旧帝国大学

登録日:2020/07/17 Fri 15:06:14
更新日:2024/11/29 Fri 00:54:27
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旧帝国大学(きゅうていこくだいがく)とは、かつて帝国大学だった名門国立総合大学のグループ群である。通称旧帝大(きゅうていだい)。

概要

そもそも帝国大学(ていこくだいがく)とは、明治時代に帝国大学令という法律に基づいて設立された、国立の総合大学のことである。略して帝大(ていだい)。
日本本土(内地)に7校(東京、京都、東北、九州、北海道、大阪、名古屋)設置された他、海外の植民地にも2校(京城、台北)が設置され、合計9校の帝国大学が存在していた。
通常、旧帝大とはこのうち内地の7校を指す。旧帝大は戦後に入ってから使われている用語である。

最初の帝国大学は現在の東京大学の前身であり、1877年(明治10年)に設立され、名前もそのまま帝国大学だった。のちに京都帝国大学(のちの京都大学)が設立されたため、最初の帝国大学は東京帝国大学に改称された。

現在旧帝大と呼ばれているのは東京大学(東大)、京都大学(京大)、東北大学九州大学(九大)北海道大学(北大)大阪大学(阪大)名古屋大学(名大)の7校である。東北大学以外には大学の略称が存在する。
旧帝大7校すべてに共通して存在している学部は、理系は理学部工学部医学部、文系は法学部文学部経済学部である。
歯学部は東大、京大、名大には存在しない。薬学部は名大には無い。阪大には農学部と教育学部が無い。
また、例えば九大には芸術工学部や共創学部が、北大には獣医学部や水産学部が、阪大には外国語学部があるなど、個性の強い学部を有する旧帝大も存在する。(ただし九大芸工、阪大外語は別の国立大学を合併して新しく設置されたものであるため、旧帝大として扱わない場合もある。)

基本的に東大以外の旧帝大は理系が優勢と言われている。(東大は官僚養成機関であるため文系も別格。)
また、北大、阪大、名大に文系学部が設置されたのは戦後に入ってからである。そのため、帝国大学時代には文系学部が存在しなかったのである。

旧帝大の教育学部は教員養成を目的としておらず(教科によっては教員免許を取れる場合もあるが)、基本的には教育学という学問を研究する場所という位置付けであるため、小学校(初等教育)の教員免許は取れないため注意が必要。
(旧帝大がある都道府県では教員養成機関が別に置かれている。東京学芸大学、京都教育大学、宮城教育大学、福岡教育大学、北海道教育大学、大阪教育大学、愛知教育大学)

東大、京大、阪大以外の旧帝大4校は地方旧帝大(地帝)と呼ばれることがある。
場合によっては阪大を含めた5校を地帝とする場合や、名大を除いた3校(東北、九大、北大)のみを地帝とすることもある。

基本的に旧帝大は各地方に1校のみ存在する形となっているが、近畿(関西)地方のみ例外で2校存在する。

北陸地方、中国地方、四国、沖縄には旧帝大が存在しない。
(一応念のため書いておくと、これらの地方にも戦前にも大学自体は存在していて、帝国大学への昇格も検討されてはいたが、白紙になってしまった。)

現在では一橋大学東京工業大学(東工大)、東京外国語大学、秋田県立国際教養大学などの国立単科大学*1や、筑波大学や神戸大学と言った国立総合大学で、一部の旧帝大より入学試験の難易度(偏差値)が高いところも一部存在する。
だが旧帝大は国からの補助金を単科大学や駅弁大学より多く貰っており、学長の給料も単科大学や駅弁大学より高く、そして世界大学ランキング(研究力の高い大学のランキング)では旧帝大7校全てが上位に名前を連ねているなど、現在も旧帝大の地位は揺らいでおらず、日本の名門国立大学のブランドグループ群であると言えるであろう。

2014年(平成26年)に文部科学省が制定したスーパーグローバル大学(スパグロ)という制度では、旧帝大は7校全てがトップ型指定校となっている。旧帝大以外では、東京工業大学東京医科歯科大学筑波大学、広島大学、私立の慶應義塾大学早稲田大学がトップ型指定校となっている。

また、2022年(令和4年)現在は北大を除く旧帝大6校が指定国立大学法人といって、一般の国立大学法人より格上げされている。
指定国立大学法人は東大、京大、東北大、名大、阪大、九大の旧帝大6校と、旧帝大以外では一橋、東工大、筑波、東京医科歯科の4校が指定されている。
北大も法人の格上げを申請してはいたが、条件を全て満たしているわけではないため見送られてしまっている…。

各旧帝大の詳細

東京大学東北大学については独立項目が存在するため、そちらを参照してほしい。
ここでは他の旧帝大、九州大学、北海道大学、大阪大学、名古屋大学についての詳細を述べる。

九州大学

九州地方代表。4番目の帝国大学。
略称は九大(きゅうだい)。

文系4学部(文学部、教育学部、法学部、経済学部)、理系4学部(理学部工学部、芸術工学部、農学部)、医療3学部(医学部、歯学部、薬学部)、文理融合の共創学部の計12学部を有する。

元々は京大の分校だったのだが、のちに4番目の帝国大学として独立している。ただし帝国大学の医科大学としては3番目の設置である。そのため九大医学部は名門と名高い。

九州地方の受験生からの人気が高いが、旧帝大が存在しない中国地方や四国からの進学者も少なくない。

旧帝大の中では北大に次いで比較的入りやすい大学と言われている。
だが勿論、医学部は別格で、東大の理科一類より難しいとも言われている。
かつては医学部の入試では理科3科目(物理、化学、生物)が課せられており、また、医学部としては珍しく面接がなかった。
今は他の医学部と同じ理科2科目に変更されており、面接も復活している。

旧帝大では珍しく、多くの学部・学科で後期入試を実施しているのが特徴である*2

福岡県内をはじめ、九州地方に複数のキャンパスを有する。

  • 伊都キャンパス
現在の九大の中心となるキャンパス。福岡市の西の端のほうにある。
教養課程と文系全学部、理系の一部の学部(医療系と芸術工学部を除く)がここを使用する。
六本松、箱崎の両キャンパスの統合移転先として2005年(平成17年)より使用開始。従来まで箱崎に置かれていた大学本部も2014年(平成26年)にこちらに移転し、そして2018年(平成30年)に六本松、箱崎のほぼ全ての機能の移転が完了した。

広大なキャンパスが自慢だが、福岡市の中心部である天神や山陽新幹線博多駅からはかなり離れており、お世辞にも立地が良いとは言い難い。
一応最寄り駅はJR筑肥線の九大学研都市駅なのだが、駅からは約5kmほど離れており、徒歩で通学するのは非常に困難である。一般的にはバス通学が推奨される。

  • 馬出キャンパス
まいだしと読む。別名、病院地区
医療系3学部が使用するキャンパス。九大病院もここにある。

比較的博多に近く立地が良い。福岡県庁や福岡県警察本部も近くにある。
最寄り駅は地下鉄箱崎線の馬出九大病院前駅またはJR鹿児島本線の吉塚駅。

  • 大橋キャンパス
旧・九州芸術工科大学。2003年(平成15年)に合併し、九大芸術工学部となった。
ここでは伊都キャンパスの学園祭とは別に、独自の学園祭が行われている。

最寄り駅は西鉄天神大牟田線の大橋駅。

  • 筑紫キャンパス
福岡県の春日市と大野城市に跨るキャンパス。
学部教育は行われていないが、理工系の大学院が使用する。
教育の場というより研究の場である。

  • 別府キャンパス
温泉地として有名な大分県別府市にある。
学部教育は行われておらず、九大の別府病院がある。温泉地で有名なため、温泉療法について研究されているらしい。

  • 六本松キャンパス
かつて教養課程で使われていたキャンパス。現在は売却されている。

福岡市の中心部に近くて便利だった。NHK福岡放送局や福岡高等裁判所も近くにあった。
最寄り駅は地下鉄七隈線の六本松駅。

  • 箱崎キャンパス
かつてほとんどの学部(医療系と芸術工学部を除く)で使用されていたキャンパス。2013年(平成25年)までは大学本部もここにあった。
現在ではここを使用する学部、大学院は存在しないが、博物館などは現在も残されている。
最寄り駅は地下鉄箱崎線の箱崎九大前駅またはJR鹿児島本線の箱崎駅。

北海道大学

北海道代表。5番目の帝国大学。

現在の略称は北大(ほくだい)。
ただし、旧文部省が国立大学を「◯大」の略称を付ける際は、3番目の帝国大学である東北大学を北大に決定し、北海道大学は海大と略していた。

東北帝国大学の分校が北海道帝国大学として独立したため、世間一般では東北大学の弟分と見做されることが多い。
しかし、北海道には札幌農学校(さっぽろのうがっこう)というのが元々あったため、教育機関としての歴史はむしろ北大のほうが古い。それどころか、実は札幌農学校は東京帝大よりも古い、日本で最初の近代的な教育機関だったりする。
というのも札幌農学校がのちに後からできた東北帝大に編入され、東北帝大の分校となったからである。
札幌農学校はアメリカ人のウィリアム・スミス・クラーク博士が初代教頭を務めたことで有名。
著名な札幌農学校卒業生として、思想家の新渡戸稲造がいる。

文系4学部(文学部、経済学部、法学部、教育学部)と理系8学部(医学部、歯学部、薬学部工学部、理学部、農学部、獣医学部、水産学部)の計12学部を有する。
第一次産業(農業、畜産業、水産業など)が強い北海道だけあって、看板学部の農学部、獣医学部、水産学部は名門と名高い。
また、獣医学部水産学部は旧帝大では唯一のものである。(一応、獣医学科は東大にも存在するが、農学部の中に組み込まれている。ちなみに独立した獣医学部を有する大学はほとんどなく、ほとんどは農学部や畜産学部などの一つの学科扱いである。)

北大は旧帝大の中では最も入りやすいと言われることが多い。3大都市圏から遠いからである。しかしやはり旧帝大ブランドは魅力があるため、それなりには全国から受験生が集まってくる。難関であることには変わらない。
北大文系の入学試験では、旧帝大では珍しく、二次試験で数学を回避し、地理、世界史、日本史のいずれかを選択することが可能となっている。ただしセンター試験では他の旧帝大と同様に数学2科目が必須なので注意。
(基本的に旧帝大の入試では文系でも二次試験が数学が必須である。北大文系以外では、二次試験で数学を回避できるのは阪大の外国語学部くらいである。)
また、北大入試では比較的センター試験の配点比率が高くなっている。(他の旧帝大では二次試験重視であり、センターの比率は低いのが普通。)
医学部や獣医学部は他の大学同様、超が付くほどの難関であり、東大の理科一類や理科二類にも匹敵する。また、北大獣医は東大理科二類を除けば、日本国内で最難関かつ最高峰の獣医学科として名高い。

北大では通常の学部別の入試の他、総合入試というものがある。
総合入試は学部ごとに募集するのではなく、東大のように文系、理系の2分野に分けて一括募集する方式である。また、総合入試に合格して入学してきた学生は、1年生のうちは全員共通の総合教育部(東大の教養学部に似ている)に所属し、教養課程の成績によって2年生以降に進級する学部が決定する。これは東大の進級振り分け制度(進振り)に似ている。
意外かもしれないが、文系として入学してきた者が2年生以降で理系の学部に進級すること(理転)、あるいは逆パターン(文転)も可能である(これは東大も同じ)。ただし枠は少ない。
通常の学部別入試もあるが、こちらで入学した場合でも1年生のうちは総合教育部に所属する。ただし2年生以降の学部は既に内定している。

ちなみに希望する学部に行くために、総合教育部で敢えて進級せずに留年を選ぶ学生も少なからずいるらしい。

九大と同様に後期入試の枠が旧帝大にしては大きく、医学部・歯学部以外の全学部で実施している。ただ北大の後期日程は東大や京大などより上位の大学の前期で不合格だった人たちも殺到するため、前期とは比較にならないほど難易度が上昇するため合格するためには相当の勉強と覚悟が必要になってくる。

大学本部およびほとんどの学部は札幌市の札幌キャンパス(エルムの杜)に集約されている。
札幌キャンパスはJR札幌駅から至近距離であり、とても立地が良い。
ただし水産学部のみ、3年生から函館市の函館キャンパスに移動になる(総合教育部および2年生までは他学部と同じ札幌キャンパスを使用する)。

フィクションでは漫画『動物のお医者さん』や映画『探偵はBARにいる』の舞台になったことで知られる。

2022年(令和4年)現在では旧帝大の中で唯一、指定国立大学法人への昇格が見送られている大学になってしまっている…。

大阪大学

6番目の帝国大学。略称は阪大(はんだい)。
関西では京大に次ぐ2番手校という位置付け。首都圏で言えば東工大一橋のポジション。
最も学生数が多い国立大学である。

大阪帝国大学以前に、緒方洪庵が開いた適塾という江戸時代の私塾を起源としているとされ、その関係で医学部が看板学部となっている。また、旧制大阪工業大学も併合した関係で理工系も強い。
ちなみに漫画家で医師の手塚治虫も阪大医学部のOBである。

昔は大阪市の中之島キャンパスを中心とし、大阪府内に複数のキャンパスが点在するタコ足大学だったが、現在は郊外の豊中キャンパスと吹田キャンパスに移転している。

旧帝大で唯一、農学部がない。

  • 吹田キャンパス
現在の大学本部が置かれているキャンパス。人間科学部、工学部医学部、歯学部、薬学部もここにある。
阪大には教育学部がないので人間科学部がその代わりとなっている。
また、歯学部は西日本では最高峰と名高い。(京大に歯学部がないため。ちなみに東大にも歯学部がないため、日本最高峰の歯学部は東京医科歯科大学歯学部。)

  • 豊中キャンパス
文学部、法学部、経済学部、理学部、基礎工学部がある。
基礎工学部は理学と工学が融合したような学部。

  • 箕面キャンパス
旧・大阪外国語大学。2007年(平成19年)に合併し阪大外国語学部となった。
外国語学部を有する国立大学はここと東京外大だけ。

名古屋大学

東海地方代表。略称は名大(めいだい、なだい)。
最後にできた帝国大学である。

世間一般では東北大学ライバルとして有名である。どちらも理工系の評価が高いことで有名。
東北大学が東北地方だけでなく北関東や新潟長野からも学生を集めているのに対し、名大は学生のほとんどが東海地方出身というローカル色の強い大学となっている。
ただし入試難易度(偏差値)は3大都市圏に位置し東海道新幹線が通っている名大のほうが若干高くなっている。

文系4学部(文学部、経済学部、法学部、教育学部)と理系5学部(医学部工学部理学部農学部、情報学部)を有する。
変わった学部として情報学部がある。
また、旧帝大で唯一、薬学部がない。(代わりに名古屋市立大学に薬学部が置かれている。)

TOYOTAのお膝元であり地場産業が強い土地であるため、他の地方旧帝大に比べて民間企業への就職に有利と言われることも多い。反面、公務員志望者は少ない。

愛知県内に複数のキャンパスを有する。

  • 東山キャンパス
名古屋市千種区にある。医学部以外の全学部が使用するキャンパス。大学本部もここに置かれている。
最寄り駅は地下鉄名城線の名古屋大学駅。

  • 鶴舞キャンパス
名古屋市昭和区にある。医学部医学科が使用する。
国立大学の名古屋工業大学が隣接しており、近くには鶴舞公園もある。

  • 大幸キャンパス
名古屋市東区にある。医学部の保健学科(看護学専攻など)が使用する。
近くにはナゴヤドームがある。

  • 豊川キャンパス
ここだけ名古屋市内ではなく豊川市にある。
宇宙地球環境研究所がある。学部教育には使われていない。

各旧帝大の看板学部

各旧帝大の看板学部はこんな感じである。

東大医学部は種痘所(天然痘の予防接種を行う場所)を起源としており、また、理科三類は日本の大学入試において最難関の難易度を誇ることで有名。東大の中でも別格と言われる。
東大法学部は日本国内最強のエリート養成機関であり、官僚(国家公務員総合職)を目指す者が非常に多い。

京大医学部は東大理科三類に次いで2番目に入試難易度(偏差値)が高い。また、近年はiPS細胞など再生医療の分野の研究で注目されている。
京大理学部は数多くのノーベル賞受賞者を輩出しており、研究機関としては東大理科一類を凌ぐ実績を誇る。

東北大学は工学系、特に材料工学の分野で強い。有名なところではテレビ電波を受信するアンテナ(八木・宇田アンテナ)やフラッシュメモリ、半導体関連、金属合金関連を研究/発明したのもここ。
また、官僚になる者も東大に次いで多く、法学部もそこそこ強い。

  • 九州大学 → 医学部、工学部
九大は元々は京大医学部の分校であり、独立した際も日本で3番目の医科大学と言われてきた。
また、工学部も強い。

  • 北海道大学 → 医学部、獣医学部、農学部、水産学部
第一次産業に強い北海道だけあって農学系統は超名門。
特に獣医学部は東大農学部獣医学専攻(理科二類)と並んで権威が高い。

  • 大阪大学 → 医学部、歯学部、工学部
阪大医学部は江戸時代の私塾「適塾」を起源とする。
阪大歯学部は西日本で最高峰の歯学部と名高い。(ちなみに東日本の最高峰の歯学部は東京医科歯科大学歯学部。)
工学部も強く、「西の東工大」の異名を持つ。

  • 名古屋大学 → 医学部、理学部
名大理学部は京大理学部に次いでノーベル賞受賞者が多い。



追記、修正は旧帝大または東工大、一橋、東京外大、神戸のうちのどれか1校に受かった人にお願いします。



最終更新:2024年11月29日 00:54

*1 国際教養大学は厳密には国立ではなく公立大学だが…。

*2 基本的に九大と北大以外の旧帝大では後期の枠が非常に小さくなっている。例えば東北大では経済学部と理学部以外では前期入試しか実施していない。