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聖華世界 @ wiki

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最終更新:2023年07月08日 00:15

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 綺麗に畳まれた布団、纏められた荷物。窓の戸締まりを確認してシーメは振り返った。その先には何やら複雑そうな面持ちの医師と看護師がいる。

「まずは退院おめでとうございます。と、言いたいのですが、正直なところ私はまだ心配です」

白衣をまとった痩せ気味の男性医師は続けた。

「確かに私自身が診て怪我も治っていることは確認しました。ただ全治三ヶ月の怪我がたった一ヶ月で回復するとはとても……なので退院とは言いますが、街でゆっくり、どうぞまだリハビリ期間の延長とお思いください」

その言葉にシーメは深々と頭を下げた。確かに自分でもあんな大怪我がたった一ヶ月の期間で全治したとはとても信じ難かった。しかし今の体調は万全、身体がいいと言うのだから信じる他ない。それに出鼻を挫かれてしまったが、憧れの冒険者としての一歩を踏み出したのだ。こんな所で立ち止まっているつもりもなかった。

「一ヶ月の間、いろいろお世話になりました。これからは出来る限りここに来ることにならないように心掛けます」

そう言うとシーメは荷物を持って病室を後にした。そして病室を出たシーメが向かったのは同じ建物にある冒険者組合の受付カウンターだった。

 もともとシーメの予定ではここバロカセクバの冒険者組合で依頼をこなし、その報酬で宿を借りながら住処を探すつもりだったのだ。しかし最初の依頼で怪我をし、入院していたことで収入は皆無、もちろん住処もない。

そうであるならば今シーメがやるべきことは一つ。停止中の冒険者ライセンスを有効化することである。少し計画が変わってしまったが、今からでもまだリカバリーは出来るだろう。そう思い、意気揚々と窓口を前にしたのだが──。

「えっ!? ライセンスの有効化は出来ない!!?」

驚愕のあまりシーメは大声を上げて身を乗り出した。カウンター越しにはこの街一番の人気受付嬢、リーシャ・ファンデリア。

「そんな! 依頼を受けられなかったら僕今日泊まる宿も無いんですよ!?」

血相を変えて迫るシーメだったが、リーシャはやや引きながら苦笑いするだけだった。

「そもそもが入院期間は三ヶ月間のはずですよね? こちらとしてもたったの一ヶ月で退院してくるなんて想定外でぇ……」

「お願いしますよぉ……そこをなんとか!」

想定外だったと言われたところで関係ない。シーメは必死の形相で食い下がる。こちらだって生活が掛かっているのだと、リーシャの肩を揺さぶりながら訴えかけた。

「駄目ですよ……うちの冒険者組合では予定よりも早く退院した冒険者がすぐにまた怪我をしないように療養期間として停止したライセンスは期間が終わるまで有効化出来ないルールになってるんです」

「そんな! もうこれしか持ってないんですよ」

シーメは机上で小さな袋を逆さまにして振ると、数枚の硬貨が落ちて虚しく音を鳴らす。銅貨6枚、少銅貨8枚である。合計68ガルダ。一般的な宿で泊まるにも最低100ガルダは求められる。一度の食事でも30ガルダ程度はするので、手持ちでは二食分しかない。

「冒険者ライセンスが有効で身分証明が出来れば隣の金融窓口で融資を受けることも出来るんですけどね」

かなり切羽詰まり、切実だと言うのにまるで他人事のような物言い。だが入院中に何度か顔を合わせはしたがまだ出会ってそこまで交流があったわけではない。実際他人事の範囲ではあるだろう。しかしこの受付嬢は田舎から出たばかりで右も左もわからない駆け出し十四歳の冒険者にいきなり借金をしろと言うのか。そう思うとただただ悔しく惨めでシーメは唇を噛み締めた。

「そこの貧乏少年、何か困り事かい?」

 不意に声を掛けられたシーメが後ろを振り返ると、そこには二人の女が立っていた。赤茶の髪をなびかせる長身の女と、丹色の髪を短く獣のように切り揃えた女だ。

長身の女の方はシーメも何度か顔を合わせたことのある人物、冒険者ギルド「シャイニングディーバ」の団長であるツューミ・ロココだ。だがもう一人は初めて見る。シャイニングディーバの団員だろうか。よく見ると普通の人間ならば耳がある位置に耳は無く、頭頂部に獣のそれと同じような耳がある。

シーメの故郷では目にしたことが無かったが、なるほどこれが亜人かとシーメは思った。

物珍しげに見つめていると亜人の女の目付きが不機嫌そうに鋭くなり、シーメは咄嗟に目を逸らす。 

女性とはいえ、二人ともシーメより身長が高く、歴戦の冒険者の風格を纏っていると、気圧されそうだ。

 突然、ツューミが笑みを浮かべた。それは新しいおもちゃを買ってもらった子供のような楽しげな笑みである。

「いい事思いついたわ。あなたちょっとシャイニングディーバに来てみない?」

「えっ?」

思いもよらない提案にシーメは素っ頓狂な声を漏らす。

「どうせあと二ヶ月暇でしょう? だったらうちのギルドで特訓してあげるわ」

これは僥倖。入院生活で鈍っていた身体の感覚を取り戻すだけではなく、この街一番の強さを誇るギルドの人間から特訓を受けられるのだ。これならば次にソーゲンと依頼を受ける頃には前回のような無様を晒すことも無くなるのではないか。まさに僥倖、彼女達の特訓は憧れの冒険者として成功するための近道である。

「じゃあよろしくねロカ」

いきなり話を振られ、ロカと呼ばれた亜人の女は慌てふためく。

「先輩、私がやるんですか?」

「えぇ、あなたもそれなりに経験を積んできたわけだし」

「ロカさん、僕からもよろしくお願いします」

シーメがそう言った時、彼の首筋に鋭い何かが突き付けられた。いや、正確には突き付けられたように感じただけだ。それは殺気。刃物のように鋭い殺気を向けられている。そして殺気の主はシーメの耳元で小さく囁いた。

「ロカッコ・キハネ、先輩以外が私をロカって呼ぶのは許さない。次は殺す」

その恐怖は一ヶ月前、森の中で魔獣シーストに殺されかけた時に匹敵するほどのものだった。

一瞬の出来事だったが、今起きた事はシーメの身体を硬直させ、喉を詰まらせるには十分だった。それに気付いているのか、いないのか。どちらにせよ何も気にしてない様子でツューミが話を続ける。

「それに生身で動く分には私よりロカの方が得意よ?」

確かに、先程予備動作をする素振りもなくいきなり耳元まで近付いてきた事を踏まえると彼女の身のこなしは相当なものだった。

ロカッコはツューミから期待されていると感じているのか、照れながらも嬉しさが滲む弾んだ声で応えた。背後ではピンと立てた尻尾の先を小刻みに震わせている。形は猫のようだった。猫人族だったのか。

「えへへ、先輩にそこまで褒められると私頑張っちゃいますよ?」

「えぇ、是非頑張ってほしいわ。教えるって事は自分の成長に繋がるもの」

 とても和やかに話している二人だったが、先程の殺気にまだ釘付けにされているのか、シーメは一歩も、指の一本も動けずにいた。するとツューミとロカッコは色々準備があるからと、シーメに昼過ぎにシャイニングディーバの拠点に来るように伝えてその場を去った。

緊張が解けたのか、シーメはその場にへたり込む。

酷く疲れたように見えるシーメを気遣ってか、リーシャは子供を元気づけるような口調で話始める。

「そういえばキハネさん、他の冒険者さん達から何て呼ばれているか知っていますか? 忠犬ロカッコですって。可愛らしいですね」

 猫なのに犬なのかと思いもするが、確かにロカッコのツューミへの懐きっぷりは確かに犬のようだ。しかし忠犬、そう呼ぶにはあまりにも獰猛過ぎるのではないかとシーメは訝しんだ。


 午前の間、シーメは入院中から少しずつ受講していた新人冒険者育成プログラムの座学を組合の学習室で受けて時間を潰した。

そして昼少し前、リーシャに場所を聞いてから向かうのはシャイニングディーバの本拠地。

彼女達の拠点は東の海岸近く、今よりもはるか昔の旧暦の時代に作られた施設を改装して使っているらしい。

対して冒険者組合は利用する冒険者達が街の外部へ頻繁に行き来する事を踏まえて街の西端に建てられている。

つまり冒険者組合からシャイニングディーバの拠点まで向かうには、バロカセクバの街を東と西、北と南を分割するように走る十字のメインストリートを真っ直ぐに進んだとしても街を端から端まで横断する必要があるのである。

 冒険者組合の出入り口、木製の二枚扉を両手で開けてシーメは街へ出ると、眼前にはとても活気に溢れた光景が広がっている。

真っ先に目に入るのは行き交う蒸気車両と機兵の数々、片側四車線のうち、最も外側は機兵用に設けられており、たった今虎柄に塗装されたリャグーシカの脚がシーメの眼前を左から右へと横切った。

その機兵が向かう先には商人や冒険者達が列を成す大きな扉があった。バロカセクバを大きく取り囲む城壁に設けられた関所である。きっとあの機兵はこれから冒険へと向かうのだろう。

機兵と車両の向こう側、道路の中央には小型の船が行き来できる水路が流れ、その脇には路面電車の駅がある。

路面電車を使えば街の端から端まで移動するのも楽なのだが、乗車時の冒険者ライセンス提示で運賃が割引される制度を使えない今のシーメには徒歩で移動するしか選択肢はない。

シーメが西のメインストリートを歩いていると、そこは冒険者風の格好の人々で賑わっていて、道沿いに建ち並ぶ商店も武具や探検用の道具を扱う店が多い。

また酒場も多くあり、店の外に並べられた座席はすでに満席の店すらある。普通ならばいい歳した大人達が昼間から酒浸りとは情けなくなるものだが、この街ではそういうわけでもない。多くの冒険者と依頼が集まるこの街では、依頼の時間帯もまちまちで、冒険者の生活習慣は崩れがちである。つまり彼らはすでに一仕事を終え、仲間同士讃え合う段階の人間なのである。ただその中にも何人かは昼間から酒浸りの情けない人間もいるだろうが。

 シーメがしばらく歩いていると、街の風景が少しずつ変化していることがわかった。街の西側は冒険者が多いことからか、彼らへ向けた商売をする店が多かったが。しかし中央へ近付くに連れて呉服店や日用品店、雑貨屋や本屋が目立つようになってきた。つまるところこの街で暮らす人々へ向けた店が増えてきている。

ふと歩いていると一軒の店のショーケースがシーメの目に留まった。それは玩具店だった。ガラス張りのショーケースの中には1/60スケールの機兵の模型が並んでいる。

確かロココホビー事業所製の模型だっただろうか。ロココグループの工業力を活かして大量生産されるグラオライト──旧人類の使っていたプラスチックに酷似した性質の素材で作られた模型だ。

棚には同盟製の機兵の模型が多いが、中には聖王国や帝国の機兵の模型もある。噂によればロココは資料の少ない外国製機兵の模型を商品化するために、私兵組織を使って国外から機兵を持ち込んだ犯罪組織を襲撃して鹵獲したらしい。

 シーメがショーケースを眺めていると、遠くから呼びかけられた。そちらを向くと、何やら荷物を抱えたソーゲンが歩いて来る。

「少年、奇遇だな。もう体調は良いのか」

「はい、ソーゲンさんが差し入れてくれたポーションのおかげですね」

シーメが礼を述べると、ソーゲンは訝しげに顎に手を当てた。

「それにしても全治三ヶ月を一ヶ月で退院は不可解だな。私が差し入れたポーションも一般的なものだ」

「そうなんですか? じゃあ目覚めた時にツューミさんが差し入れてくれたあの小瓶に何かあるのかな」

シーメもソーゲンと同じように考え込んで顎に手を当てていると、何かに納得したのか、ソーゲンが手を打つ。

「なるほど、先日の依頼はそういうことだったのか」

「先日の依頼ですか?」

「あぁ、ツューミ嬢から直接の依頼があってな。少年も飲んだと思うが、製法不明のポーションの再現に使う素材に目星を付けたから採取を手伝って欲しいと言われてな」

製法不明のポーション、恐らく目覚めた時に渡されたあれだ。つまりツューミはあまりよくわかっていない物を怪我人に飲ませて効果を確かめたということだろうか。そう思うと少し複雑な気分だが、ソーゲン達がそのポーションの再現に成功したのかは気になる。

「それでそのポーションの再現は出来たんですか?」

「概ね再現は出来ただろう。しかし素材調達の手間と効果が釣り合っていないな。素材集めで死にかけては重症を少し早く治す程度の効果、すでに確立された医学薬学で事足りている」

そう言うソーゲンの顔はシーメが最後に見た時よりも少し痩せ細っているように見える。よほど過酷な素材採取だったのだろう。

「そういえば少年はショーケースを見ていたが、模型に興味があるのか?」

何気ない様子でソーゲンが尋ねた。

「はい、子供の頃に一度見てから憧れでした。ただ子供の小遣いで買える程の値段じゃなかったんですよね」

シーメは遠い日の憧れを抱いたまま、少し寂しそうにショーケースを眺めた。

「安心しろ私のように採取依頼しか受けていなくても月に一つ新しい模型を買えるくらいには稼げる。少年もすぐに買えるようになるさ」

「ソーゲンさんも模型を作るんですか?」

ソーゲンは薬草などの事を話すとき、とても楽しそうな顔をする。そしてシーメは彼が今もその時と同じような顔をしていることに気付いた。

「昔から細々とした事をやるのが好きでね。私は機兵はおろか従機の操縦も出来ない人間だが、模型では歩かせることも出来ない機兵を自分の好きなように改造できる。何より実物よりも金が掛からない」

楽しそうに語るソーゲンの横顔に、休日一人で黙々と模型を組み立てる彼の姿を想像してシーメは微笑む。

「今度僕も模型作ってみます。その時はいろいろ教えて下さい」

ソーゲンは嬉しげに笑った。

「そうだな。私は少年の指導員だからな」

一通り話し終えた所で話題が変わる。

「そういえばソーゲンさんはどこへ向かう途中なんですか?」

「冒険者組合に行くところだ。得意先から直接依頼があったんだが、発注された量が多すぎる。ギルドで手続きをして他の冒険者にも依頼を回すつもりだ」

ソーゲンでも一人では難しいと思う依頼があるのだなと少し意外に、そしてその依頼に自分がついて行けないことが悔しいとシーメは思った。

「前に話したことがあるだろう。夏の機兵闘技会が一ヶ月後に開催される。そこで夏涼草のジュースの店舗が数多く出店されるが、その材料の販売を行っている商会から依頼されてな。街の外からも多くの観光客が訪れるから、在庫が足りなくなるそうだ」

確かに夏の暑さの中、競技観戦をするには冷たい飲み物は欠かせないだろう。

「私からも尋ねてもいいか?」

今度はソーゲンがシーメに尋ねた。

「少年はこれからどこへ向かうんだ?」

「あぁ、僕はこれからシャイニングディーバに行くんですよ。ロカッコさんが特訓してくれるらしいです」

シーメがそう言うとソーゲンは意外そうな表情を浮かべたが、また少し考え込んで納得したようだ。

「確かにキハネ嬢は優れた運動能力を持っているが、あまり人に教える質では無かったように思った。だがツューミ嬢はこれも彼女の成長だろうと考えたな。この街は冒険者が互いに手を取り合って成長していく街だ。少年も思う存分成長してこい」

その言葉にシーメは元気にはつらつと応えた。そして長話をし過ぎたとソーゲンは言うと、彼はその場を後にした。去り際、シーメの財布事情を察してか中央駅から港駅までの路面電車の運賃を渡してから、くれぐれも怪我には気を付けるようにと言い残して彼は冒険者組合へ向かっていった。

 ソーゲンと別れてからもうしばらく進むと、路面電車の中央駅が見えてきた。

中央駅という名の通り、ここはバロカセクバのちょうど中心。メインストリートが交差する場所で、遠目から見ると地面が盛り上がっているように見える。それは水路と車道、路面電車が一箇所に集まるための都市設計である。街の中心が水路の集合地点になっており、その上に蓋をするように車道が作られたのである。暗渠となった水路の上はラウンドアバウトになっていて、蒸気車両と機兵がぐるぐると回っている。そして路面電車の乗り場は東西南北の四箇所設置され、それぞれが十字の歩道橋で繋がれている。建ち並ぶ建物もこれまでと比べて大きな物で、娯楽施設が纏められた商業施設になっている。交通量も、行き交う人の数もまさに都市の中心部という形だ。

 故郷の村に住んでいた頃、数回だけ商業都市デイリーフを訪れたことがあったが、ここバロカセクバはその比ではない。この街は絢爛豪華、田舎から出てきたばかりのシーメはその綺羅びやかさに目眩がしそうであった。

 景色に目を奪われながらも目的地を目指すシーメは西の乗り場から歩道橋を渡って東の乗り場へ向かう。するとちょうど歩道橋の中央に差し掛かった時、北側に何かが見える。

それは巨大な円形闘技場だった。あれが今度行われる機兵闘技会の会場だろうか。メインストリートからでもよく見える大きな映像板が設置されていて、闘技場の中を映し出している。

そしてもう一つ、円形闘技場の向こうに見える高層建築がある。あれがこの街の長であるロココ設計所の本社だろう。ここからでも隠れることなく見えるその建造物はこの街で一番背が高い。

シーメが闘技場の方向を見ながら歩いていると、若い二人組の男達とすれ違う。どちらも冒険者風の装いをしている。

「聞いたか!? 魔獣狩りのスレイ・レイヤードと首無しのバーレイ・グラウファルスが決闘するんだってよ!」

「本当か!?あの魔獣狩りがよく決闘を受けたな。しかも相手はあの首無しか!」

興奮気味に会話を弾ませながら男達は闘技場の方向へ向かっていった。

 決闘、この街には公式に行われる機兵競技以外にも住民達から人気の機兵娯楽があるのだ。

決闘を行う理由は様々だが、この街では冒険者組合の立ち会いで公式に決闘が行われる。その戦いは他のスポーツのように賭けの対象にもなり、強い者同士の決闘はその勝敗の予想など大いに盛り上がるのだ。

「僕もいつか機兵に乗ってみたいな」

少年はそう呟いて先を急いだ。

 歩道橋を渡り、東の乗り場まで到着するとちょうど路面電車が到着した所だった。2両編成の車両の扉からは乗客がぞろぞろと降りていき、代わりにホームに並んでいた者たちが車両の中へ進んでいく。シーメもその人の流れに混ざりながら車内へ進むと、幸運にも窓際の席に座ることが出来た。

田舎育ちの少年にとっては人生初の鉄道体験である。期待に胸を膨らませ、発車を今か今かと待ちわびていると、ベルが二度鳴り、車両がゆっくりと動き出した。車窓の景色が前から後ろへと流れていく。シーメはその景色を見て、歩くよりも断然速いなと思った。

しばらく列車の心地よい揺れに身を預けていると、外の景色の雰囲気が変わってくる。これまでの景色は店舗やアパートが多かったが、西へ西へと進むに連れて、敷地の広い建物が増えてくる。それは工場であり、倉庫であった。路面ですれ違う大型トラックの列には荷台には2機ずつの機兵、リャグーシカが四つん這いの姿勢で固定されており、街の外へ向かっていくようだった。

先程のリャグーシカを運んでいたトラック以外にも様々なトラックとすれ違い、整備工場へ歩いていく機兵やとても大きな倉庫を通り過ぎ、またしばらくしてからついに路面電車は目的地へと到着した。

ここは東の港駅。ロココ設計所だけではなく、その他の企業の生産工場や物流拠点が置かれた流通の要所だ。

車両の扉が開かれると、シーメの髪を風が揺らした。優しく波の音を運ぶ風は、同時に潮の香りも運んだ。その香りにシーメはここが海であることを実感する。駅のすぐ外には大型の輸送船が浮かんでいるのが見えた。

シーメは駅を出るとすぐ、早速海沿いの道を歩き始めた。遠くには従機がワイヤーを引っ張り、貨物を持ち上げて輸送船に積み込む風景が見える。そして彼の真横には昼間の太陽に照らされ、揺れる波がその光を幾重にも重ねて反射する大海原があった。そのあまりの美しさに、人生で初めて海を見た少年は感嘆の声を上げる。そして世界にはまだ自分の見たことのない景色がたくさんあり、狭い世界を飛び出して冒険者として一歩踏み出した事を誇らしく思った。

「いつか必ず──」

いつか、それが一体いつになるのかは分からないが、少年が一人前の、いやそれ以上の冒険者になった時。

「僕は必ずこの海の向こうを目指したい」

少年は決意を新たにした。海の先を目指す。それはこれまで幾人もの冒険者達が目指し、帰らなかった偉業。しかしこの少年もまだ見ぬ景色を目指し冒険者となったのならば、その果てに憧れを抱くのは当然。

であるならば、今の彼が成すべきことはただ一つ。それは成長することだ。今の彼はそれこそ駆け出し中の駆け出し。新芽であり、荒野を征く野うさぎのようなものだ。

だからこそ、今目の前にあるチャンスに食らいついていかなければならない。この街で最強と謳われる冒険者ギルドでの特訓。またとないチャンスだ。少年は決意を固めた。

「僕は必ず強くなる。強くなってツューミさん達を超えてみせなくちゃいけない」

そして少年は足を早める。目指すはシャイニングディーバ。海沿いに北上、灯台が目印である。


 視界が揺れる。天地がひっくり返り、頭上の地面が落ちてくる。いや、落ちてくるのではない。自分が落ちているのである。シーメは冷たい床に倒れ落ちた。

意識を手放しかけたその時、柔らかい肌の感触、しかしその衝撃は鋭く。少年の頬に素早い平手打ちが飛ぶ。その痛みで手放しかけた意識が引き戻される。

「寝るなよ。こうしろって言ったのはあんたの方ッスよ」

そう言われてシーメは全身に力を込めて立ち上がり、模擬短刀を構える。

すると鋭い回し蹴りが飛んできた。咄嗟に防ごうとするも間に合わない。先程平手打ちを食らった頬に、今度は靴の先端がめり込んだ。

「復帰する時に無駄な場所に力入れんな。体力無駄になるッスよ」

倒れゆく最中の視線を声の方へ向けると、すでに体制を整え直した亜人の女が立っている。その姿を真っ直ぐ見据え続けようとするが、少年の意識はまた、彼の肉体を離れようとしている。

何故こうなったかと言うと、時は遡る。


 意気揚々とした足取りでシーメは灯台にたどり着いた。ここは建造物も地面も、継ぎ目の目立たない石造り、コンクリートで固められていることからも、旧暦の時代に建てられた事が分かる。そして灯台の真下には二人の女が立っている。ツューミとロカッコだ。

「シーメ君、ちょうどいい感じの時間に来たわね」

「ちょうどいい感じの時間ですか?」

シーメが尋ねるとツューミは小さく笑って海の方を指差した。その方向へ顔を向けると、階段から一人の女が登ってくるのが見える。何やら怒っているようで、足早にこちらへと向かってくる。

「ツューミちゃん! あなたまたとんでもない無茶しましたね!?」

みるみる近付いてくるその女は一歩前に進むごとに後ろで大きくリボンのように結んだ髪が揺れている。また大きな丸眼鏡もかけていて、全体的に装飾が大きいイメージの女だ。

「ツューミちゃんもしかしてワイバーンの群れに空中戦を挑みましたね!? いやもしかしなくてもわかります! あの脚のショックアブソーバーの有り様は何ですか、一回の冷却材噴射量が異常で噴射口が破断してましたよ!?」

「はいカーヤ、ちょっと落ち着きなさい」

今にも掴み掛かりそうだった勢いの、カーヤと呼ばれた女をツューミは軽くいなしてシーメの手を引っ張りはじめた。

「これからお客さんにここの案内しないといけないから私は行くわね」

「ちょっと! 話は終わってないですよぉ!」

カーヤに呼び止められてツューミは一度立ち止まって振り返った。

「カーヤ、いつもありがとうね。あなたやサノーヴァが私の機兵をいつも最高にしてくれるから私は頑張れるわ」

ツューミはにやりと目を細めて笑う。まるで悪戯が成功した時の子供のように。

カーヤはツューミだけじゃない、このギルドのみんなにいつも無事でいてほしいから無茶をしているようなら小言の一つや二つ言う。心配だからこういう態度を取られると少しむっとするけれど、それでもああやって感謝されるのは満更じゃない。

カーヤが照れていると、ツューミはシーメを引っ張って既にその場を去ってしまっていた。それに気付いた時にはもうそこにはカーヤとロカッコの二人しかいない。

「もう、いつもあんな感じなんだから……」

「先輩がああいう感じなのは不服ながらカーヤさんが一番付き合い長いから今更じゃないッスかね」

「そうねぇ、もう十五年以上の付き合いだしね……」

不意にロカッコが小馬鹿にしたような乾いた笑いを漏らす。

「お互い因果なモンっすね。ああいうタイプを好きになるなんて」

その言葉を聞いてカーヤも自嘲する。

「そうね。私達いつも振り回されてばかりね」

二人の間に沈黙が流れる。風が運んできた波の音、鳥の声。ロカッコは一度屈伸すると太ももを叩いた。

「それじゃあ私は修練場行ってきます。さっきの子に稽古つけなきゃいけないッスから」

カーヤは後ろ手を組んでから背中を伸ばし、今度は純粋な気持ちで優しく微笑んだ。

「きっとあなたもあの子もお腹を空かすでしょ。今日はちょっと頑張って作るかな」

ロカッコの耳がぴくりと動く。

「やったぁ。私カーヤさんの作るご飯好きッスよ」

二人は顔も合わせず、くすくすと笑いながら屋内へと戻っていった。


 ツューミに連れられてシーメは通路を歩く。通路の広さは人が十人横に並べるほどで、シーメのすぐ右手側には腰くらいの高さの鉄柵がある。反対に左側は少なくとも20m以上のやや傾斜した灰色の壁が聳え、等間隔に機兵よりも大きな横穴が並んでいる。

シーメが横穴の方に目を向けると、そこには機兵の駐機兼整備場があった。この施設はもともと下水道のような施設だったのだろうか、床面を見ると填められた金網の下に水路が見える。また両壁面側には窪んだ通路のような空間があり、そこには木材などで組まれた部屋のような物が並んでいる。

「どう? 面白いでしょ。ここが私達の拠点、機兵の整備も居住も全部この横穴で出来るのよ」

「ここは、凄いですね」

バロカセクバの街並みにも驚かされたシーメだったが、ここはまた違ったベクトルで驚かされた。

「まるで軍事基地ですね」

シーメがそう呟いた時、ツューミは目を細めた。

「察しが良いわね。そうよ、ここを含めてバロカセクバにはいくつか旧暦の時代からの建造物が残っているし、それらは旧大戦の頃に軍事基地として使われていたわ。この街で一番大きな遺跡が今のロココ設計所本社で、その次に大きな遺跡が私達の拠点とバロカセクバの資料館」

隣で並び歩いていたツューミはシーメより少し先に進むと振り返って両腕を広げて見せた。

「まぁ、私達のギルドの規模じゃあこれだけ広いと持て余し気味よね。だからいくつかの場所は別のギルドとか傭兵とか色々に貸してるのよ。グライフリッターとかね」

グライフリッター、田舎者でそういった事情にも疎いシーメですら何度かは名前を聞いたことのある組織だ。それは傭兵協会内のランキングでは常に最上位に君臨し、同盟最強の傭兵部隊としてその名を轟かせる伝説的存在だ。

「そこにいるあの子とかもグライフリッターの人間よ」

そう言ってツューミは通路の先を歩くフルフェイスのヘルメットを被った装甲服の人物に手を振った。

「やっほーバイパー! 元気にしてるかしら?」

バイパーと呼ばれた人物は一瞬振り返ると手だけ挙げてまた歩き去っていった。

「無口な子なのよね。たった一人で生身のまま機兵を撃破するタイプの人間だから、シーメ君がそういうの興味あったら話つけてあげてもいいわよ」

「えっ! えっ!?」

軽々しく言うツューミだったが、たった一人で人間が機兵を撃破するなど異常だ。最強の傭兵部隊だと聞いていたがまさかその最強度合いがそれほどだったとは。そんなに強い人間から師事してもらえるならば光栄だが、生憎今のシーメにはそれに耐えうる肉体が伴っていない。

「残念ですが今の僕ではまだ出来ないと思います。戦い方の基礎だって実践に移したことがありませんから」

「それもそうね。何事もちゃんと準備してから挑んだ方が楽しいもの」

 二人が話しながら拠点の案内を続けていると、遂に通路の突き当りに着いた。そこには木箱などの類の物が積まれていて、すぐ左に最後の横穴がある。その中はこれまでの横穴と違い、機兵関連の設備は無く、床一面が板張りになっていた。その空間の奥にはやや大きめの仮設小屋のような物が建てられていて、その小屋の扉の前に亜人の女が立っている。

「先輩! 結構のんびりして来ましたね!」

ロカッコが両手を振りながらツューミに呼びかけていた。

「えぇ、これから二ヶ月ここで寝泊まりするもの。しっかり案内して来たわ!」

笑顔で手を振るロカッコにツューミもまた笑顔で手を振り返した。

「それじゃあ後はよろしく頼むわ!」

ツューミに促されてシーメはロカッコの下へ向かう。格上の冒険者に特訓してもらうのだ。礼儀として相手を待たせてはならないと、シーメは駆け足をした。

「ロカッコさん、僕の特訓に付き合ってくれてありがとうございます」

シーメはロカッコに深々と頭を下げた。それはもう深々と。

「あー、そういうのはいいッスよ。一通り終わってからで」

シーメの礼儀正しくも仰々しい態度を制してからロカッコは、彼女から見て右側を指差した。そこには壁面の凹んだ通路があり、訓練用の武具がラックに立て掛けられている。

「とりあえずあそこから自分の使う武器持ってきてください。どういう特訓するかはそれから考えるッス」

大きな声で返事をし、駆け足で武器を取りに行くシーメを見て、ロカッコはいつかの自分を重ねた。妙に張り切っていて、肩肘張って、憧れを燃料にただ真っ直ぐひた走る。

「いつか擦れるなぁアレ」

その後ろ姿に影が重なる。覚悟していたつもりで、その実まったく出来ていなかったあの日。表層的な夢だけ追って、この世界で真に夢を追うことの意味を知る前。

 ロカッコが感傷に浸っていると、シーメは片手に木製の小さな剣を持って帰ってきた。

「短刀ッスか」

「はい、最初の依頼の時にソーゲンさんが選んでくれたんです」

冒険者に夢を持ってこの世界に入ってきた若者にしては珍しい選択だと思っていたが、ソーゲンが選んだというなら納得がいく。

ロカッコが以前ソーゲンと共に行動した時から彼は極力魔獣との接触を回避しようと努めていた。それは彼自身が自分の弱さを正しく認識しているからだ。

もちろん例外も存在しているが、基本的に長生きするタイプの冒険者というのはよほどの臆病者か、分を弁えている者だ。冒険者というのはその冒険の中で徐々に経験を積み、死に直結しかねないシチュエーションを乗り越えて自分の分を理解していく。

だが冒険者を目指す若者というのは基本的に村一番の力持ちとかの力にある程度自信を持っている者や、大げさに脚色された冒険譚の活躍に憧れてしまう者だ。そんな者は決まって魔獣と戦いたがる。そうなると彼らが選ぶ武器は剣や斧など、分かりやすく強そうで華のある武器だ。

しかし今回ソーゲンがシーメに選ばせた武器は短刀。これは生身で魔獣を相手にするには扱いに熟達しなければ厳しく、概ね自衛目的に使われる武器だ。つまり新人冒険者が陥りがちな好戦的な衝動を抑制する意図がある。

また、あまり重量の無い武器なので逃げる時にも枷にならない。地位や名誉よりも明日の命を優先するソーゲンらしい選択だ。

「へぇ、新人冒険者にしてはなかなかいいチョイスじゃないッスかね」

「ありがとうございます! 最初の依頼では何も出来ずに倒れてしまいましたが、この特訓で強くなって、ソーゲンさんから頂いた短刀を使いこなせる強い冒険者になります!」

「あっちゃー…」

ロカッコはつい口に出してしまった。そして困ったように頭をかく。

確かこの少年は最初の依頼で中型魔獣に襲われたのだったか。中型魔獣となると機兵で対象するような連中である。そんな相手に生身で襲われて生きているだけでもかなりの幸運だというのに、彼は初体験でそれを相手にしてしまって感覚が狂ってしまっていた。

別にどこかの新人冒険者が感覚を狂わせて死に急ごうがロカッコとしてはどうでもいいが、今回は話が違う。大好きな先輩に任されたわけで、自分とも顔見知りになってしまった。そんな新人冒険者を自分で焚き付けて死に急がせるのは流石に気が乗らない。

「えっとシーメくんでしたっけ? なんか冒険者としての心構えを履き違えてるっぽいッスね」

「心構え……ですか?」

「そう、心構え。そんなんで復帰してもどうせすぐ死ぬんで、今回は下地を作り直すッス」

「下地……」

「そう、下地。だから本気でやるッスよ」

ロカッコが一瞬にして殺意を秘めた眼差しになる。そしてその圧力にシーメは釘付けになってしまった。しまったと思った時にはもう遅い。強烈な脚力による回し蹴りがシーメの顎に直撃した。

シーメが意識を手放す直前、ロカッコの声が耳に届いた。

「本気なんで、とりあえず冒険者として何が大切なのか考えてください」


 頬に平手打ちの痛み。そして今に至ったというわけである。

ついさっき言われた通り極力無駄な場所に力が入らないよう心掛けながらシーメは起き上がる。そして武器を構えようとした所で今度は拳がみぞおち目掛けて飛んできた。

咄嗟に両腕で防ごうとしたが、その守りを破って拳が直撃。シーメは膝から崩れ落ちて蹲る。

そんな立ち上がっては打ちのめされてを繰り返していたが、シーメは瞳に闘志を宿し、何度でも立ち上がる。

その瞳を見てロカッコはため息をついた。そして近くの壁に掛けられた時計を見る。

「そろそろお昼なんで一旦切り上げるッス。とりあえずカーヤさんの所行って酷い怪我してないか診てもらって来てください。」

「わっ、わかりました……」

朝から昼にかけての特訓が終わり、シーメの呼吸は思い出したように荒くなる。全身に力が入らない。傍から見て少年の身体は満身創痍であった。

 シーメは少し休憩してから言われた通りにカーヤの下へ向かった。

カーヤはツューミのリャグーシカの駐機場近くに自室を持っていて、木製の扉を開けると椅子に座って待っていた。彼女の隣にはもう一つの空席がある。

「シーメくん、そろそろ来ると思ってましたよ。それにしても今日もこっぴどくやられちゃいましたねぇ」

シーメはその言葉にあははと力なく笑うしか出来なかった。そして空いていた隣の椅子に座ると、カーヤは全身の怪我を診始めた。

「まぁ、腫れてたりしますけど、どこも折れてたりしないみたい。割と優しくしてもらってるわよね」

ここ一ヶ月の間ほぼ毎日殴られ蹴られているが、どうも優しくしてもらっていたらしい。その事実にシーメは戦慄した。本気とは言っていたが、それでもかなり抑えていたのかと。

「あとツューミちゃんが前に飲ませたポーション。あれを少し調べてみたらどうも怪我が治った後に身体がちょっと頑丈になる効果があったみたいね」

ツューミに貰ったポーション、入院中に目を覚ましてすぐ渡された物だ。

「そういえば皆さんはどうして僕にこんなに良くしてくれるんですか?」

最初のポーションも、今回の特訓に衣食住。座学のために向かう冒険者組合への交通費も出してもらっている。

「面白いから、かなぁ。ツューミちゃんはシーメくんに優しくしたら面白くなると思ってる」

「そんな理由だけで僕に優しくしてくれるんですか?」

面白い。たったそれだけの理由で衣食住の面倒を見て特訓までするのだろうか。当然の疑問である。

「そうね、ツューミちゃんはシーメくんに期待してる。それこそ二ヶ月の間全ての面倒を見ても、お気に入りの後輩を貸し切りにされても安い投資だと思うくらいには」

流石に重すぎるとシーメは思った。田舎から出てきたばかりで右も左も分からないただの新人冒険者に街で最強の冒険者ギルドの団長が期待をしている。重たくないわけがない。

室内にとびきりに重たい空気が充満した。何かを口にするのも憚られるほどに。

「ま、まぁそんなに気負わなくてもいいかな。ツューミちゃんだったらどういう結果になってもきっと楽しいだろうから」

「ありがとうございます」

カーヤは場を和ませるように言ってくれたが、それでもやはり期待が重いことに変わりはない。シーメも今の空気に耐えかね、礼を言うと部屋を後にした。

向かう先は冒険者組合。今日も新人冒険者育成プログラムの座学を受講しなければならない。

 港から路面電車に乗り、冒険者組合前までたどり着いた時、シーメはちょうどソーゲンと鉢合わせた。彼は組合の建物に入ろうとしていた所で、その顔には濃い疲労の色が見える。

「ソーゲンさん、とてもお疲れのようですがどうかしましたか?」

シーメが後ろから声をかけるとソーゲンははっとなって後ろへ向く。

「おぉ、少年か。いや夏涼草の収穫がな、大変なんだ」

納品する量がとても多いとは聞いていたが、草について知り尽くしたソーゲンであってもそこまで大変なのだろうかと思ったシーメは尋ねた。

「ソーゲンさんでもやっぱり大変な量なんですか?」

そう聞かれるとソーゲンは少しうんざりだという顔をして肩を落とした。

「いやな、私ではないんだ。問題なのは他の冒険者達だ」

他の冒険者、そのあまりに多い発注量から別の冒険者達にも外注し、集まってきた者たちのことだろう。

「毎年この時期に私はこの依頼を外注していてな、街の付近での採取依頼ということもあって毎回新人冒険者達が集まるんだ。そして初日にいつも夏涼草について説明するんだが、どうやら今年は話を聞いていなかった者が多いらしいな」

口を開くとソーゲンは珍しく饒舌だった。普段愚痴をあまり言わないような人物だったが、今回は特に酷いらしい。植物について語る時と同じくらいに話している。

「少年もあの植物が扱いを間違えると非常に危険な物だと理解してくれていると思うが、今年の新人冒険者達は迂闊過ぎる。今日の午前の採取では三ヶ所も青岸花が開花した。まったく彼らは死に急いでいるのか。生きていてこその冒険者稼業だろうに」

 生きていてこそ。シーメはその言葉に何か引っ掛かるものがあった。その言葉について考えようとした所で背後から怒号が上がり、喧騒が近付いてきた。

「毒だ! 新人が一人倒れた!」

その言葉を聞いてソーゲンの顔が青ざめる。起きてほしくなかった、恐れていた事が起きてしまったという顔だ。

ソーゲンは慌てて組合の扉を開け放ち、喧騒の方向、関所の方へ力いっぱい声を張り上げた。

「早く病院に運べ! 外科的措置が必要だ!」

その言葉を聞いて冒険者が毒に犯されたもう一人を背負いながら走ってきた。背負われた冒険者の右腕には掌から肘あたりまでに飛沫模様のように病的な斑点が浮かび上がっている。とても若い少女だった。

「毒を受けてからどれくらい時間が経った!?」

ソーゲンは毒を受けた少女を背負う冒険者に事情を聞きながら組合へ入っていった。向かう先は併設の病院以外にないだろう。

あまりの突然の出来事に呆気にとられ、その場に一人取り残されたシーメだったが、何か出来ることといってもない。当初の目的通り組合で座学を受けに行くしかないだろう。

 組合前での騒動は学習室には特に関わりがあるわけでもなく、座学は通常通り行われた。内容はこれまで受けてきたものと同じような依頼中に起きた事象への対応方法やその他といったところだ。

配られたテキストを見ているとシーメはある言葉を思い出した。

「本気なんで、とりあえず冒険者として何が大切なのか考えてください」

特訓の初日にロカッコから言われた言葉だ。そしてもう一つ言葉を思い出す。

「生きていてこその冒険者稼業だろうに」

先程ソーゲンと話していた会話の中にあった言葉だ。

「そうか、分かったぞ」

シーメの中で点と点が繋がる。冒険者として大切なこと、それは生きることだ。だが、そうは思いつつも、生きたいと思ってどうロカッコの猛攻に対処すべきなのだろうか。そこが分からなかった。

 そして座学を終えたシーメはもう一度シャイニングディーバの拠点へと帰り、夕から晩までの間の特訓の為に修練場へ向かうのだった。

修練場ではロカッコがシーメの事を待っていた。そして彼女はシーメの顔を見ると何かに気付いたようだった。

「その目つき、何か分かったみたいッスね」

何かが分かった。自信は無いし、その後どうすれば良いかも分からない。だがきっかけは掴んだのだ。必ず答えを見つけようと思った、その時。

背筋の凍るような、心臓を鷲掴みにするような空気が修練場に漂った。

シーメがロカッコを見ると彼女の目はこれまで特訓中に見たものとはまったく違っていた。それは獣の目だ。

この感覚には覚えがある。それは初対面の時、シーメがロカッコをロカと呼んだ時に向けられた殺意。そしてあの森で魔獣シーストがその牙を剝いた時の感覚。

シーメは咄嗟に思った。

「死にたくないっ……!」

ロカッコは既に鋭い回し蹴りを放っていて、足の先端がもうすぐそこまで迫っている。直撃すると思った時。いや、そう思うよりも前にシーメの腕は動いていた。

単なる防御ではない。模擬短刀で斬り払い、蹴りの軌道を逸したのだ。そして自然に身体が動く。

シーメは素早く身を屈めた。低い位置からロカッコの脚から腰、腰から腹、腹から胸、胸から頭が見える。彼女の全身を完全に捉えていた。

脚に力が入る。バネのようだ。脚の勢いに任せてシーメは飛び出した。付き出す模擬短刀、確実に相手を捉えている。

シーメの一撃が命中しそうだった瞬間、ロカッコは後方に宙返りして攻撃を避けた。そして着地したと同時にまた勢いよくシーメへと向かった。

今の殺意に敏感なシーメならば回避直後の攻撃も対処することが出来ただろう。しかし、今度のロカッコの行動に彼は対応出来なかった。何故ならば、彼女は攻撃をしなかったからである。

「うわぁ、感動ッスね! 初めてのカウンター!」

シーメはロカッコに抱擁され、その胴体に顔を埋めていた。予想外の展開に少年は赤面する。

「ただちょっと気が抜けすぎッスかね。魔獣相手なら及第点だと思うけれど」

シーメに抱きつきながらロカッコは先程の彼を冷静に分析した。今の動きは間違いなく火事場のフィジカルである。

座学から帰ってから目つきが変わっていたので、恐らくその間に何か気付きがあったのだろう。だから試しに本気の殺意を向けてみた。すると予想通りの反応が返ってきた。

冒険者稼業とはつまるところ日銭を稼ぐ為に進んで危険に飛び込むようなものだ。様々な技術進歩や社会の補助があって近年の冒険者業はカジュアル化しつつあるが、それでも危険であることに変わりない。

だから本来の目的を忘れてはならないのである。生きるための金を稼ぐのが冒険者の目的だ。

そして危険に身を晒して生きるためには、より衝動的で原始的な本能が必要になる。それこそ死にたくないという想いだ。

初めて会った時から感じていたが、この少年は恐怖に対して人一倍敏感である。いや、恐怖だけでなく、その他の感情も大きい。感受性が豊かなのだろう。

そういう人物が強いのは身近な例をよく知っている。ツューミ・ロココがそれである。彼女もまた大きな感情を持っているから強いのだ。

シーメを抱き締めながらロカッコは思った。

「なんかだんだん愛おしくなってくるッスね。あはは、ママですよ〜。なんちゃって」

彼の特訓を始めてから一ヶ月経ったが、自分の教え子が成長していく様のなんと愛おしいことか。

彼は飲み込みも早く、理解力も高い。基本的にロカッコは具体的なアドバイス等はせず、改善すべき点だけを伝えてきたが、それでも毎回それを改めて立ち上がる。

学ぶと言うことは真似をするという事であり、ずっと攻撃を受け続けていたシーメは、ロカッコの動作を一ヶ月の間見続けたのだ。

先程のカウンターの動き、別にロカッコがどうすればいいと教えたわけじゃない。彼の動きは彼独自のものだった。ロカッコの様々な動作を切り取り、再構築してあの状況で最適な動きを繰り出したのだ。

あぁ、やはり自分の動きを見て育つ子のなんと愛おしい事か。そう思っていた時、顔を埋めたままのシーメが何かをもごもごと話した。

「あっあの、ロカッコさん。そろそろ離してくれませんか……?」

「大丈夫ッスよ。別に十四歳の男の子に恋愛感情なんてありませんから」

「ロカッコさんはそうじゃないかもしれないですけど、僕はあまり大丈夫じゃないです!」

 なんだこの少年は一ヶ月間こてんぱんにされ続けた女相手でも、抱きつかれれば好きになってしまうのかと可笑しく思いながらも、ロカッコは彼を離した。そして少し屈んで目線を合わせた。

「本当によく頑張ったッスね。これからどんどん伸びますよ」

そう言ってロカッコはシーメの頭をくしゃくしゃと撫でた。それに対して少年はとても嬉しそうに、誇らしそうに笑顔を浮かべた。

「はい、これからも頑張ります。頑張って一人前の冒険者になります!」

笑い合う二人の間を海からの潮風が優しく通り抜けた。日は既に暮れ、星が瞬き、ちょうど腹が減る頃だった。
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