幻と言う名の幸せ

それは幻。それでも彼が望んだ現実。
彼は既に現実ではない。
それでも彼に幻を見続けさせたい……
1人の女性はそう思った。

それが正しいことだとは限らない。
それでも彼がそれで幸せになれるのなら……
たった一時でも、幸せを感じられるのなら……
きっとそれは無駄なことではないのだろうと彼女は思った。

しかしそれには多くの対価が必要だった。
当然それに反発するものもいた。
それどころか、反発するものの方が圧倒的に多かった。
それでも彼女は幻を見せることを選んだ。

なぜなら彼を愛していたから。
ただそれだけ。たったそれだけのことだった。
愛するが故に生んだ気持ち。
彼に幸せになってほしい、と。

それは人々からすれば大きな過ちであっただろう。
しかし彼女にとってそれは、けして過ちなどではなかったのだ。
ただ一つの願い。
ただ一つの希望。
ただ一つの幸福。
彼女は最期の時まで、彼を思い続けたのだった。



ただ誰かを純粋に「愛おしい」と思う気持ち。
一途な愛はそれ故他を拒絶するものだ。
例え人の道を外れようとも価値のあるもの、彼女にとっての幸福がそこにはあった。
最終更新:2011年09月27日 22:36