登録日:2013/09/13(金) 14:21:04
更新日:2024/11/15 Fri 23:45:22
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G、
黒いアイツ、
テラフォーマー……いや、虫の苦手な人たちには申し訳ないが直接書こう、
ゴキブリと言う文字を見ただけで恐怖の鳥肌が立ってしまう人は結構いるかもしれない。
滑らかな体に細長い触角、腹が立つほどの機能美を備えた体で悠々と家中を歩き回り、病原菌をあちこちにまき散らすわ
アレルギーの元になるわ、食べ物を勝手に漁るわやりたい放題。
しかも最近は人間の開発した様々な殺虫剤も効かなくなっており、まさに人類最大の敵、と言った様相を見せている……
……のだが、実はそんな彼らの仲間に、全く逆の顔を見せている者たちがいる。
海外、そして日本でゴキブリがペットとして愛されていると聞いて、信じる人はどれくらいいるだろうか。
その代表格が、「ヨロイモグラゴキブリ(Macropanesthia rhinoceros)」と言う種類である。
◆概要
「
ゴキブリ」と言うグループに属する昆虫は、大きく分けて二つのグループに分けられる事が出来る。
皆の嫌われ者こと
クロゴキブリや
ワモンゴキブリなどが所属し、家を食い尽す害虫シロアリに近いと言われる「
ゴキブリ亜科」、オフィス街の厄介者である
チャバネゴキブリなどが所属する「
オオゴキブリ亜科」である。
ただ、双方とも人間の生活に入り込んで迷惑をかけ放題である種類は
全体の1%しか存在せず、ほとんどの種類は森の中でつつましく生息し、森林の生態系の縁の下を担う重要な存在となっている。
中には森林で静かに生息しているのに、人間に迷惑をかけると誤解されてしまった種類もいるとか。
さて、今回紹介するヨロイモグラゴキブリは、分類上は後者の「
オオゴキブリ亜科」に属する種類である。
このメンツでは
チャバネゴキブリや
キョウトゴキブリが家にお邪魔して悪さをするが、彼らの姿形はそんな奴らとは全く違う…
…というか、もし何も言わなければ彼らがGの一種であるとは中々気付かないだろう。
羽のない体は
赤茶色の固い外皮で覆われ、ずんぐりとした体をより強調させている。
触角も非常に短く、まるで
カブトムシやクワガタ、
ダンゴムシ、もしくは絶滅した三葉虫を思い浮かばせるような姿である。
中には
ナウシカの
王蟲っぽいと言う人もいるかもしれない。
強いて言うなら、頭の形がGの仲間である事を申し訳なさげに示しているくらいである。
また、その体を支える太い脚には鋭い棘がいっぱい生えており、無闇に触ると結構痛い。
後述するが、彼らはこの体の特徴を生かし、外敵から身を守っていると言う。
足先から体の表面まで、文字通り全身を「鎧」で覆うこの種類、大きさもかなりのもので、大きくなると最大8cmにもなる。
家の中をうろつきまわる連中の数倍という巨体である。だが、その分体重も結構あり、ゴキブリの中では最重量級の35g。
そのため動くときはいつもノロノロ、壁を登るなどもっての外である。勿論飛べるわけがない。
そして、彼らの名前の由来となった「モグラ」と同じように、ヨロイモグラゴキブリは普段は穴を掘り、その中に生息している。
前脚の形は土を掻き分けるのに適した
シャベルのような形となっており、地面をどんどん掘り進み、体全体で土を押しのけ、大きな巣を作るのである。
ちなみに巣の長さは結構長く、野生では最大で2mから3mにも達するとか。
同じゴキブリでも、このヨロイモグラゴキブリがGの連中とは一味違う、と言う事がだいたい分かったかもしれない。
そして、彼らにはもう一つ面白い特徴がある。
昆虫にもかかわらず、彼らは「家族」で暮らしているのだ。
◆生活
元々ゴキブリの仲間は、単に卵を産みっぱなしにするだけでは無く、様々な手法で卵や子供を守ると言うパターンが多い。
家の中に現れる連中を始めとする大半の種類は、財布のような形をした『卵鞘(らんしょう)』と呼ばれる頑丈なカプセルでたくさんの卵を保護し、安全に幼虫が生まれるような工夫をしている。
そこから進んで、チャバネゴキブリではこの卵鞘を放置するのでは無く母親がそのまま持ち運んでしっかり守るという手法を編み出している。
よく「ゴキブリは1匹見たら数十匹はいる」と言われるが、こういった保護システムもそういう言葉が生まれる原因になったのかもしれない。
そして、そこからさらに発展を遂げ、親からの愛情で子供たちを守り通す『家族』という手段を得た種類の一つが、このヨロイモグラゴキブリ、という訳である。
ヨロイモグラゴキブリの原産地は、オーストラリアの北東部にあるクイーンズランド州。
アフリカを思わせるサバンナやまばらな森林が広がっており、大量の雨が降る雨季と全く雨の降らない乾季と言う極端な季節の変化の中で暮らしている。
特に乾燥が激しくなる乾季では、草は枯れてしまい、山火事もよく起きてしまうと言う大変な場所である。
そこで、彼らは餌である落ち葉や腐葉土がたっぷりある雨季を狙って一気に食べ物を集め、餌が少なく乾燥しきった乾季には前述した巣に入り、貯め込んだご飯を食べながら外に出ない生活をしていると言う。
こんな大変な日々、生まれたばかりの子供たちには到底耐えきれないかもしれない、と言うのが、家族と言う生活スタイルを選んだ一つの理由であると考えられている。
ちなみに、オーストラリアでお馴染みのユーカリの葉には毒があるが、コアラと同様全然大丈夫な模様。
ヨロイモグラゴキブリの赤ちゃんは、母親の体の中で卵から孵化し、そのまま外に出てくる「胎生」と言う手段をとる。
形は違うが、だいたい人間と一緒のようなものである。
生まれる子供はだいたい20匹前後で、人間からしたら結構大家族に見えるかもしれないが、一年で数百匹にも増えるG達と比べるとかなり少ない。
子供たちは大人と比べて体も白くて柔らかく、穴の外に出たら真っ先に食べられてしまう。
そこで、子供たちは落ち葉などのご飯を両親から分け与えてもらい、少しずつ大きくなっていくのである。
一人前の姿になるまでの半年間、子供たちは大人の愛情を受けて育って行くのだが、そんな彼らを狙う捕食者はやはり数多い。
特に、穴の中でも堂々と入り込んでしまうムカデや巨大なタランチュラは子供たちが大好物、非常に厄介な存在である。
だが、そんな彼らの前に立ちはだかるのがヨロイモグラゴキブリの両親。
冒頭にも述べた固い外皮や鋭い棘で包まれた彼らの鎧はまさに鉄壁そのものとなり、頑丈なムカデやタランチュラの牙を受け付けず、彼らを撤退させてしまうのである。
そして無事に大きく育った子供たちは自らの鎧と共に住み慣れた穴を去り、やがて自分の巣、自分の家族を築き上げる事になる。
寿命は飼育下でおよそ7年と結構長生きである。
◆飼育
マニア向けということもあり国内ではペットショップというより基本的にオークションでの入手となる。
上記のように高価な上、長生きする昆虫なので飼育しようか悩んでいる人は長期飼育ができるかどうかを念頭に置こう。
いざ飼育してみると想像より手がかからないペットだと感じるかもしれない。
まず大人しく、飛べない性質なのもあり夜間のカブトムシのように暴れる事はない。強いて言うなら穴を掘る生態故に土を掘る音が聞こえるくらいである。
また餌も野生個体も食べるユーカリはもちろん、筆者の個体では昆虫ゼリー、バナナ、ブドウ、ニンジン等、果物や野菜を幅広く食べてくれる。ただしヨロイモグラに限った話では無いがペットの餌に市販の果物や野菜を使う場合、農薬の有無には細心の注意をしよう。
室温に関してはあまりに高すぎると弱ってしまう上、餌に果物等を使っている場合は腐りやすくなるため基本は20度前半までが好ましい。寒すぎても危険なため冬季と夏季は注意して飼育しよう。
これは直接ヨロイモグラと関係がある訳では無いが飼育する上で腐葉土等を使う場合、クロバネキノコバエという昆虫の卵が混入している事がある(外から入る事もある)
彼らは土壌で生活する昆虫なのだが繁殖ペースが速く、餌である有機物の宝庫であるケース内では凄まじい速度で繁殖し、瞬く間に埋め尽くしてしまう。
場合によってケースから出てしまい多数の個体が部屋を飛び回る地獄絵図になる可能性もあるだろう。
ヨロイモグラ側にとっても特に良い影響があるようには思えないため飼育ケース内で見つけ次第、ケース内を隈無く洗い、新しい土に取り替えることを推奨する。封を開けている土材の場合、それにも卵を産み付けている場合があるため使う場合は注意しよう。
◆余談
- 時々ネットで「日比谷公園で巨大ゴキブリが繁殖!」という記事が流れる事があり、その中でこのヨロイモグラゴキブリが繁殖していると言う内容が書かれているが、ぶっちゃけこれは数年前から度々現れるデマである。……と言うか、1万~数万円もするような貴重なゴキブリ、外に逃がすなんて言うもったいなさすぎな事をする人はまずいないだろう。
- ゴキブリの中で最重量級を誇るのはこのヨロイモグラゴキブリだが、全長で世界一なのは同じくオオゴキブリ亜目に属する「ナンベイオオチャバネゴキブリ(Megaloblatta Longipennis)」で、なんと最大11cm。こちらも森の中で大人しく暮らす種類であるが、外見はあまり検索しない方が良いかもしれない。ちなみに絶滅種も含めると……詳細はこちらを参照。
- 動物園経営ゲーム『ZOO PLANET』では実際に飼うことが可能。
ライオンやキリンのように野外で展示する事は出来ないが、専用のケースの中で飼育出来、生まれた子どもを高値で売れば結構な収入になる。
「ゴキブリ」の仲間というだけで、画像に『
閲覧注意』と書かれるわ『
検索してはいけない言葉』だと言われるわ、散々なイメージで受け取られてしまいがちなヨロイモグラゴキブリ。
しかし彼らは決して悪さをする事無く、自分自身の体を武器に、家族の絆を大事にしながら今日ものんびり生きていく。
そして、そんな彼らの暮らしに惹かれる人々も、確実に多数存在するのである。
こういう仲間もいると言う事を知って頂ければ、非常に嬉しい。
追記・修正は穴の中で
ムカデやタランチュラと戦いながらお願いします。
- デカい、遅い、飛ばない。許せる -- 名無しさん (2013-09-13 14:28:05)
- こいつは可愛いw高いけどな -- 名無しさん (2013-09-13 15:28:51)
- 墜ちませんよ…私の鎧土竜は!! -- 名無しさん (2013-09-13 15:56:11)
- ミサイルカーニバルです -- 名無しさん (2013-09-13 17:34:21)
- まだまだ・・・まだまだで・・・ -- 名無しさん (2013-09-13 18:20:58)
- 案の定リンクスが湧いてて安心したよ -- 名無しさん (2013-09-13 18:49:00)
- PQが死んだ後、あいつのペット達は・・・ -- 名無しさん (2013-09-14 05:16:04)
- まぁ昆虫が苦手な人からすれば閲覧注意なルックスよな。 -- 名無しさん (2014-07-14 07:23:56)
- ???「Gは皆殺しじゃ!」 -- 名無しさん (2014-09-26 13:45:11)
- さしものアシダカ軍曹も、こいつの甲殻には歯が立たないか? -- 名無しさん (2014-10-20 07:54:33)
- なんかゲルショッカーの改造人間みたいな名前だなw -- 名無しさん (2014-10-20 08:59:22)
- ゾイドのグスタフっぽくも見える。 -- 名無しさん (2016-01-16 17:56:51)
- 検索してはいけないと言うが何の先入観も無しに検索してもゴキブリと認識できないんじゃないだろうか -- 名無しさん (2016-09-17 06:18:21)
- 可愛く…ない -- 名無しさん (2017-08-05 23:20:17)
- グロとは一歩遠い姿をしている。枯れ葉と腐葉土のクッションの中をモソモソしている姿は愛嬌がありどこか親しみを感じる -- 名無しさん (2017-08-06 08:52:45)
- 生活史が一部間違っている。書き直してもいいかな? -- 名無しさん (2018-05-22 15:41:44)
- 王蟲だ… -- 名無しさん (2018-08-16 01:23:01)
- 動画を見たけど、物静かでのそのそ這っててめちゃくちゃ可愛かった。あのおぞましいGと同類とはとても思えん -- 名無しさん (2019-08-11 12:26:56)
- ゴキブリっていうかデカいダンゴムシみたいなんだよね。それでも虫嫌いの人にはキツいけど -- 名無しさん (2020-10-09 18:18:55)
- 独特の長い触角と赤茶けた体色はやっぱりゴキブリ感あるな。ダンゴムシは平気だがこいつはダメっぽそう。 -- 名無しさん (2021-01-10 13:07:20)
- このヨロイモグラを調査・捕獲に行った生物ライターさん曰く「図体の割に意外と素早い。」らしい -- 名無しさん (2024-05-27 19:35:55)
- ごめん俺は無理だった -- 名無しさん (2024-05-27 19:52:06)
最終更新:2024年11月15日 23:45