Linuxディストリビューション

登録日:2018/06/04 Mon 00:08:06
更新日:2024/12/13 Fri 23:42:04
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ここでは、Linuxの種類について解説する。


◎概要

▼そもそも『ディストリビューション』って何よ

さて、この項目の名前は『Linuxディストリビューション』となっている。
しかしこの項目の導入は『ここでは、Linuxの種類について解説する。』である。

どういうことか。

Linuxというのは実際にはカーネル部分のこと(Linuxカーネルと呼ぶ)しか指さない。
カーネルというのは単純に言えば指揮官であり、アプリケーションという道具を、CPUやメモリ、デバイスといった部下に扱わせる役目を持つ。
しかし、カーネルだけあってもはっきりいって利用者としては困るのである。
役目としては指揮官と述べたが、ある意味ではエンジンに例えられなくもない。
エンジンだけあっても困るでしょ? 車の形にして、座席とかも置いて、やっと使えるわけである。

Linuxに限らずOSはカーネルと、それを使いやすくするための様々なソフトウェアをセットにしてやっとOSとして機能するのである。
Linuxディストリビューションというのは、「Linuxカーネルを、OSの形に仕立てたもの」の総称である。
このカーネルが違うものを使っていて、例えばFreeBSDを使っていれば「FreeBSDディストリビューション」*1、GNU Hurdを利用していれば「GNU Hurdディストリビューション」である。

WindowsやMacと違い、Linuxはディストリビューションがそれこそ星の数ほどある。
そのため全部網羅することを目的とせず、系統ごとにまとめていくことを優先していく。

▼系統

さてさて、そういったディストリビューションだが、世の中には「1から全部作れるよ!」という開発者集団もいれば、「あいつらが拵えたものをより使いやすく改造するなら任せろ!」という開発者集団もいる。
MtGで例えるならヤソが前者(デッキビルダー)で、ナベが後者(デッキチューナー)である。
こういった場合、後者のディストリビューションを「派生ディストリビューション」と呼ぶ。

ただし世の中めんどくさい話だが、「2つのプロジェクト間で相互に成果物をフィードバックしている」場合もある。
Fedora⇔RHEL、Debian⇔Ubuntuのような例である。
こうした場合でも、本項目では基本は前者をベースにしたという扱いにする。


◎ディストリビューション一覧

▼Red Hat系

もともとレッドハット社が商用目的で作成・販売しているサーバー向けLinux『Red Hat Linux』というものが存在していた。
しかしレッドハット社は商用目的のLinuxは完全に有償版にのみにしようという方針を決定し、無償配布版を自社が支援する『Fedora Project』に引き継がせた。

そしてFedoraで得られた成果をRed Hat Enterprise Linux(RHEL)に持ち込み、RHELは自社がサポートしますよという体制を取っている。
ただしレッドハット社が作ったRHELもオープンソースで公開されているため、それとの完全互換を目指したフリー版OSとして『CentOS』も作られている。
違いはレッドハット社がサポートするかしないかというだけ。

パッケージ管理システムとしてyum(ヤム)を採用していたが、大本のFedoraは昨今Yumの抱える多数の問題点*2を鑑み、yumを改良したDNFというパッケージ管理システムを新規開発・採用することにした。
他のディストリビューションは今後追随するのか注目されている。

◆Fedora

旧称Fedora Core。無償版の旧Red Hat Linuxを引き継ぐプロジェクトであり、ポジション的にはWindows 8.1に対するWindows 10 Insider Previewみたいな感じ。
なので派生もFedora系と呼ばず、現在でも慣例的にRed Hat系に含まれることが多い。

基本的にはバージョン番号を用いたパッケージリリースが行われているが、ローリング・リリースを採用した「Rawhide」というバージョンもある。
新しい技術を次々取り込むことで有名であり、ぶっちゃけRedHat派生の実験場的なFedora派生にとってのさらなる実験場的位置付け。

◆Red Hat Enterprise Linux(RHEL)

レッドハット社がFedoraの成果を利用して作っている有償版Linux。
Fedoraと比較してサポートがある点が優秀であるが、そもそも商用システムが不安定だと困るので、必然的にFedoraより安定感を重視している。
…というか、RHELのクローンディストリビューションが生まれた背景こそ、RHELが安定しているからというのが大きいだろう。
日本ではCASIOがRHELをはじめとしたレッドハット社のサポートを受けている。

◆CentOS

RHELの無料版クローン。
一応最近はレッドハット社の支援を受けるようになったものの、位置付けは「RHELを無料で配布している」扱いであり、別にレッドハット社にサポートしてもらえるわけではない。
これによりレッドハット社のサポートが欲しい場合はRHEL、なくても大丈夫ならCentOSという棲み分けが出来ている。

もちろん、大本が企業が作っている高品質なRHELであるため、当然CentOSも内容は高品質。
そのため、個人や小規模な企業がサーバ運用するにはうってつけなOSと言える。
小規模でも企業ならRHELやWindows Server使ったほうがいいんじゃないかって? そうだよ!

『貧乏人のRHEL』として運用されてきたCentOSだったが、2021年をもってサポート終了。
今後はCentOS Streamと名前を変え、もう一つのRHEL開発版的な位置づけとなることが発表された。

その後、利用者の多くは無料で使えるRHELクローンに移動したが、レッドハット社は「改修だけして付加価値を産んでいない」と否定的でCentOS Streamからのクローンしか認めない対応を取り、RHELの派生も制限されることになった。
そのためクローンにも制約が掛かるのでは?と懸念している人は、これを機にDebian系に移行するなど、対応が分かれている。

◆その他派生

  • Asianux
日本・中国・韓国・ベトナム・タイの5カ国の企業によって制作されていたRHELベースのOS。
これらの国語はどれもマルチバイト文字を使わねばならない特殊な環境だとして、欧米の企業・環境ではサポートがされにくい。
そんなわけでアジアの企業がサポートするLinuxとしてこれら5カ国で採用されていた。
しかしAsianuxプロジェクトは2015年に解散しており、現在はサイバートラスト株式会社にてサポートが継続されている。

  • Vine Linux
Project Vineが提供する国産ディストリビューション。
旧Red Hat Linuxベースから枝分かれしたもので、FedoraやRHELクローンからはかなりかけ離れたものである。
2021年5月14日、VineSeed以外のVine Linuxリリースを終了すると発表した。

  • Oracle Linux
オープンソースコミュニティでは悪名高いOracleが開発しているCentOSのクローン。
Oracle社による有償サポートが受けられ、CentOS以上RHEL未満という位置づけを狙っているらしい。
Oracle社のOSS開発者はなぜ自分たちがコミュニティで嫌われているのか不思議がっているが、CentOSに対してOracle Linuxの方がより早くアップデートに追従出来るなどというマーケティングを行うあたり、そういうとこだぞと言わざるを得ない。
しかしCentOSがCentOS Streamなる開発版的位置づけとなることで、安定環境における利用を狙った移行が増えるかもしれない。

  • Rocky Linux
RHEL派生。CentOSがCentOS Streamに移行するに伴い、従来のCentOS需要を引き継ぐべく開発された。
名前はCentOSを立ち上げたロッキー・マクゴー氏に因む。RHELのバグまで再現する完全互換を謳っている。

  • Alma Linux
RHEL派生。こちらもCentOS需要の受け皿として開発された。名前の"Alma"はスペイン語で「魂」を意味する。
サイバートラストも自社開発するMIRACLE LINUXをここと合流することを決定している。そのためスポンサーとして資金提供し、自社SEも開発に参加しているとのこと。
RHEL互換を謳っていたが、Redhatとのいざこざを避けるためにバイナリ互換路線に移行。

  • Amazon Linux
Amazonが開発しているCentOSをベースとしたディストリビューション。AWS上でのみ利用が可能という。
だが、わりと枯れたカーネルやパッケージを採用するRHELとは逆に比較的最新のものを使用するようになっていたり、SELinuxが初期設定で無効となっていたり、とにかく攻めている。

  • Asahi Linix
Fedora派生。
MacがX64のintel CPUからARMプロセッサーのApple Siliconに移行し、x64版のLinuxが使えなくなったため新たに開発されたディストリビューション。
当初は後述のArch Linux系だったがFedora開発チームから共同開発の誘いを受け、こちらに移行した。
名前のAsahiはMacの元ネタである林檎の品種マッキントッシュの和名「旭」に因む。


▼Debian/Ubuntu系

フリーソフトウェアの思想に賛同するイアン・マードックが創始したDebian GNU/Linuxをベースとする、Red Hat系と並ぶLinuxの二大巨頭。

…ではあるのだが、フリーソフトウェアの思想が行き過ぎて儲けを得にくいせいで開発は結構ゆったりしていた。
そこにカノニカル社が派生ディストリビューションとしてプロプライエタリなドライバやソフトウェアも使用できるUbuntuを作ったことで、結果的にUbuntuがDebianどころかLinuxの中で主流となっており、Ubuntu自体の派生OSも膨大に登場している。
このことから、本項目でも「Debian系」という呼称ではなく、「Debian/Ubuntu系」と呼称することにする。
ただしUbuntuの成果はDebianにも反映されるようになっており、Fedora⇔RHELの関係には近い。
Ubuntu自体、Fedora同様カノニカル社は後援しているだけで開発チーム自体はDebian同様にOSSプロジェクトが組まれている。

◆Debian

というわけで、Debianそのものについての解説。

Debianという名前自体はイアン・マードックが当時の彼女の名前と自分の名前をくっつけて作った名前だったりする。
開発サイクル自体がフリーソフトウェアの思想に立ちすぎているためメジャーアップデートの期間がクッソ長いことが上述されているが、そもそも「フリーソフトウェア」ってなんやねんとお思いの方も多いだろう。
ここで言うフリーソフトウェアというのは単に「無料の」というだけではなく、「すべてのソースコードを公開してますよ」という意味でもある。
例えばRHELはすべてのソースコードを公開しているので、CentOSをはじめとしたクローンが作られている。

Debianもまさしくそうなのだが、Debianの場合元々が企業と関係しない有志によるもの。
それにも関わらず、直系のUbuntuなどに限らず他系統のものも含めたLinuxコミュニティに貢献した割合は約8億1900万米ドルになるとも言われている。
使いやすいことを前提としているが、プロプライエタリ(ソースコード非公開)なソフトウェアにも便利なものが多いのにそれらが使えないので、ぶっちゃけUbuntuの後塵を拝する形になってしまっているのは否めない。

◆Ubuntu

Debianをもとにして作られたディストリビューション。現在はDistroWatchで3位である(かつては1位だった)。
Unix系で1番使われるLinuxのディストリビューションでかつて1位だったということは、要は世界3位のユーザー数を誇っているということである。
あとDistroWatchはかなりコアなユーザーが見るウェブサイトであり、実際には現在でもLinux1位のユーザー数ではないかとも言われる。
つーかUbuntuを抜いてのし上がったLinux MintからしてUbuntuの直系派生(というか後述のことを考えると…)であり、ある意味(Debian)の顔より見たLinuxとも言える。もっと親の顔見ろ

Linuxコミュニティへの寄与はカノニカル社も一緒になって仕事としてやっている分、Debian以上ではないかとも言われているが、あまりに影響力が強すぎるせいでLinux全体の潮流に逆らう形のUnityやMirといった独自実装をおっぱじめるなどの点について批判も多い。

Debian…というか他ディストリビューションと違う点として、基本のデスクトップ環境はGNOME(かつてはUnity)固定であり、その代わり公式でデスクトップ環境を替えただけの派生ディストリビューションが多数サポートされている点。
他のディストリビューションであれば同じディストリビューション扱いされる程度の違いでもパッケージが分かれているので、これは異例である。

ディストリビューション名 デスクトップ環境 備考
Kubuntu KDE KDE環境なので
Lubuntu LXDE LXDE環境なので
Xubuntu Xfce Xから以下略
Ubuntu Budgie Budgie
Ubuntu MATE MATE
Edubuntu UnityまたはGNOME 教育(Education)用途
Ubuntu Studio Xfce メディア編集用途

◆Linux Mint

Ubuntuをベース…というか、Ubuntuのリポジトリを完全に共有したディストリビューション。
「Ubuntuの(Linuxコミュニティ的に)独特すぎる実装」や「カノニカル社への不信」などに応えて生まれた経緯があり、
「それでもUbuntuはLinuxで一番使われてるからそこに向けたソフトウェアも多数出てるよね、使いたいよね」ということで、
「ならUbuntuをまんま持ってきてその中の独自実装すぎる奴やバグの多いやつだけ入れ替えたらいいよね」として生まれちゃったOS。

故に初心者がLinuxを触るにはある意味Ubuntu以上に安定していて触りやすいとも言われている。
開発目的は「初心者にも使ってもらいやすい」「開発者にとっても振り回されない」など誰にでも使えるOSとすごく真面目なのに、開発思想は(Ubuntuリポジトリをまんま持っていくなど)結構MAD。

mintToolsと呼ばれる「初心者にもわかりづらい操作をGUIで行えるようにする」便利すぎる機能を持ち合わせつつ、Ubuntuコミュニティで得られる知識をそのままに試せる、「緑色のUbuntu」。
ついでにいえば、公式でサポートしているデスクトップ環境のうち「Cinnamon」「MATE」の2つも元々「GNOME新バージョンのクソみたいな独自実装から逸脱する」ことを目指して作られたフォークであり、
X-appsと呼ばれる基本アプリケーションも「GNOME Core ApplicationsがGNOMEに特化しすぎているから」他のデスクトップ環境でも使いやすいものを作ろうというフォークであるなど(そしてこれらはMintコミュニティと密接なつながりがある)、
なにからなにまで「○○はクソ!でも○○は便利なんだよなあ…じゃあより便利に改善したれ」という思想に満ちている。

ちなみにUbuntuではなくその親のDebianを元にしたLinux Mint Debian Edition(LMDE)と呼ばれるエディションもある。
Ubuntuより軽いが、Debian特有の開発の遅さまで見事に受け継いでしまっているため、一概にどっちがいいとは言いにくい。

◆Raspberry Pi OS

英国産でDebianベース。元は「Rasbian」と言う名称だった。
名前の通りラズパイことRaspberry Pi向けのOS。Raspberry Pi財団が公式で支援してる。

◆Ubuntu Touch

タッチ操作に最適化したUbuntu…ではなく、スマートフォン向けのUbuntu。
スマートフォンなので勿論通話もできる。GUIでの操作が前提だがカーネルを動かすことも可能。
基本的に既存のAndroidスマートフォンを改造するが、公式対応の機種が少ないのが欠点。
元々はカノニカルが支援していたが、元々自由なAndroidが欲しいならカスタムROMで足りている事情もあり需要が限定的過ぎたのか終了。
現在は有志で運営されるUBportsと言うチームに引き継いでいる。

◆KNOPPIX

DebianベースのOS。だがその役割は他のOSと多少違い、「CD/DVD/USBメモリから起動することを前提」としたもの。
どちらかといえば「システムがぶっ壊れたパソコン」から「大事なデータを救出したい」用途で使う非常用。
もちろんハードディスクに入れて使うこともできるが、そういう用途を(公式以外)あんまり想定していないのでパッケージがそんなにない。
「一枚焼いとくと便利」とよくいわれる。

◆その他派生

  • Kona Linux
Debianをベースに、日本人にとって使いやすくしたOS。
最初から日本語対応しているというのは日本のLinuxユーザーであればかなり嬉しい機能である。

  • Kona Linux Ubuntu Edition(KLUE)
上記のUbuntuベースエディション。より簡単に使えるOSであるというのが開発者の弁。
Ubuntuベースのため、Linux Mint同様のリポジトリをそのまま使える利点がある。

  • Zorin OS
Ubuntuベース。UIを極力Windowsに近づけた派生で最新の11風から懐かしのXP風まで対応。
有料版のProも存在しており、こちらはmacOS風にも出来る。

  • antiX
Debian安定版ベース。Ubuntu成分が無いおかげか非常に軽量なのが特徴。
古くて非力なx86機の延命用に作られた。

  • MX Linux
antiX派生。KDEの作者が作ったMEPISと言うディストリビューションのチームとantiXチームが共同開発している。名前もMEPIUSのM、antiXのXをくっつけた物。
中量級ディストリビューションで本家より機能が拡充されている。
MX-Snapshotというアプリが内蔵されており、GUIで現環境をISOファイルとしてバックアップできる優れ物。
後発だが2024年現在全Linuxディストリビューションでも有数の人気物。最近では初心者向けに薦めることも多くMintと首位を争っている。

  • Droidian
Androidスマートフォン向けLinux。こちらは純正Debianを動かすことを目標に開発中。
最近のスマホの性能は凄いから、それをLinuxで最大限に活用しようぜの精神で誕生した。
2024年現在、日本で発売されているものだとPixel 3、Xperia 5、Redmi Note 9S等で使用可能。


▼Slackware系

かつてはRed Hat系・Debian系と並んでコアな人気があったOS、Slackwareを源流とするLinux。
ぶっちゃけCentOSやUbuntuに比べて使いやすいかというと、パッケージ管理が超絶割り切られた仕組みで全部自分で依存関係を解決しなきゃいけないなど面倒な部分がある。
つーかこれ、Archでさえやってくれるぞ?

…という感じだが、逆に言えば自分で全てを面倒見れるということで、特にバリバリのエンジニアになりたい人御用達のOSである。

◆Slackware

かつて存在していたSLS Linuxの問題点を解決するために生み出されたLinux。
難易度は数あるLinuxのなかでも高いと言われる。
というか、「依存関係」という言葉を見てちんぷんかんぷんだった人はまずやめとけ

◆Puppy Linux

現在はUbuntuベース版も存在する(というかそっちがメイン化してきている)が、かつてはSlackwareベースであり、現在もSlackware版はサポートされ続けている。

KNOPPIX同様、「一枚焼いとけば」で割と挙がる軽量ディストリビューションだが、あちらと違って「そういう用途でも使える」けどパッケージを導入しハードディスクに入れて普通に使うことも可能。

◆openSUSE

歴史的にSlackwareを源流としている…がもうほぼ別物で全然使いにくさのないOS。
立場的にはFedoraやUbuntuと似ており、SUSE社が後援しつつコミュニティで開発され、その成果がSUSE Enterprise Linuxに投入される。
ただし今後SUSE Enterprise LinuxはopenSUSEに統合される予定で、Ubuntuと似た立場になる模様。


▼Arch系

「シンプリシティ」、「ミニマリズム」、「エレガンス」さ、コードの正しさに焦点を当てて開発されているディストリビューション、
Arch Linuxを源流とするディストリビューション。

…といっているが、そのシンプリシティ・ミニマリズム・エレガンスとは利用者視点ではなくむしろ開発者視点。
そのため、ぶっちゃけ利用自体は初心者向けどころかむしろ上級者向け
しかしローリング・リリースを採用しているディストリビューション故に一度入れてしまえば入れ直しが必要ないという特徴もあり、それを解決できれば逆に初心者向けになるのではという発想で生まれた派生ディストリビューションも存在する。
これにより他のディストリビューションのバージョン管理されたリリースで行われるアップデートよりも楽であるというのは強み。
macOSやAndroidなど、他OSの大型アップデートに悩まされる人にとってローリング・リリースというのは便利であろう。

◆Arch Linux

そのArch系の源流。
しかしながらあまりに突き詰めすぎてるためにインストールからして文字だけのキャラクター・ユーザー・インターフェース(CUI)だけとなかなか初心者にはハードルが高い。
「シンプルに見せようとガワを被せるより、本当にシンプルな方がわかりやすい」という思想の元作られている。

◆Antergos

そんなArchを簡便に入れて使えるようにしたのがAntergos。
最初からデスクトップ環境も入っていてGUIでインストールができる。
細かい設定もすでにやってくれてしまう。

逆に言えばそれ以外はArchそのもの。
気軽にArchを試したい人向けのディストリビューションである。

◆Manjaro Linux

Antergos同様、Archを簡便にしたエディションではあるが、こちらはリポジトリを独自の仕様に変更しており、Archで認められてもすぐに使えるわけではない。
ただしその分、安定性という意味ではArchに比較して上回る。
初心者向けを謳うOSとして、UbuntuやLinux Mintのような立ち位置に収まりつつあるArch系の人気ディストリビューションである。

◆EndeavourOS

GUIでも扱える点はManjaroに似ているが、より軽量化しているのが特徴。
要はArcにおけるMX Linuxみたいな物。上のManjaroと同じ位の人気ディストリビューション。


▼Gentoo系

Arch以上にハードルが高いワイルドスタイルなディストリビューション、Gentoo Linux。
そしてそれを元にして生まれたディストリビューションについて解説する。

◆Gentoo Linux

「プログラムをパッケージでインストールだ? お前のPCに相性合わなかったらどうするんだよ」ということで、ソースをパッケージとして配信しユーザーがインストールするときにコンパイルするというパッケージ管理システムPortageを採用。
カスタマイズ性が他のディストリビューションと比較して異様に高いが、その分当然全部自分でやれということで難易度はArch以上。
ただしGentoo使いからは「その分Archより安定してるよ♪」ということだそうで。
無論安定しているのはその人がしっかり理解しているからであり、初心者がやってもパソコンが文鎮化する。
少なくとも「カーネルも自分でビルドしろ」と言われて目をキラキラ輝かせるブラック気質のドMでない限りお勧めしない。

ちなみに「ハードウェアに最適化すれば早くなるよね」という思想そのものは間違っておらず、
現に最適化できるGentoo LinuxやGentoo/*BSD(GentooをBSDに移植したもの)は、他のディストリビューション、Arch系やDebian系などの他のディストリビューション、BSDや他のUnix系、果てはWindows 10に比べて早いという特徴はあるにはある。
同じ思想で「だったらハードウェア自体もOSの会社が作っちまえばエンドユーザーが楽じゃん」という考えでできているのがmacOSとかiOSとかを使ったApple製品、後はAndroidの公式ハードウェアであるGoogle Pixel、Windows10/11特化のMicrosoft Surfaceが挙がる。
ただし「多くのユーザーが簡便に多様なシステムで運用する」ことを考えればWindows 10や他のLinuxディストリビューション、Unix系がGentooやmacOSに劣るわけではない。

まさしく、「究極のOS」こそがこれと言えるだろう。

◆Sabayon Linux

Archに対するManjaroみたいなディストリビューション。
Gentoo系を標榜するがGentooにあるカーネルのリビルドとかそんな複雑な作業は一切求めない。
だがそれ以上に、最適化なんてなんじゃらほいで美しさを求めるイタリア発らしいディストリビューション。
おかげでクッソ重いのでマシンパワーに物を言わせて使うことになる。
GentooやMXLinux、EndeavourOSどころかLinuxコミュニティで散々出てくる「古いPCをリサイクルできるエコシステム」なんて思想に真っ向から逆転している、「至高のリッチOSを作ってみました」という感じだ。

◆Google Chrome OS/Chromium OS

Google Chrome(Chromium)がOSになったというので話題になったOS。
実はカスタマイズがしやすいのでGentoo/Portage由来なのである。
なおGoogle社内では使われず、Debianベースの『gLinux』が採用されている(市販予定なし)。*3

ちなみにGoogleのLinuxといえばAndroidが思い浮かぶ人も非常に多いことだろう。
しかしAndroidは確かにLinuxを元にして作られたOSではあるが、コード内にBSD由来のものも含まれ、カーネルだけでなくデバイスドライバやその他のソフトウェアを最初から統合しており、Linuxディストリビューションと呼べるようなものでは到底なくなっている。
しかしそれでもLinuxとの親和性は元から高いため、Chrome OSでもAndroidアプリを動かせるサポートがしっかり行われている。

基本的にChromebookと言う名称でノートパソコン/タブレットPCとして販売されている物も多いが、他のディストリビューション同様に個人で入手して既存のPCに入れることも可能(無料)。

海外では結構人気で特に北米の文教向け(要するに学校向け)端末ではiOSを抑え過半数がChrome OS端末であるというデータもある。
Windowsよりも安価で必要十分な性能が確保できることが評価され、日本でもCOVID-19を経緯としたデジタル教育の影響で導入する学校が増えている。
これからAndroidだけでなくLinuxのアプリケーションもChromeOS上で動くようになるらしいので今後に期待?


▼その他

  • Solus
2015年に出てきた新たな一派。
最近出ただけあって殆どのパッケージインストールがGUIでできるなどの利点が高い。
しかし系統が新規ということもあり、まだまだ使えるソフトウェアが多くないという課題を抱える。

上述の通り、厳密にはLinuxディストリビューションではない
確かにLinuxをもとにして作られ、親和性も高いのだが、Linuxカーネルにない機能(それこそ電話帳とかあるわけねえわな)をもろもろコミコミにしており、その過程でLinux以外のUnix系のコードも取り入れられているなど魔改造されている。

  • Fire OS
Amazonが自社のFireタブレット向けに提供しているOS。
実際に触れば解るがほぼほぼAndroidであり、ぶっちゃけGoogle嫌いのAmazonがGoogleに頼らずに済むように名前と一部の内部パッケージを取り替えたもの。
なのでGoogle要素が消えAmazon要素が強調されたAndroidと思ってOK。
機種によっては非公式でPlay ストアを入れることも可能で、Amazon アプリストアには無いアプリをダウンロードするのに使用できる。
よってこちらも厳密にはLinuxディストリビューションではない

  • SteamOS
Valve Corporationが作っている、SteamゲームをプレイするためのOS。
当初はDebianベースだったが、3.0からArch系に鞍替え。
…なのだが、Steamのゲームは十中八九Windows向けなうえ、Portal、Team Fortress 2、DOTA 2といったValve社製のゲームでさえWindowsより安定しないなど現状は課題が多い。
Valve謹製のコンソール「Steam Deck」に搭載され、Valve自らSteam上のゲームをチェックして、ハードウェア・ソフトウェアに問題なく遊べるかラベル付けする取り組みも行っている。

  • Linux from Scratch
既存ディストリビューションをクロスビルドして一からディストリビューションを組み上げるという用語。
Gentoo以上にハードコア。


追記・修正はLinuxディストリビューションを作ったことのある人にお願いします。

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最終更新:2024年12月13日 23:42

*1 ただし、FreeBSDはLinuxとことなり、カーネル以外の部分も最初からセットであるため、ディストリビューションという形でなくても実はOSとして成立している

*2 yumはPython2に依存しているためシステム全体がPython3に本格的に移行出来ず、さらにyumの主開発者の事故死によるリファクタリングや依存関係解決アルゴリズム修正の頓挫など

*3 かつてはUbuntuベースのGoobuntuであった