FIM-92 スティンガー

登録日:2025/09/17 Wed 23:58:26
更新日:2025/09/19 Fri 22:14:15
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今だ!スティンガーを撃ち込め!




概要

アメリカのジェネラル・ダイナミクス社が開発・製造した携帯式防空ミサイルシステム(MANPADS)。英語では「毒針」の意味。
実用化されている携帯型の地対空ミサイルでは最も命中率の良いミサイルとしてギネス世界記録にも認定されている。

冷戦真っ只中の1950年代、高高度・中高度防空兵器の進歩を受けて、それらを避けた低高度で侵入してくる航空機への対策として計画が始まった。
それまではブローニングM2重機関銃やボフォース60口径機関砲が運用されていたものの時代遅れ感が否めなくなり、陸軍の指針改定の際に兵員全員に配備できる防空兵器の需要が見直されたという背景もある。

当初は「レッドアイ」の名称で開発が進められており、誘導装置など技術面の問題に阻まれた為、ひとまず基本的な性能を備えたMANPADSとして「FIM-43 レッドアイ」を完成させ実戦配備した。
並行してさらなる発展型「レッドアイⅡ」の開発も進められ、前任であるレッドアイの弱点を克服し、さらに改称した上で1979年に「スティンガー」の名称で*1大量生産と配備が進められた。

その後も改良は続けられており、ヘリや装甲車に改良型が搭載されているなど現在も世界各国の軍隊でスティンガーやその派生兵器が配備されている。
今では無人偵察機(UAV)や巡航ミサイルさえ撃墜可能という驚異的な精度を誇る。

後継となるNGSRI(次世代短距離迎撃ミサイル)がロッキード・マーチンとレイセオンによって開発されていて、米陸軍は2028年以降の導入を予定している。
海兵隊も同ミサイルで更新する計画を立てている。



性能

  • 全長:1.52m
  • 重量:約10kg(ミサイル込みで約15kg)
  • 有効射程:4,000m~4,500m
  • 有効射高:3,500m~3,800m
  • 作動方式:固体燃料ロケット
  • 飛翔速度:マッハ2.2(時速約約2,300km



詳細

とりあえず照準を合わせてロックオンできれば、あとは排気口からの排気が出す赤外線を追尾し、突き刺さるようにして弾頭が爆発する。前身のレッドアイは後部からのロックオンのみだったが、スティンガーは対象が見えてさえいれば側面や正面からでも照準を定められる。
この「狙いたい敵機がケツを向けていないとロックオン自体が不可能、を克服した」のは非常に大きな意味を持っている。つまりレッドアイは性質上、MANPADS射手たち地上部隊の頭の上を通り過ぎないとロックオンができないのに対し、スティンガーであればその前から発射できる。
つまり、狙いたい敵機が爆弾やロケット弾による対地攻撃を始める前にそいつをミサイルで撃墜することも不可能ではなくなったわけだ。

ミサイルを撒くためのフレア(デコイ)にも騙され辛く(ただしこの「攪乱用装備に対して耐性がある」のはバージョンアップで後から追加された能力で、初期型はフレアを撒かれるとそっちに一直線であった)*2、まっすぐにロックオンした対象へ飛んでいく。
敵味方識別装置(IFF)搭載のため味方を誤射する心配もないほか、命中しなかった場合でも発射から一定時間後に自爆するため、あらぬ方向へ落ちて被害を与える心配もない。

ランチャー部分は敵味方識別の測定器とバッテリー、冷却ユニットが付属しているなど精密機器の趣があるため、整備を怠ったり保管環境が悪いとすぐにダメになってしまう。
一方で精密性の割にサイズ自体はそんなに大きくなく、撃つだけなら歩兵ひとりでも十分可能。発射時に限るならば、取り扱いもTwitterで説明動画を投稿できるくらいにはシンプル。
このためか航空機に搭載しても…文字通りの意味でも、システム自体が増えることでの処理増加の意味でも…さほど重荷にはならないらしく、攻撃ヘリコプターや武装UAVに自衛用装備としてスティンガーを装備させるケースも多く見られる。



戦果

スティンガーの代表的とも言える戦果は、1978年に当時のソ連がアフガニスタンに侵攻し、それを迎え撃つイスラームの戦士(ムジャヒディン)*3をアメリカら西側諸国と中国など一部の東側陣営が支援したアフガニスタン紛争である。

ソ連の主力武装ヘリにして兵員や物資の輸送も担っていたMi-24ハインドや戦闘機Su-25(スホーイ)Mig-23(ミグ)といった主力航空兵器による地上攻撃に手を焼いていたムジャヒディンに対し、スティンガーが供与された。
その結果、初陣にして4機からなるハインド部隊のうち3機を撃墜という大戦果を挙げる。
スティンガーの供与は戦局をひっくり返す勢いとなり、ハインド撃墜による補給の途絶などでソ連の支配地域は徐々に後退。撃墜されることが知られてしまったためか、出撃を拒否する兵士もいたという。
ソ連側もただやられるわけにはいかず、弱点である排気口の改良やスティンガーに捕捉されないほどの超低空飛行で抵抗するもあまり効果はなく、ソ連の航空戦力は脅威にさらされ続けた。
そして他の様々な要因も重なり、1989年についにソ連はアフガニスタンから撤退。

ここまで見ればムジャヒディン&西側諸国の勝利……と思われたが、スティンガーをバラまきすぎた結果闇市場にも出回るという副作用を起こしてしまう*4。が、上述した通りかなりの精密機器であったため、まともに動いたかは定かではないが、少なくとも航空機に対する大きな脅威が闇市場にあったというのは事実である。

また2022年2月から続くロシアによるウクライナ侵攻の折にもウクライナへ供与され、撃墜の記録もあるなどそれなりの戦果を出している。



スティンガーが登場する作品

知名度は抜群のため、古今東西の作品で登場する。適宜加筆・修正をお願いします。

漫画
  • ゴルゴ13ゴルゴ13がモーターボートに対し使用。また、そのままズバリ「スティンガー」というエピソードがあり、発射されたミサイルをゴルゴが狙撃で無効化する超人技を見せている。
小説
  • Fate/Zero:回想にて若き日の衛宮切嗣が使用。乗員乗客全員がグール化した旅客機から地上の人々を救う為に持ち出し、育ての親ごと撃墜した。
    アニメ版の当該エピソード放送日から、人呼んで母の日スティンガー
    原作小説では旅客機がグールに占拠されてから育ての親が着陸を試みるまでの僅かな間に闇市場で調達したことが語られており、このエピソードの時系列(おそらくアフガニスタン戦争真っ只中)を踏まえると興味深い。
ゲーム
  • バイオハザードシリーズバイオハザードⅡ アポカリプスではロケットランチャーがスティンガーになっていたが、なんと開発者の誤解だった模様。リメイク作では修正されている
  • メタルギアソリッドシリーズ:時代的に開発されていない「3」を除き、ほぼ皆勤賞。
  • ブルーアーカイブ -Blue Archive-:アリウス分校所属の戒野ミサキが使用するロケットランチャー(固有名・セイントプレデター)のモチーフとみられる。ただ、弾頭を発射したのち子爆弾を拡散させる挙動のためガワ以外は全くの別物
  • Enter the Gungeon:「スティンガー」として登場。ロケットランチャー系の武器だが着弾すると複数の「蜂」が出現し追撃を行う機能を持つ。
  • Wargame Red Dragon:冷戦後期が舞台だけあって西側各国にスティンガー持ちの対空歩兵やヘリがいる。殆どがA型だがアメリカなどは強化版のC型も使用できる。またその名もずばり「STINGER」という名前のユニットもおり、なんと自衛隊所属のスティンガー持ち対空歩兵である。
  • 多くの航空機が登場するFPS・TPS作品:バランス上、航空攻撃に対するカウンターとしてMANPADSを要すること、西側諸国在住のプレイヤーにとってはもっとも有名なこの手の対空ミサイルであることから、なんらかの手順を踏む・特定の装備を選ぶことでスティンガーによる対空戦闘を行えるようにしている作品は多い。
    上述した「AIM-92」運用を再現して、歩兵要素の無い作品でも攻撃ヘリが使えることはみられるほか、一部の「FIM-92をポン付けした装甲車両」を実装していることも。


などなど…



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最終更新:2025年09月19日 22:14

*1 名称が変わったのは1972年3月

*2 もっともこれは本格的な対空ミサイルであるAIM-9サイドワインダーも同じく「後期型ではじめて搭載された機能」であるため、むしろ普通のことである

*3 アラビア語で「ジハードを遂行する者」

*4 CIAが回収作戦を行ったものの、あまり効果はなかった模様