山菜

登録日:2024/10/29 Tue 15:21:58
更新日:2025/07/12 Sat 14:46:41
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概要

山菜とは、主に山に生える食用になる植物のことを言う。*1

路傍や草地、川辺や海岸など山以外の場所に生える野生の食用植物は厳密には「野草」といわれるが、
現在は山以外の場所に生える野生の食用植物も区別せず「山菜」の範疇に加えられることが多い。ただし野生の食用キノコは「山菜」とはみなされない。*2

野生の植物から食味の改善や栄養価・収量などの増加を目的として長い年月をかけて品種改良して栽培されるようになったものは「野菜」や「果樹」となったが、何らかの原因で栽培化されるまでには至らなかったものが「山菜」と呼ばれる。*3

元々は山村地域に住んでいる人々が山菜の採取を行ってきたが、その年によってとれる山菜の種類や量が異なってくるため、備荒食品程度の経済的意義しか持っていなかった。
しかし、高度成長期以後の生活の向上により嗜好品として注目され、さらには「山菜採り」が一種のレジャーとなった。

また、促成・抑制栽培の普及により様々な種類の野菜が季節をあまり問わず入手できるようになったことで、「旬」を感じることができる山菜が逆に注目を浴びることとなった。

現在は農産物直売所や道の駅で流通するほか、生の栽培品や、複数の山菜(ワラビやゼンマイ、タケノコなど)を水煮にしたものがスーパーマーケットやデパートなどで年中出回っている。


おいしい食べ方

山菜は鮮度が命

山から採取してから時間が経つとともに灰汁がまわり、味がかなり落ちてくる。すぐに食べない場合は色や歯ごたえが残る程度に下茹でをして冷蔵庫に保存しておく。
また、ワラビなどアクが強い山菜はわら灰や木灰を振りかけて湯を注ぎ一晩おくと、翌日にはほとんど灰汁が抜けている(完全に抜けているわけではないので食べすぎは厳禁)。
水煮の山菜セットは水けをきってから炊き込みご飯そばうどんの具材にする。

山菜というと、どうしても日本料理の食材としての側面が強いが、ピラフやスパゲッティの具材にも向き、ワラビはナムルによく使われる。

大抵の山菜は灰汁が多く含まれているので、よく茹でて灰汁抜きしてからお浸しや和え物、天ぷらや炒め物にして食べられることが多い。
この場合、加工されたものではなく生の山菜を使うことで独特の香りや風味を出すことができる。

山菜の採取は危険が伴う作業なので、その危険な作業を完遂した後は灰汁抜きして天日で乾燥させ、乾物として保存することもある。

ゼンマイは乾物としてもかなり知名度が高く、韓国料理のビビンパに必ずと言っていいほど乗っている食感が独特な茶色い食材は、干したゼンマイを水で戻したのちナムルにしたものである。
また、冬は植物系の新鮮な食材が不足しやすいので、塩漬けにしたものは冬の貴重な食材であった。しかも塩漬けにすることで毒素が抜けることもあったため、保存や下ごしらえに塩は重宝する調味料であった。

栄養的には野菜よりも栄養価が高いことが多く、ビタミン類やミネラル類、食物繊維などを高度に含んでいる。大抵の山菜は灰汁の強いものが多くクセがあるため大量には食べられないが、灰汁の元になっている物質は抗酸化作用があるポリフェノール類である。

適量を食べれば栽培される野菜類には見られない栄養的機能性が期待されるが、前述のようにアクが強いものも多いため、「体にいいものだから」と山菜だけでお腹を満たすような食べ方をすると、口や胃の粘膜を痛める欠点も考えられる(これは食用キノコにも同じことが言える)。


山菜採りで気を付けること

山菜採りやキノコ狩りは、レジャーの一種として人気を誇り、愛好家に向けて様々な内容の書籍が発行されているほどである。
普通の登山とは異なり、装備もそれほど多くは必要ないことから、趣味の中ではそこそこ安上がりな部類に入る。

しかし、そうしたレジャー活動において、以下の点に留意しなければならない。


一、山岳では遭難・事故に重々気を付けるべし

近年、山菜採りを行っていた者が山岳遭難する事例が毎年報告されている。
また、山菜の中には水の豊富な沢地にはえるものもあるので、うっかり足を滑らせて……ということや、山菜に夢中になるあまりクマ、イノシシ、ヘビ*4、スズメバチ、ヒル、、そして人間*5といった危険な野生生物が近づいてくることにも気づかず…ということも珍しくはない。

日帰りが前提となっているが、あれもこれもと欲をかいて気付けばとっぷり日が暮れ、今来た道を戻ろうとすれば、それがどこだったかを忘れてしまい、そうしている間にもどんどん暗くなっていき……ということだって珍しくはないのだ。

そうした場合に言えることは、

諦めることも時には肝心。

ということである。

目先の欲にとらわれて、大事なものを失ってはいけない。大げさなようだが、どうかこのあたりを頭に入れて山菜採りを楽しんでいただきたい。

また、一人だけで行くのも危ない。できるだけ複数人で連れだって行くのが理想的。過去にはワラビ採り殺人事件のような凄惨な事件も起きている。
家族や友人に事前に行き先を伝えたり、スマホ等の通信機器を持っていくのも忘れずに。


二、無許可での採集は禁物

私有・公有問わず所有者のいない山林は存在しない。あくまでも他人の土地なので、所有者の許可なく山菜を採取する行為は森林窃盗罪にあたる。

また、国立公園などは「自然公園法」の規定によりそこに生えている野生植物の採取が禁止されている場合がある。
要は他人の畑にずかずか入り込んで野菜を勝手に収穫していく行為と同等なのである。捕まるよ、マジで。
慣例的にある程度の採取であればお目こぼしされていることもあるが、たいていは「山林の所有者の許可がない限り、山菜の採取は禁止されている」と覚えておくべきである。

中には、「どうしても自分で収穫する喜びを味わいたい」という読者の方々もいるかもしれない。そうした人々に朗報である。

大手園芸通販やホームセンターで山菜の苗が年中売られている。

「畑で栽培しちまったら『山菜』の意味がねーべや!」と思う方々もいるだろう。しかし、後述するようによく似た有毒植物と間違えて採取するリスクが軽減されるし、何より食べたいだけ好きな量を取ることができるのだ。

ミョウガやフキ、オオバギボウシのようにそれほど大量の日光を必要とせず、畑の隅っこや日陰に苗を植えればそれ以降は野生化してくれるため、管理もあまり手間がかからないものもある。
あのワサビだって、「畑ワサビ」というものがあり、風味は沢で収穫したものと遜色ないのだ。


三、中毒のリスクは少しでも減らすべし。

有毒植物の中には、山菜をはじめとする食用植物とよく似て見分けのつかないものが多々ある。
例えば、ニリンソウ*6トリカブト、セリとドクゼリといったものがその代表例である。

誤食を避けるためにも、まずは山菜と有毒植物の特徴をよく見極める必要がある。幸い、大抵の山菜を扱っている書物には有毒植物の説明にもページ数が少なからず割かれているため、それらを用いて特徴をよく知っておく必要がある。
少しでも自信が持てない場合は、いっそ端から採取しない方がいい。この場合も、

諦めることも時には肝心。

である。
目先の欲にとらわれて、大事なものを失ってはいけない。
これで2回目だが「家族を喜ばそうと思って取ってきた山菜が実は全部毒草で、一家全員中毒した」というオチがついちゃあ、こんなに悲しいことはない。

また山菜に限った話ではないが、「間違いなくこれは無毒の山菜だ!」と分かっても食べる前にはしっかり洗おう
少々食欲がなくなる話ではあるが、野外に生えているとどうしても動物のアレやらコレやらが付着している可能性があるためである。*7


四、根絶やし(物理)はアウト。

山菜の中には、現在は絶滅危惧種に指定されている植物もあり、「過剰な採取がもとで、その土地には再びその種の山菜が生えてこなくなった」という実例も珍しくはない。

「群落の中でも食用に適さない大きさのものは採取せず、成長するまで待つ」
「誰かが採取した痕跡がある場所で残りを根こそぎ採取しない」

などのマナーを順守する必要がある。

しかし、山には多くの人が訪れ、相互に監視することが難しいので、こういった事態が今もなお横行している。そういう状況だからこそ、

バレなきゃ犯罪じゃないんですよ
「みんなやっているんだから自分もやっていいよね」

なんて甘い考えは即刻捨てるべきである。


これらを念頭に置いたうえで、楽しく思い出に残る山菜採取をしましょう。


主な山菜

  • アカザ(茎が白っぽいものは「シロザ」という変種。こちらも食用になる)
  • アケビ
  • アシタバ
  • アズキナ(飛騨地方ではナンテンハギ、北海道ではユキザサとそれぞれ別の植物を指す)
  • アッケシソウ
  • アマドコロ
  • アマナ
  • イタドリ
  • イヌビワ
  • イワタケ
  • イワタバコ
  • ウコギ
  • ウド
  • ウバユリ
  • ウワバミソウ(ミズ)
  • オオウバユリ
  • オオバギボウシ(ウルイ)
  • オオバタネツケバナ(ていれぎ)
  • オカヒジキ
  • オケラ(「朮」。昆虫の「オケラ」は「螻蛄」と表記する)
  • オニグルミ
  • オランダガラシ(クレソン)
  • カシュウイモ
  • カタクリ
  • キイチゴ類
    • エビガライチゴ
    • カジイチゴ
    • クサイチゴ
    • モミジイチゴ
  • キキョウ
  • ギシギシ
  • ギョウジャニンニク(アイヌネギ)
  • クサソテツ(コゴミ)
  • グミ類
    • アキグミ
    • ダイオウグミ
    • ナツグミ
    • ビックリグミ
  • コオニタビラコ
  • コケモモ
  • コシアブラ
  • ザクロ
  • サルトリイバラ
  • サルナシ
  • サンショウ
  • シオデ(「山アスパラ」の名称でも知られる)
  • シバグリ(野生の栗)
  • シャク
  • シュンラン
  • ジュンサイ
  • スイバ
  • スベリヒユ
  • セリ
  • ゼンマイ
  • ダイモンジソウ
  • タカノツメ(ウコギ科の木本植物で、トウガラシとは別)
  • たけのこ
    • チシマザサ(ネマガリダケ)
    • ハチク
    • マダケ
    • カンザンチク(大名タケノコ)
    • モウソウチク
  • タラノキ
  • タンポポ(ヨーロッパやトルコでは食材としてよく使われる。)
  • つくし(シダ植物のスギナの胞子嚢)
  • ツリガネニンジン(トトキ)
  • ツルニンジン(ジイソブ)
  • ツワブキ
  • トリアシショウマ
  • ナルコユリ
  • ニリンソウ
  • ニワトコ
  • ノカンゾウ
  • ノコンギク
  • ノビル
  • ノブキ
  • バアソブ
  • ハナイカダ
  • ハハコグサ(見た目のよく似たチチコグサは毛がない点で区別する誰がハゲやねん)
  • ハマダイコン
  • ハマボウフウ
  • ハリギリ(針桐)
  • ハルジオン
  • ハンゴンソウ
  • フキ/フキノトウ
  • ボタンボウフウ(長命草)
  • ホトケノザ(シソ科。キク科のコオニタビラコの別名でもある)
  • マコモ
  • マタタビ
  • マメガキ
  • ミツバ
  • ミヤマイラクサ(アイコ)
  • ミョウガ
  • ムベ
  • モミジガサ(シドケ)
  • モリアザミ(いわゆる「山ごぼう」。正式な和名が「ヤマゴボウ」となっている植物はほとんどが猛毒である))
  • ヤチブキ(成長したものは下痢などの症状を引き起こすことがある)
  • ヤブカンゾウ
  • ヤマグワ
  • ヤマドリゼンマイ
  • ヤマノイモ(別名は自然薯(じねんじょ))
  • ヤマブキショウマ
  • ユキノシタ
  • ユリワサビ
  • ヨブスマソウ
  • ヨメナ
  • 百合根(オニユリ、コオニユリ、ヤマユリ、スカシユリなどの球根)
  • リュウノウギク
  • リョウブ
  • ワサビ(根をすりおろして利用するのは栽培品である。天然物の根は辛いばかりで味が悪く、もっぱら葉を利用する。というか、現在は根の採取がそもそも禁止されている)
  • ワラビ



追記・修正はよくアクを抜いてからお願いします。

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最終更新:2025年07月12日 14:46

*1 木本・草本(樹木になるものか草か)の区別は考慮されない

*2 なお食用になる地衣類(菌類と藻類が共生した生物)のイワタケは山菜とみなされる

*3 あくまでもこの定義は暫定的なもので、わが国でのフキやジュンサイなどの栽培や中国でのナズナの野菜としての栽培、東南アジアでのアカザの栽培化などの例もある

*4 毒の有無はこの際関係ない。噛まれたところから細菌が入る危険性もあるからだ

*5 実際に山菜採りに行った際に殺人事件に巻き込まれた例がある。詳しくは『長岡京ワラビ採り殺人事件』で検索。ただし凄惨な内容が含まれているため閲覧注意。

*6 ただし、こちらも生では有毒

*7 前述の灰汁抜きをすればほぼ大丈夫だと思われるが、念のため灰汁抜き前にも水洗いすると万全である