語だったりが多くて、現地で習得がメインだったかな。」 イズモが少し考え込みながら経験を語った。

「なるほどね。それだけ広い世界ってことか……そちらの世界における日本語の地位がどれほどのものか気になるのはさておいて、ユピトルでは多様な価値観を共存させることに努めてるんだよね。ちなみに、あのお店はマクドナルドらしいです。」 セレスが通り沿いの馴染み深い看板を指差し、くすりと笑った。

「数世紀ぶりに聞いた気がするwww」 イズモが目を丸くし、懐かしさに浸った。

「元の世界の経営者がここでも勝手にお店を開いてるのが実態だけどね。普通に受け入れられてて笑うしかないよね。ここはユピトルなのに。昔と比べたら別の国にいるみたい。」 セレスが肩をすくめ、都市の変遷を語った。

「自分が転移できるようになる前はシステムエンジニアだったんだけど、その時にマックにはお世話になってたなぁw」 イズモが遠い記憶を辿り、穏やかな笑みを浮かべた。

「地球人にとっては暮らしやすいのかもね。まあ、この程度のびっくり要素ならいくらでもあるからね。また今度ゆっくりできるときに歩いてみるといいよ。」 セレスが気軽に勧め、通りを埋める異世界の香辛料の匂いに鼻を動かした。

「なつかしいなぁあの時…ブラック企業のSEだったけど、一番平和だった気はする。」 イズモがしみじみと呟き、車窓の外に目をやった。

「前々から気になってたんだけど、あなた、何歳なの? 不老不死? いや、アンドロイドか。」 セレスが真剣な顔で尋ね、だがその瞳にはいたずらな光が宿っていた。

「アンドロイドというか‘人間’というか……」 イズモが曖昧に笑い、答えを濁した。

「質問するけど、実働部隊って具体的には何をしてたの? 武力鎮圧だけ?」 セレスがさらに踏み込み、好奇心を隠さなかった。

「いやぁ、まあそうなることもあるけど、基本は転移して現地で信頼得て、目標となってる世界線を壊す因子を破壊もしくは殺害もしくはピースギアにもってきて対処……が多いかなぁ。」 イズモが少し重い口調で答え、過去の任務を思い出していた。

「なるほど? さぁさぁ、盛り上がってまいりました。あなた達はどうして他所の世界線に介入するの? それで何か得することでもあったのかしら。」 セレスが目を輝かせ、核心に迫った。

「まあ、あのポータル技術ゲットしたらねぇ、こういう使い道しかないよねっていうのと、その世界線の技術が手に入る場合があるってだけ。」 イズモが肩をすくめ、簡潔に答えた。

「そうなのね。やはり、ピースギアというのは単に平和維持をお題目とする組織ではないのは明らかのようね。時には助太刀と称した事実上の侵略に出ることもあると。それが、良いことか悪いことかは別として、ね。」 セレスが思案するように顎に手を当て、鋭い洞察を口にした。

「まあ、平和利用と外部勢力への抑止力になるものがなければ平和は訪れないし、それの開発には必要不可欠。」 イズモが少し真剣な口調で、自身の信念を語った。

「いずれにせよ、力なくして平和なし、という観点では共通してそうだね。共立機構とも。」 セレスが頷き、共通点を見出した。

「まあでも侵略ばかりではないよ? 世界線崩壊っていうその名のとおり、世界線が崩壊する事象への対処、避難がメインのお仕事だからねー。」 イズモが軽く笑い、話題を明るくした。

「ありがとう。こうやって、お互いの価値観を理解しあうことが大切だからね。世界線の崩壊をどう受け取るか。うちはそのへん冷淡でね。特定する必要もなければ、滅ぶべくして滅ぶ世界に関心を持たないんだよ。ひどいと思うでしょ。」 セレスが自嘲気味に笑い、共立世界の哲学を明かした。

「それはうちが拡大していった歴史があって、組織としての余裕があるからできたことで、ふつうはしないのが当たり前だと思うよ!」 イズモが彼女の言葉に反論し、ピースギアの立場を擁護した。

「いや、組織としての余裕があっても、うちの共立機構は介入しないでしょうね。それよりも成熟した世界を中心に受け入れて、密度の高い平和維持に注力するはずだから。そこがピースギアとの大きな違いかも。」 セレスが静かに反論し、両者の違いを強調した。

「考え方次第って感じだよね、そこは。」 イズモが穏やかに同意し、議論を締めくくった。

セレスが車窓を指差し、声を弾ませた。「そうね。……そろそろ、ギルドの通りを抜けてオタロードだよ。とはいえ、見た目通りというか、実質的には陽キャ天国と呼ばれる繁華街だったりするんだけどね。」 通りはネオンと笑い声に溢れ、若者たちが色とりどりの衣装で闊歩していた。

「なんかここにきてSE時代を思い出すこと多いなぁwww」 イズモが懐かしそうに笑い、活気ある街並みに目を奪われた。

「ちゃらちゃらしてるのが多いでしょう? わたし、苦手なんだよね。」 セレスが少し顔をしかめ、騒がしい雰囲気に苦笑した。

「確かにwww」 イズモが彼女に同調し、大笑いした。

「食べ歩きにはもってこいの場所なんだけどね。夜になるとそれはそれはもう、うるさいのなんのってレベルの騒ぎになるのがネックだけども。」 セレスが屋台から漂う香ばしい匂いを嗅ぎながら、ため息をついた。

「自分の生まれ育った‘札幌’のすすきのもそんなかんじだったぁ。」 イズモが遠い故郷を思い出し、目を細めた。

「サッポロ……それはよくわからないけど、そんな感じだったのか……」 セレスが興味深そうに首を傾げた。

「昼はメイドカフェがやっててオタクたちに楽園、夜は大人の街って感じだね。交差点で騒いでるやつも多かったし。」 イズモが生き生きと語り、記憶の断片を共有した。

「なるほど。あーあ、共立機構も色々な世界線にゲートを繋げたらいいのに……私も世界をまたいだ旅行にいきたいわ。」 セレスが夢見るように呟き、空を見上げた。

「あんまいいものではないよ、異世界転移は……」 イズモが少し重い口調で答え、経験者の苦みを滲ませた。

「えぇ、そうでしょうね。そうでしょうとも。それが分かってるからうちのお偉方は繋げようとしないんです。分かってますよ。はぁ……」 セレスがため息をつき、諦めと理解を混ぜた表情を見せた。

「でも、あこがれるよね。自分がこの世界以外に行っていろいろしたいって。」 イズモが少し明るく、子供のような憧れを口にした。

「現状、共立世界では来るもの拒まず、受け入れられる要素は受け入れるスタンスかな。転移者もそう。世界を見捨てても、流れてくる難民は受け入れる。つまらないよねぇ。」 セレスが自嘲気味に笑い、共立世界の現実を語った。

「まあ、確かにポータル技術があればできる。」 イズモが技術の可能性に目を輝かせた。

「知らないかもしれないけど、それとよく似た技術は共立世界でもあるんだよ。ただ、色々と法律が厄介でね。安易に使えないってだけで。」 セレスが内情を明かし、複雑な表情を見せた。

「確かに、安易に使われたら世界線崩壊や世界線融合になりかねない。っていうのが大きいかな? それに‘旅行者’が増えると、そこでのトラブルも増えるし。」 イズモが真剣に頷き、技術のリスクを理解した。

「あぁ……後は、そうね。こちらの世界特有の色々な法則が邪魔をして失敗するリスクが高いのがネックかな。あなたもこっちでポータルを起動する場合は気をつけたほうが良いと思う。」 セレスが忠告を込めて、慎重な口調で言った。

「なるほど、それも計算に入れて実行するときはやってみるよ。」 イズモが頷き、彼女の助言を心に刻んだ。

セレスが街並みを指差した。「オタロードはこれでおしまい。最後にこの国有数の金融街を紹介しておくね。」 車窓の外にはガラスと鋼鉄の摩天楼が林立し、経済の脈動が感じられる厳粛な景観が広がっていた。

「たしかに銀行多いね。」 イズモが感心した様子で、そびえるビル群を見上げた。

「銀行だけじゃないよ。証券取引所とか、色々ね。イズモも、これから一つの星系を背負うなら無関係ではいられないだろうから、知っておくといいよ。」 セレスの声は未来を見据えるような重みを帯びていた。

「そうだねぇ、証券…あんまりなじみがないんだよなぁ。」 イズモが少し困ったように笑い、未知の分野に戸惑う様子を見せた。

「共立機構の直接傘下に入ったのは正解だったのかもね。経済音痴だと足下すくわれちゃう。」 セレスがからかうように笑い、しかしその瞳には温かな励ましが宿っていた。

「確かにwww まあ入った理由は別にあるんだけどね。」 イズモが笑いながら、含みのある口調で答えた。

「そうなの?」 セレスが興味をそそられ、身を乗り出した。

「まあ、言っちゃうともう滅んだ文明の残骸みたいなアンドロイド2体を受け入れてくれただけでも傘下に理由にはなったけど、それだけじゃない。共立機構とピースギア……この二つは似て非なるものではあるけど、そこにピースギアの面影。正確に言うとクデュックの面影を感じたっていうのが本音かなぁ。」 イズモが遠い記憶を辿るように、静かに語った。

「そっか……なら、あまりだいそれた目標を無理に設定する必要もなさそうだね。あなた達には、できる限り平穏な生活を送ってほしい。」 セレスの声は優しさと願いに満ち、車内の空気を温かく包んだ。

「たしかに、今まで自ら望んで入ったとはいえ、戦争ばっかだったし、その方がいいかもね。」 イズモがしみじみと答え、過去の重みをほのかに滲ませた。

「やはり、妙に達観してるのはそれが理由なのかしら……苦労したんだね。」 セレスが同情を込めた視線を投げ、都市の光景に目を戻した。

「ねむってこうなる前も、銀河間でのいざこざや異世界で世界線を破壊しようとするやつらの相手ばっかしてきたから、ここで休むのがベストかもね。」 イズモが軽く笑い、疲れを隠した。

「とても残酷な真実を言うけど、セトルラームではきっと戦いになるよ。しかも単に武力で制圧というわけにはいかない類の。超めんどくさいやつ。」 セレスが真剣な口調で警告し、未来の試練を予見した。

「まあでも、戦争じゃないだけましだよ。何回死をみてきたか……」 イズモが遠い目をして呟き、過去の傷跡をほのめかした。

「確かに殺し合いにはならない。でも、外交交渉は、ある意味人生に関わることだから。助っ人を連れていくのはもちろんだけど、交渉の手札も増やしておかないとね。」 セレスが戦略的な助言を添え、都市の喧騒を背景に言葉を紡いだ。

「まあそうね。こっちには技術かあの鉱石しかないもんね。」 イズモが現実的に答え、限られた資源を思い出した。

「ひとつ教えておくと、あれだね。セトルラームはよくも悪くも対象の将来性を見て判断する国柄だから。出せる情報が多ければ多いほど有利になるということを覚えておくといいよ。」 セレスが実践的な知恵を授け、瞳に決意を宿した。

「なるほどね。情報……過去のピースギアの情報でもいいのかなぁ。」 イズモが思案しながら、可能性を探った。

「逆にブラックボックスが多いと難しくなる。なぜなら彼らには彼らなりの矜持と実績の自負があるから。こちらからも実績を示していかないとね。」 セレスが補足し、交渉の厳しさを強調した。

「まあそうだねぇ、確かに誰だって未知の相手は怖いし、警戒だってする。」 イズモが頷き、相手の心理を理解した。

「特に大統領のことは事前に読み込んだ方が良いわね。突き抜けた変人で、妙に狡猾なところがあるから。いまはもう一つの大国オクシレインとの間で睨み合ってるみたいだけど。」 セレスが具体的な忠告を続け、窓の外の光景に目をやった。

「面白そうな相手w 確かに事前調査はしっかりしといた方がいいね。」 イズモが興味をそそられ、軽く笑った。

「確かに面白いけど、面白いでは済まなくなるよ。侮ってかかると。だからそう、事前調査をすると良いわね。」 セレスが念を押し、真剣な眼差しを向けた。

「それがよさそう!」 イズモが明るく同意し、決意を新たにした。

「懸念すべき要素はまだある。ラヴァンジェという国にも気をつけて。彼らの現象魔法に対するこだわりは、セトルラームの科学思考と同様に自信に満ちていて、厄介な壁になるだろうから。技術取引をする場合は、セールスポイントをまとめておくのが良いと思う。」 セレスがさらに助言を重ね、戦略の重要性を強調した。

「確かに発見したばかりで調査もあんま進んでないから、それを共立側と急いでやった方がよさそうだね。」 イズモが真剣に頷き、行動計画を頭に描いた。

「そうするといいわ。最後にオクシレイン。一見すると普通の民主主義に見えるかもしれないけど、彼らの主張はとにかく強情で、内政干渉も厭わないところがあるから。つけ込まれないように気をつけて。ああ、帝国はセトルラームとの交渉さえ成功させれば、心配する必要なしかな。」 セレスが最後の忠告を述べ、車窓の外に目をやった。

「めちゃくちゃ有益な情報ありがとう! 参考にさせてもらうよ。」 イズモが感謝の笑みを浮かべ、彼女の知恵を胸に刻んだ。

「噂をすれば……あの御大層な車列はセトルラーム大使館のものだね。無駄に豪華でしょ? ああやって自分の国の経済力、技術力を誇示して回ってるんだよ。正直、色々な国で反感を買ってるけど、なまじ影響力があるから誰にも止められないんだよね……」 セレスが窓の外の金色に輝く車列を指差し、皮肉な微笑を浮かべた。

「なんかこういう国、地球で見たことあるような、ないような……」 イズモが懐かしげに呟き、遠い記憶を辿った。

「地球上でも色んな国があるそうだね? こちらで例えると、さしずめイドゥニア星内といったところか……」 セレスが興味深そうに応じ、都市の光景に目を戻した。

「こっちにも一つの惑星で複数の政治体制のところもあるんだね。」 イズモが感心した様子で、都市の多様性に改めて驚いた。

「……まぁ、事前資料に書いてあるとおりだよ。たぶんね。そろそろ、戻ろっか。」 セレスが軽く笑い、車内の雰囲気を和やかにした。

「そうだね、そろそろ戻らないと怒られるwww」 イズモが冗談めかして笑い、肩をすくめた。

「次はエルカムなんだっけ? あの鉄道企業体の。」 セレスが次の予定を確認するように、軽やかな口調で尋ねた。

「そうそう、エルカム交通公団っていうところだね。まあ、ピースギアは、昔宇宙鉄道の運営もしてたから、どうかなぁって思ってね。」 イズモが少し得意げに、過去の経験を語った。

「たしかに、銀河を五日で一周してしまうあなた達の鉄道と比べるのは酷かもしれない。でも、サービスの質や経営体制の面で、必ずしも劣るとは限らないということだけは伝えておくわね。」 セレスが公平な視点で助言し、交渉の成功を願った。

「もちろんそうだね。ピースギアという後ろ盾があったからこそ、銀河内を移動できるという大それたことができたからね。」 イズモが頷き、自身の背景を説明した。

「エルカムとの交渉の成否は、きっと試金石になるよ。彼らが運営する鉄道網の基盤は共立世界では有数のものだから。これから先、取引のしやすさにも関わってくるかもね。」 セレスが未来を見据えた口調で、交渉の重要性を強調した。

「そうだね。今回の交渉次第で外交カードになりそうだね。」 イズモが真剣に同意し、戦略を思い描いた。

「そうね。さて、名残惜しいけど、本庁に到着だね。ほら、アルトが走ってくるよ。逃げるならいまのうちだけども。」 セレスがくすくすと笑い、軽い冗談で雰囲気を和らげた。

「逃げろーwww」 イズモが大笑いし、子供のようにはしゃいだ。

「くすくすくす……おもしろい人だね。これから先が楽しみだわ。」 セレスが微笑み、都市の光が彼女の瞳に温かな輝きを添えた。車は本庁の荘厳な門前に滑り込み、二人の冒険は新たな章へと進む準備を整えた。

最終更新:2025年06月23日 23:20