銀悠冥狼、闇の竪琴、冥界賛歌、吟遊詩人……そう、すなわち。
俺の名は星辰滅奏者───かつて逆襲の冥王が宿した星辰光そのものだよ
彼の正体とは、本編開始以前、
審判者が実行した
極晃創星実験の最中、
被験者となっていた少女が抱いた悲痛な慟哭と
光の奴隷の所業への激しい憎悪とが
滅奏の極晃星と強く同調し、さらに彼女の
固有の能力が加わって偶発的に誕生した存在であり、
星辰光それ自体が自我と外殻を獲得した"自立活動型極晃現象"の成功例であった(
極晃星の項目も参照のこと)
。
おそらく、物物しい巨躯の狼面という容貌は、被験者が観測した
吟遊詩人、
彼が有していた貌の内、特に
人狼のイメージが強く顕在化したものと推測される。
光を徹底的に忌み嫌う敗者が至った極晃の化身、というのが彼の本質であるため、
本能的に滅奏と反発する星辰天奏者の眷属を滅殺せずにはいられず、理性の制御を離れ暴走してしまう場面も幾度か見られた。
しかし、かの
涙雨という少女が祈ったことで生まれた“彼”固有の性格は、実験過程で彼女が識った、
敗者の逆襲劇を遂げて消えた
冥王という人物の、
人格および記憶全体を基礎に据えた上で、
それらの要素に対し、彼女が抱いた純粋な「畏敬と感動」という想いにより、強固な補強がなされているものといえる。
特に、冥王の記憶と少女が最も同調したであろう
“
繰り返される戦いの螺旋に恐怖を抱いても、愛しい過去を守りたい”という想いを彼自身もまた尊重していると思われ、
冥王が抱いていた、
性格と能力との齟齬から生じた自己不信の念も、
極晃という超越した能力に対する思慮と責任感という形に昇華されている。
周囲に対しては自嘲的、厭世的な物言いこそ多いものの、星の後継者達や、彼らと縁のある只人達に対しての
責任感や優しさは紛れもなく本物であり、
死想冥月の祈りに相応しき存在と言えるだろう。
それらの思いと表裏をなすように、少女とその親しき者達の平穏を求める願いを鏖殺して顧みない、
英雄譚の亡霊たちに対しては、
狂った光を憎む冥王の代行者として、煮え滾る怒りと憎悪の咆哮を一切の容赦なく浴びせている。
使用する
星辰光は、
《狂い哭け、呪わしき銀の冥狼よ》。
冥王の至った
星辰滅奏者の能力である
星辰体の反粒子化を行い、結果新西暦に存在するあらゆる物質・現象を死や消滅に至らしめ得るという恐るべき性質を、ほぼそのまま受け継いでいる星辰光である。
このほか、受け継いだ能力としては、本編の描写から、滅奏に至る前段階としての星辰体の常時可視化などが確認できる。
これらの能力に加え、冥王が経験として蓄積した殺人・拷問技術も保有している可能性があり(曰く「昔取った杵柄」)、
トリニティ本編、特にレイン√において、
反星辰奏者としての圧倒的な実力をまざまざと見せつけている。
しかし、冥狼は自分自身でもあるこの異能が齎す“蹂躙”について、
「自分の理想に泥を塗っている」、「都合が良すぎて居心地悪くなる」飽きる、作業になるといった表現で、
冥王の“こんな力を求めていたはずではなかった”という思いを代弁している。
理想:人狼「鼻ほじりながら適当に固定の必殺技ブッパ、これだけで完全勝利!あー、楽だわぁ」
現実:冥王「自分とは違い努力のできる真面目な奴らを、俺は鼻ほじりながら適当プレイで勝てるとか……なんだよこのクソパワー。こんなの願うなんて屑じゃん、俺」
「たとえこれが、星辰光に焼き付いた残影みたいな感情でも構わない。
片割れと一緒に帰ってみせると誓ったんだよ、ここでもう一度あの日のように笑いたいんだ」
以上のような宿命を背負った彼の最終的な目的とは、
創造主であり、自分自身ともいえる冥王と伴侶たる月天女が抱いた
滅奏の特異点から地上の家族の元へ帰還するという願いの実現である。
ただ、作中の彼自身の発言や出現前後の描写等からみて、おそらく彼自身は任意で特異点上から地上世界へと出現することは難しいと思われる。
彼が出現する条件として(筆者の私見であるが)想定されるのは、
1、
オリハルコン等を介して、極めて膨大な星辰体が感応する環境が整うこと(アヤ√序盤や、グランド√序盤の情景描写等から)
2、1、と区別すべきか迷うが、オリハルコン所持者達が戦闘その他の形で、共鳴し合った者同士が極めて強い感情を抱くこと(プロローグおよび共通√一章、二章の天駆翔などの覚醒の場面)。
3、他の
極晃星からの干渉?(レイン√中盤において、もっともこれはどのような手順を踏んだのかは不明であるため、例外中の例外とみてよいだろう)
以上のようなかなり限定された状況でしか、出現ができない様子であり、しかも共通√の彼自身の発言からすると、地上に外殻が実体化するための「経路」ができるまでは、かなり不安定な状態におかれるようであり、アステリズムの行使も一定限度を超えれば、強制的に特異点に戻らざるを得なくなるようである(アヤ・ミステル√の彼自身の動向より)。
また、共通第二章での彼の出現は、一部の
実験の事情を知る者達以外にとっては、反粒子という極めて軍事的に価値の高い異能の実在を三勢力に示したこととなり、それ以後は常に追われる身となっている。
こうした苦境に立たされた上で、
闇の冥狼は、自身の一挙手一投足が地上に計り知れない影響を引き起こすことを苦々しく思い、また目的達成に伴う己の完全消滅を覚悟しながらも、創造主たちの本懐を遂げさせるため、大きく二つの狙いを持っている。
まず、不安定極まりない自身の存在を地上に定着させること、そして、地上と極晃星の間をつなぐ鍵となる
神星鉄を捜索することであった。
ただし作中では基本的に、自分を呼び出してくれた死想冥月や、
それ以外の光に轢殺されんとする弱者・敗北者への助力を行うことを優先し、
また、冥王たちの戻るべき地上に甚大な害をなす可能性のある緊急事態には、その解決のための尽力も惜しまない。
誕生経緯や互いの境遇等等から、レインに対しては強い感謝と信頼の念を抱き、
彼女の方でも、冥狼を誇るべき先人として深く信頼しており、基本的に良好な関係を築いている。
しかし同時にケルベロスは、自身の能力が示す極まった闇の醜悪さと、本質的に闇に染まりきれないであろうレインの優しさとの間の
歪みを憂い、また極晃星の眷属として辿りつく終焉を見通した上で、
逆襲の星を捨て、彼女自身の星を掴んで欲しいという旨の忠告を繰り返している。
一方、そのレインが身命を賭して救おうとするアッシュに対しては、共通√序盤における初遭遇時に、
彼に対する疑問を抱きながらも
創星の
生贄となる末路を予言している。ただ、
結局はレインの心情を慮り、天奏者に対する殺意を抑えて、精々惨めに這い蹲っているのがお似合いとして、辛辣ではあるが彼を基本放置する態度をとった。
大事な娘の彼氏が、英雄志望(仮)であることに不満全開だが、優しい娘のために本音をぐっと我慢する父親の図
しかしその後、レインの感情の暴走と呼応した結果
天駆翔と共に、第三者を巻き込む形で英雄譚と逆襲劇の再現に至ってしまう。
あわや蝋翼ごと滅殺に至る間際に、
安らかな贖罪を祈るレインの介入により正気に返ったケルベロスは、気を失った彼女を優しく労わろうとするアッシュの姿に追撃の手を止めるのだった。
そして、彼に対し、
レインを大切に思うならば“英雄”という独りぼっちになどなるなと告げ、姿を潜めたのであった……