スルト(北欧神話)

登録日:2020/03/19 Thu 21:59:04
更新日:2024/01/25 Thu 02:26:04
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『スルト(surtr)』は、北欧神話にて語られる炎の巨人。
主格語尾の発音まで入れてスルトルと紹介されている場合もある。

名前の意味は、或いは黒い者で、火山の神格化とも考察される。

尚、北欧神話最大のヴィランとして頓に有名ではあるのだが、実際の伝承では配下のムスペル含めて、伏線も因縁も無しにラグナロクの場面にて唐突に登場してくる、言うなればポっと出ラスボスであり、現代のマンガやアニメならブーイング必至と成りかねない立ち位置のキャラクターであったりするが、実際にはラグナロクでの活躍からも象徴的で人気の高いキャラクターとなっている。


【概要】

北欧神話で語られる九つの世界の内、灼熱(炎)の世界であるムスペルヘイムの入口を守っている巨人であり、番人であると共に王であると解釈されている。
北欧神話の主敵は巨人であるが、物語の中では神々と巨人の区別が生まれた場所以外には殆ど付けられていないのに対し、スルトは巨人から見ても途方もない大きさを持つ巨人としてイメージされていることも少なくない。

誕生した経緯は定かでは無いものの、世界には最初ムスペルヘイムとニヴルヘイムしか無かったとされている上に、スルトはその頃から番人をしていたとされ、その記述を信じるのならば神々や巨人どころか、原初の巨人ユミルよりも古い世代に属する存在ということになる。


ムスペルヘイムは世界の南の果てにある全般的に寒そうな北欧神話では珍しい灼熱の国であり、余りの暑さからムスペルヘイムに生まれた者でなければ暮らせないとされ、この国の者達をムスペル(炎の巨人)と呼ぶ。

……前述の様に、古い伝承ではこの程度しか記述が無く、スルトやムスペルはラグナロクにて北欧神話に於ける主な悪役であるヨトゥン(霜の巨人)達を差し置いてムスペル達を率いてアスガルドに攻め込み、フレイを殺害したのを皮切りに大暴れした末に、スルトは神々も巨人も倒れた戦場で唯一人だけが生き残り、最後に炎によって世界を焼き尽くして浄化するとされている。

スルト自身がどうなったのかについての記述は無いのだが、現在の北欧神話のおおよその原典として扱われる『ギュルヴィたぶらかし』の生存者には載っていない為、スルト自身も自らが放った炎に呑まれて消えたと解釈される。

原典では、あくまでもムスペルヘイムの番人(且つ王)なのだが、神話内の役割の大きさから巨人達全ての王とも解釈されていたり、そうした設定となっていることもある。
『巫女の予言』では、ユグドラシルの大樹をスルトの親族が呑み込むとの記述があり、素直に解釈すれば最後には世界その物を呑み込んだスルトの放った炎と生るのだろうが、呑み込むのキーワードからかロキの息子であり、一応は巨人族でもあるフェンリル狼が挙げられたりもしている。

実際、北欧神話を代表するトリックスターであるロキは霜の巨人族出身ともハーフともされ、名の意味を閉ざす者や終わらせる者とされる一方で、元来は火を神格化した神であることから、名前にはの意味もあるとされており、此処から正体不明のスルトの正体をロキの変身と解釈する説もあったりする。
実際、世界のリセット役であるスルトと、ロキの名前の意味(閉ざす者/終わらせる者)は見事に符号している。

ただし、解説としては記述されていてもロキというと某笑いの神の様に、奸知に長けた狡猾な知恵者として描かれることが多い為か、スルトとロキを同一視させた作例は殆ど見られることが無い。

実際、化身では無いにしてもロキをムスペルの一員と解釈するのが一般的であった時代の作品にかの有名なワーグナーの『ニーベルングの指輪』なんかがある訳だが、その後は色々あって(特にロキの名前に含まれる意味の多さ)、現在ではロキとスルトは全く別のキャラクターと見なす方が一般的となっているようだ。

…つまりは、どっちも正体不明ということなのだが。

尚、スルトのイメージについては前述の様に人々が火山国であるアイスランドに入植した際に目にした火山への畏れが源泉であるか、イメージの発展に繋がったのではないかと予想されている。


【レーヴァテイン】

スルトと言えば、一般的にはレーヴァテインの持ち主として解釈されている。

スルトはレーヴァテインと呼ばれる炎の剣を持っており、その剣でフレイを打ち倒し、ラグナロクの最後には剣から放った炎で自ら毎に世界を焼き尽くす……というのが、基本的なイメージなのだが、異論もある。

先ず、北欧神話の記述の基本となる『ギュルヴィたぶらかし』ではの記述が見られるため、上記のイメージは此れに倣っているのが解る。

しかし、これが『巫女の予言』となると剣の記述は消え、スルトが持ってくるのは前述の枝の破滅=であるとされている。
……一応、この『巫女の予言』にも大陽の様に輝く剣の記述があることから、じゃあ剣を持っているんじゃないか……とされていた所に、アイスランドの北欧神話の研究家シーグルズル・ノルダルがスルトの持っているのはと剣で、しかも剣はフレイが手放していた剣と推察したものだから、様々な論争が起きることになった。

勿論、ノルダルの説は根拠の無い物……等ではなく、伝承を丁寧に紐解いた末に導きだされた研究成果は、現代のアイスランド・サガの標準的なテキストと認められている程の物である。
また、ノルダルはフレイが倒された記述について、フレイの剣のみがフレイを殺せたという、他の類型神話にも見られる共通のルール(呪い)が発動したのでは無いか?と述べた最初の人物でもある。

……さて、この時点でスルトが手にしていたのは“炎”なのか“剣”なのか、或いはその“両方”なのかで異説が噴出してる訳だが、更に言えばその剣だか炎がレーヴァテインなのか?も、伝承ではハッキリしていなかったりする。

そもそも、“レーヴァテインとはスルトの持つ炎の剣である”としているのは、主に日本を初めとした現代の創作とか位のものであり、寧ろ、こうした現代のファンタジー物こそがイメージを固定させる大元となっていると言える。

何しろ、元のレーヴァテインについては“ユグドラシルの頂に座す雄鶏ヴィゾーヴニルを殺すことが出来る武器”で、狡猾なロプトル(ロキ)が鍛え上げ、スルトの妻と解釈される女巨人シンモラが管理している……という程度の記述しかなく、しかも此処に挙げられているキーワード自体もまた様々な解釈が出来るという有り様で正体が益々と判明していない。

ロキにムスペルの一員であるとか、スルトの変身とする説が出たのにはこうした伝承上の繋がりもあったからだろうか。

レーヴァテインについては、当該項目やフレイの項目も参照。


【登場作品】


コミック/アニメ等


  • マイティ・ソー(MARVEL)
北欧神話を題材としたMARVELコミックを代表するタイトルの一つで、近年ではMCUと更にそこからの派生作品でも有名なシリーズ。
因みに、MARVELでのスルトは、ソーと同様に英語読みされて“サーター”となっているのだが、日本人にはスルトの呼び名が馴染んでいる為か沖縄伝統のお菓子みたいな名前ではなくスルトと紹介された。
ソー本編では最大のヴィランであり、とてつもない強キャラ設定にあるオーディンとも互角以上という地球でも最強格のヴィランの一人で、原典通りにコミックでも実写映画でもアスガルドをも破壊している。


ゲーム


  • 女神転生シリーズ
SFC第一作『真・女神転生』にて、ラストダンジョンのカテドラル占拠の為に送り込まれたカオス陣営の魔王の一人として登場。
シンプルながら隙なく原典の情報を盛り込んだ悪魔絵師のデザインワークが光る。
後に、ちょっと頭が伸びたり各部が凸ってマントがオミットされたデザインに。
タイトルによっては口調がマッド。
忠誠度を上げることで手に入るレーヴァテインが強力だったり、仲魔として非常に有能だったりも。
スキル構成もイメージに違わず火炎系中心で、特に真・女神転生3では通常攻撃が火炎属性という唯一無二の特性を持つ。

  • 斬撃のREGINREIV
フレイとフレイヤが主人公のゲームなので、ラスボスとして登場。
ロキの力でヘル・ヨルムンガンドと共に封印されていたものの、彼が中盤で神々と人の手によって討ち取られたことから復活。
終盤にてミズガルド・アズガルドの双方に炎の軍勢を率いて大攻勢をかける。
スルト本人は最終ステージのみの登場だが、この作品の敵勢力の多分に漏れず言葉は話さない。そして超巨大。
第1形態はまだ人型をしているが、それ以降の最終形態(第4形態)に至るまでの容姿はもはや要塞。
勿論攻撃力・体力ともに作中最強クラスである。
フレイとフレイヤは戦いに勝つものの、世界に残された命は二人のみで…。

ラスボスの一人。主人公がアース神族陣営のヴァルキリー(ヴァルキュリア)なので敵としては順当といえる。
メインストーリー上の大ボス扱いで、存在そのものは当初から示されている。実際に顔を拝むのは最後の最後。
ただし設定はヴァン神族扱い。
オーディンに忠実なプレイをした場合のBエンディングにおける最終ボスとなる。…がはっきり言って強くはない。
居城は極寒の氷の城だが、本人は原典通りに炎の魔法や技を多用する。対策も立てやすいので苦戦はしないだろう。
Aエンドでは劣勢の中、ドラゴンオーブを持って協力を申し出るロキを拒絶するが…

第2部2章「無間氷焔世紀ゲッテルデメルング」の大ボス。
北欧異聞帯*1に眠る災厄である。
ストーリー上はこの後も敵がいるが、ほぼラスボスに近い扱いである。

この世界のスルトは自身の「神を何人か殺して世界を浄化して死ぬ」という運命に納得できず、結果神も人も味方すらも皆殺しにして世界を灰塵に帰すことを決意。違うそうじゃない
大神オーディンがスルトと刺し違えつつも彼を封印し、この蛮行は辛うじて阻止されたが、世界には僅かな人間、巨人、3人だけのワルキューレ、唯一の神スカサハ=スカディしか残らず、なおかつ今もスルトの炎の残り火に覆われて人の生きられる場所は僅かである。

ストーリーの中で復活し、更にラグナロクの時に取り込んだフェンリル(本作では氷狼とされる)の権能を発揮して炎と氷の力を用いて今度こそ世界を終わらせようとはかる。
この動機は極めて個人的なあることで…?
詳細は個別項目を参照。(ただし諸事情により項目名がネタバレ全開なので注意。)

下半身が溶岩に浸かった巨人。「スルト降臨!」にて登場。
味方時の性能はいわゆる花火で、石川五右衛門から自傷ダメージのなくなったもの……と言いたいところだが属性強化が五右衛門の半分なのであまり出番はないどころか、いつの間にか進化素材扱いになっていた。

溶岩の体を持つ巨人。降臨ボスモンスターの一つでいわゆる「運枠」というもの。
かなり初期の降臨ボスなので友情コンボやストライクショットはお世辞にもインフレした現環境では強いと言えないが、進化はアンチ重力バリアと妖精キラーLを持っており、妖精属性の敵へ大ダメージを出せる為当時は重宝されていた。

悪魔型種族サルカズの女剣士。記憶喪失であり、自分の失われた記憶を彷徨っていた。
非常に気難しい性格をしており口を開けば、暴言かトゲのある端的な言葉しか言わない。ただし、好物のアイスクリームが絡むと言うことを聞くようになる可愛らしい一面も。
作中で使われる「アーツ」いう異能とは体系の違う謎の能力として、炎をまとった首無しの巨人の幻影を呼び出す力を持っている。
HPがゼロになると数秒間だけ耐えてから死ぬ食いしばりのパッシブスキルと、「発動時点で体力全快+攻撃面が大幅に強化(術属性に変化、攻撃力上昇、射程延長、攻撃間隔短縮)される代わりに、発動後時間経過でHPが急速に削られる」というピーキーなスキルを持つ。
この特性から敵陣のど真ん中やぶつけたい大物の前に彼女を置き、使い捨て前提でスキルを撃って相手に痛手を与えるという爆弾の様な使い方を求められる上級者向けのキャラ。


追記修正は世界に炎を放ってからお願い致します。

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最終更新:2024年01月25日 02:26

*1 一言でいえば既に滅びた並行世界を復活させた物。