ミミック(映画)

登録日:2024/11/07 Thu 20:49:06
更新日:2025/02/01 Sat 15:47:35
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遺伝子が、泣き叫ぶ。


【ミミック】

『ミミック(原題:MiMic)』は、1997年8月に公開されたSFホラー・モンスターパニック映画。
ギレルモ・デル・トロ監督作品。*1
日本では1998年1月に公開された。

ミラ・ソルヴィノ主演。

【概要】

日本のSFアニメ好きにも刺さる実写映画作品を生み出し続けてくれている、ニッチな名匠ギレルモ・デル・トロによる骨太SFホラー作品。
『追憶売ります』の編集等で知られる、SF作家ドナルド・A・ウォルハイムの短編を原作とする。

低予算・B級になりがちなモンスターパニック系映画の中では例外的に高い予算を掛けられた大作映画である。
……しかし、公開当時には元々の予算が潤沢だったことも手伝ってか、採算的にはスマッシュヒットに留まっている。
とはいえ、豪華スタッフに支えられた練り込まれた世界観と美術・VFXのレベルの高さから、昔からの一定以上の評価を受けているモンパニ映画の傑作の一つである。

セブン』以降、引っ張りだこになっていたカイル・クーパーによるOPにも注目。


【物語】

近未来のN.Y.━━

マンハッタン地区にて、ゴキブリを媒介して蔓延するストリックラー感染症が発生して猛威を奮い、抵抗力の低い大勢の子供達が犠牲となった。

2年を費やしても有効な治療法を見つけられなかったCDC(アメリカ疾病予防管理センター)は、別方向からのアプローチとして媒介源のゴキブリを絶滅させるレベルで駆除する策は無いかとの意見を昆虫学会に出す。
それに応えた美貌の昆虫学者のスーザン・タイラーは、現場の悲惨さを見てそれに応えることを了承。
遺伝子学にも明るい彼女は全国の遺伝子工学研究所の協力を得て、ゴキブリの絶対的な天敵として“近縁種であるシロアリとカマキリの遺伝子を組み合わせた新種の昆虫”を生み出し、これに天然自然への反逆者━━ユダの血統(Judas Breed)と名付け、ゴキブリ達が巣食う地下鉄坑内へと放ったのだった。

“ユダの血統”の効果は絶大で、僅か半年という短期間でマンハッタンのゴキブリの数は激減━━。
ストリックラー感染症の恐怖から人々は解放された。

……しかし、神の設計した遺伝子は人間に支配されることを良しとしなかったとでも言うのか、新種の生命を生み出すという禁忌を断罪するかの如く、逆襲を開始しようとしていたのだった。


【主要登場人物】

※吹替はソフト版・テレビ東京版の順番。

  • スーザン・タイラー(マン)
演:ミラ・ソルヴィノ/吹替:相沢恵子/魏涼子

美貌の昆虫学者。
遺伝子工学にも詳しく、3年前にCDCの協力依頼を受け入れて“ユダの血統”を生み出してストリックラー症候群の沈静化したことで市から表彰を受けている。
事件を通してピーターという伴侶も得たのだが、子供を授かることを望んでいるのに3年が過ぎても上手くいっていないのが悩み。
更には、誰よりも尊敬する恩師であるゲイツ博士からは自然界の法則を歪めるような選択をしてしまったことで半ば破門されてしまっており、そのことは聡明なスーザン自身も痛感している部分である。

ある日のこと、小遣い目的でスーザンの所に珍しい虫を見つけたと言って近所の悪ガキ達が持ち込んできたのは、本当に“奇妙な虫”だった。
スーザンにとっても見たことがない筈なのに、彼女にとって見覚えのある酵素を吐き出す、未だ幼体の奇妙な虫を調査する為にスーザンが引っ張り出してきた資料は、あの“ユダの血統”のものだった。

“ユダの血統”が生き延びていた可能性に気づいたスーザンは、ピーターや助手のレミーと共に調査を開始。
やがて、進化を早める操作をしていたことで創造主達にとっても全く予想だにしない領域にまで進化していた“ユダの血統”と再会することに。

  • ピーター・マン
演:ジェレミー・ノーサム/吹替:宮本充東地宏樹

CDCにて働いている青年科学者で、伝染病や疾病対策の担当官としてスーザンとコンタクトを取り、ストリックラー症候群の根絶にも最前線で立ち向かった。
その経験を通してスーザンと恋に落ち、事態の収拾の後に結婚した。
3年後の現在もCDCで働いているが、その仕事の中で奇妙な失踪事件に遭遇。
そして、スーザンから“ユダの血統”が生き延びている可能性を知らされて調査を開始する中で、その両方の事件が繋がっていることを知ることになる。

  • ジョシュ
演:ジョシュ・ブローリン/吹替:藤原啓治高木渉

CDCの調査員で、ピーターの下で働いている青年。
ピーターと共に地下鉄の調査に入るも、レナードのやらかしで2人と分断されることになりイヤイヤながら地上を目指す羽目に。しかし……。

  • レナード
演:チャールズ・S・ダットン/吹替:玄田哲章内海賢二

口喧しく厳しい(だけの)鉄道保安員。自分には割と甘い。
長く勤めている間に詳しくなったのか、趣味が高じて今の仕事に就いたのかは定かではないが(恐らくは後者)、かなりの地下鉄路線&車両…etc.マニア。
勝手な調査を進めていたスーザンとピーターを見咎めて追い出しており、その後に正式な許可を取ってから再調査にやって来たピーターとジョシュにも同行した。
知らなかったとはいえ、調査中に“ユダの血統”の幼虫を殺してしまったことをきっかけに古い路線が広がる地下の地下まで落ちることに。
当初は能天気で空気を読まなかったり、尊大な性格もあってかピーターとも衝突してばかりだったのだが、マニーとスーザンと合流したあたりで“ユダの血統”の成虫に遭遇。
足に重傷を負ったときにはパニックになりスーザンとヒーターを責めたものの、地下空間で“ユダの血統”が繁殖している事実を認めた後は知識を活かして脱出に協力する。

  • チューイ
演:アレクサンダー・グッドウィン/吹替:豊嶋真千子/矢島晶子

靴磨きのマニーの孫。
恐らくはサヴァンの傾向があり、歩く音を聞いただけで、その人物が何の靴を履いているのか判別可能で、足音を手にした2つのスプーンで再現することが出来るという特技を持つ。フィギュア作りの才能もあり。
雨の日に外から聞こえてきた黒いコート姿の“変なおじさん”の奇妙な足音を記憶していたことがきっかけで、後に彼等のエリアまで踏み込んだ後に仲間と思われて餌ではなく仲間として拐われてしまう。


  • マニー
演:ジャンカルロ・ジャンニーニ/吹替:阪脩/坂口芳貞

長らく、N.Y.の地下鉄駅構内で仕事をしてきた靴磨き職人。
独特の価値観の持ち主で、たった1人の肉親であるチューイの個性を尊重し、2人だけで世俗から切り離されたような生活を送っている。
ある朝に、普段は早起きのチューイが起きてこないことから直ぐに異変に気づき、地下鉄の地理に詳しかったこともあってか独自に地下まで降りてきてスーザンを発見。
彼女を救い、ピーター達と合流するきっかけを作った。
“ユダの血統”の存在を目の当たりにした時にはチューイが見つかっていなかったこともあってか狼狽えてスーザン達を責めたものの、その後は彼等の知識を頼りにチューイを探す。

  • レミー
演:アリックス・コロムゼイ/吹替:麻丘夏未/芝原チヤコ

スーザンの助手。
初登場時には“新しく出来たBFに睡眠薬を盛られていたのを目撃したことで速攻で別れてやった”のを理由に大泣きしながら自撮りしていた。
プライベートではバンド活動しているなど、派手な見た目で何処となくエキセントリックな所があるが顔が広く度胸があり有能で、バンド仲間(ベース担当)で下水道作業員のジェレミー(演:ノーマン・リーダス)が“ユダの血統”の死骸を見つけた時には、スーザンが頼みにくいであろうゲイツ博士への検体依頼を引き受け、真正面から頼みに行っている。
後の続編である『MIMIC 2』にも登場し、ヒロイン枠へと昇格した。

  • ゲイツ博士
演:F・マーリー・エイブラハム/吹替:江角英明/家弓家正

スーザンの恩師。
昆虫学の権威で、スーザンが“ユダの血統”を作る前も、作った後も認められないと語る一方で、孫の命は救われた━━として複雑な心境を語っている。
よりにもよって昼飯時にレミーから下水道で見つかった“ユダの血統”の死骸を持ち込まれたが、直ぐに検体に応じてくれていた。

  • デービス
演:ジェイソン・バーンウェル/吹替:石田彰/喜田あゆみ
  • リッキー
演:ジェームズ・コスタ/吹替:津村まこと/亀井芳子

スーザンに虫を買い取りに来てもらったことで知り合いになった悪ガキ達。
普段から地下鉄構内に出入りしているらしく、彼等が持ち込んだのが進化した“ユダの血統”の幼虫であったことからスーザンとピーターは異変に気づくことに。
駅から更に地下に降りる道を教えてもらった時点で帰ってもらったつもりだったのだが、更にスーザンから小遣いをせびろうと欲を出したことで……。
ハッキリと映されている訳ではないものの、普通に子供が犠牲となる場面なので襲われるシーンは苦手な人は注意。


【ユダの血統】

スーザンがゴキブリの効率的な激減計画の為に、ゴキブリと同じ網翅目*2に属するシロアリとカマキリを遺伝子工学により合成させて作り上げたゴキブリの天敵
シロアリの高い社会性とカマキリの絶大な攻撃性を併せ持っており、更に代謝を意図的に高める操作もしたことで瞬く間にゴキブリを駆逐し、僅か半年でストリックラー症候群の蔓延を止めてしまった。

……元々は高い代謝もあってか寿命が180日と約半年で自滅するように仕向けられており、実際に生み出されたのも♂ばかりの筈━━であったが、モンパニ映画で用いられるお馴染みの理論により♀化するエロゲ脳の♂が現れたことで *3交配により次世代が誕生し、その後は♀ばかりが生まれるシロアリの群体方式でたった三年で数百世代もの突然変異を重ね、遂には哺乳類のような肺*4を備える成人男性サイズの巨大昆虫にまで進化した。

また、虫類が自分の捕食者に擬態して餌になるリスクを減らすという特性も発現しており、自分達の捕食者と成り得る人間に擬態することで巧みに身を隠しながら生息地域を広げていた。

そのため、虫の癖に後脚のみで立ち上がっての二足歩行も可能で、一見すると黒いコート姿の成人男性に見える姿*5に化けて地上まで餌を探しに出るまでになっていた。

……そうした設定を抜きにしても虫系のモンスター(クリーチャー)としては単純にカッコいいのは注目のポイントで、流石はギレルモ・デル・トロ。
細身で鎌を備えていて羽根がデカくて……と、ある種の期待通りの見た目というか。
擬態を解くシーンも擬態というよりトランスフォームだし、予算があるだけにいっぱい出てくるわで、中盤以降は本当に危険がアブないのが伝わってくる。

また、昆虫特有の痛覚が無いが故のしぶとさと頑丈さと、それに反する付け根部分の脆さも確りと描写されており、未見のモンスター(クリーチャー)好きにもオススメしたい作品である。

シロアリと同じ社会性ということで、交配により種を繁殖させる能力を持つのは一匹の♂のみで、その♂のみは羽根が無くて体色が白い。一応は今回のラスボス。


【続編】

  • 2001年に『MIMIC 2』が、2003年に『MIMIC 3』が製作されているが、何れもビデオスルー作品であり劇場公開はされていない。
    そのためか、初代よりもあからさまに予算が減ってしまっているのを嘆く声はあるものの、生き延びていたという設定で登場する“ユダの血統”の新たなる進化の方向性を描いていることについては評価する声も。




追記修正は変な足音のおじさんに付いていかない、よい子の皆さんのみ、お願い致します。

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最終更新:2025年02月01日 15:47

*1 なお日本公開当時は「ギジェルモ・デル・トーロ」表記だった。

*2 映画公開当時の分類。現在ではより細かくゴキブリとシロアリはゴキブリ目・カマキリ目と分け、それらを引っ括めて網翅上目という一つ上の階級のグループとしている。

*3 冗談めかしているが、子孫を残す為に生物が♂から♀(或いは♀から♂)に性転換するケースは実在する。代表的なのはクマノミなどである。

*4 昆虫をはじめとする節足動物は全身に気門という小さな呼吸孔を持ち、そこから酸素を取り入れることで呼吸する為、体が小さいほど全身に酸素が行き渡りやすくエネルギー効率が良い。対して人間のような脊椎動物は口・鼻から取り込んだ酸素を肺によって全身に行き渡らせる為、昆虫の気門よりも更に大量の酸素を取り込んでエネルギー変換しやすく、体を大型化させやすい。

*5 明るい場所では一発でバレる程度の擬態ではある為、地下鉄や下水道などの屋内、深夜の路地裏などの屋外で孤立した人間を捕食していた。