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トンデモ一行知識の逆襲(P.081〜100)

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『トンデモ一行知識』をもっと楽しく読み込むためのガイド

トンデモ一行知識の世界 P.001〜020 P.021〜040 P.041〜060 P.061〜080 P.081〜100
P.101〜120 P.121〜140 P.141〜160 P.161〜180 P.181〜220
トンデモ一行知識の逆襲 P.001〜020 P.021〜040 P.041〜060 P.061〜080 P.081〜100
P.101〜120 P.121〜140 P.141〜160 P.161〜180 P.181〜220

【ポルノ文献】

ワシントンの国会図書館には「デルタ」という名のポルノ文献専用の図書室がある。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.81

ワシントンの国会図書館 http://www.loc.gov/ のサイト内検索でも、Delta という名前の
図書室らしいものの情報は引っかからないが。

2ちゃんのスレの書き込みにもあった通り、ワシントン D.C. のアメリカ国会図書館の
図書室一覧は http://www.loc.gov/rr/research-centers.html から参照できる。
ポルノ文献の項目はここにはない。

この図書館を構成する 3 つの建物それぞれについてまとめると以下のような感じ。
館内地図の画像を見てもわかるが、部屋の名前のつけ方も、
Asian Readng Room のように名称の後に Reading Room をつけているか、
Room 139、Room G39G のように番号やアルファベットをつけるかで、
Delta Room のような判じ物 (?) の名前の図書室はない。

という雑学以前に「デルタ」がエロイ表現に繋がっているというのはオッサンの証拠だよねぇ
たしか、大橋巨泉が「ボイン」という言葉を発案したとき(月亭可朝も主張)
愛川欽也が女性の下半身を称して「デルタちゃん」と言ったのが語源。
全然、浸透せず今に至る。


【レズビアン】

レズビアンのことを明治時代は「トーハー」または「オメ」と呼んだ。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.83

唐沢俊一は元ネタの本に書かれたものを「とぉはぁ」と読んでしまったらしいが、
実際には「ト一ハ一」で音引きの「-」ではなく、漢字の「一(いち)」。
だから読み方は「といち、はいち」。
というかネットで拾ったネタだと思う。もとは横書きのネット文章だったが、
それを縦書きの書籍にした時に勘違いが発覚してしまったというもの。
これは「上下」という漢字を分解した言葉遊び・隠語から来ている。
「オメ」に関しては裏が取れないネタ。


【白菜】

日清戦争で日本が清国から奪ったものは、
賠償金、台湾、のほかに「白菜」がある
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.83

日清戦争で白菜の味に感動した兵士が、種を持ち帰ったという話はあるが、
奪ってきたという話は聞かない。
(賠償金や台湾といっしょに並べるのも、シャレのつもりにしてもセンスが悪い)。


【カキとコケラ】

果物の柿(かき)は9画、“杮(こけら)落とし”の杮は8画(市の上が点か、棒かの違い)。
などというのは、今のワープロではどちらも同じになってしまうため、
以前は実用性があった一行知識だが、今は本当に実用性がないものになって
しまった。ちなみに、“こけら”とはカンナクズのことである。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.86

「市の上が点か、棒かの違い」という説明は少々ひどいと思うが……これではまるで
“杮(こけら)”の旁は「市の上が」「棒」であるかのようだ。“杮(こけら)”の方の旁は、
縦棒がつながっている (巾の上の方を横棒が通っている) ことを、なるべく誤解のない
ように説明する気はなかったらしい。

「今のワープロではどちらも同じになってしまう」というのは、ディスプレイ上はともかく、
2000 年時点でもプリンタ出力では充分違いを表現できたはず――と首をひねったが、
これは「JIS規格では『柿(木部五画)』が両方の字を包摂するもの」と定義されていた
ことによるもののようだ。

ただ、それをもって「今は本当に実用性がないもの」といってしまうのはどうかと思う。
ちなみに、現在は、JIS 補助漢字に“杮(こけら)”の字が定義されている。
( http://www.asahi-net.or.jp/%7Eax2s-kmtn/ref/jisx0212/ )

「“こけら”とはカンナクズ」は間違いに数えてよいだろう。杮(こけら)落としの際に
払ったり落としたりする木片は、カンナによるものと限定されないし、杮(こけら)葺に
使う“こけら”は当然カンナクズではなく、「板厚は2~3ミリメートル」程度の薄い板で
あるためだ。


【四畳半襖の下張】

たとえば、『四畳半襖の下張』という日本で最も有名なポルノがある。
雑誌『面白半分』が二十年ほど前、これを再録して訴えられたものだ。
これは、大正四年の作なのだが、正直いって、これを読み通したときの私の感想は、
高校時代の古文の時間を思い出す、といったものであり、コウフンするとか欲情をきたすとか
いった感覚とはまるでかけはなれたものだった。なにしろ、その文章たるや、
「さるところ久しく売家の札斜に張りたる待合。固より横町なれども、
其後往来の片側取りひろげになり、表通の見ゆるやうになりしかば、待合家業当節の御規制にて、
代がかはれば二度御許可になるまじとの噂に、普請は申分なき家なれど、買手なかなかつかざりしを、
こゝに金阜山人といふ馬鹿の親玉、通りがゝりに何心もなく内をのぞき、
家づくり小庭の様子一目見るなり無暗とほれ込み、早速買取りこゝかしこ手を入れる所から
母屋から濡縁つたひの四畳半、その襖の下張何やら一面にこまかく書きつゝる文反古……」
といった具合で、戦後教育しか受けていない身にはこの擬古文は意味を
追うだけでせいいっぱいなのである。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.86

「『面白半分』が二十年ほど前、これを再録して」って……
『トンデモ一行知識の逆襲』の出版が 2000 年、『面白半分』に『四畳半襖の下張』が
掲載されたのが 1972 年、28 年前のことを「二十年ほど前」とはいわない
(起訴されたのは 1973 年)。

雑誌掲載時の表記を修正するのをサボったのだろうが、
初出は「UtaN」1996 年 8 月号とのことで、それでも 24 年前。
もうこの時点で「二十年ほど前」が適切かどうか微妙。

それと、「高校時代の古文の時間を思い出す」もので、
「コウフンするとか欲情をきたすとかいった感覚とはまるでかけはなれたもの」というのはよいとして、
それを説明するための引用箇所が、現代文で書かれていようがどうしようが、
「コウフンするとか欲情をきたすとか」いう場面ではないだろうというのには、どうしたものかといいたい。
まあ、摘発が恐かったからという話かもしれないけど。

追記: 今読み直してみたら「大正四年の作」とあるけど、多分これも間違い。
春本版自体に記述されている「関東大震災の翌年」ならば大正 13 年だし、
春本版ではない方が、『文明』に掲載されたという大正 6 年より前とは考えにくい。


【牛】

牛はもともと色盲で赤の布でなくても邪魔になるものには襲いかかる。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.87

牛は色盲であり、闘牛士に向かっていくのも赤い色に興奮しているのではなく、
布のヒラヒラした動きに反応しているのだ――
というのは、昔の子ども向けの雑学本にも引用されまくっていたため、
闘牛というものの存在と、この豆知識を同時に知ったという人間もいたりする。

唐沢俊一も『古本マニア雑学ノート 2冊目』 P.137 でほめていた
B・エヴァンスの『ナンセンスの博物誌』。日本で 1960 年、1963 年に出版されている
これが、有力なネタ元ではないかと思う。

『ナンセンスの博物誌』 P.51
 牡牛は何でも赤い物を見ると激怒するというのは人の心に非常に深く侵み込んでいる
 「事実」なので、それに疑いをさしはさんだりするのは平和の妨害になるのではないかと
 思うほどだ。しかしそのことを現に疑った者もあって、ニューヨーク大学のトマス・N・ジェ
 ンキンズ、コルゲート大学のG・H・エスタブルック両教授は二人とも牡牛は色盲だと主張
 している。そしてこの説は闘牛士のシドニー・フランクリンも賛成しており、彼は牡牛を
 いらだたせるのは布の色ではなくて動きだと言っている。

で、いったんは、「これも雑学なのか編」にでも分類しとくかなと思ったんだけど、
2ちゃんねるでの指摘を見て、改めて唐沢俊一の書いた一行知識を読むと、
何だかトンデモないのだ。

だって、「赤の布でなくても邪魔になるものには襲いかかる」には、
何も牛が色盲である必要はない。
色盲でなく、赤の色を見ると興奮しがちな人間であっても、赤の布以外の、
邪魔なものに襲いかかるのは珍しいことではない。


【フロッピーディスク】

通産省が「フロッピーディスク」を「フレキシブルディスク」と呼ばせようと
したことがあったが定着しなかった。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.88

「フレキシブルディスク」は、
いわゆるフロッピーディスクの JIS 規格での名称であること、
通産省が「フレキシブルディスク」と呼ばせようとした事実は見あたらないこと

Wikipedia
 日本工業規格 (JIS) では「フレキシブルディスク」「フレキシブルディスクカートリッジ」と
 して定められている。

実は「フレキシブルディスク」という用語の歴史は古いようで、
1980 年の国会議事録に登場している。
以下は「参議院会議録情報 第093回国会 逓信委員会 第1号」で、
電電公社とIBM との資材の長期購入契約と特許のクロスライセンスについての質問に、
電電公社の説明員が回答しているもの。
 現在、パーソナルコンピューター用のソフトウェアの多くは、フロッピーディスクやテープ等
 の記憶媒体に記憶させまして、それをパッケージにしてユーザーに渡されているわけで
 ありますけれども、

上の引用で「フロッピーディスク」という用語を使用しているのは、
通商産業省機械情報産業局長。
「通産省が『フロッピーディスク』を『フレキシブルディスク』と呼ばせようとした」は、
ガセビアと断定して問題ないだろう。


【地球】

地球歴の一年は正確には365.242198日である。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.90

国立天文台によると 1 年の長さは 365.24219 日。これに従うと最後の桁の「8」が余分。

ただし、ググってみると、365.242199 日としているところも多数ひっかかる。
これは、かつて 1 年の長さが秒の定義のもととなっていた、
1900 年時点での長さ 365.242198781 日からきているものと思われる。

これを正しく四捨五入すると 365.242199 日、
唐沢俊一同様間違えると 365.242198 日。
結論: 「正確には」なんて、書かなければよかったのに。


【バッキンガム宮殿】

バッキンガム宮殿の中は六百五十の部屋と三百四十六人の使用人がおり、
三百個の振子時計のゼンマイを巻くのに、係が一日八時間かける。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.92

×六百五十の部屋 ○七百七十五の部屋
×三百四十六人の使用人がおり ○六百人の人が勤務していて

日本版 Wikipedia に列挙されている部屋の数の合計は 429 になるけど、これには
「舞踏会場、音楽堂、美術館、接見室や図書館等」の分が含まれていないようだ。
そこからたどれる Backingham Palace の公式サイトによると、部屋数は 775。

また、日本版 Wikipedia によると「宮殿に勤務する人は約450名」だが、公式サイトに
よると、フルタイムとパートタイムのスタッフ約 600 名とのことなので、そちらを採用
することにした。

『トンデモ一行知識の逆襲』は 2000 年の本だが、8 年経ったからといって、部屋数
はもちろん、スタッフの数もそう大きく増えたとは考えにくい。

また、バッキンガム宮殿の中の振子時計の数までは調べられなかったが、「三百個
の振子時計のゼンマイを巻くのに、係が一日八時間かける」というのは、移動時間を
考慮するとしても、かなり疑わしい。一人の係がすべての時計を、毎日欠かさずネジ
を巻いて回るとの前提だろうか。


【バッキンガム宮殿】

バッキンガム宮殿の中は六百五十の部屋と三百四十六人の使用人が
おり、三百個の振子時計のゼンマイを巻くのに、係が一日八時間かける。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.92

部屋数は 650 でなく 775、使用人が 346 人ではなく勤務している人が 600 人だと
いうのは、「バッキンガム宮殿って約半分の部屋に振子時計があるのかな」の方で。

そちらにも、「三百個の振子時計のゼンマイを巻くのに、係が一日八時間かける」は
疑わしいと書いたが、Backingham Palace の公式サイトには、以下の記述があった。

http://www.royal.gov.uk/output/page5495.asp
 26. There are more than 350 clocks and watches in Buckingham Palace,
 one of the largest collections of working clocks anywhere. Two full-time
 horological conservators wind them up every week and keep them in good
 working order.

「350 clocks and watches」とあるので、「振子時計」限定で 300 個というより、
置き時計、掛け時計、腕時計、懐中時計をすべて含めて 350 個ということだろう。

時計の管理員が 2 名いて、毎週時計のネジを巻き、時計が正常に動き続ける
ようにする。「係が一日八時間かけ」て、毎日ネジを巻いているわけではない。


【歌舞伎】

いくらカッコいい役者でも、これを男性と女性がやったなら、ここまでカルトな人気を
保つことはできないのではないか。歌舞伎の魅力は、女性を美しい男性が演じることにある。
宝塚の魅力も、女性を男性が演じることにあるのである。
舞台とは、現実を越えた非日常的の魅力があふれている場所でなくてはならない。
観客は、平凡な日常のウサをしばし忘れるために舞台公演へと足を運ぶ。
そこに繰り広げられるのは、ひとときのあいだ、日常のすべてを忘れ去れるほど、
常識を飛び越えた華麗な夢の世界でなくてはならない。
れっきとした女性が男性を演じ、女性と恋を語る……それは単なる性倒錯の魅力ではなく、
日常から意識をジャンプさせるための条件なのである。
舞台の上に現実の美少年を登場させる中島梓(栗本薫)の芝居の評判が悪いのも、
そういう舞台空間というものに対する理解のなさが原因といえるだろう。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.94

宝塚は女性が男性を演じることに、また歌舞伎は男性が女性を演じることに魅力がある
と語る人は多いけど、「歌舞伎の魅力は、女性を美しい男性が演じることにある」と断言
する唐沢俊一のような人は相当珍しいのではないか。「美しい女性を男性が演じること」
とかいうならば、いくらでも同意するんだけど。

舞台の上の女形が観客にとって「美しい女性」ではなく「美しい男性」だったらマズいし、
舞台に上がっているとき以外の化粧を落とした素顔が「美しい男性」であることなど別に
要求されない。筋書の後ろの方に載っているような素の写真はああだけど、それが舞台
ではこうなるのかというのは、むしろポイント高いと思うし。

そして、「舞台とは、現実を越えた非日常的の魅力があふれている場所でなくてはなら
ない」も、女性が男性を演じることは「日常から意識をジャンプさせるための条件」もまあ
いいとして。

何も「女性が男性を演じ、女性と恋を語ること」だけが観客に平凡な日常を忘れさせる
唯一無二の方法でもないだろうに、「現実の美少年を登場させる」のが「舞台空間という
ものに対する理解のなさ」、だから「芝居の評判が悪い」と主張されても……。

当然ながら歌舞伎や宝塚以外にも評判のよい芝居はいくらでもあるし、「身毒丸」だって
ジャンプ漫画をミュージカル化した劇だって、美少年を出して受けているのではないのか。
「中島梓(栗本薫)の芝居の評判が悪い」としたら、原因は別のところにあったはず。

何より、唐沢俊一が入れ込んでいる――そして、「あぁルナ掲示板 (ルナティック BBS) で
のヒドい削除」にあるように、以前からの劇団のファンの一部にしっかり嫌がられている
――「お笑い劇団:あぁルナティックシアター」だって、男性を女性が演じたりすることを
売りにしていないと思うが、これも「舞台空間というものに対する理解のなさ」のせいか、
それとも「現実の美少年を登場させ」なければ「性倒錯」でなくともかまわないのか。


【カリフォルニア】

アメリカのカリフォルニア州にはカリフォルニア半島はない。
カリフォルニア半島はメキシコ領にある。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.95

そんなもん地図見りゃ、一目瞭然だろう。
小学生あたりが地図を見て大騒ぎしそうなレベルの話。
唐沢俊一にとってはこれも雑学の一種なのかと。
でもとりあえずガセではないので、褒めてあげよう。

たぶん、ネットでこの文章を見て唐沢俊一は「そうだったのか!」と膝を叩いて
「これはみんなビックリするぞお」と本に書き込んだのだろう。


【オスカル】

……しかし、歴史の上には、このオスカルとそっくりの人生を歩んだ人物
がいる、ということをご存知だろうか。オスカルとは逆に、男でありながら
女として、それもとびきりの美女として、世界史を塗り替えるほどの活躍を
した人物がいたことを。時代もフランス革命の時代。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.95

「オスカルとそっくりの人生」というと語弊があるような気がするし、唐沢俊一の文章
だけ読むと、そんなにオスカルに似ているように思えないのだが、これについては
後述。

当時、フランスの国王はルイ十五世。〈略〉この王の命により、ロシア宮廷
のエカテリーナ女皇のもとへ派遣されたのが、このエオンだった。それも
女装をして。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.96

×エカテリーナ女皇
○エリザベータ女帝

同じページには、「エカテリーナ女王にも大変かわいがられ」「女王のプライベートな
おつきあいもした」と表記不統一。通常は「エカテリーナ女帝」と表記されるようだが。

で、これは「エリザベータ女帝」の間違い。「エカテリーナ女帝」は、エリザベータの
死後、女帝となった。

彼は果たして、本当に男性だったのだろうか。それとも、オスカルのような
男装の麗人だったのだろうか。フランスの人名辞典を引くと、彼のみは男性
の部と女性の部の両方に名前が載っているそうである。『ラルース大辞典』
は一応、彼を男性としているが、実のところはわからない。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.99

×実のところはわからない
○死後の解剖で男性とわかった 

唐沢俊一自身、4 ページ前には「男でありながら」、そして 3 ページ前には「それも
女装をして」と書いているくせに……とは思った。

シュヴァリエ・デオン (Chevalier D'Éon)、唐沢俊一のいう「シュバリエ・ド・エオン」は、
検死解剖の際に男性と判明している。生前は別として、現在でも彼を「男装の麗人」
だったと主張している人は、ほとんど見あたらない。

澁澤龍彦は、後半やや含みをもたせる書き方をしているが、それでも「正常な男子で
あることが明らかになった」と明言している。

最初にちょっと書いたように、「オスカルとそっくり」と書いていた割には、唐沢俊一の
描く「シュバリエ・ド・エオン」は、あまりオスカルっぽくない。唐沢俊一の文章の要約は、
http://homepage3.nifty.com/adeno1/sci/hist2b.htm
にある通りで、「ロシア宮廷にも堂々と女装のまま出入り」だの、「エカテリーナ女王
にも大変かわいがられ、〈略〉寝室へも誘われ」だの、「同性愛者だった、とする
記録もある。現にフランス王のルイ十五世とは肉体関係もあったらしく」だの、女装と
色仕掛けに明け暮れていたような書き方なのだ。そんなオスカルは嫌だと思うが。

想像に過ぎないが、これでは何だかオスカルとは違うというのを唐沢俊一自身も
薄々気がついて、「フランスの人名辞典」 (『ラルース大辞典』とは違い書名はない)
を登場させ、検死解剖されている事実をふせ、「男装の麗人」かもしれないと結んだ
のではないだろうか。

そんなことをするより、現在では信憑性のないとされている色仕掛け説やルイ15世
の愛人説はほどほどにして、剣の名手だったことを強調するなどすればよかったのに
と思うのだが。実際、他の人の書いた文章を読むと、なるほどオスカルを連想する人
がいるのもわかると素直に納得できるし、読んでいてはるかに面白い。


【オスカル】

時代もフランス革命の時代。ひょっとして『ベルばら』の作者、池田理代子は、
彼女(彼?)の話をどこかで知って、そしてオスカルというキャラクターのヒント
を得たのかもしれない、そういう人物である。

その名は、シュバリエ・ド・エオン。十八世紀末のフランス宮廷を舞台に、
実際のオスカル以上に数奇な運命をたどった人物である。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.95

「時代もフランス革命の時代」はまあよいとして、またフランス革命自体は「十八世紀末」
ではある (1789 年〜 1799 年) のだが、「シュバリエ・ド・エオン」が「十八世紀末のフラ
ンス宮廷を舞台に」というのは間違い。

唐沢俊一自身も書いているが、彼が活躍したのは主にルイ十五世 (在位 1715 年〜
1774 年) の時代である。

しかし、恋人であった(?)ルイ十五世の死後、エオンの出番はなくなっていった。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.95

シュヴァリエ・デオンが女装して宮廷に現れたのは 1778 年あたりが最後で、1779 年
にはルイ十六世の命令で「トンネールに退去」することになった。また、1785 年には
ロンドンに戻ってしまっている。

つまり、1789 年のバスチーユ襲撃のとき、シュヴァリエ・デオンはフランス宮廷にいな
かったのだ。『ベルサイユのばら』のオスカルの方は、ちゃんとベルサイユにいたのだが。


【焼夷弾】

焼夷弾による死者の死因は焼死ではなく、焼夷剤の燃焼により一瞬で
まわりの酸素が奪われることによるショック死。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.96

酸欠状態で窒息死する犠牲者もいれば、毒性物質により中毒死する犠牲者もいる。
焼夷弾の直撃による死亡者もいたし、当然ながら焼死者もいる。「酸素が奪われること
によるショック死」 (窒息死ではなく) について言及している資料は見つからなかった。

それにしても、「焼夷弾による死者の死因は焼死ではなく」とはトンデモ。焼夷弾で引き
起こされた高熱、火災による焼死者は、「焼夷弾による死者」には数えられないとでも
いうのだろうか。


【電気椅子】

電気椅子は、はじめに弱い電気ショックで死刑囚が気を失った後に高電圧 をかけて殺す。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.98

これが、少なくとも常に正しいわけではない。
で、まあ、電気椅子といえばアメリカ (そのアメリカでも最近は廃止の方向にあり、
薬物注射に置き換えられているそうだ) のことと考えるとして、Wikipedia によると、
「はじめに弱い電気ショック」どころか、最初に 2000 ボルトの高電圧をかけて、
それから降圧していくとのこと。


【ルイ十五世】

彼を同性愛者だった、とする記録もある。現にフランスのルイ十五世とは
肉体関係もあったらしく、恋人のような往復書簡も残っている。けれども、
彼は貴族としてちゃんと妻も持っているのである。もっとも、他人にはその妻
を妹だと言って紹介しているというのだから、わけがわからない。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.98

ルイ十五世との同性愛説は当時存在していたようだし、国王の「機密局」という任務の
性質もあって書簡は多数やり取りしていたが、「恋人のような往復書簡」というオイシイ(?)
資料が残っているという話はない。

澁澤龍彦『妖人奇人館』 P.25
歌劇『フィガロの結婚』のケルビーノのような、この女装した美少年の艶姿に、フランス
国王ルイ十五世がぞっこん惚れてしまい、彼を寝室に誘いこんだというような噂もある
が、これはどうやら嘘らしい。国王のまわりには、ポンパドゥール夫人の目が光っていて
まず浮気なんか出来っこない状態だったからである。

そして、「貴族としてちゃんと妻も持っている」という話はない。一応妻がいたならば、
彼を女性と信じ込んだ人の数もずいぶん少なかっただろうし、彼は男性か女性かという
賭けが成立したかも疑わしい。妻がいても、偽装結婚だ本当は女だと言い張ることは
できないことではないとはいえ。


【ヘリコプター】

ほとんどのヘリコプターのローターは反時計回りだが、
ロシア製とフランス製だけは時計回り。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.100

Wikipediaによると
 メイン・ローターの回転方向は、米国製のヘリでは反時計回り、
 ヨーロッパ製のヘリでは時計回りであることが多い。

この唐沢俊一ガセビアのネタ元候補としては、こういうの↓がある。
http://www.jal.co.jp/jiten/dict/p217.html
 エンジンのローターとか,ターボプロップのプロペラなどの回転方向は,エンジンを
 後方から見て,時計回り(clockwise)とか,反時計回り(anti-clockwise)とかで表す。
 わが国を含むほとんどの国のエンジンは,原則的に時計回りを採っているが,英国
 とロシアは逆方向を原則にしている。

ヘリコプターのローターの話とは違うし、
「ロシア製とフランス製」ではなくて「英国とロシア」だけど。


トンデモ一行知識の世界 P.001〜020 P.021〜040 P.041〜060 P.061〜080 P.081〜100
P.101〜120 P.121〜140 P.141〜160 P.161〜180 P.181〜220
トンデモ一行知識の逆襲 P.001〜020 P.021〜040 P.041〜060 P.061〜080 P.081〜100
P.101〜120 P.121〜140 P.141〜160 P.161〜180 P.181〜220

最終更新:2017年05月29日 16:12