弁才天

登録日:2016/11/08 Tue 23:12:52
更新日:2024/01/07 Sun 16:58:16
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■弁才天

「弁才天」、或いは「弁財天」インド神話に起源を持ち、大乗仏教(顕教)にも取り入れられた女神。
略して“弁天”様と云う呼び名でもお馴染み。
我が国では仏教の伝来と共に伝わり、その後の神仏習合を経て、民間でも仏教や神道の枠を越えた幅広い信仰形態を獲得した。

梵名はサラスヴァティー。
元来は河川の女神であり、古代オリエントの水源の女神に属する神性である。

琵琶を持つ姿からも解るように、後に学芸、音楽、弁舌の神としての信仰を集めた事から、それが漢字圏に入り妙音天、美音天、弁才天と漢訳されて日本にも入ったのである。

更に日本では蛇を遣わせる福徳、財宝を与えてくれる女神としての信仰も獲得。
「弁財天」とも呼ばれるようになり、その功徳を顕した大弁功徳天とも呼ばれる。

福徳の神としては、後に日本の民間信仰から生まれた七福神の一尊として取り入れられているが、唯一の女性メンバーで由来もハッキリしている為か、非常に覚えられやすい。

この他、日本のみの弁天信仰の形態としては宇賀神信仰と習合した宇賀弁天等がある。
宇賀弁天像は作例としては宇賀神を頭に乗せた姿だが、設定的には自らが蛇頭人身をしていると云う、中々に攻めた姿をしていると伝えられている。

【由来】

インド神話でのサラスヴァティーは三大主神の一である創造神ブラフマーの妃であり、三大神妃にも数えられる格の高い女神。
ブラフマーは彼女の父親にして夫であり、ブラフマーの四つの頭は自らが生み出した女神の美しさに目を奪われた創造神がその姿を追い、女神が視線を避ける度に頭が増え、遂に四方で逃げる場所が無くなり、その妻となった。……と云う中々に変態的な由来が神話として語られている。*1
尤も、あまり仲の良い夫婦とは言えず、ブラフマーの祭事の時、サラスヴァティーは化粧に時間をかけて開催時間になってもやってこず、怒ったブラフマーはその場で他の女神と結婚してしまった。
この事にカチンと来たサラスヴァティーは、ブラフマーの祭事を年に一度にしてしまったという話もあるほどである。

この事から、仏教でも弁才天を梵天神妃として伝えている。
また、元来は河川の女神*2であると云うのは前述の通りだが、他に太陽の女神であるとの信仰も生まれ、戦勝の女神としての信仰も集める等、インド時代から幅広い信仰を獲得していた女神だった様だ。
また、サラスヴァティーはインド神話に於ける人類の始祖“マヌ”の母親であると云う。*3

隣国ペルシャの大地母神アナーヒターとは同一の女神とされ、古代オリエントに於ける水源の女神として古代バビロニアのイナンナ、イシュタルからギリシャのアフロディーテにまで至った系譜と起源を等しくすると考えられている。

インド神話でのサラスヴァティーは四つの腕に数珠とヴェーダを持ち、もう一組の腕でヴィーナと呼ばれる琵琶の様な楽器を構え、白鳥、孔雀、または蓮華に乗った姿で描かれる。
これらはサラスヴァティーの象徴である。

サラスヴァティーはヴェーダに語られる言葉の神であるヴァーチ、讃歌の女神であるガーヤトリーと同一視されており、それが前述の姿に繋がったと思われる。

仏教での弁才天は、この姿と属性をそのまま踏襲しており、漢字圏に入るのに併せて服装が唐衣に、持ち物が琵琶に変わって日本にも入った様である。

【日本での信仰の推移】

日本では奈良時代から信仰が始まったとされており、四天王や吉祥天と共に護法善神の一として古くから名前が伝わった。

しかし、単独での信仰が開始されたのは中世(江戸時代)に入ってからとの事で、弁天の言い換えが広まり、福の神としての性格を獲得してからの様である。*4

本来の本地垂迹(神仏習合)では宗像三女神の市杵島姫命と習合しており、これは水の女神としての起源を考慮したものであろう。*5
仏教では観世音菩薩の化身であるとも考えられている。

天が弁天に転じたのは、名前の捩り以前に、財宝の守護神としての認識がある蛇を遣いとしていた事が転じていったのではないか?との考察がある。
この繋がりから、巳の日に弁才天の守り札が売り出されると宣伝文句に人気を呼び、ここから巳の日が弁才天の縁日である、との認識が広がっていった。

因みに、蛇を遣いにするとか蛇や龍が本性であるとする説は日本でいつの間にか付けられたものであるらしく、水神としての属性からの連想であったのかもしれない。

一応、元来のインド神話でのサラスヴァティーにも、元々「世界の富を知る者」等とされる記述がヴェーダにある為、日本での福の神としての信仰はそれが偶然にしろ復活した結果である、と言えなくもない。

ともかく、この福の神としての信仰が日本での“弁天様”信仰を決定付けることは確かになったようであり、中世以降に同じく福の神としての民間信仰が広まっていた大黒天毘沙門天と一緒に祀られ、これが“七福神の誕生”に繋がったと見られている。
また、弁才天の技芸を司る力は、元々は国家堅固の功徳から語られていたが、福の神としての属性の獲得により、個人が才能を願う神としての性格も獲得させた。

神社によってはカップルを別れさせるジンクスもあるが、これだけ御利益があればオマケみたいなもんである。いいね?

【宇賀弁天】

謎多き人面蛇神の水神である宇賀神と習合した異相の弁才天であり、民間での弁天信仰の根拠漬けとしても用いられている。
宇賀神は様々な由来を語られるも出自がハッキリしない神なのだが、これが天台宗に取り入れられ、水神、豊穣神としての繋がりからか弁才天と習合していったらしい。
前述の弁才天を蛇や龍と結びつけた神話は、この宇賀弁天の縁起として新たに作成された偽経のみに見られる記述である。

弁才天に十五童子が従うとされる設定も宇賀弁天の偽経が元になっており、本来の仏教経典には見られない日本独自の形態となっている。

【姿】

一般的には一面二臂の天女形で、琵琶を構えた姿をしている。
インド神話でのサラスヴァティーの一面四臂の姿を引き継いだもので、曼陀羅に描かれたのが最初である。
胎蔵界曼陀羅では天女形ではなく菩薩形をしており、日本での最古の作例とされる白雲神社(京都)の像容はこの菩薩形に倣った姿である。

また、一面八臂、或いは六臂の姿も伝えられているが、この場合には琵琶を構えずに・羂索・箭・三鈷戟・独鈷杵・輪といった全ての腕に武器を持った姿となっている。

宇賀弁天も頭部に宇賀神を戴いている以外は八臂像を引き継いでいるが、持ち物に宝珠と鍵が入り、福徳神としての性格を顕した物となっている。

【種字】


■ソ(サ)

【真言】


■オン サラバエティ ソワカ

【日本五大弁天】



※俗に日本三大弁天と呼ばれるが、異説もある為に纏めて五大弁天とした呼び方。

この他、洞窟の湧き水でお金を洗うと増やしてくれるという鎌倉の銭洗い弁天(神奈川県)、財布に入れておくと金銭に不自由しなくなるという上野の不忍池弁天(東京都)等が有名。

【アニヲタ的には】

もはやおっさんホイホイの域に入っているが、黎明期の美少女ゲームで名作の一つとされる
カクテル・ソフト(現F&C)の「きゃんきゃんバニー」シリーズに登場するナビゲーター「スワティ」が有名。
むしろ攻略対象の女の子以上に人気が出たほど。


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最終更新:2024年01月07日 16:58

*1 ※この際に五つの頭が生じたが、その内の一つを口論からシヴァに切り落とされてしまったという神話も残る。

*2 ※“水多き地”の意味。その名を冠するサラスヴァティー川の女神とされるが、現在は干上がってしまったとされ、サラスヴァティー川の場所についても複数の候補がある。

*3 ※“マヌ”は複数居るが、その内の始めのマヌと思われる。

*4 元々の漢訳は“辯”才天であるが、前述の理由により日本では後に“辨”財天とも書かれるようになった。このように、実は“べん”の字も違い、言葉の意味も被らないのだが、現在では当用漢字協定により“弁”で統一されている。

*5 ※この他、祓戸四神の瀬織津姫と同一視された例もある。