あたしは日野下花帆、きょうから蓮ノ空女学院の一年生!
地元を離れて、大都会、金沢市にやってきたの!
この春から、あたしの新しい物語が始まるんだよ!
あたしの夢を阻むものは、なんにもなし!
あたしはここで、花咲くんだよ!
『リンクラ』の物語は、始業式の蓮ノ空女学院へと向かうバスの中、
かの初代主人公のそれを思わせるような花帆のモノローグで幕を開ける。
……ただ、かつてのそれと大きく違うのは───
厳密にはモノローグではなく実際に声に出しての独白だったこと、そしてその独白を
たった今見知ったばかり、全く初対面であるはずのさやかに聞かせていたこと。
ともあれ、「自由」に強く憧れ、親の干渉のない環境で自由に羽を伸ばせる場所を求めて蓮ノ空にやって来た花帆。
実家から離れて生活できる学校の中で両親が唯一認めたのが蓮ノ空だったために努力して入学したのだが……
ええと……乗り過ごして、とんでもないところに来ちゃった?
いいえ。
こちらが……蓮ノ空女学院です。
な───、
なんで山の中にあるの〜〜〜!?
そこは、花帆の想像していたような「都会のキラキラな高校」からはかけ離れた場所だった。
寮の説明会で寮母から聞かされたのも、規則、規則、門限、制限……。
期待していた高校像とのあまりの落差に、この学校では「花咲く」=好きなように生きることができないとしばし落ち込んでいた花帆だったが……。
あたしにはあたしの道が、無限の未来が待ってるんだから。
そのためには、まずは学校を───
脱走だ!
あたしは自由になるんだ!いくぞー!
……しかし、入学2日目にして決行された花帆の脱走劇は、案外あっさりと終わりを迎えることとなる。
それは裏山に潜んでいた「おそろしい生き物」───その正体はただのカワウソ、だったのだが──に驚かされて逃げ帰ってきた、というオチがついてのものだったのだが。
しかし、そうして逃げてきた先で花帆は梢と出逢うこととなる。
……なるほどねえ。
つまり、自由がほしくて脱走をした、と。
梢は新入生が脱走未遂を起こした経緯について訊き出しこそすれ、あえてとやかくは言わなかった。
それは、目の前の彼女が思い悩んでのことだと察してのことでもある。
そんな彼女に、梢はひとつ誘いをかける。
せっかく暇しているんだったら、もうひとつ、
お願いを聞いてもらってもいいかしら?
あなたの知らない世界を見せてあげる。
梢は、この学院にある「スクールアイドルクラブ」のメンバー……すなわち、スクールアイドルだったのだ。
ステージに立つ彼女の姿は、花帆の言葉を借りるなら───間違いなく、「花咲いて」いた。
こんな世界、知らなかった……。
センパイ、すっごく輝いてた……。
それに比べて、あたしは……。
彼女の放つ「光」に照らされたことで、花帆はかえってその「影」を浮き彫りにされてしまったように感じてしまう。
どんな学校が、っていうか……。
たぶん、どういう風に過ごしたかったのか、だと思うんです。
花帆はただ、キラキラな都会っ子らしい……「楽しい」高校生活に憧れていた。
しかし、蓮ノ空は花帆が期待していたような高校ではなかった。
ここでは、花帆が夢見たような高校生活は送れない……だが、それはもしかすると、花帆がそう考えているだけで、蓮ノ空でだって「花咲く」方法はあるのかもしれない。だって目の前のセンパイは、こんなにも……。
その「影」をも、梢は見抜いていた。
ねえ、だったらこういうのはどうかしら。
日野下さんがその子のために、この学校を楽しくしてみせる、っていうのは。
花帆はそんなの無理だ、ととっさに否定してしまう。
しかし、どうして?と訊ねるその曇りなき眼には、何も言い返すことができなかった。
押し負けた花帆は、せめて「お手伝い」から……ということにして、しばらくの間梢のマネージャーという名の体験入部をすることになる。
……なんでだろ。
虫の鳴き声しか聞こえないような、
そんな山奥の学校なのに。
こんなの、あたしが夢見てた世界と
まったく違っているのに……。
そうこうしているうちに、次のライブがもう明日にまで迫ってきていた。
そしてそのライブの日は───ずっと花帆が悩んでいた、他校への転入届の締切日でもあった。
進むか、戻るか───どちらにも決心が付かず浮かない気持ちのままでいると、梢は次のライブについて、予想だにしない提案をしてきた。
だったら、出てみる?
えっ!?
じょ、冗談、ですよね?
そうね。
でも冗談かどうかは、あなた次第。
梢は花帆と過ごしたここ数日間を振り返りながら、花帆に問いかける。
これまでたくさん手伝ってくれていたのは、ただの親切だけ?と。
私はね、あなたの胸の内に、
強い気持ちが眠っているように見えたわ。
今にも飛び出したくてうずうずしている、そんな気持ちが。
だけど、私にできるのは、ここまで。
ここから先は、あなた自身が踏み出さなければ、
始まらない物語なの。
花帆は「友達の話」という体にしながらも、今の自分の正直な気持ちを梢に打ち明ける。
そんな花帆に梢が聞かせたのは、スクールアイドルになりたいという希望を音楽一家である実家に猛反対されてしまったという、自分の話。
彼女が活動を認めてもらうために選んだのは、正面から話し合ったこと。
もし親の反対を押し切ってスクールアイドルを続けていたら、
それはきっとどこかで、親に反発するための活動になっていたから。
それが本当に私のやりたかったことだとは、
思えないの。
───!
その言葉は、今の花帆にも刺さるものだった。
その言葉で目が覚めた。
あたしが、ほんとはどうすればよかったのか───!
あたし、花咲きたい。
だけど、諦めてた。
この学校じゃムリだって、ここは日の光も差し込まない日陰なんだって、
勝手に思い込んでた。
でも……ほんとは、違うのかも!
星の光でも咲く花はあって、
まっすぐに手を伸ばせば、きっと!
好きってその気持ちだけで、
どこでだって花咲けるはずなんだ!
光を、雨を、風を、待ってるだけじゃない!
あたしはあたしの力で、咲いてみせる!
あたし、決めた。
あたし───もう、逃げないから!
ついに、スクールアイドルクラブへの正式加入を決めた花帆。
そして、蓮ノ空を「楽しい学校」にするために、まずは学院にショッピングモールを誘致することを当面の目標にするのだった。
……あれ?
ともあれ、蓮ノ空のスクールアイドルとして活動することとなったことに加え、
いきなりながらもデビューライブも成功を納める。
そんな彼女に、梢は「自分自身の楽しみを見出すところから始めてほしい」とアドバイスを送る。
だったらあたし、やりたいこと、もう決まっています!
ライブです!ライブがいっぱいやりたいです!
そう言って、梢の教えた通りに花帆はライブ会場として中庭を借りてきた。
……一週間分、毎日。
ライブが『いっぱいやりたい』って言うのは、
とにかくいっぱいやりたいって、
そのままの意味だったのね……。
さしもの梢も花帆がここまでするとは思わず困惑するも、一度は学校を辞めようと真剣に考えていた彼女がここまで夢中になれるものを見つけられたことはいいことだと考え、……そう自分自身を納得させようとして、ひとまずは見守っていた。
そんなある日、花帆はさやかから「スクールアイドルコネクト」なるアプリのことを知る。
さっそく自分も使ってみることにした花帆だったが、持ち前の物怖じしない心で配信や動画撮影にも適性を見せる。
しばらくはそうして色々なものに目を輝かせ、目の前のものに夢中でいられた花帆だったが……ふと、さやかとの会話の中で彼女のチャンネルを覗くうち……彼女のチャンネルが人気を得始めていることを知る。
そしてそれ以上に花帆が気になったのは……。
さやかちゃんって、……もしかして……
なんか、ダンス、すごい……?
さやかの練習動画を見ているうち、花帆の心にはにわかに不安が募ってゆく。
───まわりと比べて、どうなんだろう?
さやかと別れ、ひとり自室で自分の動画と見比べてみる。
ダメダメだぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!
さやかとのクオリティの違いだけではない。
隣で踊る梢のダンスと、まるで動きが合っていないのだ。
今まで自分はこんなパフォーマンスを人前に晒していたのかと、ふと冷めて客観的に見直した途端に恐ろしくなってしまった。
次の日、花帆は真っ青な顔で梢に泣きつく。
しかし梢はそんな花帆を、あの日のライブは素敵なものだったと宥める。
もちろん、単なるお世辞やその場凌ぎの言葉などではなく、本心からのもの。
それはね、あなたが本当に心からスクールアイドルを楽しんでいることが、
伝わってくるからなの。
そのまっすぐな気持ちは、誰だって持っているものじゃないわ。
あなたの笑顔が、弾む声が、内から湧き出てくる情熱が、
見ている人の心を打つから。
……だが、花帆はもうその言葉だけで納得できるような心境ではなくなってしまっていた。
ただ自分が楽しいだけじゃなくて、人に見せられる……みんなを楽しませられるライブを。
……もっと上達したい。その気持ちが、花帆の中に芽生えていた。
言いましたよね、梢センパイは。
大変なことも多いけど、でも楽しんでやっている、って。
お願いします、梢センパイ!
あたしにも、センパイのやり方を教えてください!
あたし、楽しいだけじゃなくて……。
すっごくすっごく!楽しいライブがしたいです!
かくして梢の指導方針の元で努力することを決めた2人。
手始めに梢は、1週間後に行われる、市内の大きな大会を当座の目標としてセッティングする。
自分の「ダメダメさ」を思い知ったばかりの今、たった数日後のスケジュールには気が引けたものの、梢の方法でやると決めた以上花帆も腹を括る。
それからというもの、梢のもとでみっちりとしごかれる日々が続く。
その中で、梢がスクールアイドルに憧れる理由……彼女のスクールアイドルにかける想いの強さ、蓮ノ空を大切に想う気持ちを知ることとなる。
彼女や綴理はもちろん、さやかも頑張っている中で、未熟なままの自分が足を引っ張りたくない。そう思いながらも、現状の特訓メニューでさえ梢が限界ギリギリを見極めてセッティングしている。
目の前の課題を一つ一つこなしてゆくしかないことにもどかしさを感じていた。
そんな日々の中、花帆はその頑張りぶりが評価されてか、いつの間にかスクコネで注目を集めていた。
梢もまた、花帆のそんな頑張りに応えたい、と伝統の衣装でステージに立つことを提案する。
……しかし、梢の語る「伝統」への想いを知ってしまったがゆえ、花帆にとってはその提案はプレッシャーとして映ってしまう。
梢やスクコネのファン達が向ける期待と、花帆自身が考える「今の実力」はまったく釣り合っていなかった。
花帆にとっては実力以上の期待が次々と自らにのしかかっているように感じられ、その気持ちに応えたいと思うばかりに、花帆は梢に定められた以上の自主レッスンを自らに課すようになってしまっていた。
完全なオーバーワークである。
その結果、花帆はライブ前日、脚に怪我を作ってしまった。
そのうえ、症状を過小評価した花帆は怪我を無視して本番に出ようとするが……。
ステップ踏んで、一歩を大きく……!
日野下さん?
ここで勢いつけて、ターン───。
───あっ。
───!
日野下さん!
ステージ裏でイメージトレーニング中、例の怪我に足を取られ躓きかけた花帆をとっさに梢が庇った結果、彼女に怪我を負わせてしまうこととなる。
あたし……自分のせいで、いろんな人の期待を、裏切っちゃった……。
やっぱり、花咲くなんて、あたしにはムリなのかな……。
……ぜんぶ、だめにしちゃったよ……。
失意に暮れる花帆の様子に気付き、何があったのかと心配するさやか。
一通りの事情を花帆から聞くと、決して責めることはせず、逆に自分自身を責める花帆を宥める。
自分自身が楽しむことよりも、先輩やみんなの期待に応えようとしたこと。
そのために慣れない朝練や特訓を頑張って、その上自主練まで。それは誰にでもできることではないと。
話を聞いてもらったことで少し落ち着いた花帆は、部室に戻るとスクールアイドルノートを発見する。
ふと気になってめくると、そこにあった書き込みは……今の自分の置かれた状況と瓜二つだった。
……このノートが今の代まで続いているなら、もしかすると梢の書き込みもあるのかもしれない。
ふとそう考え、花帆は最新のノートを探すことにした。果たして、探していたものを見つけるのにそう時間はかからなかった。
そのノートに書き込まれた、梢の真意を知った花帆は……。
あたし……。このまま逃げてちゃ、本当にだめになっちゃう。
そんなの、やだ。
来るラブライブ!北陸大会に向けて、各々気合を込めて練習・調整に励んでいたスクールアイドルクラブ。
しかし、そこへ沙知が血相を変えて飛び込んでくる。
く、詳しいことは部室で話すよ。大変なことになっちゃったんだ。
このままだと、来年度以降スクールアイドルクラブが活動できなくなる!
沙知が持って来た悪い知らせは、来年度以降「ネット禁止令」が施行されるかもしれないというものだった。
蓮ノ空の運営に携わる大人たちの中には、ネットを容認する派閥と規制すべきとする派閥とが年々鬩ぎ合っており、今回規制派が優勢になってしまったようなのだ。
現任の生徒会長である沙知がいる限りは彼女が抵抗してくれるが、それも12月末の任期満了まで。それ以降に就任する生徒会長がどのような方針を示すか未知数である以上、どうなるかわからない。
もし沙知の懸念が現実のものとなってしまった場合、活動の多くをスクールアイドルコネクト───ネット活動に割いているクラブにとっては致命傷になる。
あの、生徒会長!だったらあたしたちも、お手伝いさせてください!
スクールアイドルクラブのピンチを、
黙って見過ごすなんてできません!
立ち上がった花帆の言葉は、クラブ全員の総意でもあった。
6人は試行錯誤の末、「蓮ノ空が芸術を重視する学校である以上、『ネットを活用した芸術』で結果を残せば認めざるを得なくなるはず」という結論に至る。
すなわち───スクールアイドルコネクトを活用したオンラインライブ。
ラブライブ!北陸大会を優勝して、学校の『ネット禁止令』を撤廃する。
ずいぶんシンプルな話になったわね。
そうして各々のユニットが「オンラインライブでしかできないこと」を模索する中、花帆はかつての配信を振り返りながら「ネットが使えない」ということがどういうことなのか考えていた。
未熟だったことから、自分のことを応援してくれていた多くのファン。
ネットが禁止されてしまえば、彼らに会うことも、応援を受けることもできなくなってしまう。
だからこそ、やはりスクコネは───ネットは、スクールアイドルにとって欠かせないものなのだ。
改めてその存在の大きさを実感する。
しかし───「その日」は突然、あまりにも早く訪れた。
というわけで───。
───本日から蓮ノ空女学院では、ネットが禁止となりますので。
沙知の話によれば、件の『ネット規制派』がかなり強引な手を使ったのだそうだ。
ならば今回の事態には、容認派は少なからぬ不満を抱いているはず。
すなわち、これは「ネット規制は間違いだった」という事実を突きつけることで状況を好転させるチャンスでもあるのだ。
だけど……そのためには大きな実績が必要だ。
盤面をひっくり返すほどの大きな実績、それは───。
───ネット配信で、北陸大会突破。
やることは、これまでと変わらない。
ただ学校でネットが使えない以上、学外にステージを設けて配信することになる。
そのためのステージ探しをし始めるクラブ一同だったが───状況はさらに悪い方向へと傾いていく。
ネット禁止の次は、外出禁止令。
ステージを探すための外出許可すら、厳しく制限されてしまった。
このまま、ネット禁止令が続いたら……
ずっと、続いたら……
あたしたちのやってきたことって、どうなっちゃうんだろ……。
みんな、あたしたちのこと、忘れちゃう……?
花帆の胸中に、にわかに焦燥感が募り始める。
いても立ってもいられず、花帆は学院の外へと駆け出そうとした。
だが……春には簡単に出られたはずの、裏山に抜けるフェンス。
あの頃よりもずっと強く成長したはずなのに、今の花帆にはとてつもなく高い塀のようだった。
外に……出られない……。
昔と、おんなじ……。部屋の窓から、
外を眺めることしかできなかったあの頃と、おんなじ……。
きれいで、おっきな花を咲かせるはずなのに……。
誰にも見てもらえないなんて、そんなの、やだよ……。
外に出られない。
ネットが使えない今、外に助けを求めることもできない。
そうこうしているうちに、「外」の人たちは他のスクールアイドルへと流れていってしまう。蓮ノ空以外にも、魅力的なスクールアイドルはいくらでもいるのだ。
募る危機感に追い詰められ、花帆はパニックに陥ってしまう。
そこに偶然現れたさやかは、泣きつく彼女を安心させようと、花帆が見たがっていたものを見せる。
それは、スクコネの配信コメント。
直前まで花帆が開こうとしていたものの通信制限で止まっていたロードを、さやかのスマホにテザリングで繋ぐことでどうにか一瞬だけ拾えたのだ。
そこには、花帆たちの配信を今も待っているファンの声が刻まれていた。
忘れてなど、いなかったのだ。
そして、たった今さやかが自分にしてくれたことから、完全に手詰まりにも思えた「配信ライブの実現」にも花帆は一筋の光明を見出していた。
そう───データ通信量が足りないなら、みんなから分けてもらって集めればいい。
ここに、蓮ノ空スクールアイドルクラブきっての大作戦『テザLink!ライブ』が始まるのだった。
そうして北陸大会を文句なしの優勝で破り、蓮ノ空は全国大会への切符を手にする。
懸案の「ネット禁止令」も、無事に撤回させることに成功した。
しかし───
そこは、夢のおとぎ話のような場所でした。
光が瞬くように。星が流れるように。
すべては、あっという間の出来事で。
だから、今でも。
実感が、わいてこないのかもしれません───。
全国の壁は、あまりにも高いものだった。
去年は結局、辞退をしてしまったから。
みんな、初めての経験なのよ。
ラブライブ!の舞台で、敗退するのは。
上述のモノローグの通り、花帆にとってはあまりに呆気なく過ぎ去ってしまった出来事で、「負けた」という実感すら湧いていなかった。
しかし、それぞれに事実と向き合う仲間達の姿に梢と一緒に触れていくうち、花帆も徐々に自らの気持ちに気付きはじめる。
それでもその気持ちを吐き出すまでには至れなかった花帆に、梢はギターを一曲聴かせる。
『水彩世界』。
思えば、ふたりが出逢って間もない頃───まだその曲に名前がついていなかった頃も、同じように花帆に聴かせたものだ。
梢が、花帆をスクールアイドルとして招き入れるため、彼女を想って弾いた曲───
……。
センパイ、どうして。
どうしてあたしだったんですか?
梢センパイだったら、他にももっといい人が……。
この子となら、きっと、ラブライブ!を目指せると思ったの。
あるいは……
この子と一緒に、ラブライブ!を目指したいと思ったのよ。
しかし……花帆は、そのラブライブ!のステージで結果を残せなかった。
梢の期待に、応えることができなかった。
自然と浮かぶ涙を、梢は優しく拭う。
花帆さん、あなたは私の期待以上に、がんばってくれたわ。
最初はずっと朝練も嫌がっていたのにね。
楽しそうにライブをするあなたの笑顔が、好きよ。
一緒だから、私もこんなに毎日がんばれているの。
あなたがいてくれて、よかった。
気持ちを吐き出しきることができた花帆は、部室を後にしようとする。
しかしその時、花帆は梢の涙を見てしまう。
その涙を隠そうとした彼女に、今度は自分の番、と一歩踏み出す。
でもあたし、聞きたいです。
センパイがどうして泣いているのか。
あたしじゃ、だめですか……?
問うた花帆に梢が語った、ずっと胸に秘めてきた気持ち。
『ラブライブ!で優勝する』という、誰よりもハッキリしているからこそ逃げ道のない、それが果たされるまでは決して叶うことのない夢。
その夢に後一歩まで来ていながら、届かなかったのだ。その結果が堪えていない筈がない。
いまようやく、花帆は梢の抱えてきた夢……そう名付けられた荷物の「重さ」を、真に理解した。
その重さに一瞬だけ逡巡するも、それでも彼女は誰より敬愛する先輩へと歩を進める。
───優勝しましょう!
だったら、優勝しましょう!
来年こそぜったい、梢センパイの夢を叶えましょう!
今度こそ、あたしたちでセンパイの夢を叶えましょう!
どうして……。
そんなの、決まってます。
あたしをスクールアイドルに誘ってくれたのは、梢センパイです。
花咲きたいっていうあたしの夢を、最初に助けてくれたのは、
梢センパイなんです。
あたしはこれからもずっと、
梢センパイに笑っていてほしいんです。
スクールアイドルとして過ごした日々が、悲しい思い出になっちゃうなんて、
そんなの、ぜったいにだめです!
梢センパイのことだって、あたしが、花咲かせてみせます!
一緒に、夢を信じてくれる……?
もちろんです!
あたしたちで───夢を叶えましょう!