HD-2D

登録日:2024/06/23 Sun 01:33:25
更新日:2024/06/26 Wed 06:26:54
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『HD-2D』(エイチディーツーディー)はゲームの表現技法のひとつ。
スクウェア・エニックスの浅野チームが開発した。

+ 目次


概要


端的に言えば「ドット絵に3Dポリゴンを組み合わせ、さらに様々な特殊効果を上から重ねていく」という技法。
ドット絵の暖かみを残しつつ、3Dゲームで培われたノウハウを適用することで、“懐かしくも新しい”ゲーム画面を作り出すことを目指している。

HD-2Dが初登場した作品は、スクウェア・エニックスが2018年に発売したRPGOCTOPATH TRAVELER(オクトパス トラベラー)
発売前から、その斬新かつ美麗なビジュアルで注目を集め、
「どのシーンを切り取っても絵画のように美しい」
「ドット絵が廃れなかった世界線から時空を越えてやってきたゲーム」
等と話題になり、発売後はゲーム自体の完成度の高さも相まって、様々な賞を受賞した。

オクトラ発売以降、スクエニは自社作品にHD-2Dを積極的に採用しているが、実はスクエニ自身もHD-2Dという用語の明確な定義・ルールは示していない
HD-2Dを採用したゲームのプレイ画面をいくつか見比べてみると分かるが、同じHD-2Dを名乗っていてもそのアプローチは作品ごとに微妙に異なっている。
ここではまず、HD-2D作品に共通する基本的な特徴について解説する。


1.ドット絵と3Dポリゴンの融合

HD-2Dを採用した作品では、キャラクターはドット絵による2Dグラフィックで表現し、フィールドは3Dポリゴンで作られる。
そもそもがドット絵という古い技術を現代のゲームで活用するために生まれた技法なので、ドット絵を用いることはHD-2Dの大前提といえる。

ただし、ドット絵×3Dポリゴンという組み合わせ自体は真新しいものではない。
1990年代後半(機種でいうと初代PSN64が登場したあたり)に多くのゲームがドット絵から3Dポリゴンに移行したが、その過渡期にはドット絵と3Dポリゴンを組み合わせたゲームも多数存在していた。
例えばエニックスが2000年に発売した『ドラゴンクエストⅦ エデンの戦士たち』のオリジナル版(ハードは初代PS)は、キャラクターがドット絵でフィールドは3Dになっており、HD-2Dの前提条件を満たしている。
しかし、もちろんスクウェア・エニックスは今も昔も、PS版ドラクエⅦを“HD-2D”とは銘打っていない。

他のスクエニ作品では、2022年に発売された『FINAL FANTASY VI(ピクセルリマスター版)』のオペラシーンや、2023年に発売された『スターオーシャン セカンドストーリーR*1もHD-2Dに似た画面づくりをしているが、HD-2Dとは謳っていない。

「ドット絵×3Dポリゴン」はHD-2Dの大前提だが、それのみではHD-2Dたり得ない。
後述するその他の特徴が備わって、初めてHD-2Dらしい表現になるといえる。


2.こだわり抜いた光の表現

HD-2D作品では、光の表現について強いこだわりが見られる。
  • ギラギラと輝く太陽の光
  • ひっそりと辺りを照らす月の光
  • 木々の間から降り注ぐ木漏れ日
  • 雲の切れ間から差し込む光の帯
  • 水面でキラキラと乱反射する光
  • ランプや松明などの暖かい炎の灯り
  • 窓から暗い部屋に差し込む光

光の種類は色々あるが、昨今のハイクオリティな3Dゲームがこのような複数の光源を綿密に計算しフォトリアルな画面を産み出しているのと同じように、HD-2D作品もこれと同じく多種多様な光を取り入れることで、今までにない美しい画面を構築している。

従来のドット絵作品との特に大きな違いはこの部分で、昔のドット絵作品ではせいぜいが昼夜の違いで画面の明るさが変わる程度だった。
それに対し、HD-2D作品の画面には多くの光源が溢れており、そして光によって生まれる“影”も演出することで、画面内に圧倒的な情報量をもたらしている。
昔のドット絵作品とHD-2D作品の画面を見比べてみれば、そのライティングの違いははっきりと見て取れるだろう。

HD-2D作品では、ドット絵のキャラクター達も光が当たる場所に立てば照らされて明るくなるわけだが、この関係でHD-2Dにおけるドット絵は明るい色の使いどころが難しいらしい。
というのも、物体に強い光が当たると明るいモノほど反射光でさらに明るくなり白色に飛んでしまう性質があることから、様々な光に溢れたHD-2Dの画面上で明るい色を多用したドット絵キャラが照らされた場合、ほとんど真っ白になってしまうのだ。
それを避けるために、ドットの色味・明るさには毎回気を使って調整しているとのこと。


3.奥行きを感じさせる演出

HD-2D作品はドット絵が苦手とする“奥行き”を表現するために、様々な工夫を凝らしている。

比較的分かりやすいのは“ぼかし効果”であろう。
HD-2D作品は基本的に、画面の手前に近いものや、あるいは画面の遠くにあるものほど、その輪郭がぼやける特殊処理が施されている。
これは要するに『プレイヤーが操作するキャラにカメラのピントを合わせた状態』を演出したもので、操作キャラ周辺をはっきり描画しつつ手前と奥を意図的にぼかすことで、遠近感を感じさせる画面を作り出している。

これ以外にも空気感を演出する効果として、ビネット(画面の四隅をやや暗くする効果)や、遠くにあるものほど色が薄くなる効果等々、様々な特殊効果が何重にも加えられている。
3Dゲームの画面効果を多々取り入れることで、ドット絵作品でありながらはっきりとした奥行きを作りだし、臨場感溢れるゲーム画面に仕上げているのもHD-2Dの大きな特徴のひとつである。


ただし、光源の処理や奥行き効果のさじ加減は作品によってまちまち。
作品ごとにふさわしい画面作りを検討した上で、使用する映像効果の量や強さを毎回調整しているようだ。


代表的な作品


HD-2Dはスクウェア・エニックスによって商標登録されている。
したがって、HD-2Dを名乗る以下の作品の発売元は全てスクウェア・エニックスとなる。
ただし、開発を担当したメーカーは作品ごとに異なる。


OCTOPATH TRAVELER(オクトパス トラベラー)

画像出典:OCTOPATH TRAVELER
(Switch:2018/7/13, Windows:2019/6/7, Xbox ONE:2021/3/25, PS5・PS4:2024/6/6)
©スクウェア・エニックス ©アクワイア

2018年発売。開発はアクワイアが担当。
全てはここから始まった、元祖HD-2D作品。
8人の主人公がそれぞれの目的のためにパーティーを組み旅をするRPG。
HD-2Dの美麗なグラフィックもさることながら、シンプルかつ奥が深い戦闘・育成システムや、良質なBGM等で人気を博した。

この作品の時点でHD-2Dの基本的な画面作りは既に完成を見ており、後続作品と比べても決して見劣りしない美しい仕上がり。
他のHD-2D作品と比べてぼかし効果やビネットがかなり強めにかかっており、情緒的・幻想的な絵づくりを重視しているのが特徴。
また、3Dポリゴンに貼られたテクスチャにもドット絵っぽさを感じる素材が使われており、ドット絵と3Dポリゴンが馴染むように工夫されている。

2020年には本作をベースとしたスマホゲーム『OCTOPATH TRAVELER 大陸の覇者』が配信された。
戦闘システムなどは若干の変更があるが、原作のテイストを踏襲しつつ遊びごたえのある作品に仕上がっている。
HD-2Dについても引き続き採用されており、スマホでも美麗なグラフィックを堪能できる。

余談だが、OCTOPATH(オクトパス)とは“8つの道”を意味しており、断じてOCTOPUS(タコ)ではない。


TRIANGLE STRATEGY(トライアングル ストラテジー)

画像出典:TRIANGLE STRATEGY
(Switch:2022/3/4)
©スクウェア・エニックス ©アートディンク

2022年発売。開発はアートディンクが担当。
HD-2Dタイトル第2弾。ジャンルはタクティクスRPGで、キャラクターの多数決によって分岐するシナリオが特徴。

本作はクォータービュー(斜め見下ろし視点)を採用しているため、キャラクターのドット絵も斜め見下ろし風に書き起こされている。
また、カメラが回転できるようになったため、どの角度から見てもフィールド・背景が破綻しないように設計されているとのこと。

ちなみに本作は開発初期段階において『OCTOPATH TRAVELER』を担当したアクワイアが協力している。
スクエニの依頼で、アートディンクが正しくHD-2Dを表現できているかどうかアクワイアに監修してもらったようだ。


LIVE A LIVE(ライブアライブ)

画像出典:LIVE A LIVE
(Switch:2022/7/22, Windows:2023/4/28, PS5・PS4:2023/4/27)
©スクウェア・エニックス ©ヒストリア

2022年発売。開発はヒストリアが担当。
オリジナルは1994年にSFCで発売された人気作品。
スクエニ社内で「HD-2Dを活用して過去作品をリメイクしよう」という企画が立ち上がった際、様々な名作・傑作がリメイク候補となる中、本作が最初のリメイク作品に抜擢された。
ヒストリアの開発スタッフはライブアライブのHD-2D化にあたり、まず『OCTOPATH TRAVELER』をやり込んでHD-2Dについて研究・分析した上で、原作のビジュアルの良さを残しつつどのようにHD-2Dに落とし込むかを検討したとのこと。

本作の特徴として、オクトラと比べてビネットやぼかし処理はあえて弱めており、原作のゲーム画面のテイストが感じられるようにしている。
また、オクトラのドット絵は世界観やキャラクターデザインを尊重して派手すぎない配色を基本としていたのに対し、本作のドット絵は原色(彩度の高いなど)に近い派手な色も適度に使って作られており、差別化を図っている。
さらに、各章で物語の舞台・時代が大きく変わる本作の特徴を活かし、章ごとに適用する画面効果の量や強さを細かく調整しているというこだわりも見られる。


OCTOPATH TRAVELER II(オクトパストラベラー2)

画像出典:OCTOPATH TRAVELER Ⅱ
(Switch:2023/2/24, Windows:2024/6/6, Xbox ONE:2024/6/6, PS5・PS4:2023/2/24)
©スクウェア・エニックス ©アクワイア


2023年発売。開発はアクワイアが担当。
『OCTOPATH TRAVELER』の続編。8人の主人公の物語、というコンセプトは踏襲しているが、舞台設定や登場人物は一新されている。
前作がCEROC(15歳以上対象)だったのに対し、本作はCERO:D(17歳以上対象)に引き上げられており、それに伴ってより濃いストーリーが展開される。

スタッフ曰く「前作のHD-2Dがver1.0、TRIANGLE STRATEGYがver1.1、LIVE A LIVEがver1.2とするなら、本作のHD-2Dはver2.0」とのことで、さらなる進化を遂げている。
ゲームに昼夜の概念が取り入れられたことで、昼と夜の切り替えでHD-2Dによる光の表現も大きく切り替わり、フィールドの美しさにはより一層磨きがかかった。
演出面ではイベントや戦闘シーンでカメラがダイナミックに動くようになり、HD-2Dの“3Dゲームとしての側面”を上手く使った迫力ある演出を取り入れている。
ちなみにキャラクターのドット絵については頭身の見直しが行われており、頭身が少し伸びてより動きを表現しやすくなった。
戦闘時のドット絵モーションもバリエーションが増え、上述のカメラ演出も相まって、賑やかなバトルシーンに仕上がっている。




他に『ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ…』および『ドラゴンクエスト12』のHD-2Dリメイクの発売が決定している。


※※※ 編集者の方へ ※※※

アニヲタwikiの編集ルール上、発売・公開前のコンテンツについて項目を作成したり憶測で内容を記載することは、基本的に認められていません。
したがって、発売前の作品のHD-2D表現に関する説明・補足は、ここでは記述しないようお願いします。




現代であえてドット絵を扱うことの意義


詳しい説明は『ドット絵』の項目に譲るが、ドット絵とは基本的に「荒い絵」であり、人の脳内補正によってそれを“キャラクター”や“風景”等と認識させる「だまし絵」的な技術である。
日進月歩で進化する現代のフォトリアルな3DCGと比べて、ドット絵が持つ情報量というものはあまりにも少ない。
しかし、ドット絵にはドット絵の強みがあることもまた事実である。


たとえばBGM。
現代の写実的なゲームでは、メロディーラインがあまり自己主張しない環境音楽的なBGMを採用するのが主流である。
これは、ゲームのグラフィック表現がリアルになるほど、昔のゲーム音楽のような自己主張の強いメロディーを乗せるとそのリアルさを削いでしまい、プレイヤーが没入感を得られないため。
演出として理にかなったものではあるが、一方で曲単体としてはどうしても地味なメロディーになってしまうことが多く、「最近のゲームの音楽は印象に残りづらい」なんて言われてしまうこともしばしばある。*2

しかし、リアルからは程遠いデフォルメの極地であるドット絵を用いたゲームであれば、かつてのゲーム音楽のようなメロディアスな楽曲も十分通用する。
実際、『OCTOPATH TRAVELER』はその強みを活かし、昨今のゲーム音楽としては珍しく旋律が印象的なBGMを多用しており、そして本作は音楽的にも国内外で極めて高い評価を受けている。
メロディーを前面に押し出した、いかにもなゲームミュージックを惜しまず投入でき、音楽的な演出の幅が広い点は、ドット絵作品の大きな強みの一つである。


また、物語を書く上でも3DCGとドット絵ではアプローチが異なる。
現代の3DCGでは、服や肌の質感なども綿密に描写され、人間の細かいしぐさや表情の変化、視線の動きさえも再現できてしまう。
これにより、3DCGを用いたゲームでは映画的なカメラワークや演出・演技を活用してストーリーを展開することが多いが、ドット絵作品はこうした絵づくりとは無縁である。

ドット絵作品の物語は、“演劇的”と言われることが多い。
基本的にカメラの位置・角度は固定であるため、プレイヤーはさながら劇場の席から舞台上の役者を眺めているような感覚である。
さらに、デフォルメされたドット絵である以上、キャラクターの細かいしぐさや表情の微妙な変化など汲み取れるはずもない。
3DCGのキャラクターであれば、表情やしぐさで感情を表現することができるが、ドット絵のキャラクターの場合はセリフやBGMなどで感情表現を補うこととなる。
そのため、実はセリフの言葉選びひとつとっても、3DCGとドット絵のゲームでは作り方が異なってくるのだ。
しかし、表情や細かいしぐさが見えないからこそ、そこには人の脳内補正が強く働くもので、ドット絵ならではの趣がそこには確かに存在しているのである。


とはいえ、ドット絵にあまり馴染みがなく映画的な演出のゲームに慣れている人に、昔のドット絵のゲームに触れ、その魅力を理解してもらうことは難しい。
HD-2Dとは、そうした若い世代の目にも魅力的に映るように現代技術を取り入れた美麗なグラフィックを追求しつつ、かつてドット絵に親しんだ世代には懐かしさを味わってもらえるという表現技法であり、ドット絵を愛し多くのファンを魅了してきたスクウェア・エニックスだからこそ作れた画期的な発明といえるだろう。


過去作品リメイクの選択肢の一つとして

2023年5月までスクウェア・エニックスの社長を務めた松田洋祐氏は、過去に「HD-2Dをもっと活かすべき」との指示を出し、実際にスクエニ社内ではHD-2Dでリメイクすべき過去作について様々なアイデアが挙がったという。

昨今の過去作品のリメイクでは、懐かしのゲームがフル3DCGでリメイクされることも多いが、元々ドット絵だったゲームを下手にフル3DCGにすると意外と弊害も多い。
リメイクにあたってはオリジナルの雰囲気を適度に残すのが望ましいが、かといって原作そのまますぎても上述のとおり「BGMが自己主張しすぎて煩わしい」とか「3DCGのドラマとして見るとチープに感じる」ということにもなりかねないため、原作の再解釈・再構築が重要となる。
しかしHD-2Dのようなドット絵主体のリメイクの場合は、原作のテイストをある程度残したままブラッシュアップする形となるため、そうした違和感が生じにくいといえる。

松田氏は既にスクエニを離れているため、前述の「HD-2Dを活用せよ」との意向が氏の退任以降も社内で生きているのかは不明だが、新作・リメイク問わず、今後のHD-2D作品の活躍に期待したい。


ドット絵に愛着がある方は追記・修正をお願いします。


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最終更新:2024年06月26日 06:26

*1 原作は1998年発売。SO2Rはそのリメイク版にあたるが、本作のスタッフはリメイク版のグラフィック表現について「原作の世界観を表現するにあたって『3Dのフィールドにドットのキャラクター』という形が最適と判断したからこの形に落ち着いただけ」「そもそもHD-2Dのビジュアルに寄せようと思って始まった企画ではない。開発時もHD-2Dには寄せていない」と述べている。

*2 カービィやスマブラの産みの親である桜井政博氏のYoutubeチャンネルにて、こうした音楽とゲームの関係性について言及している動画があり、氏はその中で「最近の曲は覚えにくい、なんてプレイヤーからよく言われてしまう」「でもCGがリアルになった今のゲーム画面には、昔のゲーム音楽はあまり合わない」と指摘している。