バルドル(北欧神話)

登録日:2020/03/26 Thu 23:06:51
更新日:2020/03/29 Sun 16:35:49
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『バルドル(baldr,baldur)』は北欧神話に登場する神の一柱。

名は“君主”或いは“白”を顕すとも研究される。
神々の中でも最も賢明とされる、美しい容姿の光の神で、
優しい性格故にか、やや優柔不断とされながらも、彼の裁きは公明正大で不変であると云う。


【概説】

最高神オーディンと、正妻フリッグの息子として知られる。
妻はネプの娘ナンナで、二人の息子には父親から公明正大さと誠実さを引き継いだ裁きの神フォルセティが居る。

オーディンの数多くの息子や養子達の中でも、特にオーディンの王権を引き継ぐ筈であったアース神族の王子としてのイメージが強く、彼の悲劇的な死により最終戦争ラグナロクが到来することとなる。
…一方、本来の神話ではこの死に纏わる話しか主たるエピソードが無いことから、北欧神話に題材をとった創作作品等では影が薄く、対外的には知名度が高いとは言い難い神である。

自らの死に纏わる異母弟のヘズとは北欧神話(古代ノルド/古代ゲルマン神話)に取り入れられる以前より関係が深かったとも研究されている。
元来は、更に古代より存在していたヘズの信仰や物語からバルドルが生まれ、それがバルドルの神話でヘズが重要な役目を果たすことになる……という、両者は元は一人の人格で、それが神話の中で役割を分けられた半身的存在であったとも分析されている。


【主な神話】


『バルドルの夢』では、自らの死を暗示する不気味な夢を見て、夜中に自らの声で目を覚ます。

バルドルの不吉な夢について、神々は集って議論を重ねるが、誰一人として答えることが出来なかった。

そこで、神々の長にしてバルドルの父であるオーディン自らがバルドルの夢の答えを知るために、例の如く素性を隠して旅に出て、遂には北の果てのニヴルヘイム=死者の国ヘルヘイムにまで辿り着いた。

すると、普段は陰気な筈のニヴルヘイムでは死者達が黄金で自らの身を飾り立て、蜜酒を用意して歓待の準備をしている所であった。
お前らそんなキャラちゃうやろ…と目眩みを覚えつつも、オーディンは近くの女予言者(巫女)の魂を目覚めさせて問うと、何と“バルドル様を迎える準備だ”と言う。
更に、女予言者の魂はバルドルが弟のヘズに殺される運命にあると語り、ヘズへの復讐を果たすのが、未だ見ぬ他ならぬオーディンとリンド*1との間に生まれ、一夜にして武器を取る=成人するヴァーリ*2がヘズを殺すと告げる。
しかし、ここまで聞いた所で互いに相手の正体を察することとなり、女予言者が最高神が死者の国に居座るものではないと、アースガルドへの帰還を懇願する段で詩は終わる。

尚、この女予言者に対してオーディンが“三人の巨人の母か?”と問い掛けていることから、彼女はロキにフェンリル、ヨルムンガンド、ヘルを生み出すのに利用されながらも、一説によれば心臓を奪われて焼いて食われた(恐らくは殺された)、女巨人アングルボザだったのではないか?と想像もされている。

『ギュルヴィたぶらかし』では、この話がもっと詳細に、一方では全く別の展開を見せるエピソードとなっている。
此方でも始まりはバルドル自身の悪夢であるが、これを危惧した母のフリッグは、自らへの尊敬が消えても構わないが、この世にあるあらゆる物(生物・無生物問わず)にバルドルを傷つけないようにしてくれないかと懇願した。

すると、他ならぬ神々のファーストレディ直々の願いに、敵対している巨人も危険な生き物も、全てを呑み込む火も、武器の元にもなる金属も硬い石も“バルドルを傷つけない”ことを誓い、実質的にバルドルを不死身の存在とした。

神々は此れを祝すと、飲めや歌えやの大宴会を催すと共に、余興としてバルドルに上記の様々な危険物を含む物やら武器やらを投げてみる遊びに興じ始めた。

……が、此れを見て生来のひねくれ者の血が騒いだか、奸智の神としてのチャレンジ精神が刺激されたのか、ロキは皆に気付かれない内に老婆に化けるとフリッグに近付き、今回の件の詳細を問うと、実はミスティルテイン(ヤドリギ)だけは幼すぎて物事の分別が付かず、今の時点では約束を交わせていないという事実を聞き出した。

悪戯心を刺激されたロキは、よりにもよってバルドルの弟であり盲目の為に遊戯には参加していなかったヘズに近付くと、彼にヤドリギを射させて*3不死身となった筈のバルドルを殺害させた。
すると、夫が死ぬのを見た妻のナンナも、哀しみを耐えきれずにショックで死んでしまった。

自らの地位をも擲つ覚悟で無事を祈った息子と娘嫁の死を嘆くフリッグの哀しみは大きく、これに答えてバルドルの別の弟で、俊足のヘルモーズが父オーディンよりスレイプニールを借り受けて、冥府の女王ヘルと謁見して兄の死を取り消して貰うべくヘルヘイムへと向かった。

ヘルヘイムへの道を探すヘルモーズは、途中でヘルの垣の側を通るというギョッル川に架かるギャッラルブルー橋へと立ち寄った。
橋の管理をしていた女巨人のモーズグズは、普段は死者のみを通していたが、ヘルモーズの俊足が死者の目には捉えられないことを認めると、快くヘルヘイムへの道を示した。

こうして、生者でありながら死者の国に入ったヘルモーズは冥府の女王ヘルの館エーリューズニルの広間にて兄バルドルとナンナと再会する。
二人はヘルの元で手厚い歓迎を受けて冥界でも早速と高い地位を与えられていたのだが、わざわざヘルヘイムまでやって来た弟ヘルモーズと話し合いをすることに。

翌朝、ヘルモーズの説得もあってか黄泉返りを願っなた夫婦に対して、ヘルは“全世界の者がバルドルの為に涙を流す”との条件を出し、此れが叶えられたのならば現世へと戻すことを約束する。
アースガルドへと戻るヘルモーズに対して、バルドルはオーディンへの贈り物として、自分と一緒に焼かれた(火葬の供え物)ドラウプニル*4を、ナンナは義母であるフリッグに亜麻の衣装を、自分にも仕えていたということなのか、フリッグの従者であるフッラに指輪を贈り物として託した。

戻ったヘルモーズは早速フリッグへとことの次第を報告すると、バルドルを傷つけないと世界中の物が誓ったのと同様に、世界中の物がバルドルの為に泣くことを懇願する御触れを出し、神々の使者はそれを確認して回った。

……が、世界中の物が泣いたと確認してアースガルドへと戻ろうとしていた彼等は、ある洞窟の中に潜み隠れていたセック(感謝)と云う、皮肉めいた名を持つ女巨人と出会った。
彼女はバルドルの死に対して乾いた涙を流したが、その頬は少しも濡れていなかった。

セックは“生きていようが死んでいようが自分は老人(オーディン)の息子なんか愛していない、ヘルは自分の手に置いたものを手放すな”と語り、こうしてバルドルの蘇生は失敗に終わった。

……実は、彼女はロキが大仕掛けの最後の仕上げとして姿を変えた化身であることを神々は後に知ることになる。
そうして、今日までロキの悪戯や放埒な振る舞いを看過して来た神々も遂に怒りのままに、この奸智の神にして巨人を捕らえて罰を与えることにした。

……『ロキの口論』で語られるように、ロキと神々の関係は悪化してきており、それに止めを刺したのがバルドルの死の真相であったのかもしれない。

そして、光の神、神々の希望であり巨人達すら葬儀に参列したバルドルの死によって世界からは光が徐々に失われてゆき、遂にラグナロクが到来するのである。

……一方、古エッダの『巫女の予言』によれば、バルドルは旧世界がスルトがユグドラシルに放った炎によって一掃され、神々も巨人も死に絶えた後に浮かび上がる新しい大地に自らを殺したヘズと共に降り立ち、そこで新たなる神となるとされている。
後の伝承でもラグナロクを生き延びる異母弟のヴァーリ、ヴィーザルは帰還を果たしたバルドル、ヘズと再会を果たし、彼等オーディンの息子達が新たなる神々として世界を見守るとされている。

……この“復活”の物語についてはキリスト教の救世主の信仰の影響があるとも考察されるが、その伝承の更に元となった伝承の一つとして既にあった冬を越えての光の復活の信仰が元となっているとの説もある。


『ユングリング家のサガ』では、ヘイムダルと同じく、ログ湖(スウェーデン・メーラレン湖)ほとりの地のゴジ(神官)をオーディンより任されている。

『デンマーク人の事績』では、オーティヌス(オーディン)の血を引く半神の勇猛な戦士バルデルスというギリシャ神話チックな設定で登場。
ホテルス(ヘズ)とはスウェーデンとデンマークを跨いだ終生のライバル同士となっており、この物語ではホテルスの乳兄妹であるナンナを巡り争う。
この物語では敵方であり、バルデルスに敗れるが、後にバルデルスも元の神話と同じくしかしリンドレ◯プと経緯が極悪となっているオーティヌスがルテニア(ルーシ=ロシア)王の娘リンダとの間に得た半神ボーウス(ヴァーリ)と相討ちとなって死ぬ。


【ヘズとの関係】

実は、北欧神話が纏められる頃には神とされているバルドルだが、文芸評論家の山室静によればサガでは、バルドルは戦士の名として登場してくるが、神としての信仰を受けていた形跡は無いという。
また、彼を殺したヘズの名に、神話では本来は戦闘の不可能な盲目の神として描かれているにも関わらず“戦士”の意味があることから、神話となる前の戦士の物語として『デンマーク人の事績』の様な伝承が存在し、そこからバルドルとヘズに分かれたのでは無いか?とも想像されている。
また一方では、方や光の神、方や盲目の神とされる兄弟が父であるオーディンの二面性(恵みを与える神々の王にして戦争を支配する死の神)に対応しているとの説もある。

何れにせよ、極端な特性を持つ兄弟ながらラグナロクの後の新しい世界では揃って転生して新たなる神々の王となるのである。


【関連する者や持ち物】


  • ナンナ
バルドルの妻。
…だが、バルドルの妻であるという以上の神話に乏しく、夫が死んだ時にはついでとばかりに雑に死んでしまう。
『デンマーク人の事績』では人間の娘であり、バルドルやヘズを生んだ伝承では付き物だったのかもしれない。


  • フォルセティ
ナンナとの子。
バルドルから公明正大さと裁きの属性を引き継いだ……というか、裁きの神としての信仰を色濃く残す為に、反対に彼の父とされたことでバルドルにも裁きの神であることを示す要素が追加されたのかも知れない。
厳粛な約束事をする時には、人々なフォルセティの名に誓ったとも伝わる。


  • ブレイザブリク
バルドルとナンナの館で、アースガルドでも最も美しく、争いが無い場所であると云う。


  • フリングホルニ
バルドルが所有する世界最大の船
『ギュルヴィたぶらかし』では、バルドルが死んだ後に神々は遺体をフリングホルニに乗せて海に流そうとしたが、巨大過ぎて誰も押し出せなかった。
そこで、ヨトゥンヘイムへと使いが出され、力自慢で毒蛇を手綱に狼に股がる女巨人のヒュロッキンに白羽の矢が立てられ、彼女もそれに応じた。
果たして、ヒュロッキンは一押しでもフリングホルニを動かす大力を見せたが、押し方が乱暴で船の下に吹いた“ころ”が火を吹き大地が揺れる有り様で、これに怒ったトールミョルニルを持ち出して女巨人を叩き殺そうとしたので、神々は雷神を必死に宥めたという。


  • 弟達
という訳で、バルドルの神話には弟達として、命を奪われることになる盲目のヘズ、復活の為にヘルヘイムへの伝令に走る俊足のヘルモーズ、更に死した時点では誕生していない異母弟のヴァーリと三人もの弟が登場してくる。
この内、ヘズとヘルモーズはバルドルと同じくオーディンとフリッグの子と思われるが特に記されていない。
ヴァーリはバルドルを殺害した異母兄のヘズを復讐として殺すことになるが、別の兄弟のヴィーザルと共にラグナロクを生き延び、その先の世界でバルドルとヘズと再会するのである。……あれ、一番働いたのに骨折り損だったヘルモーズは?


【登場作品】


  • バルドル(魔探偵ロキ RAGNAROK(漫画))
魔探偵ロキの原作のみに登場。本作のラスボスにして全ての黒幕。
父親であるオーディンの体を乗っ取った上で周囲にはその事を隠し、オーディン自身の命として神々をロキへの刺客として差し向ける。
この行動はロキへの復讐とラグナロクによる破滅から逃れるためのものだったが、結局はロキにラグナロクを引き起こされ消滅したと思いきや封じられただけでした。

  • バルドル/ベル・デル(女神転生シリーズ)
初登場となる『女神異聞録デビルサバイバー』では、本作の根幹を支えるベル神の一柱として解釈され、ベル・デルの名前で登場。
今度こそ世界中の者達全てに涙を流させ、現世への復活を目論む。
万能属性魔法すら通じぬ不死身の肉体を持つが、ある者によりもたらされるヤドリギにより再び冥界へと送り返されることになる。
真・女神転生Ⅳ』からは、幻魔バルドルとして同デザインながら仲魔の列に加わっている。

「運命のラグナロク」シリーズで初登場したプレミアムガチャのモンスター。
神々しい名前が付けられているのだが、どういう訳か星4枠であり、評価は高くない。
それ故に性能はイマイチであり、ゲージアビに幻獣キラーELを持つものの使い所が少ない上に、ストライクショットが微妙なため同シリーズのフレイヤと比べると使い勝手がかなり悪い。また、現時点では上方修正もされていない。
因みに見た目は女性っぽく見える上に声優も女性だが、こう見えて性別は男性である。

  • 輝きの神バルドル(サモンズボード)
ガチャイベント「選魂のヴァルキュリア」限定のモンスター。
木属性以外に対して物理ダメージかスキルダメージ半減を選べるスキルを20ターン張ることができるというディフェンスタイプの鑑。同ガチャのオルトリンデは軽減状態のときに攻撃力がアップするので相性がいい。
しかし、
  • 同条件で木属性もカバーするブリギット
  • スキルターンが1多いが、スキル物理両方30%軽減も選べるカセンコ
と属性・タイプが全く違うといえど完全に上なスキルがガチャ常駐に存在している。むしろバルドルの方が調整版なのである。

追記修正は支持率99.9%を達成してからお願いします。

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