トウガラシ

登録日:2025/03/19 Wed 21:02:45
更新日:2025/04/25 Fri 13:37:10
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トウガラシ(唐辛子)とは、香辛料用植物の一種である。

【科名】ナス科トウガラシ属
【学名】Capsicum annuum
【原産地】熱帯アメリカ
【生態】一年草



概要

熱帯アメリカを原産地とし、コロンブスによる新大陸発見を境に全世界に広まった。

大航海時代にヨーロッパに渡り、戦国時代の南蛮貿易により日本に伝来し江戸時代に普及した。
お隣の朝鮮半島へは16世紀末期に導入されており、そのルートは豊臣秀吉による朝鮮出兵の際に、日本軍の兵士が食料として持ち込んでいたものが広まったという説と、日本との交易が始まった際に持ち込まれたという説がある。

なお、和名には「唐」とあるが、先述の通り中国が原産というわけではなく、漠然と「中国もひっくるめた外国産の辛子」ということで「唐辛子」と呼ばれた。
方言の一つである「なんばん」もポルトガルやスペインを意味する「南蛮」に由来する。
ただ、「唐辛子」は「唐枯らし」に通じ、近世の日本において、当時貿易相手国であった中国(明・清)の衰退を連想させるので縁起が悪いとされたため、九州地方では「こしょう」と呼ばれた*1
現在も九州地方、特に福岡県には「こしょう」の方言が残っており、例として、調味料の「柚子胡椒」が挙げられる。

果実は先端のとがる細長い形状ないしは球形、巾着型や風船型などまちまちで、熟す前は鮮やかな緑色(品種によっては黒紫色)だが、熟すと「赤」「黄色」「オレンジ色」に変色する。
生でも利用できないことはないが、たいていは乾燥させて用いる。
また、ナス科の植物の中では珍しく葉を食用として利用することができ*2、「葉唐辛子」と呼ばれるものが流通することがある。

ピーマンやパプリカは本種の変種というべきものである。

なお、ピザやパスタのアクセントに使われる「タバスコ」や、沖縄料理で泡盛につけて調味料として利用される「コーレグース」は、植物学上は「キダチトウガラシ」(Capsicum chinense)という同属別種。


辛みの原因

さて、唐辛子といえば辛いものの筆頭といえる。
本種の辛みの原因は「カプサイシン」という成分によるものである。
「カプサイシン」はワサビやカラシナなど、アブラナ科の香味野菜に含まれる辛味成分「アリルイソチオシアネート」と同じように痛覚神経を刺激して辛味を感じさせるが、揮発性が高い「アリルイソチオシアネート」の辛味がそれほど時間をかけずに消えるものに対し、「カプサイシン」は数分は舌に残るような辛みである。

口や鼻にある痛覚受容体は「カプサイシン」で痛みを伴う刺激を受けた際、「口の中が傷ついた」と錯覚して脳に警告を発し、涙を出させる。
麻婆豆腐などを食べていると、だんだんと目頭が熱くなってくることがあるのは、脳がこの錯覚を受けているせいなのだ。
また、脳に運ばれた「カプサイシン」はアドレナリンの分泌を活発にさせ、発汗と動悸を促すため、ダイエットや新陳代謝に効果があるとされる。
ただし、多量に摂取し続けると胃や食道が炎症を起こしたり、舌がマヒして味覚障害を引き起こす原因になる。
最悪の場合、不整脈や心臓麻痺を引き起こして死に至ることもある。
いくら辛い物が好きだからといって、唐辛子で腹を満たすような食べ方をしてはいけないのである。

ところで、漫画でのギャグシーンでは、唐辛子の入った料理を食べた後、あまりの辛さに口から火を噴きながら大量の水を飲むのがお約束の描写となっている。
現実でも火はともかく水を飲むということは思わずやりたくなってしまうが、実はこれ、辛みを抑えるどころかむしろ舌中にカプサイシンを広げてしまい、逆効果になる。
というのも、「カプサイシン」は水溶性ではなく「脂溶性」、すなわち油に溶け出る性質を持っているためである。
また、牛乳に含まれるたんぱく質のカゼインや、クエン酸等とも結合しやすいという性質もある。
そのため、この舌に残る辛みを解消するには、主に3つの対策がある。
  • 脂肪分を多く含んだ食品を口にする。
  • 乳製品を摂取する。
  • 柑橘類を摂取する。
特にチーズは乳製品であるし、脂肪分も多く含んでいることから、唐辛子料理を食べた際にはうってつけの食材である。
インド料理店に行くとラッシーなどの乳酸飲料が出されることがあるが、これは辛みを抑えるのに理にかなっているのである。

なお、鳥類はカプサイシンの辛みを感じることが全くない。
これは、鳥類のものの食べ方に深く関係している。
トウガラシの辛さは哺乳類の小動物を避け、丸のみする鳥類にのみ食べてもらい、糞とともに種子を排出して分布を拡げるために進化を遂げてきたと考えられる。
トウガラシもまさかこんな毒のような刺激物を喜んで食べる変な哺乳類がいるなんて思ってもいなかったのだろう。が、結果その変な哺乳類に重宝されて種としての存続が安泰になったというのだからまったく刺激的な運命を辿った植物である。

近年は品種改良が進み、かつて「世界一辛い唐辛子」の称号を頂戴していたハバネロやブート・ジョロキアが裸足で逃げ出すほどの辛みを持つ品種が次々登場している。
特に「キャロライナ・リーパー」や「トリニダード・スコーピオン」などは蔕を持って料理にこすり付けるのが関の山で、それ以上は危険が伴うまでの辛さであると評されている。
アメリカで、度胸試しに激辛トウガラシを食してあまりの辛さに体調不良を起こして死亡した例もあるので、面白半分に試してはならない。
ついには、「キャロライナ・リーパー」や「トリニダード・スコーピオン」をも凌駕する、文字通り「最凶」の辛さを持つ「ペッパーX」が登場した…。
こちらは前者とは異なり、果実が黄色いのでそれほど辛くはないように見える。
しかし、口に入れてからほんのわずかな間で舌を焼き尽くすかのような辛みが襲い掛かるのだとか。

なお、トウガラシの辛さはスコヴィル(Scoville heat units、SHU)という単位を用いて表される。
スコヴィル値はトウガラシのカプサイシン含有量のをもとに算出する。*3
以下に、品種ごとのスコヴィル値を表にして記載する。


品種 スコヴィル値
ピーマン・ししとう 0SHU
鷹の爪、三鷹唐辛子 約40,000〜50,000SHU
韓国唐辛子 約20,000〜50,000SHU
タバスコペッパー 約50,000SHU
ハラペーニョ 約12,500SHU
ハバネロ 約100,000~350,000SHU
ブート・ジョロキア 約1,000,000SHU
キャロライナリーパー 約3,000,000SHU
ペッパーX 約3,180,000SHU

ちなみに純粋なカプサイシン結晶のスコヴィル値、すなわちトウガラシという植物の辛さの限界値は16,000,000SHUとされる。


利用法

食材

果実にはビタミンA・ビタミンBが豊富で夏バテ防止などに役立つ。

果実はその辛みを生かして、香辛料としてダッカルビ(タッカルビ)やチャプチェなどの炒め物、麻婆豆腐ペペロンチーノや蒙古タンメンなどの麺料理、キムチや鉄砲漬けなどの漬物、チリコンカーン、カレーライス、汁物など、幅広く使用される。
その他にラー油、豆板醤やコチュジャンBlair's Death Sauce/デスソースなどのトウガラシを使った調味料も数多くある。
また、果実が熟しても辛み成分が出ず、甘くなるものは野菜として利用される。
その代表選手的存在がいわゆる「ピーマン」や獅子唐である。
揚げ物や煮物、炒め物などに適する。
また、ハンガリーでは「パプリカ」という、辛みのない菊座型のトウガラシが栽培されていることがある。
こちらはわが国で栽培される野菜のパプリカとは別の品種で、果実を乾燥させて風味づけに用いるものである。

初夏には葉が野菜として出回ることがあり、佃煮にして食するとよい。
醤油の風味とピリリとしたトウガラシの風味が食欲をそそり、ご飯のお供やお酒のアテによい。

漢方の世界では熟した果実を乾燥させたものを「蕃椒(ばんしょう)」「辣椒(らしょう)」と呼んで用いる。
食欲増進、消化促進、筋肉痛や腰痛の改善、しもやけ予防などの効果がみられるという。

防虫剤

タンスなどの衣装箱に乾燥させた果実を入れておくほか、米びつに入れてコクゾウムシなどの虫が湧くのを防いだ。
現在でもスーパーマーケットや薬局に行けば「米唐番」なる防虫剤が販売されている。
乾燥させた果実だけでなく、生の植物体全体にも防虫効果があり、アブラナ科野菜やネギ類の近くに本種を植えて虫除けとすることがあるほか、果実を焼酎に付け込んでおいたものを生育途中の野菜に吹き付けることがある。

観賞用

トウガラシの品種の中には、観賞用になるものもある。夏から秋になると、お花屋さんやホームセンターで観賞用のトウガラシが販売されている。
その代表例が「ゴシキトウガラシ」と呼ばれるもので、先端のとがる球形の果実は赤や白、黄色や紫色など、まちまちに色づく。
また観賞用品種の中には未熟な果実や葉・茎が黒紫色になる品種(ブラックパール)や、果実の形状がUFO型になる品種、濃い緑色地の葉に黄色い斑が入る品種などがある。

魔除け

「トウガラシは魔を退ける力を持つ」という伝承は古くからアジア各国に存在している。
起源的なルーツははっきりしていないが、韓国か中国で生まれた伝承であり、それが日本に渡来してきたものと考えられている。
ちなみに退魔の由来はその発色の良い赤色。
赤べこと同じである。

トウガラシを飾りとして飾っておくと、いわばドライフラワーのようなものなのでどうしても欠けたり崩れたりしてしまいやすい。
しかし、それはその分、災難の身代わりになって守ってくれた証であるともされている。
韓国ではこの伝承が特に厚く信じられており、お土産屋さんにはだいたいどこにでも、ガラスや布・プラスチックで出来た小さいトウガラシ飾りやキーホルダーが売られている。
本当に韓国ならどこででも売っている。


トウガラシがモチーフ、あるいは何らかの関係があるキャラクター

ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』より登場したポケモンの一体。
名前はスコヴィル値に由来。
彼らから抽出された辛味成分は作中世界で食用とされている。

東ハト社より販売されている激辛スナックのイメージキャラクター。
ハバネロと古代ローマの暴君ネロをかけたネーミング。

  • 魔王ジョロキア
暴君ハバネロと同じく東ハト社より販売されている激辛スナックのイメージキャラクター。
ジョロキアとは世界一辛いトウガラシを指す。
ハバネロとはライバル関係にある。

  • バーニングネロ
仮面ライダーガッチャード』に登場したプラントケミーの1体。
アニマルケミーのゴリラセンセイと組み合わせる事で、ガッチャンコ形態の仮面ライダーガッチャード バーニングゴリラに変身する他、ケミーライザーに装填する事で強烈な激辛成分を噴射可能。

カービィのコピー能力の1つ。『カービィのグルメフェス』では、唐辛子のようなコピーフード「バーニングペッパー」を食べることでバーニングカービィになることができる。

ヨッシーストーリー』にトウガラシが登場する。ただしヨッシーは苦手であり、食べると不味そうなリアクションと共に体力が減少する。隠しキャラである黒ヨッシーと白ヨッシーは苦手がないので食べても体力は減少しない。

前身の「竜の爪団」が壊滅後に再建された秘密結社。
「獰猛な猛禽類の爪で世界を鷲掴みならぬ鷹掴みにする」という由来でつけられた組織名だが、イメージカラーがであることもあり、唐辛子の品種「鷹の爪」と被ってしまった。
主要な構成員たちは組織名が唐辛子の品種と被っていることを知るまで10年かかったらしいが、めげずに某社の唐辛子入りの辛いラーメンとコラボしたりしながら活動している様子。



追記・修正は唐辛子の辛さで体中から汗を吹きだしながらお願いします。

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最終更新:2025年04月25日 13:37

*1 当の南蛮人が胡椒と同一視していたため。現代でも英語のpepperや中国語の辣椒などを思い浮かべてもらえばわかるだろう。

*2 ナストマトジャガイモは葉に「ソラニン」という成分が含まれるため、その部分を食用にはできない

*3 かつてはトウガラシの抽出物を砂糖水で希釈して複数人に飲ませ、辛さを感じなくなった際の希釈倍率をスコヴィル値としていた。ただしこの方法は検査結果が被験者の主観に依存する為、現在は純粋なカプサイシン結晶のスコヴィル値を予め定め、それを基準として算出する方法に変わっている。