登録日:2025/08/24 Sun 23:54:00
更新日:2025/08/25 Mon 00:22:36NEW!
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『新機動戦記ガンダムW外伝~右手に鎌を左手に君を~』とは、皆川ゆかによる小説作品である。
概要
『
新機動戦記ガンダムW』の世界観を踏襲した本作は、1996年に刊行されたW唯一の外伝小説であり(※後に『
新機動戦記ガンダムW フローズン・ティアドロップ』が登場)、TVアニメ本編と時系列が矛盾していることから著者自身が「パラレル作品」と位置づけている。
本作の特徴は、表題に込められたデュオ・マックスウェルの象徴的な問い――「右手には命を奪う鎌がある。では、左手には何を持てばよいのか?」という哲学的テーマである。
作風は非常にダーク。『
死神』としてのデュオの存在を中心に、コロニー社会における差別構造、アイデンティティの揺らぎ、心理兵器と倫理崩壊など、深い人間ドラマが展開される。
2005年には加筆修正された文庫版が刊行されたが、旧版にあった挿絵が省略されたため、初版を推す声も多い。
MS「レミング」の設定、アディの悲劇、マダムLの狂気などから、読後感は極めて重く、電子化希望の声が後を絶たない。
あらすじ
とある任務で、廃棄予定だったコロニーに赴いたデュオ。彼は《ガンダム開発者》プロフェッサーGから“マダムL”という元科学者への荷物(実際は
爆弾)の配達と、彼女が開発したMS「レミング」の破壊を命じられる。
だがそのコロニーにはすでにヒイロ、トロワ、カトル、五飛らが潜入しており、任務の規模に対して異様な人的配置がなされていた。
現地では少女・アディとの交流を通じて、コロニー住民による排他的体制や精神を病むマダムLの悲劇に触れる。かつて娘セイを失ったマダムLはアディに母性を重ね、アディもまた母親との確執から依存を深めていく。
そしてマダムLが開発したMS「レミング」――ガンダニュウム合金製・蛇型下半身・バルカンのみ装備――には、ゼロシステムの発展型「レミングシステム」が搭載されており、パイロットの戦闘衝動を媒介として周囲に殺意を拡散するマインドコントロール兵器だった。
アディの怒りと絶望によりレミングが起動。コロニー市民同士の殺し合いが発生し、戦場は地獄と化す。五飛ですら飲み込まれそうな衝動を跳ね除けるのが限界という破壊力。デュオはウイングゼロに搭乗し、ゼロシステムの葛藤を乗り越えてレミングを止めるが、アディは宇宙空間でコクピットを開けて命を落とす。
右手に鎌を、左手には守りたい“君”を持つはずだったその手が、届かない――そんな
バッドエンドで物語は幕を閉じる。
用語解説
- ガンダニュウム合金
- 本作ではMSレミングの外装素材として使用されている。高い耐久性を誇り、ガンダムタイプ・モビルスーツに欠かせない特殊合金。
- 脚注にてヴァイエイト/メリクリウスがガンダムとは呼ばれない事情にも言及されているが「ヴァンエイト」と「メルクリウス」と誤植される。
- ゼロシステム(新機動戦記ガンダムW)
- W世界における戦闘補助システム。パイロットの脳に戦闘最適解を直接伝えるが、倫理の崩壊をも誘発する。
- 本作ではデュオの精神と対峙する別人格のように描写される。
- レミングシステム
- ゼロシステムの派生兵器。パイロットの衝動がトリガーで、敵味方問わず戦闘衝動をフィールド内全員に拡散し同士討ちを誘発する上、攻撃対象の感情がパイロットへ逆流して錯乱を起こす無限ループ構造となっている。
- 暴走時には研究所職員全滅の事例がある。設計者はマダムL。
- その影響でデュオが月経の感覚を体験するという描写も話題に。
登場人物
- デュオ・マックスウェル
- 主人公。ウイングゼロに搭乗し、ゼロシステムの暴走とレミングシステムによる混乱に抗う。「左手は君を守るためにある」というセリフに象徴される“死神”。
- ヒイロ・ユイ
- 本作では女装姿で「シスター・リリーナ」として潜入。巨大天使像を運搬し、慰問活動のふりをして任務を遂行していた。デュオが衝撃を受けた変装の真意は任務の隠蔽。
- トロワ・バートン
- デュオが冒頭で曰く冷静な対応を見せる狙撃手であり状況次第で行動が変わる理知的な戦士。今回はサーカスを離れ劇団員として潜入。
- カトル・ラバーバ・ウィナー
- デュオが冒頭で曰く武器使用への嫌悪を示すパイロット。感情的判断によりマダムLの保護に動く。
- 張五飛
- 爆弾の存在に気づかせる役割を果たし、自らリーオーに搭乗してレミングを止めようとした。ゼロシステムやレミングシステムへの耐性が高い。
- アディ
- 本作のヒロイン。不良少女として描かれながら、マダムLとの関係を通じて母性への渇望と怒りを抱える。議員である母との断絶が深く、ついにレミングを起動してしまう。
- マダムL
- かつてのガンダム開発者の元同僚にしてレミングの開発者。娘セイの死により精神を病み、孤独と贖罪の人生を歩む。アディを娘と重ねる。
登場機体
- ウイングガンダムゼロ
- 天使像に偽装されてコロニーへ搬入。デュオが搭乗し、レミングと交戦。ゼロシステムは「死神が今さら迷うなよ」など心の中の悪い人格がそそのかしてくる形で心理的暴走を描写。
- レミング
- マダムLが開発したガンダニュウム合金製蛇型MS。上半身はガンダムタイプ、下半身は長い尾で移動。頭部バルカンのみ装備で、戦闘力はシステム依存。
- 最大の特徴は「レミングシステム」によるマインドコントロール。攻撃衝動を拡散し戦場全体を殺戮状態に変える。過去に娘セイが搭乗した際は研究チームが全滅。アディが再度起動し、悲劇を招いた。
- リーオー(新機動戦記ガンダムW)
- 五飛が唯一搭乗。レミングを止めるための奮闘が描かれ、レミングシステムとの直接対峙が展開される。
補足
文章ならではのゼロシステム描写は、悪意に満ちた内面の声が読者にも迫る恐怖として伝わると評される。
また、レミングシステムによる人間の精神操作は極めて危険で、味方をも巻き込みかねない「集団自決誘導兵器」とも。読後感は決して爽快ではないが、陰鬱な美しさを携えた「ガンダムWの何かが引っかかった人」には強く刺さる隠れた名作である。
ヒロイン・アディは救われず、マダムLも罪と狂気を抱えたまま彷徨う
バッドエンド。誰もが完全には報われない結末が読者の胸を打つ。
「オレは《死に神》と呼ばれている。だから、右手には鎌がある。項目を荒らす得物だ。じゃあ、左手にはなにを持てばいいんだ?」
「こういう答えはどうだろう?左手は、追記・修正のためにあるってのは。ちょっとすかしすぎかね?」
- 刊行されたのが96年3月だから放送中に(あるいはその前から)執筆して完成させてることになるんだよな… -- 名無しさん (2025-08-25 00:22:36)
最終更新:2025年08月25日 00:22