キャプテン(漫画)

登録日:2012/04/07(土) 06:26:47
更新日:2025/02/20 Thu 10:12:30
所要時間:約 7 分で読めます




『キャプテン』とは、ちばあきおの漫画作品。
決しては付いてないし、ハーロック艦長のことではないし、「おれは」と名乗っているわけではない。


【概要】

墨谷二中野球部を舞台に、キャプテンがチームメイトと共に成長していく様を描く野球漫画。
1972年2月号から、『月刊少年ジャンプ』にて連載された。
また1973年には、『週刊少年ジャンプ』にて本作の登場人物が高校野球へ舞台を移した『プレイボール』が連載された。

2017年には「部活系青色ノベルズ」シリーズの一冊として、山田明により本作を元に舞台を現代に移した小説が刊行された。
2019年から、コージィ城倉作で「グランドジャンプむちゃ」で本編のその後を描く「キャプテン2」の連載が開始された。

【特徴】

本作の特徴は何と言っても、「努力の漫画」ということであろう。

今でこそリアル志向の野球漫画は多いが、当時は『巨人の星』によって“スポ根漫画”なるジャンルが開拓され、更に『侍ジャイアンツ』、『ドカベン』などが連載開始と、超人的キャラクターや、魔球・特殊打法が登場する野球漫画の全盛期であった(もちろんこれらが名作であることに変わりはない)。

そんな中登場したのが『キャプテン』である。
本作では上記の要素を一切取り込まず(イガラシ、近藤、佐野など天才肌と言われる選手はいる)、何処にでもいそうな等身大のキャラクターが切磋琢磨していく様子を描くことに徹している。
ジャンプ三原則「友情・努力・勝利」があるが、特に「努力」が大きなウエイトを占めており、『キャプテン』を語る際の必須ワードとも言える。
そのため練習シーンの量が圧倒的に多く、それ以外は試合シーン、といってもほぼ差し支えない。
もちろん部活動時以外のシーンもあるが、あくまで内容は野球に関するもの。
そう、この漫画は殆どのキャラクターが全編に渡り、野球の事ばかり考えている漫画なのだ。

またこの漫画、ヒロイン恋愛要素が皆無である。
モブキャラ(観客や応援団)に女性キャラがいるくらいで、全体を通して女っ気は殆ど感じられない。
本筋に関わった女性キャラをあえて挙げるのなら、

  • 谷口の母ちゃん
  • 谷口にインタビューした新聞部部員(たぶん可愛い部類)
  • 松尾の母ちゃん
といった所だろうか。

この恋愛要素を一切排した男臭さが、

「美人マネージャーなんて居やしねぇーっ!!」

と、某浅倉南西浦高校野球部を見て叫ぶ現実の野球少年や、リア充主人公に引け目を感じる読者の共感を呼ぶとか呼ばないとか。

こんな書き方をしているが、実際に読んだ方はお分かりの通り、非常に面白い作品である。
何といっても、キャラクターの丁寧な描写が最大の魅力。
氏のシンプルながら味のある絶妙な絵柄により、一見地味だが個性豊かなキャラ造形がなされている。
そんな彼らが地道に、直向きに努力を重ねていく姿に感情移入せずにはいられないであろう。
また試合描写も、緊迫感ある駆け引きや、手に汗握る展開で読者を惹き付ける。
試合が終盤に近づくにつれ、墨谷ナインが泥だらけになりながら(何故か帽子にまで付いている)死力を尽くす様は圧巻。

こうして名作の仲間入りとなった『キャプテン』は1977年、『少年ジャンプ』系作品としては史上初めて、第22回(昭和51年度)小学館漫画賞を受賞するという快挙を成し遂げた。

著名人にもファンは多い。
イチローはインタビューで作中の名ゼリフを挙げたり、「自分はイガラシタイプ」と公言するほど。
芸能人ではSMAPの中居正広が有名。
番組の企画で母校を訪れた際、アニメ主題歌『君は何かが出来る』を熱唱し、生徒を総ポカーンさせた。
他には亀田兄弟や、我らが品川さん。アクの強い人ばかりとか言ってはならない。
おかげで『キャプテン』ファンは、彼らを嫌いになれなかったりする。

品川さんに至っては、

「努力というバットが無ければ、ボールは振れない」

という名言を残している。流石、品川さん。


【主な登場人物】

ここでは歴代キャプテンを挙げる。
本作は最初の主人公・谷口タカオ卒業後も、後任のキャプテンに主人公ポジションを移すシステムを取っており、近藤編まで続くことになった。

  • 谷口タカオ
記念すべき初代主人公。ポジションはサード。後にピッチャーも務める。

中学2年生の時、墨谷二中へ転校。野球部へ入部する。前に在学していたのが中学野球の強豪・青葉学院ということで、周囲から絶大な期待を寄せられるが、実は2軍の補欠。気弱な性格ゆえ打ち明けられず追い詰められるが、大工を営む父の叱咤で密かに特訓することを決意。技術はお世辞にも上がったとは言えないが、その姿勢を先代キャプテンに買われ、次期キャプテンに任命された。

最初は優しくも頼りなげだったが、その裏では人知れず特訓を重ね、最終的には堂々たる実力と自信、威厳を身につけた。イガラシの助言や相手チームの手法を取り入れたこともあって野球に関する戦略や偵察なども進んで行う
その姿勢は自然と人を惹き付け、語らずとも皆を引っ張る、正に
あまりに威厳が付きすぎて、同級生を「チンピラ」呼ばわりしたことも。

最終戦で無理が祟って指を負傷したことから野球ができなくなるが勝利のために青春の全てを捧げる姿勢はチームの団結を促した。

ちなみに、「そんなことより野球しようぜ!」のAAは彼を元にしたもの。だが、彼が実際にそんな台詞を言うシーンはない。
続編の『プレイボール』では終始主役。墨谷高校に進学後、指を酷く傷つけた事で野球ができなくなっており最初はサッカー部に入部するが野球への熱意を捨てきれずに周囲のサポートもあって復活。弱小で勝利意識の低かった野球部の意識改革に乗り出し、名門校と渡り合えるまでに底上げした。中学時代はあくまでヘルプだったピッチャーとしての実力が成長し、指が動かない事を利用したフォークボールを編み出したり治療後は速球も強くなった。
『プレイボーイ2』『キャプテン2』では3年時の活躍が描かれ、惜しくも甲子園出場は果たせなかった。その後、成績が低下した事も踏まえ父親の後を継ぐため進学せず大工修行をしようとするが教師陣の説得により予備校に通いながら墨谷野球部の監督に就任した。

性格としては前述のように優しく、口調も穏やかで基本的に人を怒鳴るような事はない。
練習中もミスをしたり、ランニングに遅れた部員が追い付くまで待とうとしたりと協調性も大事にしている。

しかし、これが一たび目標を見つけるとそこに向かって手段を問わず突っ走る。
その最たるものが通常の三分の一距離からのノックとバッティング。特にノックは強烈で喰らった部員は無言で前のめりにぶっ倒れる程。
部員内からも不満が出るのだが、当の谷口本人がそれよりも過酷な特訓を裏で繰り返していたことを知ったナインはただ引き下がるよりなく、その状況を表す代表的なセリフが

~これなんだなぁ、キャプテンがみんなをひっぱる力は~

である。

余談だが、アニメ化の際に監督を務めたのが四分一節子氏。四分の一距離ノックなんて考えたくもない(恐)

  • 丸井
2代目の主人公。ポジションはセカンド。三角頭に黒い団子鼻が特徴。歴代で唯一ピッチャー未経験。

非常に短気で、怒りに身を任せて行動してしまうことが多い。彼の代はそれが原因でトラブルが頻発した。その時はイガラシがそのフォローに入ることがほとんどであった。
尤も自分の欠点をしっかり受け止められたり、すぐに立ち直って改善策を立てる等、心の芯は強い方である。
上下関係に厳しく、礼儀がなっていなかったり、だらしない後輩(要は近藤)には容赦無い。一方で皆を気遣ったり先輩を必死で立てるなど、気苦労が多い人物。

天才でなくともチームのために人知れず努力を続ける谷口には並々ならぬ尊敬を抱いており、彼のする事に文句をつける者には怒りを覚えるほど。
また愛校心にも溢れており、自身が卒業した後も、イガラシ、近藤の代をサポート。谷口編から全編を通じて登場したキャラとなった。
原作では青葉学院を延長戦の末に破り地区大会制覇を果たしたが、ナインの疲労が大きかったため出場辞退を余儀なくされたが、小説版では初戦敗退ながらも全国出場を果たした。

  • イガラシ
3代目主人公。なぜか片仮名で表記される。ポジションは全てこなせるが、本作で務めたのはセカンド、サード、ピッチャー。

正に文武両道、二刀流。何が凄いかって、
  • 上記の通り、全ポジションに適応
  • 抜群の守備センス
  • 小柄ながらも一発のある長距離ヒッター
  • 速球と切れ味鋭い変化球を駆使した頭脳的ピッチング*1
  • 底知れぬスタミナ(一応体の小ささから作中ではスタミナ不足…と言われてはいるが根性でどうにかしてしまう)
  • テストの成績は常に学年10位以内
  • サルかラッキョウみたいな顔
etc...

「3代目」と便宜上書いたものの、谷口・丸井編でもその存在感は際立っており、彼らの最後の試合は全てイガラシが勝負を決めている程の優遇ぶり(当然、自身最後の試合も)。
そして作中でのウェイトの大半が「イガラシキャプテン時代」が占めている。

極めてクールな性格で、谷口以上に勝利の為ならどんな犠牲をもいとわない。
入部当当初は正論ながらも無遠慮な発言をすることが多くそれが元で周囲から反感を買うこともしばしばあったが、谷口や丸井の真摯な努力を目の当たりにし精神的に成長。
その冷徹さをもって丸井の代では名参謀役に。キャプテンになってからは、墨谷を歴代屈指の強豪チームに育て上げた*2


実家は中華ソバ屋。そっくりで、同じく野球センス抜群の1個下の弟『慎二』がいる。
そのことから名前は『慎一』ではないかと予想する読者が多い。


  • 近藤茂一
4代目主人公。ポジションはピッチャー、ライト。

関西出身。大きな体躯と中学生離れした豪速球が武器。
才能はあるのだが、恐れ知らずで奔放な性格も災いし、努力を疎かにしていた。特に守備は苦手を通り越して嫌い(「面白くない」、「格好悪い」とも)。またルールもあまり把握してないらしく、1年生の頃はボークやスクイズを知らず、2年生になっても「ファールフライからでもタッチアップ可能」ということを知らなかった。
ただ、それまでまともにバットに当てられた事もない描写もある事から細かいルールを覚える必要に迫られなかった、とも言える。

更に変化球を覚えるのはキャプテンになってからである。
その分センスは絶大で、彼をどう使うかが丸井、イガラシの試練でもあった。

イガラシから「他に誰かいる?」という理由でキャプテンに任命される(あくまでキャプテンの重圧に耐えうる人間という意味で)。
未熟な面は残るものの、セミプロで活躍した父から「自分が引退した後、どのようなチームを残すか」を考えるよう助言を受け、それまでの過酷な特訓、少数精鋭のチーム編成を見直し、新しい体制づくりに力を入れている。ただし、同級生の牧野やOBの丸井(丸井の場合は谷口の築いたスタンスを崩された事に憤りもあって)から当初は批判を受けていた。
尚、物語は春の選抜で敗退後次の大会に向けて練習する所で終わっている。

『2』では家庭教師になった大学生の相木(『プレイボール 』で谷口が一時期サッカー部に所属していた時のキャプテン)の助言を受けて練習内容も改革し、学習面でも野球部全体の成績向上にも貢献。夏の大会では全国ベスト8に終わるも、慎二や佐々木をはじめとした後輩たちに道を示した。

その後は墨谷高校に進学し、初代主人公である谷口と初対面、かつてのライバルだった井口や松川の指導を受けながら成長を遂げつつある。

正直、井口はまだしも近藤にそれなりの進学校と思われる墨谷に進める学力がある、付くかって言われると・・。


  • 先代キャプテン
谷口が入部した当時のキャプテン。つまり本作で最初のキャプテン。本名、ポジション、一切不明。中々の男前。

周囲が谷口を持て囃す中、唯一、彼の真の実力を察知。だが同時に神社での特訓のことも知っており(アニメでは実際に目撃するシーンが追加された)、谷口のそんな姿勢を受け止めた上で敢えて厳しく接した。
そして卒業の際、彼は谷口の「周囲の期待に応えようとする姿」を評価し、キャプテンに任命するのであった。

このように、人間的には中学生とは思えないほど成熟しており、間違いなく理想のキャプテン。第一話のみの登場で、しかも名無しにもかかわらず印象的なキャラクターであった。

どうして彼の時代、弱小チームから抜け出せなかったのか・・・・。

【主な対戦校】
  • 江田川中
谷口時代の最初の対戦相手で、この年代では1年の4番打者井口頼りの弱小チームであり、
その井口自体も「立ち上がりが悪く、投球コントロールが安定するまで時間がかかる」、「左打者には滅法弱い」等問題が多く、チーム自体の守備もボロボロだった。
その後イガラシ時代では井口の成長とチームの攻撃力の上昇によって青葉を打ち破って地区予選決勝で墨谷二中と対戦した…が守備はお粗末なままであった。

  • 青葉学院
「キャプテン」における野球の名門であり全国各地から部員が集まってくる。
設備もプロ野球レベルの物が揃っており、球場まで用意されている。
イガラシが人物のチートならチームとしてのチートはこちらであり
  • 谷口時代まで二軍だけで地区予選全試合3回まででコールド勝ち&全国大会4連覇達成
  • 墨谷二中との再試合時にはOBがコーチとして駆けつけるが甲子園で鳴らした選手やプロ野球一位指名者が普通にいる。プロアマ協定とか固い事は言いっこなし
  • 選手層もかなり厚く、丸井時代では選手交代を頻発してもチームに衰えが無かった。


…二軍の補欠とはいえ、谷口の入る余地がどこにある?とのツッコミはなしで。
しかしイガラシキャプテン時代は春の選抜決勝で和合中に敗れてから陰りが見え始め、地区決勝の相手を江田川中に奪われる形で出番が終了した。

青葉の部長は初試合時は「どんな手を使っても勝てばいい」「全国大会の為にも強いチームが残るべきなんだ」と、勝利至上主義に囚われすぎた人物として描かれており*3、地区予選での違反(後述)が原因で墨谷二中と決勝戦を再試合した時にも勝ちに拘りすぎて、ファールで粘ってイガラシを疲労させる策をとらせたが、味方であるはずの青葉の応援団からも「逃げるが勝ちか」などと一斉にヤジを飛ばされる羽目になっていた(勿論ルールに則った戦法であるが…)。
しかし青葉学園を上記の様な戦績に導いた実力は本物かつちゃんと選手を気遣う事の出来る立派な人物でもあり、初登場時にも青葉に在学していた谷口の事を忘れていた時に謝罪した上で(飛び入りで訪れたにもかかわらず)墨谷二中のこれまでの頑張りを称えた上で練習見学を許可したり、最後の最後には選手達の好きなようにさせたり*4、丸井との試合ではピンチの時には青葉ナインを叱咤激励するなど責任ある大人としての側面も併せ持っていた。


【補足】

今作は連載時期が1970年代という事もあって現代とはルールが異なっている点があるので注意。
  • 谷口時代に青葉は二軍から一軍に選手を総替えした事で14人以上を試合に出した事で全国中学野球連盟から詰め寄られる事となり、再試合を行った。
    • キャプテン作中では(当時の)高校野球に沿った条件で行われているという設定であり、出せる選手は14人までと決められていた。ちなみに現代の出場可能選手数は中学、高校野球共に18~20人である。
  • 9イニングまで戦い、延長戦も18回まで行われていた。
    • 現在では選手の健康面が考慮されるのか中学野球では「原則7回まで」しか試合は行われない。

追記・修正は、夜の神社で人知れずお願いします

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最終更新:2025年02月20日 10:12

*1 作中の初登板時はブランク有&名門青葉の一軍相手であったにもかかわらず無失点で抑えた。

*2 ただし厳しすぎる練習が部員に大怪我を負わせる事になり、そのせいで春の選抜を辞退&野球部の練習時間の制限という事態に発展してしまう等、手放しで褒められる内容とは言えない。

*3 アニメ版では墨谷二中の先発ピッチャーに対して打球を肩にぶつけて潰すのを選手に強要したり試合後に「あれが青葉の戦い方か!!!」等と叱責するなど悪辣な面が強調されていた。

*4 それで負けた時も選手たちをフォローするなど気遣いを欠かせなかった。