デミグラス・ソース

登録日:2024/02/10 Sun 22:47:00
更新日:2024/11/01 Fri 10:50:57
所要時間:約 10 分で読めます




menu

デミグラス・ソース。

それは洋食屋にとって欠かせないもので、全ての料理の味の基本となるといっても過言ではない。
今となっては缶などに封入されたり、粉末状になったものも販売されるなど、家庭でもその味を簡単に再現しやすくなったが、その実、本物のデミグラス・ソースはとてつもない労力のかかるものなのである…。

デミグラス・ソースとは?

まず、そもそもデミグラス・ソースってなんなの?っていう話になるわけだが、デミグラス自体がフランス語「demi-glass」がであり、直訳すると「半分氷*1」となる。
もちろん半分凍ったソースなんて意味ではなく、いわゆる「半分煮詰めた」という意味になる。これを基にしたものがフランス料理に多く使われるようになったのは1900年代初め頃と言われている。

日本では本格的なものはもちろん、先述した通り缶やパウチなどで完成されたものが販売されているほか、しょうゆを用いて和風デミグラス・ソース、中華スープや香辛料が入ったチャイニーズ・デミグラス・ソース、ケチャップやウスターソースワインを肉汁などと混ぜてとろみをつけたなんちゃってデミグラス・ソースなんてものが存在する。
まぁ要は十人十色、色々あるというわけだ。
ちなみに、本来ならミグラス・ソースが正しい発音だが、日本では洋食文化の繁栄と共に上記の派生したソースが数多く存在する関係でミグラス・ソースとして知れ渡るようになった。本項目でもそれにそってミグラス・ソースと表記させていただく。

調理方法

さて、そんな歴史あるソースを自分で作ってみたい!と思った方は少なからずいるはず。
そして、その調理方法を知って絶望もしたはず。
何が大変かといえば、

非常に時間がかかる

のである。
フランス語訳にもある通り、「半分煮詰める」のがデミグラス・ソースなわけだが、その半分というのが全然半分とかいうレベルじゃない。
ほぼ鍋に張り付いてなければ簡単に焦げる工程があるほか、材料も多く必要なうえに長時間煮詰めるため光熱費がとんでもないことになる。
これを、下記に記載する代表的な料理を用意するために一から作るとなると、余裕で1日以上経過する。とても一家庭がやるようなものじゃないし、子供を持っている家庭だとまず子供が我慢できないだろう。一日中いい匂いが充満している中でご飯お預けな訳だから当然である
それでもやりたい!という人は簡単なレシピを記載する。
…簡単とは言ったが記載するレシピはほぼクラシカル、いわゆる伝統的なものに忠実なものであるため、実際に必要なのは忍耐力と体力(あと腕力も)のほうかもしれない。それさえあれば一応誰でも作ることが出来るだろう。*2

材料

(ベースとなる野菜たち。特に制限はないが、多ければ多いほど手間がかかる代わりに旨味が増す。めんどくさいって人はカット野菜がある他、旨味を増すためにトマト缶を使うなどしてもいい。最悪はフードプロセッサーという高度文明機器があるのでそれを使えば手間が大幅に短縮できる。)

(牛肉、鶏肉が主流。出来れば牛スネや牛スジ、手羽元などの骨付き肉が望ましい。肉からの旨味はもちろん、わずかな味やゼラチン質によってソースに深みを与えてくれる。こちらは多いとくどくなるのでお好みの量で)

  • フォン・ド・ボーorフォン・ド・ヴォライユ*3
(いわゆる出汁。これも一般家庭では作るのにとても手間がかかるのでコンソメスープや市販品で問題ない。これも一から作ると決めたあなたはもうお店を出したほうがいい)

  • 赤ワイン
(味に風味や深みを与える。あれば酒精を強めたマデラワインが望ましい。煮詰める際に水の代わりに全てワインにするのもあるが、渋みが増して子供が嫌う可能性もあるので、こちらもお好みの量で。)

  • バター、小麦粉
(デミグラスの色、風味の基本となるブラウン・ルーの素材。ここをうまく作れるかでソースの出来が変わってくる。店によってはこれを無しで作るが、その場合はさらに煮詰める必要が出てくる)

  • 各種スパイス
(塩コショウはもちろん、オレガノやブーケガルニ、ニンニクやシナモンなんかを入れてもいい。クミンもいいが、入れすぎると欧風カレーになってしまう*4)


①まず、ブラウン・ルーを作る。
フライパンにバターをいれ、溶けたところに小麦粉を入れる。暫くはダマになっているが、これが徐々にとろみのついた半液体状になる。このまだ白いままの状態をベシャメル・ソースやホワイト・ルーといい、ホワイトシチューなどはこれが元になる。
しかし、これをさらに焦げないようにときどき火から離すなどしてじっくりじっくり弱火で煮詰めると溶けたチョコのような茶色いソースが出来上がる。これがブラウン・ルーであり、焦げた匂いがせず、どことなく甘い匂いがすれば完成している。甜麵醬を知っている人ならその風味がしていればOK。
目を離すと一瞬で焦げてしまうため、ここは集中してかかるべし。焦げたら一からやり直しである。
完成したては液体が蒸発するほど非常に熱いので一度冷ましておく。

②深めの鍋を用意し、そこに油を敷いて細かく刻んだ野菜を炒めていく。この時、有塩バターや塩を使うと野菜から水分を抜きやすくなり、より速く炒められるほか、かさが減るので余裕があるならばさらに具材を足して旨味を追加することもできる。(塩分調整に注意)

③牛肉などは一度焼き目を付けるなどしてから鍋に入れる。焼いて出てきた脂なんかも旨味が詰まっているのでそれも一緒に鍋へ。同時にフォン・ド・ボーなどの出汁を入れて煮詰めていく。ここにさらに赤ワインやスパイスを加え、灰汁や余分な脂を取りつつ風味を足しながら弱火でコトコトと煮込む

④冷ましておいたブラウン・ルーにソースの素となる液体を加えて伸ばしながら鍋に加える。ここまで来たら後は半日ほど煮詰めるだけである。
…さらっと言ったが、半日も煮詰めるのである。それぐらい火にかけっぱなしになるので、焦げるのが怖いと思った場合は水やフォン・ド・ボーなどで水分を足して適宜かき混ぜることを推奨する。
どうせ最後には煮詰まるので水分はいくら足しても問題ない。完成した際にとろみがつくくらいの濃度があればOK。

⑤煮詰め作業が終わったらザルやキッチンペーパー、濾し布などで野菜くずや崩壊した肉の繊維、骨などを濾す。これでようやく「ソース・エスパニョール」の出来上がりである。

…え?デミグラス・ソースじゃない、だって?当然である。この「ソース・エスパニョール」こそデミグラス・ソースの素なのだ。これを作ってから具を足して、さらに煮詰めるとデミグラス・ソースになるのだ。
ちなみに、店によってはこのソース・エスパニョールをさらに濃くするため、同じ行程をもう1~2日繰り返す。一般家庭からしたらもはや狂気であるが、それだけ手間隙かける価値があるのだ。

行程は上記のモノから骨付き肉を外し、牛肉や燻製肉(ベーコンやソーセージ)など)を加えた上に作ったソース・エスパニョールを入れ、大体2~3時間煮込んで晴れて「デミグラス・ソース」の完成である。味調整で塩コショウはもちろん、砂糖を少し加えると角が取れてより馴染み深い味わいになる。
ちなみに出汁ガラとなったモノは骨などを取り除けば食べることもできる。蒸かしたジャガイモと混ぜるだけでも十分一品料理になるし、デミグラス・ソースを作る際に入れた牛肉なんかもそのままビーフシチューとして出してもおいしい。

そしてこのデミグラス・ソースは煮詰める行程がある関係上、ソース・エスパニョールを作り、継ぎ足していくことができる。洋食屋なんかではこれが店の味となり、その味を求めて常連客なんかが出来てくる。
その味は肉や野菜の旨味はもちろん、赤ワインやスパイスの風味によって何層にも味が奥深く、食べた人を幸せにすること間違いなく、その労力に見合うおいしさは約束される。
特に肉料理や揚げ物との相性が抜群であり、それらが主体のものならばまず外れはないだろう。
そして、これを家庭で再現するとなるととてつもない費用と労力がかかることを考えると、洋食屋やデミグラス・ソースを作ってくれる企業には感謝をするしかない。

代表的な料理

ではこのデミグラス・ソースを利用した料理をいくつか挙げていく。
みんなが知っているがゆえに、それだけデミグラス・ソースを使用した料理が浸透しているのである。

デミグラス・ソースをこれでもかと味わうならば、やはりハヤシライスは外せないだろう。
米一つ一つにソースが絡み、一緒に煮込まれた具材たちと一緒に口に頬張れば、それはもう至極の一言だろう。
トマトを多く使うことでよりさわやかに仕上げることができ、いくらでもお代わりすること間違いなし。
ハッシュドビーフはいわゆるハヤシライスの牛肉版で、こちらはご飯にかけず一品モノとして出す。

ただでさえおいしいデミグラス・ソースにさらに牛肉やその他の具材を入れ煮込む。
旨味の暴力で口の中いっぱいになるだろう。これにパンがあれば言うことなし。
さらに残った一滴まで掬いとって味わおう。

カラッと上がったフライにデミグラス・ソースを上から流しかけ、衣にソースを染みこませたものを一口。
濃厚な風味と衣の中に隠れていた具材の風味が合わさって最強。揚げたて熱々で召し上がりたい。

もちろんステーキやハンバーグにも相性抜群。熱々の鉄板の上にデミグラス・ソースをかけてもよし、皿に盛りつけ、ソースを敷き、その上からお肉を載せるなど、見た目での演出にも一役買う。
もちろん味は言わずもがな最高である。

オムライスにはしっかり焼いた昔ながらのモノと、中は半熟で、ご飯の上にオムレツを載せて最後に包丁で開いた今風のものがあるが、デミグラス・ソースを使うのは特に後者が多い。
ふわふわに仕上げたオムレツの上からデミグラス・ソースをかければ、半熟卵の模様とソースが織りなすグラデーションが食欲をそそり、デミグラス・ソースの濃厚さと卵のまろやかさに思わず笑みがこぼれるだろう。

トルコの名前があるが主に長崎県で有名になったご当地グルメ。
デミカツ、ピラフ、スパゲティが乗ったいわゆる「大人のお子様ランチ」。
詳しい内容は各自調べてほしい。

追記・修正はソース・エスパニョールを作ってからデミグラス・ソースを作りながらお願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • 料理
  • 腹が減る項目
  • 洋食
  • 洋食屋
  • デミグラス
  • ドミグラス
  • デミグラス・ソース
  • ハンバーグ
  • ステーキ
  • オムライス
  • オムレツ
  • エビフライ
  • ハヤシライス
  • 一番必要なのは忍耐力と財力
  • ※一般家庭では再現が大変
  • 洋食屋の命
  • ワイン
  • 牛肉
  • トマト
  • 人参
  • セロリ
  • 玉ねぎ
  • 物理的に手間のかかった項目
  • ソース
最終更新:2024年11月01日 10:50

*1 「demi」が半分-「glass」が氷

*2 本家ではレシピの時代が時代なため、スープを作る際に出る灰汁取りに卵白を使うエキュメ、肉自体もワインやニンニク、ローズマリー、ローリエといった香草の入った液体に浸けるなど、臭み消しを徹底的に行う。ある程度鮮度を保てる冷蔵庫は偉大なのだ。

*3 フォン・ド・ボーは牛、フォン・ド・ヴォライユが鶏の出汁

*4 クミンシードはいわゆるカレーっぽさの要のスパイスなので入れるとカレー風味が増す