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『トンデモ一行知識』をもっと楽しく読み込むためのガイド
【早漏】
江戸時代の早漏防止薬「長命丸」と現代の「救心」は成分が同じである。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.181
×成分が同じである ○共通した成分がある
媚薬として売られていた「長命丸」は、阿片が主成分の塗り薬と伝えられている。
それと「救心」とを、「成分が同じ」と書いてしまうのは、かなりマズいのではないか。
媚薬の「長命丸」の成分には諸説あるようだが、麝香、がまの油 (蟾酥)、龍脳の
ように救心にも含まれている成分がある一方、長命丸の阿片、丁字、紫梢花、朱砂
(硫化水銀)、救心の人参、真珠といった片方にのみ含まれるとされている成分もある。
唐沢俊一の文章には、共通して「蟾酥(センソ)」が含まれることが重要なことのように
書いてあるが、「共通の成分がある」と「成分が同じである」とでは、だいぶ違うと思う
のだが……。
長命丸が「早漏防止薬」というのも微妙。下記の引用にもあるが、バイアグラの
ような強壮剤としての効能に着目して紹介されることが多い。
【坂田三吉】
坂田三吉は“馬”という字を好み、同時に、唯一書ける文字であった。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.184
坂田三吉が書けた文字、好んで書いていたといわれている文字は「馬」と「三」。
「馬」が「唯一書ける文字」であり、名前にも入っている「三」も
書けなかったとするのは、ガセビア認定してよいだろう。
【セミ】
ヨーロッパでセミが生息しているのは南仏とギリシャだけ。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.187
ヨーロッパには地中海沿岸部を除いてセミはいない、
ギリシャのイソップが書いた寓話はアリとセミの話だったが、
ヨーロッパの人にセミはなじみがないのでキリギリスに変えた
というのはよく聞く話である。
生息はしていても、「日本のセミのような元気な大音量ではありません」という話もあるし、
一部の人を除いて昆虫に関心が薄く (『ファーブル昆虫記』なども日本ほど
受けたわけではないそうだ)、日本人とは違い虫の声は雑音にしか聞こえないこともあって、
セミがいても存在はあまり認識されなかったのではないだろうか。
それにしても、このガセビアでは、
イタリアすら無視して「南仏とギリシャ」に限定しているのが少々不思議な気がする。
推測するに、イソップのいたギリシャ、マルセル・パニョルの小説の舞台の南仏については、
さすがにセミがいないとは書けなかったが、地中海沿岸部で温暖な気候でも、
イタリアやスペインについては無視してよいと思ったか、そもそも念頭になかったのだろう。
唐沢ガセビアで不思議なのは、「南仏とギリシャだけ」と限定していて、
イタリア南部にすら セミがいないような書き方だけど……
まあ、これは、「アリとセミ」の寓話を書いたイソップ のいるギリシャ、
マルセル・パニョルのいる南仏についてはセミがいないとは書けなかったが、
イタリアあたりについてはスルーしちゃったということなのかなあ。
【サウジアラビア】
普通、国旗には「裏面」というのはないが、
サウジアラビアの国旗には 「裏面」がある。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.190
『トンデモ一行知識の世界』 P.52 欄外には「・サウジアラビアの国旗には裏表がある。」
という類似ネタがあるけど、
で、あちらにもちらりと、
「(まあ、どの国旗にも表と裏というものがあるというご意見もあるだろうが、そこはご容赦)。」
と書いたけど、「普通、国旗には『裏面』というのはない」わけではない。
国旗を掲揚すれば、表の面も裏の面も人の目にふれるわけで。
(サウジアラビアではなく) パラグアイの国旗にだけは裏表がある――
という言い方がされることが多いのは、
パラグアイの国旗のデザインが表と裏とで異なるため。
しかし、このパラグアイの国旗について言及されるときにも、
「普通、国旗には『裏面』というのはない」などとは、まず言われない。
つまり、同じトンデモ一行知識シリーズで同じネタを使い回しただけではなく、
後から出した本に載せたものの方がより劣化していて、ガセビア度も高いというオチ。
【味覚】
人間は物質が水に溶けていないと、その味覚を感じることができない。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.191
この場合、「味覚を」ではなく「味を」ではないかという気もするけど、おいといて。
水に溶けていない状態の塩や砂糖をなめたときでも、しょっぱいとか甘いとか感じるけど。
塩や砂糖なら、舌の上で唾液に溶けてから味を感じるという解釈もできるけど、油とかは
水に溶けない (混じらない) のに、胡麻油、オリーブ油など、単独でなめてみても、立派に
その味を感じることができるような気がするんだけど。
さらに、金属味というのもあるような気が。
そもそも味覚というものは、必ずしも基本味――甘味、酸味、塩味、苦味に、うま味――に
限定されるものではないという解釈も可能であり、辛みや温度、舌触りなどについては、
「化学受容体を介する」必要すらない。
【帝国ホテル】
大阪の帝国ホテルは「帝国ホテル大阪」という。
「大阪帝国ホテル」ではないのはそういう名前のラブホテルがあるから。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.193
×ラブホテル
○ホテル
「大阪帝国ホテル」のサイトをみると、
「当ホテルは東京の帝国ホテル系列とは別になります。」の文字が。
でも、「レディースシングルプラン」なんてトップページにあるし、「ラブホテル」でないことは確か。
【モグラ】
モグラは、二時間以上何も食べないと死んでしまう。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.198
「知泉(二見書房)」にも似ているネタがあるが......
モグラの種類によっては2時間以上何も喰わないと死んでしまうものもいる。(『知泉』P.199)
モグラは、二時間以上何も食べないと死んでしまう。(『逆襲』P.190)
Wikipedia には 12 時間以上と記述されている。また、ニュースプラス1では
「4時間で餓死」といっていたそうで、
その他、5 時間くらい餌が見つからないと餓死と
している資料もいくつかある。モグラが太陽の光にあたると死ぬというのは実は嘘とか、
モグラは一日に自分の体重と同じ分だけの餌をとる必要があるとかいう話とセットで
語られることが多い。
ということで、モグラ全般が「二時間以上何も食べないと死んでしまう」といっているような
唐沢俊一の話は、ガセビアと認定してよいだろう。
ただまあ、5 時間説の根拠となっている研究とは具体的に何か、2 時間で餓死する種類
のモグラが実在するのかという点については、今後の課題 (?) だけど。
【尾長鶏】
「yokohama」と書くと、英国では「尾長鶏」を指す。
明治の頃、横浜港からイギリスに輸出されていたため。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.202
「英国」と「イギリス」の表記不統一は原文ママ。
普通に英和で yokohama を引いても該当する語はでてこない。
和英で「尾長鶏」を引くと「a long-tailed cock」とでてくる。
【シックス・センス】
『シックス・センス』という映画がある。これは人間の持つ視覚・聴覚・味覚
- 触覚・嗅覚の五感以外に、死んだ者の霊を見ることのできる特殊感覚を
持った男の子の話である。
なんでこんな、内容がよくわからないタイトルをつけるんだろう。そもそも、
原題のシックスはSIXではなくSIXTH。6ではなく6番目という意味で、
正確な発音は“シクスス”になる。よくわからない上に不正確なタイトル
なのだ。『第六の感覚』でいいじゃないか、と思うのだが。
『トンデモ一行知識の世界』 P.202
דシクスス” ○“シックスス” または “シックス”
“シックスス”とは上に書いたけど、話者によっては、“シックス”としか聞こえないものも
多かったり。
sixth の発音記号を見ても six にθ (th にあたる) をつけたのみで、sixth だからといって
「シックス」が「シクス」になったりはしない。five と fifth あたりと混同しているのでは。
そもそも正確な発音を片仮名で表記するのは無理がある――特にこのような子音が
連続している単語では――とも思うが、あえて発音に近い表記を選ぶとして、それが
“シクスス”でないことだけは確か。唐沢俊一は「不正確なタイトル」と非難しているが、
“シックス”の方が日本人の耳で聞く sixth の発音に近いし、「よくわからない」点では
“シクスス”の方が上をいってしまっている。
【寄生虫】
東京・目黒寄生虫館の来館記念スタンプには、
寄生虫に寄生され苦しんでいる子供が描かれている。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.204
目黒寄生虫館の公式サイト
http://kiseichu.org/ を一通り見たが、スタンプについて
の情報は特になし。全般的に個人ブログの紹介の方が、情報が充実している感じ。
ロゴの蝶のような形はフタゴムシというのも、個人ブログの文章で知ったし。
ちなみに、「目黒寄生虫館 スタンプ」で画像検索したら、目黒寄生虫館の建物の方が
入っている図案のスタンプもあったけど、残念ながら元リンクが切れていた。
【あらいぐまラスカル】
アニメ『あらいぐまラスカル』のファンに
「ラスカルは本当はアライグマではなくレッサーパンダだ」
と言ってみたり、
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.215
×ラスカルは本当はアライグマではなくレッサーパンダ
○アニメのラスカルはレッサーパンダに似た色設定
実際には、ラスカルは本当にアライグマ。
スターリング・ノース (Sterling North) の書いた原作の小説でもアライグマ (raccoon) だし、
ディズニーによる映画でもアライグマ。
もちろん、日本のアニメの『あらいぐまラスカル』だって、題名の示す通りアライグマ。
確かにアニメの放映版のラスカルは目のまわりが白く、
レッサーパンダに似た配色になっているけど、
「手首などは明らかにあらいぐま」。
また、このネタを2ちゃんねるのスレで指摘した人も書いているように、
レッサーパンダの生息地は中国とヒマラヤのため、
アメリカにいる主人公の少年とめぐりあえる可能性は皆無に近い。
原作小説は実話を元にしているものなのに、そのようなことでは困るのだ。
なお、レッサーパンダは、北アメリカのアライグマ類が最も近縁という話もあるが、
それが頭にあったから唐沢俊一はレッサーパンダと言った――とも考えにくい。
レッサーパンダに関する別のガセビアの中で、
唐沢俊一はレッサーパンダもパンダのうちのように書いているので。
ところで、目のまわりを白くした理由は、
最初は実際のアライグマに近いものだったのが「可愛くないため」とか、
「『このまま成長すると顔がこわくなる』という意見があって、白くした」とか
いわれているけど、個人的には、
じゃあパンダの顔とかは可愛くないのかなどと思ったりもする。
【イエス・キリスト】
イエスキリストは、磔にされたとき、実際には手のひらではなく手首に釘を打たれた。
手のひらに釘を打つのは後世の作家たちの創作である。
〈略〉
また、敬虔な信者たちが、ときおりキリストの磔刑の痕が神体に浮き出て、
血がにじみ出すという現象(スティグマという。聖痕のこと)を見せ、
奇跡とされる場合があるが、
この傷がまず大抵は歴史的に間違っている手のひらに出る、などという知識は、
はしゃいで披露した途端にオカルトマニアたちに、
とんでもない不心得ものとしてバッシングされることだろう。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.216 ~ P.217
キリストが磔にされたときには「手首に釘を打たれた」などという、
『ムー』にちょくちょく載っていたような小ネタの披露にバッシングするなんて、
どんなオカルトマニアかと。
ちなみに、手のひらに釘を打たれて磔にされたのでは体重を支えきれないで
手が裂けてしまう、
最近の考証では手首に釘を打たれたというのが有力だ――という話の続きには、
だから手首に釘を打たれた痕らしいものが見える「トリノの聖骸布」は、
信憑性があるだのないだのということが語られることも多い。
確か『ムー』の記事もそんな感じだった。
一方、手のひらに聖痕を発現させていた人たちはどうなったかというと、
今度は手首から血を流す人が出てきたそうだ。
その真偽は不明だが、人間の柔軟性というものについて考えるのには、
よい話でないかと思う。
【オギノ式】
オギノ式のことを別名「バチカン・ルーレット」と言う。
カトリックが唯一公認している避妊法だからである。
などという一行知識は、聖職者にも産婦人科医にも眉を顰めさせる。
産婦人科医が眉を顰めるのは、オギノ式はもともと、月経と時期的関連性において
排卵期と受胎期の関係を明らかにした不妊治療法だからである。
ついでに言うと、荻野久作博士が発表したこの説は、産婦人科学で世界のトップだった
ドイツ医学界が日本人に先を越されたということで長いこと認めようとせず、
昭和五年に荻野博士が論文をわざわざドイツ語で発表してから やっと認められるようになり、
しかもヨーロッパでは荻野博士ひとりに名誉を与えたくないため、同様の研究をしていた
クナウスとの連名で(荻野学説はクナウスのそれよりはるかに正確で新しかったにもかかわらず)
オギノ - クナウス理論と呼ばれている、というような知識を披露することで、
さらに産婦人科医たちの機嫌を悪くすることが可能である。
『トンデモ一行知識の逆襲』 P.217 ~ P.218
「はるかに正確で新しかったにもかかわらず」では意味が通らないような。「はるかに
正確で先行して発表されたにもかかわらず」とかなら、わかるのだが。
実は、荻野久作が 1924 年に発表した論文を長いこと認めなかったのは、ドイツではなく
日本の医学会。荻野久作本人は、自分が新潟の一開業医だったことと、年齢の若さが
日本の産婦人科医学に取り入れられなかった原因だろうと、インタビューにこたえ分析
している。
日本で発表した 6 年後、1930 年にドイツの婦人科中央雑誌に発表した論文は「大反響
を起こ」したとのことで、「ドイツ医学界が日本人に先を越されたということで長いこと
認めようとせず」などという話は、他を探しても見つからなかった。
そして、ググった限りでは、外国では「オギノ - クナウス理論」というより「クナウス - オギノ
方式」 (Knaus-Ogino method, Knaus-Ogino-Verhütungsmethode) と呼ばれていて、
これが指すのは、「排卵日と受胎日」についての理論自体というよりも、その理論を利用
した避妊法の方 (Rhythm Method、Calendar-based methods ともいう)。
避妊法の名前にオーストリア人のヘルマン・クナウス(Hermann Knaus)の名前がついて
いるのは、彼が荻野の理論に追随し、さらに避妊法として利用することを提唱したため。
ただし、荻野久作本人は、自分の理論が避妊法に使われることについては、確実性の
低さを理由に強く反対していた。
最終更新:2017年05月29日 16:19