制定年月日:新宇宙暦105年4月1日
概要
ピースギア異世界転移・調整任務作戦規定は、旧
ピースギアが異世界で任務に就く隊員の行動基準を定めた規定である。
平時の転移任務と調整任務の手順に始まり、本隊との連絡を絶たれた局面から、事故で任務外の世界に転移した局面までを収める。
原則
転移も調整も並行世界と多層時空構造に踏み込む行為にあたり、本章の定めは以下の全章に先立って適用される。
転移
転移任務の出発点には、転移という行為そのものが対象世界に予測の外にある影響を及ぼしうるとの認識が置かれた。規定の目的は、隊員の行動から広がる因果の波及を最小に抑えることにある。転移の開始前には
未来因果スキャンによる観測が義務とされ、記録された干渉パターンを
因果解析AIが処理して、任務行動が世界線に与える影響を数値に置き換える。評価値が許容範囲に収まったと確かめられた段階で、手続きは転移の準備に移る。時空構造に直接作用する高位技術を携える任務では、対象世界の時空構造との適合性を調べる工程が加わり、現地の文明水準に照らした検討もこれに続く。自然法則との干渉が深刻な歪みを生むと判定された場合、任務は延期もしくは中止となった。現地住民との接触は最小限に絞り込まれる。隊員個人の判断で対話を始める行為も、物資を手渡す行為も禁じられ、文化の伝搬が文明の歩みを外側から変える経路は、出発の前に断たれている。
調整
調整任務が扱うのは、異世界の内部で生じた時空の異常である。文明の進化に生じた偏差も、因果連鎖の破綻も同じく調整の対象に入り、隊員は対象世界を本来の収束点に導く。調整は、対象世界がたどるはずだった時空の自然な回帰を後押しする手法と定義され、持ち込む変化が最小で済む分、判断には繊細さが求められた。任務の開始前には
クロノシミュレーションが複数の未来予測を生成し、介入の有無に度合いを重ねた条件ごとに、生じる結果を比較する。行動の原則は最小介入に置かれ、手段には対象文明に痕跡の残る余地が小さいものが優先して選ばれる。
CAF装置による時系列の微調整と、
IF-Spaceを用いた反実仮想空間の解析が、その代表にあたる。いずれも携行の原則を上回る等級に属し、使用の承認を得たうえで運用に入った。調整が絡む局面は自然災害の渦中や政治の分岐点にあたる場合が多く、隊員の一挙一動が世界情勢に長く尾を引く。過剰介入の兆候を因果解析AIが捉えた時点で警告が発せられ、任務を続けるか否かが改めて審査に付される。
装備
装備に関する定めは、世界の間に横たわる技術格差が対象世界の因果を崩す事態の防止に目的を置く。
使用制限
隊員が携行できるのは、組織内で広く運用される標準等級の装備が原則となる。一段上の等級に属する装備は、任務内容に照らして対象世界の状況が特別な理由を示した場合に限り、限定使用が許可された。時空構造に直接作用する高位技術は、使用そのものが任務全体の因果の安定を揺るがしうるため、司令部による二段階の承認を経て初めて運用に入る。個人装備体系
RIGシリーズには外装の改装が義務付けられ、外見から過剰な先進性が読み取られる事態を防ぐ。
Q-NETの接続は秘匿通信の確保に、
ID-Trace分離識別網は隊員の保護に必須とされ、どちらも出力を抑えた設定が標準として組み込まれている。対象世界に漏れる電波もしくは魔力波の干渉は、この設定によって小さく保たれた。自衛の防御には、RIGの装甲層が張るリアクティブ・バリアを最低限の範囲で用いる。観測艦の
エネルギーパルスシールドと
複合装甲も、展開は自衛に要る範囲に収められる。現地文明が防御の挙動を敵性技術と取り違える事態を避けるため、展開の判断には状況の見極めが求められた。
露呈
装備の露呈は三つの段階に区分され、段階ごとに隊員の対処が定まっている。判定の基準に置かれるのは、目撃した側が技術の働きをどこまで受け止めたかである。
瞬間露呈:偶発的な目撃が一瞬で終わった状態にあたる。現地住民の理解が追い付く前に視界から外れた場合は影響を軽微と判定し、隊員は速やかに現場を離れる。
認識露呈:目撃した者が技術や装備の働きを理解した段階で、露呈はこの区分に移る。隊員は直後に現地側の記録と痕跡を封じ、必要に応じて簡易の偽装を施す。
機能露呈:装備を実際に使い、能力が現地住民に認知された状態を指す。規定はこれを禁止域に置いており、発生した時点で世界への影響評価が始まる。消去の手段が残る場合は装備の痕跡を消し、手段が尽きた場合は潜伏行動に移る。
接触
異世界の住民との接触は任務の進行に伴って生じる場合が多く、規定は接触を禁じる線と許す線を段階で引き分けた。
禁止事項
異世界での行動で最も重く見られるのは、現地住民に不要な影響を及ぼす事態である。隊員はいかなる状況でも技術の流出を招く行動を慎み、文化への介入も歴史の改変につながる振る舞いも、同じく戒められる。現地の文明の進み方を大きく変える情報の提供は、技術の供与と並んで絶対の禁則とされた。統治機関との接触は原則として禁じられ、軍事機関も宗教団体も同じ扱いを受ける。不意の遭遇に際しては、隊員は非介入の姿勢を最後まで保つ。任務上の必要から現地勢力と共同で動く場合は、接触段階の協調行動に従い、司令部の承認を経て初めて行動に移る。任務中に得たその世界固有の情報を組織の外に漏らす行為は厳罰の対象となり、多世界の保全を損なう事案には最も重い処分が下る場合もある。異世界の歴史に名を残す余地を、隊員は出発の時点で手放している。
接触段階
接触の度合いは五つの段階に分けられ、隊員は状況に応じて段階を見極める。いずれの段階でも、接触を最小に留める姿勢が前提に置かれる。
観察:姿を隠したまま周囲を見る段階で、住民との接触は皆無に保たれる。
最小限の交流:身元を伏せたうえで、緊急避難を含む狭い範囲に限り住民との接触を許す。
限定協力:任務の遂行に必須の最小限の情報交換が許され、技術の提供は厳禁とされる。
協調行動:任務上必要な共同作戦が認められる段階であり、実施には司令部の承認を要する。行動の間、世界に与える影響の評価は通して続けられる。
深度接触:現地社会に定着する関係の構築や技術の拡散を伴う段階にあたり、原則として禁じられる。
危険因子
異世界には、組織の基準で未知もしくは危険と分類される因子が数多く、誤った接触は重大な結果を招く。規定は因子を五つに分けて初動を定め、いずれの因子でも撤退と観測を基本の対処とした。
物理:武力の衝突、もしくは自然災害による脅威を指す。原則として直接の介入を控え、回避を優先する。
生体:未知の病原体を含む生物由来の脅威で、生物兵器もこの分類に入る。隊員は環境バリアを常に維持し、検体の採取は禁止とする。
魔術:法則から外れた挙動を伴う因子にあたり、隊員は観察に徹して直接の干渉を控える。
超常:精神汚染、もしくは認識の変動を伴った事例が過去に確認されており、即時の離脱が最優先となる。
技術暴走:現地文明が制御を失った技術の拡散を指す。隊員は巻き込まれる位置を避け、安全圏から観測を続ける。
例外
例外の定めは、通常の任務規定の想定外にある事態に備えて設けられ、発動の条件は厳密に定められた。
例外措置
例外措置の発動が許されるのは、世界線の破局的な崩壊が迫った場合と、対象文明の全滅が確定した場合である。本隊もしくは観測網に直接の危険が及ぶ状況も、条件に数えられた。発動の判断は現場の隊員の手を離れ、因果解析AIの評価を受けて、司令部とクロノシミュレーション統括局が承認する。手続きは瞬時に進む設計を採るものの、複数の時系列データを統合する工程を伴い、短い時間でも解析系に高い負荷がかかる。適用中は高位技術の限定使用が許可される場合があり、時系列投影装置による局所的な未来の改変も認められうる。CAF装置が短時間の因果連結修復に充てられる例もある。封印の指定を受けた技術は、例外措置の下でも使用の対象から外れている。これらの手段は対象世界に痕跡を残す危険が高く、任務の後には因果修正処理が必ず行われ、世界線の整合性が安定するまで観測が続く。対象世界の保護を最優先とする一方で、措置は隊員の生命の保全も同時に重んじる。現場の危険度が許容量を上回った場合は強制転移救出が発動しうるが、時空構造に強い負荷をかけるため、最終手段の位置に置かれた。
崩壊介入
崩壊寸前の世界は、自然の要因に人為の要因が重なって生じる場合もあれば、超常の作用に端を発する場合もある。崩壊の兆候を観測した場合、介入の可否は三つの段階で判断され、隊員の安全と世界線の保護を両立させる最後の基準となる。
観測優先:崩壊が自然現象に由来し、介入が結末を動かす見込みを欠く場合に適用する。
限定介入:隊員の行動が崩壊を早める恐れが小さく、任務目標に直接関わる場合に限り、最小限の支援が許される。
原則不介入:崩壊が文明内部の帰結である場合に適用し、介入が歴史の根幹を壊す恐れのある場合も同じ扱いとなる。隊員は速やかに撤退する。
孤立
孤立した隊員にも組織の一員としての責務は残り、行動指針を手放した状態での独断は戒められる。
通信途絶
通信途絶は、組織の標準観測網とQ-NETの接続が確立の見込みを失った状態を指し、異世界任務で最も危険度の高い事態の一つに数えられる。原因は対象世界の物理法則、もしくは魔力の干渉に求められる場合が多く、時空の乱流が絡む例もある。敵対勢力の妨害による途絶も想定に含まれた。接続が完全に失われた時点で、隊員は安全圏の確保と位置情報の再構築を最優先に進める。RIGは縮退運用に移り、装甲の防護と生命維持を保ちながら、任務の記録を内部に蓄える。蓄積した記録は接続の回復と同時に一括で送出され、世界線の因果解析に用いられるため、記録部の破損は最も避けるべき事態とされた。司令部との意思疎通が途絶えた状態で隊員が絶対の基準とするのは、最小介入の原則に危険回避の最優先を重ねた二つの項目である。任務目標が見えなくなった場合、あるいは現場の状況が急激に悪化した場合は、任務の続行に先立って離脱の準備が進み、ポータル発生装置の低負荷モードによる帰還が試みられる。高位のポータル技術は時空座標の乱れから誤帰還や別世界への誤転移を招く危険が大きく、使用は最終手段とされた。途絶が長引くにつれ、隊員は現地住民との接触を徹底して避け、必要に応じて身を隠す。現地の資源の利用も最低限に抑えられる。生存の確保が絶望的と判断された局面では、RIGの緊急退避ビーコンが一定の周期で微弱な信号を送り続け、観測網の回復時に隊員の位置を特定する手掛かりとなる。
帰還不能
帰還手段が失われるか大きく損なわれ、任務の終了後に帰還の道が閉ざされた状態を、規定は帰還不能と定義する。観測艦とのリンクが途絶した場合と、ゲートが機能を失った場合が典型にあたり、転移装置の破損や時空構造の変動によるゲートの拒絶も同じ扱いを受けた。いずれの要因であれ、独断で無理な帰還を図る行為は禁じられる。隊員は現地文明の目から離れた場所に待機地点を確保し、帰還手段の再構築に向けた確認に入る。確認は三つの工程から成り、転移関連機器の復旧の可能性を装備の点検で探る工程が最初に来る。現地世界の物理常数と時空の安定性を観測し直し、局所的な収束点や潜在的なゲートの発生地点を探す工程がこれに続く。観測艦が接近しうる軌道もしくは時空層を推定し、再接続の余地を解析する工程で確認は終わる。帰還不能が確定した場合、隊員は長期滞在の体制に移り、技術の流出を封じたうえで潜伏行動に入って、組織の理念の範囲で自立した生活を整える。帰還の可能性は周期的に評価し直され、自然発生するゲートの兆候が見えた時点で脱出に移れるよう、準備は常に保たれる。長期の潜伏は精神の均衡を徐々に崩すため、隊員には自己記録の作成が義務として課された。自らの行動と思考を第三者の視点で書き留める作業が、心理の安定を支える。どの文明の水準でも続けられる軽い訓練を日課に組み込み、記憶の整理を重ねることも推奨された。孤独による判断の偏りを避ける手段として、過去の自己記録と擬似的に言葉を交わす仮想対話も用いられる。司令部は帰還不能となった隊員の存在を記録し続け、再救出作戦の可能性を恒常的に検討するため、隊員も自らの位置と状況の記録を保存し続ける。
隊員喪失
隊員の死亡が確認された場合、最優先となるのは装備の全回収であり、世界への技術流出を完全に防ぐ。遺体は現地文明に混乱を招く恐れがあるため、特殊封印処置を施したうえで、観測艦との再接続の機会を待って回収する。行方不明の場合は一定期間の探索が行われるものの、世界の時空安定性を損なう恐れが生じた段階で、無理な捜索は打ち切られた。行方不明となった隊員は公式記録に特殊失踪として登録され、後の救出作戦に道を残す。死亡と行方不明のいずれにおいても、隊員が残した記録媒体は組織にとって重要なデータ資源にあたり、発見された時点で最優先の保護対象に入る。媒体の内容は、帰還不能の期間に隊員が書き留めた自己記録まで含めて回収され、世界線の解析に回される。
後方支援
隊員の任務遂行を左右するのは、観測艦と司令部による支援の体制である。観測艦は任務の間を通して隊員の位置情報を監視し、時空の振動に世界構造の変動を重ねて読み取ることで、帰還不能に陥る兆候を早い段階で捉える義務を負う。リンクの途絶が危ぶまれる局面では、観測艦は予備位相に位置を移し、再接続の可能性を確保した。司令部は異世界の情勢を常時分析し、必要に応じて観測艦の追加派遣を検討する。交代要員の投入も同じ判断の範囲に入る。緊急時には救出作戦の実行の可否が迅速に判断され、隊員が潜伏に移った後も、長期にわたるデータの解析が続けられた。単独で異世界に立つ隊員にとって、後方からの支援は唯一の帰路を保つ手段となる。
転移事故
転移事故は、ポータル技術の運用に伴う最も重大な危険の一つであり、任務の外にある異世界に意図せず到達する事態を含む。事故の発生から行動が安定するまでは、標準行動手順に従う。
初動
初動の手順は経過時間で三つの区分に分かれ、区分を追うごとに視野が自分の身体から周囲の環境に広がっていく。
初期行動(0〜60秒)
パニック抑制:転移の直後は感覚の混乱と意識の揺らぎが起こりやすく、深呼吸を3回行って自律神経を落ち着かせる。
姿勢の安定化:地形も重力の向きも定まる前の段階では、周囲を確かめながら低い姿勢を取り、両手を自由に保つ。
負傷確認:視覚と触覚に姿勢の感覚を合わせ、出血もしくは骨折の有無を確かめる。感覚の異常に加え、装備の逸失も同時に調べる。
脅威確認:敵対する生命体の有無を最初に調べ、落下物と地形の危険がこれに続く。大気もしくは水に含まれる毒性も、優先して確かめる。
環境分析(1〜5分)
文明水準の推定:転移先の文明水準は低位から高位まで幅があり、建造物の様式に言語の痕跡を重ねて観察し、水準を推し量る。照明の技術も判断の材料に加わる。
生態把握:呼吸の苦しさから酸素濃度を推定し、気温に気流を合わせて測る。周辺の植物も昆虫も観察の対象となる。
同伴者の探索:転移の誤差で同伴者が近くに転移している例があるため、探索は目視に限り、呼びかけは控える。敵対勢力に気取られる危険を避ける措置である。
生存行動(5分以降)
潜伏:未知の環境では発見を避けることが最優先となる。地形と植生を利用して視線の通りの悪い位置に身を置き、情報の収集を続ける。
資源確認:手持ちの物品を調べ、衣類の耐久性を確かめる。枝や石を含む自然物の利用も検討に入る。
移動の原則:大規模な移動は、四つの条件が揃うまで禁じられる。脅威の正体が明らかになり、水源が確認されていることが前提に置かれ、日没までの時間の見積もりに、複数の逃走経路の確保が加わる。
非装備時
RIGを失った状態での転移事故は最悪の想定にあたり、通常の戦術の能力も観測の能力も大きく損なわれる。
優先行動
防御姿勢:重心を低く保ち、即座に走り出せる体勢を取る。素手の状態でも、身を守る構えはこの姿勢から組み立てられる。
警戒:RIGの感知補正を失った状態では、五感から得る情報が全てとなり、視覚と聴覚による警戒を強める。
簡易武器:木の枝は刺突による牽制に、石は打撃による威嚇に用いる。布は止血にも保温にも役立ち、三つとも最優先で調達する。
身体保全
創傷:RIGの自己修復の機能を失った状態では、破傷風に備えて創部の洗浄を最優先とする。
骨折と出血:骨折は患部を固定して無理な移動を避け、出血には圧迫による止血を基本とする。
水の利用:自然環境には菌のほか寄生虫の危険も多く、水は流れのある場所から得る。
情報収集
RIGの分析ユニットを欠いても、周囲の痕跡から危険度の大枠を判断できる。非装備時の行動は、距離を保って身を隠し、戦闘を避ける形を原則とする。
足跡:形状に深さを重ねて読み、大型生物の有無を推定する。
空:空の色を天候の周期に照らし合わせ、気候を推し量る。
建造物:使われた素材に残る工具の跡から、文明の水準を見積もる。
鳴き声:動物の警戒音から、敵対生物の接近を察知する。
生存原則
文明との遭遇:文明に遭遇した場合も、接触に先立って観察に専念する。敵対的な魔術体系を備えた文化である可能性に備えた措置である。
異能への対応:RIGを欠く状態では解析の手段を失うため、未知の能力者との接触は厳禁とされる。
基盤の確保:水と火の確保に、隠れ場所の確保を加えた三点が最優先となる。三点が揃えば、最低限の生存期間が見込める。
都市部
人口の密集した町で転移事故が起きた場合、多数の視認者に囲まれ、隠密行動に即座に移る余地は狭まる。治安組織の目が届くうえ、魔術体系の警戒対象に数えられる危険も加わる。
初期対応(0〜30秒)
注視者の確認:周囲の視線を確かめ、警備兵の有無を見極める。商人をはじめとする市民の反応も観察の対象となる。
姿勢:手をゆっくり腰の位置に下ろし、攻撃の意思を示す動作は禁じる。
発声:異言語による誤解を避けるため、最初の30秒は声を出す行為を控え、落ち着いた表情を保つ。
移動:走り出した者は逃走を図ったとみなされ、犯罪者として扱われる恐れが大きいため、急な移動を禁じる。
状況安定(30秒〜2分)
市民の反応は四つの型に分かれ、型の分布から都市の治安を大まかに判定できる。
恐慌型:大声で騒ぎ立て、衛兵を呼ぶ。
無関心型:異常を日常として受け流す層で、都市の暮らしに慣れた住民に多い。
疑念型:不審な人物とみなし、監視を始める。
通報型:衛兵の詰所もしくは魔術師団のもとに、即座に走る。
無害の表明:胸にゆっくり手を当て、軽い会釈か頷きを添える。両手は常に相手から見える位置に保つ。身振りの受け取られ方は文化ごとに揺れるため、相手の反応を見ながら続けるかを判断する。
接触時
衛兵:都市部で最初に接触する相手は、衛兵である場合が多い。両手を見える高さに保ち、急な動作を避けて相手の動きに合わせる。
言葉の壁:胸に手を置いて首を横に振り、眉を下げた困惑の表情を作って、言葉の壁があることを伝える。
身分証:身分証を求められた場合は、所持を欠く旨を身振りで伝える。組織の身分証は異世界で効力を失い、偽装の用意も不要とされた。
図示:言語の通じる見込みを欠く場合は、地面に指で図を描く。人数を描いて敵意の欠如を示し、目的の大枠もこれに添える。
名乗り:胸を軽く叩いて自分の名を発する。名は短く、発音しやすいものに限る。
指差し:最小限に抑え、攻撃動作との取り違えを避ける角度で行う。
情報の秘匿:異世界転移を匂わせる情報は厳禁とする。魔術師団もしくは宗教勢力が異端や召喚体と判断する恐れがあり、実験の対象に回される危険も伴う。文明水準の高い都市では、技術の流入源として捕らえられる可能性もある。安全を確保するまでは旅人を装い、道に迷った商人として振る舞う形も選べる。
安全確保
市場区:人通りが多く治安の確立した市場区が、最も安全な地点とされる。
宿屋:飲食店と並んで情報の集まる場所であり、市民階層向けの店が選ばれる。
祈祷所:教会もしくは祈祷所は、敵対する宗派の施設を除いて候補となる。素性の不明な宗教勢力への接近には、慎重な判断を要する。
同業者組合:冒険者もしくは職人の組合には、低位から中位の階層に属する者が出入りしやすい。
名前と出身地を問われる場面に備え、隊員は統一した回答を用いる。
出身地:遠方の小村、もしくは移動する商隊の生まれと答え、詳細を語る場面を避ける。
目的:仕事を探している、もしくは親類を訪ねていると答える。
同行者:一人で旅をしていると答える。余計な人物を作り上げると話に矛盾が生じ、危険を招く。
都市部での接触は、衛兵に無害な旅人と認識させ、市民からは無害な変わり者として受け止められる状態を目指す。宗教勢力の注目を避け、魔術勢力の関心も遠ざけたうえで、逆追跡の手掛かりを最小に抑える。数時間のうちに宿屋を潜伏拠点として確保できれば、都市部での生存の見込みは大きく高まる。
言語一致
転移先の言語が、発音から文法構造に至るまで母語と酷似し、あるいは完全に一致する場合がある。潜入と情報収集で最大の利点となる一方、言葉の通じる安心が油断を招き、重大な危険の入口にもなる。この場合の行動は、言語同期手順に従う。
初期判断(0〜2分)
判断の保留:言葉が聞き取れた場合でも、完全な一致か類似の範囲かを即断する行為は避ける。
語彙の照合:食物を含む日常語彙が一致するかを確かめ、方角の言い方にも人の呼び方にも注意を向ける。数詞に時制の表現を加えた照合も、同じ慎重さで進める。
訛り:同じ言語に見えても、アクセントのわずかな差から外地の出身者とみなされる場合がある。
応答:初期の会話では長い文と込み入った文法を避け、「はい」「わかりました」の汎用的な言い回しを用いる。
言語適応(2〜10分)
言語の一致を確かめた後も、出自の不審な点を消す作業が重要となる。
発音:語尾の伸ばし方を周囲と比べ、呼気の強弱にも耳を澄ませる。子音の発音にわずかな差が出る場合もあり、敬語の構造がずれれば異郷の者とみなされやすい。
語彙:転移者は無意識に自国の語彙を使いがちで、組織の技術用語は危険が大きく、外来語も同じ危険を抱える。抽象概念を表す語も、異世界で通用の範囲が狭ければ即座に不審の目を向けられる。周囲の語彙の水準に合わせ、素朴な日常語を用いる。
会話
名乗り:名乗りは短く済ませ、長い自己説明を避ける。
禁句:言葉が通じると自国の概念を説明したくなる誘惑が生じ、これが最大の失敗要因となる。別の世界から来たことを示す発言は異端扱いの引き金となり、現地に欠けている事物を口にする発言も、文明の水準を評する発言も同じ危険を招く。魔法の実在を問う発言は、拘束もしくは調査の対象に回される契機となる。
禁忌の確認:言語が通じる相手を、同じ文化の人間と錯覚する危険がある。宗教から価値観に至るまで大きく隔たる可能性を前提に、触れることを禁じられた身体の部位と話題を先に確かめる。宗教上の禁忌に加え、身分制度の有無も確認の対象となり、些細な言い回しが重大な対人トラブルに発展しうる。
聞き役:会話の主導権を相手に渡し、環境の情報を自然に集める。
未知の概念:未知の概念に反応すると不審者とみなされるため、問い返しは控え、相手の言葉から意味を推し量って振る舞いを合わせる。
第一印象:落ち着いた口調で丁寧な言葉遣いを保ち、自信や専門性を必要以上に語る場面を避ける。無害な旅行者に分類される近道となる。
安全が確かなものとなるのは、現地人と同じ言語能力を備え、異郷の者と疑われる余地が消えた段階である。不自然な語彙を口から遠ざけ、社会の仕組みに自然に溶け込めば、転移先での生活も任務の遂行も容易になる。
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最終更新:2025年11月28日 07:31