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『トンデモ一行知識』をもっと楽しく読み込むためのガイド
【醍醐味】
奈良時代には、日本人は牛乳を好んで飲んでいた。乳製品もたくさん
あって、その中で最高級品とされていたのが「醍醐」。「醍醐味」という
言葉はここからきている。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.22 ~ P.23
これだとまるで、日本人が「醍醐」とよばれる乳製品をつくって食べていたかのようだが、
日本で醍醐をつくることに成功していた可能性は低い。
醍醐味という言葉は、涅槃経の「醍醐最上にして」「味は乳酪酥の中で微妙第一にして」
からきている。涅槃経の記述は、醍醐を仏教の最高真理にたとえたもの。日本でつくられ
ていた乳製品の最高級品が醍醐だから「醍醐味」という言葉がうまれたわけではない。
【カルピス】
醍醐をサンスクリット語(梵語)で言うと「サルピス」。これと「カルシウム」を
あわせたのが、カルピスの由来である。
あんなモダンなイメージの飲料が、サンスクリット語を語源としているとは。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.23
× 醍醐
○ 熟酥
同じ本の P.166 では「実は親戚にカルピスの社員がいて」と書いているのだが、
その割には間違えている。
カルピスのサイトによると、サンスクリット語の「醍醐」は「サルピルマンダ」で、
カルピスの「ピス」は、「熟酥 (じゅくそ)」という意味の「サルピス」から。
仏教の五味の最上位である醍醐ではなくて、次位の熟酥を選んだ理由は、
「カルピル」よりも「カルピス」の方が言いやすいためだそうだ。
決定にあたっては、音楽家・山田耕筰やサンスクリット語の権威・渡辺海旭にも相談。
【釈迦】
とにかく釈迦がシッダルタ王子と呼ばれていた頃、
山で苦行を終えて下りてきたとき、スジャータという娘に出会って牛乳を飲ませてもらった。
これが活力となって人々の幸せを見つける悟りを開いたという説話がある。
この日が十二月八日。仏教ではこの日を「成道会」という記念日にしているが、
仏教では十二月八日は牛乳のありがたさを記念する日でもあり、
愛知県大須の大松寺ではこの日を“スジャータ祭り”と呼んで、
参詣にきた善男善女に牛乳を配る。
のだそうである。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.23 ~ P.24
×大松寺
○万松寺
×この日を“スジャータ祭り”と呼んで
○この日に“スジャータ祭り”を開催して
×牛乳のありがたさを記念する日
○釈迦の成道(悟りを開いた事)を記念する日
下に引用するものはパクリ元候補でもある
(文節単位で順番を入れ換えただけという感じ) のだけれど、
これによると「大松寺」じゃなくて「万松寺」。
ググった限りでは「愛知県大須の大松寺」は実在しない。
愛知県大須の万松寺で開催される“スジャータ祭り”について
紹介しているサイトはいくつか存在する。
サリーを着た女の人が、あたためた牛乳を配るそうだ。
しかし、万松寺が「この日を“スジャータ祭り”と呼んで」いる
などと書いてあるところはない。
12月 8日が「『成道会』という記念日」とあるが、成道会 (じょうどうえ) とは
「釈迦の成道(悟りを開いた事)を記念して行われる法要(行事)のこと」。
スジャータという娘が釈尊に牛乳粥をあたえたという故事にちなんで、
牛乳や乳粥をふるまうところは (万松寺以外にも) いくつかあるようだけど、
唐沢俊一のいう「牛乳のありがたさを記念する日」というのはいくら何でもないだろう。
【イースターエッグ】
イースターの卵はかえるとウサギになる
『トンデモ一行知識の逆襲』P024
とりあえず唐沢俊一は知らなかったみたいだけど、ウサギは卵生ではない。
って、イースターエッグの意味を曲解しているみたいだ。
昔の人だって別に、卵からかえるウサギの話を言い伝えたりはしなかった。
イースターの卵は瞬きしないウサギが運んでくるって話とかはあるけど。
イースターエッグからウサギが産まれてくるとか言っているのは唐沢俊一だけじゃないかと。
【スジャータ】
ところで、コーヒーに入れる方のスジャータであるが、
あれを東京ではコーヒーミルク、または単にミルクと呼ぶが、
大阪の方に行くと呼び名が変わるそうだ。
コーヒーに入れる濃縮乳製品を総称して、大阪では「フレッシュ」という。
念を入れて「コーヒーフレッシュ」と呼ぶ場合もあるということ。
なんでこんな名前で呼ぶのかはわからない。ちなみに、英語では“クリーム”です。
“ミルク”というとただの牛乳がきてしまうので注意。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.24
「コーヒーに入れる方のスジャータ」は「濃縮乳製品」ではない。
濃縮乳は、成分規格が「乳固形分 25.5%以上うち乳脂肪分 7.0%以上」、
保存の方法の基準は「摂氏十度以下に冷却して保存」と、厚生省乳等省令で決められている。
つまり、常温で何十日も保存できる濃縮乳製品というのは、ありえない。
スジャータの製品説明のページにも、「コーヒーフレッシュ」とはあっても、「濃縮乳」の文字はない。
「コーヒーミルク」というのも微妙。
Google で画像検索したら、確かにあれをコーヒーミルクと呼ぶ人も多数存在しているようなのだが、
コーヒー牛乳やアイスカフェオレの製品名になっていることも多いのだ。
「明治 コーヒーミルク」とか、「森乳業 わたしとぼくのコーヒーミルク」とか。
ちなみに、「妖怪珈琲」は、残念ながら (?) 「コーヒー (ミルク入り)」。
この「コーヒーミルク」も「濃縮乳製品」も、「英語では“クリーム”です」と
言わずもがなのことを書くだけのために、あえて「クリーム」というのを避けた結果――
という疑いがある。
(厚生省乳等省令に従えば、クリームは「乳脂肪分 8.0%以上」でないといけないけど)。
で、「なんでこんな名前で呼ぶのかはわからない」なら、調べればいいのに――というのは、
最初にこのネタを書き込んだ人もツッコミを入れていたが。
大阪に本社のあるメロディアン (旧社名 日興乳業) のサイトによると、ポーション入りの
コーヒーフレッシュを最初に発売したのはここ。
【夏ミカン】
夏ミカンの真正種はすでに絶滅しており、
現在のものは正しくは夏ダイダイである。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.25
そもそも「夏ミカンの真正種」という表現自体、めったに使用されないものであり、
これでググっても、
この一行知識をそのままコピーしたようなものがたった 3 件ヒットするのみ。
で、「現在のものは正しくは夏ダイダイ」も何も、大辞林でも大辞泉でも、「ナツダイダイ」
の項には「ナツミカンの別名」と載っているのみなのだが。
だいたい、ナツミカンが最初に作られた山口県には、漂着した柑橘の種を育てたという
原木も現存しているそうなのに、何をもって「夏ミカンの真正種はすでに絶滅」ということ
にしてしまったのかは不明。
【結婚式】
別項目で→「
結婚式」
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.25 ~ P.27
【鉛筆】
鉛筆一本で書ける線の長さは十八キロ。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.27
×十八キロ
○五十キロ
マラソンの距離より長い 50km ぐらい書けるといっているのは、
日本鉛筆工業協同組合なので、まあ間違いはないでしょうということで。
【顔】
医学的に言うと顔というのは眼窩(目を納める窪み)の上の部分から
顎の下までを指す。眉は頭に属して、顔には入らない。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.28
眼窩は人造物ではないし、人がそこに目を入れるわけではないのだから、「目を納める
窪み」という表現にはかなりの違和感が。「眼球の入っているくぼみ」、または、せめて
「目が収まっている窪み」とか、他に書きようがあったと思うが……。
で、まあ、通常の顔の定義は以下のような感じで、当然のように眉毛も額も入る。
医学的な定義では額は頭に属する (前頭部と額は、ほぼ同じ領域をさす) というのは
聞いたことがあるけど、「眉は頭に属して、顔には入らない」と、眉を境界線としなくて、
頭に属すると断言している唐沢俊一定義には疑問が残る。眉って、目を見開いたときは
前頭骨の上にくるけど、閉じると眼窩の方にくるし。
また、医学でも、美容整形医学などの顔の定義には、眉も額も入っていそうなんだけど。
【正座】
正座したとき、足の親指は「男は左」「女は右」を上にするのが正しい。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.29
昔はともかく、現在はそのような決まりはない。
また、親指は重ねなければいけないというものでもない。
まあ「『男は左』『女は右』を上にするのが正しい」とされている時代に生まれなくて、
よかったとは思う。どちらかが上と決まってしまっていたら、足のしびれ防止に、上に
する指を切り替えるというのも、作法として正しくないということになりかねないので。
では「男性が左の親指が上、女性は右という決まり」はどこからきたのかというと、
その礼儀作法が明治初期の学校教育にも採用された小笠原流
とのことなので、小笠原流には、「男は左」「女は右」を上という規則があったのかも。
ただし、小笠原流のサイトには、どちらの指を上にしろとは書いていなかった。女性と
思われる写真の方では、右の親指が上になっているが。
【走れメロス】
「走れメロス」の主人公メロスの本当の名前は「モロス」である。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.30
小説の最後に「シルレルの詩から」とあるが、
これはフリードリヒ・フォン・シラーのバラード形式の詩『Die Bürgschaft 人質』とされていて、
その主人公の名前 Möros を英語読みしたものを、「本当の名」と主張したという可能性がある。
http://ja.wikipedia.org/wiki/走れメロス
【マルクス兄弟】
グルーチョ・マルクスは映画を引退した後、活躍の場をラジオに移して、
国民的人気を得た。その番組の名は『命をかけろ!』。参加者が自分たち
の雑学を競う番組だった。未だにアメリカ人は一行知識のたぐいが大好き
で、テーマ別の一行知識本がたくさん出版されているが、その嗜好はこの
番組が根付かせたと言っていいだろう。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.30
×ラジオ ○ラジオやテレビ
グルーチョ・マルクス (Groucho Marx) の「You Bet Your Life」は、1947 年からテレビ
番組として始まる 1950 年まではラジオ番組だったそうだけど、グルーチョ最後の映画
出演が 1949 年だから、「映画を引退した後」というのなら、やはり主にテレビが活躍の
場所といえるだろう。
グルーチョがメインホストをつとめた人気のテレビ番組「You Bet Your Life」は、1950 年
から 1961 年にかけて放映された。1960 年に「The Groucho Show」と改名されて翌年
まで放映続行。NBC のこの番組が終了してからグルーチョは、「Tell It to Groucho」
(1962 年) という CBS の番組に出演したりしている。
ところで、『命をかけろ!』という訳には、かなり違和感があるのだけど。訳するとしたら、
「人生を賭けろ」あたりじゃないかなあ。ググった限りでは、多くは「You Bet Your Life」
と原題のままの表記。この番組を『命をかけろ!』と訳している資料は見あたらない。
【竹ヤリ】
竹ヤリの正式名称は「引殺(ひっそぎ)槍」である。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.34
大辞林によると、「引っ殺ぎ (ひっそぎ)」単独の意味は、「先を鋭く切り落とすこと。
また、切り落としたもの」。
そして「引っ殺ぎ槍 (ひっそぎやり)」や「引っ殺ぎ竹 (ひっそぎたけ)」は、
先端を斜めに尖らせた竹のことであるため、
まあ竹槍の別名が「引殺(ひっそぎ)槍」と主張することはできるだろう。
ただし、それが「正式名称」といえるかどうかは別。
第二次世界大戦中の竹槍事件のときも、新聞の見出しに踊ったのは
『竹槍では勝てない、飛行機だ』。
竹槍についての資料はあっても、
それを「引殺(ひっそぎ)槍」と呼んでいたという資料はほとんどない。
ググっても、唐沢俊一の一行知識をそのまま写したのみのようなものと、
「ひっそぎ」を「ひっさぎ」としているものが 3 ~ 4 件ずつのみ。
それ以外は、「ひっそぎ槍」「ひっそぎ竹」が文中に出てくる、
歌舞伎についてのブログ 2 件くらい。
どこの「正式名称」かという状態である。
【カッパ】
河童は尻の穴が三つある。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.35
『富士山よもやま話』に書かれていたという、河童の皿に穴が三つあるという話が、
なぜか「尻の穴が三つ」と変形したのかとも思って調べたけど、江戸時代の画家で
ある小川芋銭が尻の穴の三つある河童を描いていたり、それなりに由緒のある (?)
話だったようだ。
なのでガセビアにはカウントしないけど、微妙
【シナチク】
シナチクとメンマの差は製法の違い。
竹を茹でたものがシナチク。蒸したものがメンマ。
『トンデモ一行知識の逆襲』P036
竹を茹でたり蒸したりしても食べるのは無理。
シナチクとメンマは同じもので、竹ではなく筍を蒸したり茹でたりしてから、
発酵させたり乾燥させたりして作る。
“シナ”という言葉への抵抗のため、最近はメンマという呼び方が一般的。
つまりシナチクとメンマは製法の違いではなく、別名というだけの扱い。
そもそもメンマという呼び名は昭和20年代に松村秋水が日本でシナチク(支那竹)を
発売する際に「麺の上に乗せる麻竹」という意味でメンマと名付けたもの。
どっちも日本で考案された呼び名。
【福沢諭吉】
福沢諭吉は「ヴ」という音を発明した。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.40
×「ヴ」という音を発明した。
○「ヴ」という表記の発案者である。
いくら何でも、「音を発明」というのはナシだろう。
「v 音」というのは諭吉の生まれるずっとずっと前からあったものなんだし。
実際には正しい雑学を唐沢俊一の表現の下手さからガセにしてしまったモノも多い。
最終更新:2017年05月29日 16:08