「機装兵 ルウム・ゾーダー」

[ショートストーリー]
彼はその事件が起きたとき不機嫌であった。バルクウェイ公国にて機兵隊総長の座に就いている以上、緊急事態に無理矢理叩き起こされるのも俸給の内だと言うのは理解している。だがようやっと口説き落とした見目好い侍女(侍女を口説くのは貴族的にはマナー違反です。)と夜更けのお楽しみの最中に、突然伝令が寝室に飛び込んで来るのは、流石に心身共に厳しい物があったと言うものだ。
そして魔獣が攻めて来たと報告を聞き、せめて魔獣斬って憂さを晴らすかと、機装兵ルウム・ゾーダーで部下たちを率いて出撃した。それは良い、それは良いのだ。魔獣の数が、報告の倍に増えていなければ。しかも魔獣は刻一刻と数を増やしている。部下たちは皆、腰が引けていた。
そして魔獣が攻めて来たと報告を聞き、せめて魔獣斬って憂さを晴らすかと、機装兵ルウム・ゾーダーで部下たちを率いて出撃した。それは良い、それは良いのだ。魔獣の数が、報告の倍に増えていなければ。しかも魔獣は刻一刻と数を増やしている。部下たちは皆、腰が引けていた。
(まずいな。)
彼は思う。見遣ると、城壁の一部に魔獣が取りついて、そこに何度も体当たりをしている。あれが今回の襲撃の親玉だろう。ラムグリッター型の、大型魔獣だ。城壁にはヒビが入り、破られる寸前だ。彼は怯える部下を叱咤して、そちらへと向かう。ラムグリッターはルウム・ゾーダーに気付くと、向かって来る。だがルウム・ゾーダーは素晴らしい強機兵だ。周囲の雑魚を部下の機兵が引き受けてくれれば、この化け物にも太刀打ちできる。そして彼の技量は並ではなかった。
しばし後、ラムグリッターを片付けた彼は勝鬨を上げる。周囲の部下の機兵も、唱和した。だが彼は妙な事に気付く。親玉を倒したはずなのに、魔獣全体としての勢いが衰えないのだ。その時、部下の狼狽した声が響いた。彼がその声に上を振り仰ぐと、城壁ががらがらと彼の機兵めがけて崩れ落ちて来るではないか。
(ばかな!わたしはいずれこの国の王に、公王になるのだぞ!?約定も取り付けてあるのだ!なのに!それなのに!)
彼は現公王が、アルカディア帝国の属国扱いから脱し、真の意味での独立を画策している事を知っていた。彼はそれに表向き賛同しつつ証拠を集め、帝国へと流していたのである。そしてその見返りに、現公王を失脚あるいは処断した後には、次期公王位の内諾を貰っていたのだ。そして彼が乗るルウム・ゾーダーは、大量の岩の下敷きになり、彼は操縦槽の通気口や、外を覗くための覗き穴から流れ込んで来た大量の土砂で、窒息死した。
あまりにもあっけない、野望の終焉だった。
あまりにもあっけない、野望の終焉だった。
[解説]
恐るべき強力機。バルクウェイ公国公王が、麻薬取引で得たカネに物を言わせて内密に買い求めた幻装兵の魔導炉。
そしてポストジカルド卿の最右翼とされる腕利き鍛冶師/技術者、ナイト・デヴィルン師。
信じ難い、阿呆の様なガルダ金貨の山と引き換えに、この機装兵は誕生した。
公王はこの機体を主力機として量産し、同時にその特別仕様機を建造して自分の乗る旗機とするつもりであった。
そして最初の1機を、公王が右腕として信頼する、機兵隊総長に任せたのである。
そしてポストジカルド卿の最右翼とされる腕利き鍛冶師/技術者、ナイト・デヴィルン師。
信じ難い、阿呆の様なガルダ金貨の山と引き換えに、この機装兵は誕生した。
公王はこの機体を主力機として量産し、同時にその特別仕様機を建造して自分の乗る旗機とするつもりであった。
そして最初の1機を、公王が右腕として信頼する、機兵隊総長に任せたのである。
ただしナイト・デヴィルン師としては、この機体は言うほど完璧な機装兵では無かった様だ。
能力こそ異常に高いものの、整備性も生産性も悪く、従って稼働率も悪い。
実力を発揮させるには、ジカルド卿やナイト・デヴィルン師ほどの力量の持ち主による頻繁な整備が必要であり、実効戦力としてはそれほど評価できないのだ。
たぶんこの機体を主力として本気で運用し始めたが最後、この国は干上がるだろう。
……まあ、それ以前に風前の灯なのだが。
能力こそ異常に高いものの、整備性も生産性も悪く、従って稼働率も悪い。
実力を発揮させるには、ジカルド卿やナイト・デヴィルン師ほどの力量の持ち主による頻繁な整備が必要であり、実効戦力としてはそれほど評価できないのだ。
たぶんこの機体を主力として本気で運用し始めたが最後、この国は干上がるだろう。
……まあ、それ以前に風前の灯なのだが。
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