グライフの紋章 エピソード1
#01
聖華暦832年10月3日 同盟領、旧都ナプトラよりさらに東側
平原を疾走する艦が3隻。
一列に隊列を組み、東へ向かってひた走る。
その艦には3隻とも同型艦であり、同じ『グリフォン』のシンボルマークを船体に掲げている。
それらこそ傭兵部隊『グライフリッター』の擁するバルバロイ級強襲揚陸艦であった。
3隻の艦は勇壮に、東へ向かってひた走る。
一列に隊列を組み、東へ向かってひた走る。
その艦には3隻とも同型艦であり、同じ『グリフォン』のシンボルマークを船体に掲げている。
それらこそ傭兵部隊『グライフリッター』の擁するバルバロイ級強襲揚陸艦であった。
3隻の艦は勇壮に、東へ向かってひた走る。
時間は昼を過ぎたくらい、気持ちの良い晴天。
航行は順調。
甲板で寛ぐ隊員もちらほらと見えるが、周囲の警戒は怠っていない。
監視班はそれぞれの艦のエーテルロケーターと睨めっこをし、監視台では三方から双眼鏡を覗いて周囲の状況に目を凝らす。
航行は順調。
甲板で寛ぐ隊員もちらほらと見えるが、周囲の警戒は怠っていない。
監視班はそれぞれの艦のエーテルロケーターと睨めっこをし、監視台では三方から双眼鏡を覗いて周囲の状況に目を凝らす。
それでもこの辺りはまだ同盟領の中、比較的安全圏と言える。
でもだからと言って気を抜く程、彼等は腑抜けた連中ではない。
安全圏と言いつつも、本当に安全と言えるのは都市の中くらいなもので、その都市から離れてしまえば完全に安全が保証出来るほど、この世界は優しくない。
そこは旧時代の生物兵器や無人兵器の成れの果て、『魔獣』が闊歩する危険に満ち溢れた場所なのだ。
でもだからと言って気を抜く程、彼等は腑抜けた連中ではない。
安全圏と言いつつも、本当に安全と言えるのは都市の中くらいなもので、その都市から離れてしまえば完全に安全が保証出来るほど、この世界は優しくない。
そこは旧時代の生物兵器や無人兵器の成れの果て、『魔獣』が闊歩する危険に満ち溢れた場所なのだ。
そんな場所を彼等は東へ向かってひた走る。
向かう先は『禁忌の地』。
かつて滅んだ世界の再興をする為、『旧人類』が作ったWARESの本拠地、その残骸と言える場所。
自らが産み出した『新人類』との戦争に『旧人類』は敗れ、彼等は滅亡した。
彼等『旧人類』の名残を残して、今や魔獣の巣窟でしかない。
かつて滅んだ世界の再興をする為、『旧人類』が作ったWARESの本拠地、その残骸と言える場所。
自らが産み出した『新人類』との戦争に『旧人類』は敗れ、彼等は滅亡した。
彼等『旧人類』の名残を残して、今や魔獣の巣窟でしかない。
そして、強襲揚陸艦二番艦の決して広くは無い機兵格納ブロックでは、機兵乗りの隊員達が集められ、ブリーフィングを行なっていた。
隊員の中でも最年長と思しき男がホワイトボードに概要の書かれた書類と作戦区域を描いたマップを貼り付け、ラフに集まった彼等を前に話を始めた。
隊員の中でも最年長と思しき男がホワイトボードに概要の書かれた書類と作戦区域を描いたマップを貼り付け、ラフに集まった彼等を前に話を始めた。
「ご機嫌よう、諸君。本来ならバロカセクバを出る前に、任務の説明を行う筈だったんだが…」
「エリアス小隊長、質問があります。」
隊員の一人が挙手とともに口を挟む。
小隊長と呼ばれた男、エリアス・ヴォルツは話を遮られた事を咎める事はせず、反応を返した。
小隊長と呼ばれた男、エリアス・ヴォルツは話を遮られた事を咎める事はせず、反応を返した。
「なんだぁ?まだ前口上の途中なんだが……まぁ良い、質問は?」
「モノホンの戦闘ですか?それとも害虫退治で?」
「今更それを聞くか?向かう先が禁忌の地だぞ?
だったら害虫退治に決まってるだろ。」
だったら害虫退治に決まってるだろ。」
やっぱりといった顔をして、その隊員は了解です、と答えた。
「今回はここ、ロドスの東22km、aー11地点からb-02地点までの区間の掃除だ。
予定は二日。
デカイのはラムグリッターとフラップ・スナーク、小さいのはティールテイルが多数確認されている。
鋼魔獣も幾らか出て来るだろうから、気を抜かずにコトに当たれ!」
予定は二日。
デカイのはラムグリッターとフラップ・スナーク、小さいのはティールテイルが多数確認されている。
鋼魔獣も幾らか出て来るだろうから、気を抜かずにコトに当たれ!」
それでも魔獣はやはり危険な存在であり、放っておけば人類の生存圏を脅かす。
誰かがやらねばならないのなら、彼らが駄賃で引き受ける。
誰かがやらねばならないのなら、彼らが駄賃で引き受ける。
何故なら、彼らは傭兵なのだから………
本来なら、話はここでお終い、各自解散して準備に入るところである。
だが、今回はこれだけでは無かった。
だが、今回はこれだけでは無かった。
「………ああ、それから、掃除の間に|ロココ製作所《クライアント》からついでの依頼が入っている。
試作機兵の実戦試験に協力するようにとの事だ。
何をするかは要綱を回すから、各自しっかりと目を通しておけよ。
以上、解散!」
試作機兵の実戦試験に協力するようにとの事だ。
何をするかは要綱を回すから、各自しっかりと目を通しておけよ。
以上、解散!」
やれやれ、雑務付きか、といった雰囲気で隊員達は解散して行った。
その中で、今回が初任務となる新入隊員ハーマン・コンラッドは、複雑な表情を浮かべていた。
ハーマンは傭兵歴3年、中堅ほどには至らぬが立派に経験を積んでいる。
ハーマンは傭兵歴3年、中堅ほどには至らぬが立派に経験を積んでいる。
しかし、グライフリッターに入隊したのはまだ昨日の事だ。
昨日の今日でいきなり初任務というのは、まぁ、傭兵である以上はよくある事だ、文句など言う筋合いでは無い。
昨日の今日でいきなり初任務というのは、まぁ、傭兵である以上はよくある事だ、文句など言う筋合いでは無い。
だが、ろくに説明を受けずに強襲揚陸艦に放り込まれ任務説明が今しがた。それもごく簡潔に。
その上、魔獣掃討と試作機護衛の二足の草鞋とは………
その上、魔獣掃討と試作機護衛の二足の草鞋とは………
何もかもが、これまで彼が経験した事が無い事だった。
これが自由都市同盟トップクラスの傭兵部隊とは………
何かが自分の理想とはかけ離れていた。
これが自由都市同盟トップクラスの傭兵部隊とは………
何かが自分の理想とはかけ離れていた。
何というか、部隊全体として余裕を持ち、隊員達が高い目的意識を持って行動する。
事前には十分な任務説明を持って情報を共有する。
そして装備を入念にチェックしてから仕事に掛かる……
事前には十分な任務説明を持って情報を共有する。
そして装備を入念にチェックしてから仕事に掛かる……
そういう事を想像していた。
いや、期待していた、と言うべきだろう。
いや、期待していた、と言うべきだろう。
無論、傭兵なのだ、正規の軍隊では無い。
その事は心得ている……つもりだった。
それでも、任務に対しての彼等の姿勢が、|あ《・》|ま《・》|り《・》|に《・》|も《・》|雑《・》|に《・》感じられた事が、彼の心がざわついた要因の一つなのは間違いなかった。
その事は心得ている……つもりだった。
それでも、任務に対しての彼等の姿勢が、|あ《・》|ま《・》|り《・》|に《・》|も《・》|雑《・》|に《・》感じられた事が、彼の心がざわついた要因の一つなのは間違いなかった。
入隊直後に支給された機装兵『マーセナル・グライフ』を見上げ、その心境は複雑だった。
「どうした?新人君、浮かない顔をしているな。
心配事か?」
心配事か?」
「え?ええと…」
声をかけられて振り向くと、ハーマンの直属の上司である第八小隊小隊長だった。
「俺はエリアス、エリアス・ヴォルツだ。よろしく頼むぜ、新人君。確か名前は…」
「ハーマン・コンラッドです。」
彼、エリアスの傭兵歴はハーマンなどとは比べるべくもなく長く、グライフリッターの中でも|歴戦の猛者《ベテラン》の一人だ。
ハーマンは彼の指揮する第八小隊の所属となっていた。
ハーマンは彼の指揮する第八小隊の所属となっていた。
「ああ、いえ、心配事では無いんです……ただ、入った早々、ろくな説明も無しに任務に着かされた事が、少し驚いてしまって……」
「あー、そういう事か。
まあ、|グライフリッター《うち》ではよくある事だ。ま、そのうち慣れるさ。」
まあ、|グライフリッター《うち》ではよくある事だ。ま、そのうち慣れるさ。」
エリアスはさらっと言う。
「護衛任務というのは?」
「要綱に書いてある通りさ。ロココの試作機が魔獣と戦うから、壊されないように気をつけろって事だ。
あー、ロドスに着いたら合流だってのを言って無かったな。」
あー、ロドスに着いたら合流だってのを言って無かったな。」
しまったな、といった感じでそう言いながら頭を掻いている。
「なるほど……それで三番艦には機兵が載って無いんですか……」
そう、ロドスでロココの試験部隊を拾う為、三番艦には機兵が一機たりとも搭載されていないのだ。
「察しが良いな。まぁそういう事だ。」
なんともいい加減な感じがして、ハーマンが眉根を寄せる。
エリアスはそんな彼が部隊に参加しての初任務で緊張していると思ったのだろう。
エリアスはそんな彼が部隊に参加しての初任務で緊張していると思ったのだろう。
ま、あんまり気負いなさんな。
そう言って手を振り、エリアスは行ってしまった。
参ったな、小隊長まであんな様子なのか………
先の不安を拭えず、ハーマンは知らず苦虫を噛み潰していた。
先の不安を拭えず、ハーマンは知らず苦虫を噛み潰していた。
*
「ふふん、ふんふん。」
頭の中に立体的な地形を描き出し、予想される魔獣の行動パターンを考えられる限りシュミレートしている。
右手がエアチェスしているのは、彼が熟考している時の癖だ。
右手がエアチェスしているのは、彼が熟考している時の癖だ。
今回の作戦に参加しているのはダグラスの第二小隊、ザッシュ・グートザインの第四小隊、ソール・ランヴェイルの第六小隊、バイパーの第七小隊、エリアス・ヴォルツの第八小隊、総勢21機の機兵だ。
これに、ロドスで合流するロココの試験小隊5機が加わる。
これに、ロドスで合流するロココの試験小隊5機が加わる。
もっとも、試験小隊は|要護衛対象《お荷物》である。
彼等の|護衛《お守り》はバイパー隊に任せるとして、ザッシュ隊とソール隊を上手く使って魔獣を追い立て、エリアス隊に殲滅させる。
はたまた、自分の隊を囮に魔獣を誘き寄せて全員で袋にするか……
彼等の|護衛《お守り》はバイパー隊に任せるとして、ザッシュ隊とソール隊を上手く使って魔獣を追い立て、エリアス隊に殲滅させる。
はたまた、自分の隊を囮に魔獣を誘き寄せて全員で袋にするか……
どの戦術が効率的か、どんなシュチュエーションが発生しやすいか、強襲揚陸艦一番艦の|艦橋《ブリッジ》で、今日は朝からそればかり考えていた。
彼は用兵家だ。戦術、戦略が彼の得意分野である。
無論、実戦での実力もあり、隊長のワイラーよりも傭兵歴は長い。
それでもグライフリッターにいる限りは、ワイラーを隊長に据えておく方が、|自《・》|分《・》|は《・》|や《・》|り《・》|易《・》|い《・》|。《・》
無論、実戦での実力もあり、隊長のワイラーよりも傭兵歴は長い。
それでもグライフリッターにいる限りは、ワイラーを隊長に据えておく方が、|自《・》|分《・》|は《・》|や《・》|り《・》|易《・》|い《・》|。《・》
これはワイラーを下に見ての事ではない。
ワイラーという男を認めるからこそ、自分はグライフリッターの為に最大限の貢献を行う。
その為に制約を課せられる事が無い、というのが現状なのだ。
今はあの男に隊長を任せておいて間違いは無い。
ワイラーという男を認めるからこそ、自分はグライフリッターの為に最大限の貢献を行う。
その為に制約を課せられる事が無い、というのが現状なのだ。
今はあの男に隊長を任せておいて間違いは無い。
用兵家としての損得勘定と、ダグラス・ハウッド個人としての信頼で持って、そう判じている。
今のグライフリッターはとても良い。理想的な傭兵部隊だ。
その中で参謀として、頭脳として、隊の為に最大限の貢献を行うことが、とても楽しい。
その中で参謀として、頭脳として、隊の為に最大限の貢献を行うことが、とても楽しい。
「さて、後は試験小隊の連中を観てから決めるか。」
一言呟くと、|無粋な泥水《苦いコーヒー》を飲み干して、|クリーガー・グライフ《愛機》の調整に向かうのだった。