九州大学

登録日:2025/06/18 Wed 19:54:18
更新日:2025/06/30 Mon 15:22:40
所要時間:約13分で読めます




九州大学 (きゅうしゅうだいがく)は、福岡県福岡市に本部を置く日本の国立大学である。いわゆる旧帝国大学のひとつで、その中で最西端に位置する。略称は「九大」。

概要

東京帝国大学、京都帝国大学、東北帝国大学に次ぐ4番目の帝国大学として1911年(明治44年)に創立された 九州帝国大学 を起源とする大学である。なおもっとさかのぼると1903年(明治36年)の京都帝国大学の分校として設立された 福岡医科大学 を起源としていたりする(ちなみに九大ホームページによるとさらに1867年(慶応3年)に設立された賛生館という医学校にまでさかのぼれるらしいが、これはどちらかというと九大附属病院の起源である)。

また大学を作る際にどの場所に設置するかで揉めたようで、ナンバースクールとして第五高( 現熊本大学 )が設置されていた熊本と、当時はまだ九州の中で特別抜きんでた地位にはなかった福岡で熾烈な誘致活動が展開されたのちに最終的に福岡に設置すると決定したという経緯がある。

旧帝大の例にもれず 理系が花形 の大学で、工学部の原子炉研究や農学部の昆虫研究、医学部の疫学研究等、その分野で高い評価を受けている研究も多い。
しかし2025年(令和7年)現在ノーベル賞受賞者を一人も輩出しておらず、これは旧帝大の中だと他に該当するのは大阪大学のみである(なお大阪大学で博士号をとったノーベル賞受賞者が2人いるのに対し、九州大学はこれも0人である)。
理系が花形ではあるものの文系学部も戦前の1924年(大正13年)に法文学部として設置されており、国立大学の文系学部としては比較的長い歴史を持つ。特に他の大学と比べ中韓等の東アジアに地理的に近いことから、東洋史や東洋法の研究に特に力を入れ、実績を残しているようである。
一時期は指定国立大学法人の選考に落選したとして内外からネタにされていたが、2021年(令和3年)にめでたく最後の 指定国立大学法人 として選定された。国際卓越大にも申請したがこちらは落選し(最終的に採用されたのは東北大のみだった)、2025年(令和7年)時点で、第2号となるべく申請を行っているところである。

大学院については修士課程は○○府(例:理学府、人文科学府)、博士課程は〇〇研究院(例:理学研究院、人文科学研究院)という名がつく。ただしカリキュラム等に特別な差異があるわけではない。

現在の世間評としては 九州の大学のトップ という認識が一般的。
旧帝大の中では比較的入りやすいとされているものの、九州の中では目指すべき目標として認識されている(事実として九州大学入学者の6割は九州出身者である)他、旧帝ブランドや福岡という土地に魅力を感じて目指す人も一定数いるなど今でも求心力の高い難関大学の一つであることは間違いない。また九州では他の難関大学に合格できるにもかかわらず様々な理由から九大に進学するという学生がしばしばいるため、非医学部でも優秀層は多く、由緒ある名門大学なのだ。
また前述のとおり研究においては名実ともに国内トップクラスで、科研費の採択件数や大学ランキングなどの研究力に関する順位では基本的に国内1桁位以内に入っている。

福岡県には私立大学の 福岡大学 があり、そちらと混同されるケースが時々あるようで、ネタにされることがある。また同じく福岡県の私立大学である 久留米大学 は略称が同じ読みの「久大」であり、こちらもネタにされることがある。

校章は図案化された松葉に「大學」の文字が上部に入ったものでイメージカラーはワインレッド。校歌はないが学生歌が3つ、応援歌が1つ制定されており、学生歌の一つ「 松原に 」は伊都キャンパスを通るバスで毎便放送されている。まるで洗脳である。

関東関西の大学ほど頻繁にではないがたまにフィクションの舞台・モチーフとして登場する大学であり、とくに夢野久作の「ドグラ・マグラ*1は有名。ほかにも学園を舞台とした作品で建物の参考にキャンパスが使われることがあったりする。

いも九とあだ名された過去があり、学内ではサツマイモを使った同名のお菓子をお土産に売っていたが、創立100周年を前に販売数が採算ベースに乗らないという事で、包装資材が無くなった時点で生産中止となり、2010年(平成22年)5月末に販売を終了した。
同大学の農学研究院と福徳長酒類株式会社が共同研究を行った同名の芋焼酎が2009年(平成21年)9月から販売されている。


設置学部

設置学部の数は理系学部が7学部、文系学部が4学部、文理融合学部が1学部で計12学部に及ぶ。この数は北海道大学、広島大学に並び1位タイとなっている。
また旧帝大としては珍しく医、歯、経済、教育、芸術工学部以外の学部で後期試験が実施されている。

理学部

後述する伊都キャンパスにあるウエスト1号館(通称''バトルタワー)を学部棟として使用する学部。学生数は1~4年合わせて1000人超と多め。後期試験はなぜか数学科だけ実施していない。きゅうりくんというそのままきゅうりの姿のマスコットキャラクターがいる。

工学部

九大設立当初から設置されている 九大の看板学部その1 。1~4年合わせて3000人超の学生を抱える九大最大規模の学部で、九大の学生の1/4はこの学部所属である。
I~VIまでの群で構成されており、I~V群までが各分野の専門学科、VI群がいわゆる一括入学の部門になる。V群(建築学科)のみなぜか後期試験が実施されていない。またⅢ群の航空宇宙、Ⅳ群の地球資源システム工学は旧帝大の中でも珍しい学科になる。

農学部

九大伊都キャンパスの頂上に学部棟を有する学部。そのためバス以外で通う際は毎日軽い登山となる。1年次、2年前期までは学部内で共通の基礎科目を学習し、2年後期から各専門分野のコースに配属されるカリキュラムを取っている。
昆虫研究が有名で、2022(令和4年)には3Dの生物標本を公開し話題になった。

医学部

工学部と同様九大設立当初から設置されている 九大の看板学部その2 で病院キャンパス組筆頭。特に 医学部医学科は他学部学科と比べ桁違いの難易度・知名度 を持ち、実績も多数ある。かつては医学部医学科の入試では 理科3科目(物理、化学、生物) が課せられており、また面接がなかった。現在は理科2科目に変更されており、面接も復活している。
米軍人捕虜生体解剖事件はこの学部内の解剖実習室で行われたとされる。
ちなみに学部を表す際にキウイの絵文字が使われることがある。

歯学部

病院キャンパス組の一角。学内ではいまいち影が薄い学部だがレベル・実績ともに評価は高い。一学年の人数が教育学部に次いで少なく、募集人数は約50人(一般入試に限れば40人未満)で非常に狭き門となっている。

薬学部

病院キャンパス組の一角。こちらも歯学部と同様九大の中でもレベル・実績の評価が高い。
ちなみに医歯薬をすべて設置している国立大学は意外と少なく、九州では九州大学と長崎大学だけで、他の地域を含めても合計8大学しかない*2

芸術工学部

2003年(平成15年)に 九州芸術工科大学 が九州大学に吸収合併される形で設置された学部で 芸工(学部) と略されることが多い。 九大の特徴的な学部 としてしばしば名前があげられる学部で、産業デザインから芸術分野までさまざまな場面におけるデザインを研究している。

文学部

戦前に設置された法文学部を起源とする学部の一つ。前述のとおり東洋史の研究が盛んで、中国や韓国からの教員も多い。そのほかにも朝鮮史、イスラーム文明史の研究室は全国でも珍しい研究室である。また研究者養成を重視する学部と銘打っており、大学院進学率は10%前後と全国平均(約5%前後)と比較して高くなっている。入試においては 国数英に加え社会1科目の計4科目が必要 で、これは京大、一橋、名大文学部とここだけ*3である。

法学部

戦前に以下略。学科が存在せず、入試等でも「九州大学法学部」とだけ書かれる。カリキュラムでも法学と政治学等の履修上の区別は特になく、大学に入ってから学びたい分野に合わせて自由に選び取ることができる。大学内でも独自の授業スケジュールを組んでおり、ほか学部に比べ講義開始日が早い代わりに法学部独自の休日を設けて連休を伸ばす等の工夫をしている。

経済学部

戦前に以下略。経済学部は経済・経営学科と経済工学科の2学科があるが、うち経済工学科については入試で理科の発展科目や旧過程の数3範囲を求められるほかカリキュラムの内容なども解析、数理系をメインとすることから、どちらかといえば理系寄りの学科となっている。休憩と略されることはない。

教育学部

学部1~4年まで合わせても200人程度しかいない九大最小規模の学部である。また法学部と同様に学科が存在しない。カリキュラムは他の旧帝大と同様に教員養成ではなく教育学そのものや心理学を学ぶものになっている(その代わりに 福岡教育大学 が教員養成の役割を担っている)。

共創学部

2018年(平成30年)に文理融合学部として設置された九大で最も新しい学部文理融合の名の通り、理系からでも文系からでも入れる入試システムを採っているほか、カリキュラムにおいても文理どちらの専門分野も選択できるなど幅の広い選択肢が設けられている。 海外への留学を義務付けている のも特徴。


キャンパス・その他主な関係施設

2018年(平成30年)まで大学キャンパスの大幅な統廃合・移転を行っていた。2025年(令和7年)現在では主に4キャンパスが使用されている。

伊都キャンパス

九州大学におけるメインキャンパス。
全学部の1年次、文系学部、理系学部のうち工学部のほとんど・理学部・農学部、共創学部 がこのキャンパスを使用するほか、本部もこのキャンパスにある。後述する箱崎キャンパスからの移転先で、2005年(平成17年)より使用開始し、2018年(平成30年)に完全に移転が完了した。
福岡市の西端、糸島半島の山地の端に位置しており、その広さは272haで単一キャンパスとしては日本一。新しく建てられたキャンパスということもあり施設はかなり綺麗で研究施設としても申し分ない設備をそろえている他、イノシシが生息するほどの自然環境も有しているため、麓からの見た目も相まってまさに 山城 の様相を呈している。
このように大学施設としては申し分ないのだが、 周辺の生活環境が劣悪 で学生からの批判の的ともなってしまっている。例としては周辺約5km圏内にスーパーがない最寄り駅の九大学研都市駅(JR筑肥線)からキャンパスまでの距離も約5kmあるため歩いて通うことが現実的でない、一応バス便こそあるものの運賃が高く、そのために自転車通学者が多いにもかかわらず駐輪場が不足している等が挙げられ、ほかにも様々な問題が山積みとなっている。
このような事情から学部1年生が入学直後にこのキャンパスの愚痴を言うことは九大の春の風物詩となっている他、2年次以降に他キャンパスに移ることは脱伊都、再履修等で伊都に戻ることは伊都バックと呼ばれている。

病院キャンパス

医学部・歯学部・薬学部 の2年次以降のキャンパスになる。病院とは九大附属病院のことである。京大分校時代からあるキャンパスで、建物こそ当時のものから変わっているものの現在でも場所は変わってない。古くは所在地の地名から 馬出(まいだし)キャンパス とも呼ばれた。
キャンパスは福岡市東区の南端、博多区と接している場所にあり、福岡市街地にかなり近く目の前には馬出九大病院前駅(福岡市地下鉄箱崎線)があるなど立地はかなり良い。
伊都キャンパスができる際に箱崎キャンパスと同様に統廃合される予定であったが、関係者の猛反発を受け最終的に移転せずに残ることとなった。

大橋キャンパス

九州芸術工科大学の元キャンパスで、同大学の吸収合併後も芸術工学部のキャンパスとして使用されている。コンパクトにまとまった建築物群は高く評価されており、2024年(令和6年)には 国の登録有形文化財 に指定された。福岡市南区の中心地である大橋駅(西鉄天神大牟田線)のすぐそばにあるなどこちらも立地は良い。このキャンパスは当初から移転対象外となっていた。

筑紫キャンパス

工学部 の一部が使用するキャンパス。唯一福岡市外にあるキャンパス(一応伊都キャンパスも糸島市を掠ってはいるが)で、福岡市のベッドタウンである春日市・大野城市にまたがっている。こちらも大野城駅(JR鹿児島本線)が目の前にあり、商業施設も多く立地は良好。

箱崎キャンパス

九州大学で2018年(平成30年)まで長らくメインキャンパスとして使用されていたキャンパス。2013年(平成25年)までは大学本部もここだった。場所としては病院キャンパスから1kmほど北東のあたり。また福岡市営地下鉄箱崎線の箱崎九大前駅の「九大」はこのキャンパスのことを指していた。
福岡空港(旧板付飛行場)からほど近い場所であったため飛行機の離着陸時に発生する騒音や振動が問題となっていたようである。また飛行場時代に米軍機が墜落するなどの事故もあった。
現在はほとんどの建物が撤去され、残された建物が博物館等として活用されている他、売却された跡地の再開発計画が進められている。

六本松キャンパス

教養課程等で2009年(平成21年)まで使用されていたキャンパス。福岡市中央区の西部、大濠公園の南と市街地にほど近い場所にあった。
現在は解体・売却ののちに再開発され、福岡地裁・高裁等の司法関連施設や商業施設が集まる市街地となっている。ちなみに 九州大学法科大学院 が2017年(平成29年)に跡地にできた商業施設の一角に移転してきたが、2027年に伊都キャンパスに再移転する予定となっている。

九州大学病院別府病院

大分県別府市にある九大医学部・歯学部附属の大学病院。別府という土地から連想されるとおり、温泉に関する医療を研究・臨床する病院として使用されている。

福岡演習林

福岡県篠栗町にある農学部附属の演習林。一部が篠栗九大の森として開放されており、散歩コースとして利用されている。このほかにも宮崎や北海道に演習林を持っており、北海道の演習林に実際に赴いて行う講義も存在する。

井尻寮

もとは九州芸術工科大学の学生寮だった九州大学の学生寮の一つ。男子寮。九大では唯一の自治寮で、寮に住む学生自らが運営、維持管理を行っている。大橋キャンパスから1.5kmほど南東の福岡市南区井尻にあり、すぐ近くに井尻駅(西鉄天神大牟田線)や笹原駅(JR鹿児島本線)があるほか商業施設も多く生活に不自由することはない。
入寮している学生はほとんど芸工学部の学生だが、九州大学生であればだれでも入れるためわずかだが筑紫キャンパス、病院キャンパス、伊都キャンパスの学生も入寮していることがある。


著名な出身者

若田光一:宇宙飛行士。
中村哲:医師。アフガニスタンでの活動で有名。
吉村洋文:現大阪府知事。
鮎川誠:ミュージシャン。
安永航一郎:漫画家。
門上千恵子:弁護士。日本における女性初の検事として有名。
片山 恭一:作家。著名な作品として『世界の中心で、愛をさけぶ』などがある。
中原 龍太郎(Ryu☆):作曲家。BEMANIコンポーザーとして有名。厳密には学部は九州芸術工科大学で、同大学が九州大学に併合された後に芸術工学府修士課程を修了している。
梨:怪談作家。SCPの著者としても有名。


追記、修正は駅から伊都キャンパスまで歩いてからお願いします。
この項目が面白かったなら……\ポチッと/

最終更新:2025年06月30日 15:22

*1 作中の精神病棟が九大附属病院の精神病科である

*2 残りは北海道大学、東北大学、大阪大学、広島大学、徳島大学、岡山大学である。

*3 なお東大も国数英に加え社会が必要だが、さらに多い2科目が課される