ノックスの十戒とヴァン・ダインの二十則

登録日:2009/06/04(木) 22:11:10
更新日:2020/10/11 Sun 00:25:42
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ノックスの十戒とヴァン・ダインの二十則とは、1928年にロナルド・ノックスとヴァン・ダインの二人の作家がそれぞれ発表した「推理小説を書く上での基本的な指針」

内容としては似通っており、
「推理小説は読者が探偵役とともに論理的にかつ矛盾無く、本文中のヒントのみで推理を楽しめなければならない」という考え方が根幹にあるのがうかがえる。



しかし原則ではなく、あくまでも指針であり、様々な新しい手法が生まれている現代では適合しない項目も存在する。

これらの中では「探偵役」「ワトソン役」と登場人物に明確な役割を置いた、
『シャーロック・ホームズ』に代表される基本的な型の推理小説であることが半ば前提になっているが、
いわゆる「探偵役」を置かない推理小説も、もうかなり前からそんなに珍しいものではない。

特に、一人称の視点で一部の事実を伏せておく叙述トリックに代表される、これらを意図的に破ったり逆手に取った仕掛けで評価された作品も有る。
というより、もう叙述トリックを使うぐらいは当たり前で、「どんなぶっ飛んだ叙述トリックを使うか」に頭を捻っている作家もたくさんいる。

そもそもノックスについては、これに当てはまらない小説を本人がたくさん書いているし、「なんであんなの作ったんだろう」といった意味合いの発言まで飛び出している。
ヴァン・ダインについても当時アガサ・クリスティーが使って波紋を呼んだ叙述トリックを大いに批判したことで有名であったりして、
推理作家のために客観的に書いた教えというよりは、あくまでただの個人的な意見である。

アニヲタ的にいうのなら「俺の考えた王道ミステリの条件十選!」とか「こんなミステリは嫌だ!二十選!」みたいなものと言えばいいだろうか。

そんな訳で、これらを厳格なルールとして用いる必要は無いとされている。
とはいえ、多くの作品に影響を残したこれらのルールは推理小説を書くのならば、論理的な矛盾や飛躍、ご都合主義や超展開を防ぐためにも、
とりあえず一度は目を通しておいたほうがいいだろう。 



【ノックスの十戒(じっかい)】

1. 犯人は物語の始めのほうで登場している人物でなければならない。

2. 探偵方法に超能力を用いてはいけない。

3. 犯行現場に秘密の抜け穴や通路を二つ以上使ってはいけない。

4.未発見の毒薬や、難しい科学上の説明を要する機械を犯行に使ってはならない。

5.中国人を登場させてはいけない。
(※当時中国人は神秘的で得体の知れない人種というイメージが強く、「怪しげな術で超常現象を起こせるのではないか」とすら思われていた。
つまり言い換えれば「神秘的なもの、得体の知れないもの、読者が「超常現象を起こせそうだ」と思えるようなものを出してはいけない」。
犯人にも探偵にも「コレ東洋の神秘アルね」としか説明できない方法を使わせるな、と言えば今でも比較的わかりやすいだろうか。
実際にフー・マンチューを筆頭に「中国人の黒幕」が一時期流行ったらしく、そのあたりを皮肉った側面もあるのかもしれない。
あと「中国人以外の神秘的なもの、得体の知れないものはいいのか」とか言ってはいけない。それは2.に違反する)

6. 探偵は偶然や第六感で事件を解決してはいけない。

7.探偵自身が犯人であってはいけない。但し犯人が探偵に変装して、作中の登場人物を騙す場合を除く。
(※犯人が他の人間に濡れ衣を着せるために自らの推理を披露すること)

8. 探偵は読者に提示していない手がかりで解決してはいけない。

9. 探偵のワトスン役(物語の記述者)は自分の判断を全て読者に知らせなければならない。

10. 双生児や一人二役の変装は、あらかじめ読者に知らせておかねばならない。




【ヴァン・ダインの二十則】

1.事件の謎を解く手がかりは、全て明白に記述されていなくてはならない。

2.作中の人物が仕掛けるトリック以外に、作者が読者をペテンにかけるような記述をしてはいけない。

3. 不必要なラブロマンスを付け加えて知的な物語の展開を混乱させてはいけない。
ミステリーの課題は、あくまで犯人を正義の庭に引き出す事であり、恋に悩む男女を結婚の祭壇に導くことではない。

4.探偵自身、あるいは捜査員の一人が突然犯人に急変してはいけない。
これは恥知らずのペテンである。

5.論理的な推理によって犯人を決定しなければならない。
偶然や暗合、動機のない自供によって事件を解決してはいけない。

6.探偵小説には、必ず探偵役が登場して、その人物の捜査と一貫した推理によって事件を解決しなければならない。

7.長編小説には死体が絶対に必要である。
殺人より軽い犯罪では読者の興味を持続できない。

8. 占いや心霊術、読心術などで犯罪の真相を告げてはならない。

9. 探偵役は一人が望ましい。ひとつの事件に複数の探偵が協力し合って解決するのは推理の脈絡を分断するばかりでなく、読者に対して公平を欠く。
それはまるで読者をリレーチームと競争させるようなものである。

10. 犯人は物語の中で重要な役を演ずる人物でなくてはならない。
最後の章でひょっこり登場した人物に罪を着せるのはその作者の無能を告白するようなものである。

11. 端役の使用人等を犯人にするのは安易な解決策である。
その程度の人物が犯す犯罪ならわざわざ本に書くほどの事はない。

12. いくつ殺人事件があっても、真の犯人は一人でなければならない。
但し端役の共犯者がいてもよい。

13. 冒険小説やスパイ小説なら構わないが、探偵小説では秘密結社やマフィアなどの組織に属する人物を犯人にしてはいけない。
彼らは非合法な組織の保護を受けられるのでアンフェアである。

14. 殺人の方法と、それを探偵する手段は合理的で、しかも科学的であること。空想科学的であってはいけない。
例えば毒殺の場合なら、未知の毒物を使ってはいけない。

15. 事件の真相を説く手がかりは、最後の章で探偵が犯人を指摘する前に、
作者がスポーツマンシップと誠実さをもって、全て読者に提示しておかなければならない。

16. 余計な情景描写や、わき道にそれた文学的な饒舌は省くべきである。

17.プロの犯罪者を犯人にするのは避けること。
それらは警察が日ごろ取り扱う仕事である。
真に魅力ある犯罪はアマチュアによって行われる。

18. 事件の結末を事故死や自殺で片付けてはいけない。こんな竜頭蛇尾は読者をペテンにかけるものだ。

19. 犯罪の動機は個人的なものがよい。国際的な陰謀や政治的な動機はスパイ小説に属する。

20. 自尊心(プライド)のある作家なら、次のような手法は避けるべきである。
これらは既に使い古された陳腐なものである。

A.犯行現場に残されたタバコの吸殻と、容疑者が吸っているタバコを比べて犯人を決める方法。

B.インチキな降霊術で犯人を脅して自供させる。

C.指紋の偽造トリック。

D.替え玉によるアリバイ工作。

E.番犬が吠えなかったので犯人はその犬に馴染みのあるものだったとわかる。

F.双子の替え玉トリック。

G.皮下注射や即死する毒薬の使用。

H.警官が踏み込んだ後での密室殺人。

I.言葉の連想テストで犯人を指摘すること。

J.土壇場で探偵があっさり暗号を解読して、事件の謎を解く方法。



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最終更新:2020年10月11日 00:25