修祓の幻装兵 ザラシュトラ・リグ・アヴェスター

[解説]
開発コードは「Plan EX Zarathustra Krieg Kamplitter Mirage」
旧大戦末期、戦線の激化につれ、魔素とは異なる力を発現するようになった八英雄の指導者、始祖皇帝ユーゼス・アルカディアとその力に侵食され漆黒に染まった、始祖の幻装兵 カイザル・ディエス・アルカディア。
その強大な力の有用性を認めつつも危険視した八英雄の1人、開闢の聖女リアンナ・アーレンハルトは、カイザルに対抗する力として、新たな幻装兵の開発を命じた。
その強大な力の有用性を認めつつも危険視した八英雄の1人、開闢の聖女リアンナ・アーレンハルトは、カイザルに対抗する力として、新たな幻装兵の開発を命じた。
そうして作り上げられたのが、ザラシュトラ・リグ・アヴェスターである。
ザラシュトラ・リグ・アヴェスターはカイザルの設計思想を元に開発された兄弟機にあたる機体であるが、同時に破邪の幻装兵 ケイサス・アルカナムに採用されたTASフレーム構造から強く影響を受けており、全身の形状はむしろこちらに類似している。
カイザルと同様に実体剣を用いた近接戦闘に主眼が置かれた設計となっているが、同時に戦略的決戦兵器として紅焔砲の運用にも対応しているなど、カイザルのカウンターとして、対抗できるだけのスペックを持たされている。
完成後はリアンナの元で管理、運用される予定であったが、ユーゼスから秘匿するために辺境で開発が進められていたことが裏目に出る形となり、旧人類軍により、L.C.E.を用いた強襲作戦により奪取されてしまう。
しかし、この強襲の際に負った傷と旧人類側の予想を越えたザラシュトラからのフィードバックにより、奪取したザラシュトラの操手となる予定であったL.C.E.が機能停止。
ザラシュトラ用に調整したL.C.E. BLACKMOREの製造を始めたものの旧人類側もすぐにザラシュトラを戦線に投入することは出来なかった。
ザラシュトラ用に調整したL.C.E. BLACKMOREの製造を始めたものの旧人類側もすぐにザラシュトラを戦線に投入することは出来なかった。
結果として、ザラシュトラ・リグ・アヴェスターは旧大戦の戦場において、どちらの陣営でも運用された記録は残されておらず、その存在自体が長く認識されていなかった。
長年、その存在自体が認識されていなかったザラシュトラであるが、聖華暦830年代後半、自由都市同盟所属のギルド、栄光の宴を中心とした調査団によって行われた禁断の地領域内の大規模調査により、他の数機の幻装兵と時を同じくして発見されることとなる。
その際、同研究施設から培養カプセルに封印されたままのL.C.E. BLACKMOREが同時に発見されたのだが、幻装兵でありながら明らかに旧人類側の設備内で保管されていた本機はその素性が判明するまでは起動試験などは行わず、L.C.E.とともに封印される事となり、自由都市同盟内の歴史家、研究者、鍛治師組合の共同で研究が進められることとなる。
この調査研究の中で判明したこととして、ザラシュトラに搭載された、ADD(アーディ)と呼ばれるAIが挙げられる。
ADDは、火器管制など十全に機体の機能を発揮する上で必要なさまざまな補助を行うものであるのだが、調査の結果、このAIは、L.C.E. BLACKMORE以外には起動することが出来ず、ザラシュトラ自体ともその技術体系に違いがあることが明らかとなっており、なんらかの理由で旧人類の手に渡ったザラシュトラの運用を目的として旧人類陣営により〝付け加えられた〟AIなのでは無いかと推測されている。


その為、頭部のラジエイション・ヴェール、腰部のラジエイション・テール・スタビライザー、脚部のテンタクル・アンカー等、機体各部には放熱の為の機能が搭載されている。

[テンタクル・アンカー]
ザラシュトラの踵部分に接続された巨大なサブアーム。
余剰となった熱量の排熱機能の他、紅焔砲発射時など、機体の姿勢を固定する際にはアンカーとして機能する。
ザラシュトラの踵部分に接続された巨大なサブアーム。
余剰となった熱量の排熱機能の他、紅焔砲発射時など、機体の姿勢を固定する際にはアンカーとして機能する。
また、近接戦闘時など、テンタクル・アンカー自体がが動きの邪魔になる場合にはパージする事も可能。
ただし、排熱機能を備えた装備であるため、パージした場合には最大駆動可能時間に影響が出る可能性がある。
ただし、排熱機能を備えた装備であるため、パージした場合には最大駆動可能時間に影響が出る可能性がある。

[ツインホーン]
ザラシュトラの頭部に搭載された武装兼放熱板。
魔導炉から放出される熱量を利用してヒートホーンとしても利用できる他、エネルギーを放電する事で、雷属性の魔法のような雷撃を放つことも可能である。
ザラシュトラの頭部に搭載された武装兼放熱板。
魔導炉から放出される熱量を利用してヒートホーンとしても利用できる他、エネルギーを放電する事で、雷属性の魔法のような雷撃を放つことも可能である。


[紅焔砲:フレイムバースト]
ザラシュトラの持つ装備の中でも最大の火力を誇る巨大な〝火炎放射器〟
ザラシュトラの魔導炉が生み出す莫大なエネルギー、熱量を武装に転用したもの。
紅焔砲本体に内蔵されたプラズマチャンバー内でエネルギーを圧縮する事で生成したプラズマを放射する。
ザラシュトラの持つ装備の中でも最大の火力を誇る巨大な〝火炎放射器〟
ザラシュトラの魔導炉が生み出す莫大なエネルギー、熱量を武装に転用したもの。
紅焔砲本体に内蔵されたプラズマチャンバー内でエネルギーを圧縮する事で生成したプラズマを放射する。
全力放射の際には、莫大な熱量が放出されるため、ザラシュトラ本体の魔導障壁を展開し、熱量によるダメージを受け止める必要がある。


[紅焔砲:フレイムソード]
紅焔砲に備わったもう一つの形態。
バーナーの様に炎を高密度に放射する事で、炎の剣を形作る。
紅焔砲に備わったもう一つの形態。
バーナーの様に炎を高密度に放射する事で、炎の剣を形作る。
紅焔砲下部に搭載されたランチャーレール自体も斬撃武器としての機能を備えているため、紅焔砲全体を長大な剣、もしくは槍として運用することが可能。

[紅焔砲:待機モード]
紅焔砲は運用しない際には後部に移動させ機動の邪魔にならない様にすることが可能。
紅焔砲は運用しない際には後部に移動させ機動の邪魔にならない様にすることが可能。
とはいえ、紅焔砲自体が巨大な装備であるため、非常に重く、発射地点までの移動や行軍時などでの運用が想定されており、紅焔砲を待機状態で装備したまま近接戦闘を行うことは想定されていない。



[幻紅剣]
腰に装備した真紅の剣。
高純度のダマスカス鋼製であり、現存する旧時代の刀剣と比較しても一つ抜けた性能を誇る。
加えて、ザラシュトラ本体からエネルギー供給を受けることで、ヒートソードとして用いることも可能。
腰に装備した真紅の剣。
高純度のダマスカス鋼製であり、現存する旧時代の刀剣と比較しても一つ抜けた性能を誇る。
加えて、ザラシュトラ本体からエネルギー供給を受けることで、ヒートソードとして用いることも可能。
テンタクル・アンカーを装備したままでも幻紅剣を用いた近接戦闘は可能だが、機動力が必要な場合など、状況に応じてパージすることや、最初から装備せずに出撃する場合もある。
[三国大戦末期]

聖華暦847年
自由都市同盟領内に広がる荒野を挟むように向かい合う大小の群れがあった。
一方は100機に届こうかという機兵で構成された巨大な群れで、真紅に彩られた紋章を掲げている。
もう片方、山吹色の太陽を掲げている群れは僅か20機程の小さな群れだ。
もう片方、山吹色の太陽を掲げている群れは僅か20機程の小さな群れだ。
永遠に続くかと思われた睨み合いの果て、先に動いたのは巨大な群れであった。
槍を構えた機兵を前列に、巨大な群は土煙を上げながら、一つの生き物のように猛然と迫る。
迎え撃つ小さな群はその様子に竦んだかのように動かない。
槍を構えた機兵を前列に、巨大な群は土煙を上げながら、一つの生き物のように猛然と迫る。
迎え撃つ小さな群はその様子に竦んだかのように動かない。
———
『……アッシュ、行けそうか?』
拡声機越しに、気遣うような声が響く。
(相変わらず義父さんは心配性だな……)
操縦槽に座る銀髪の少女は、そんなことを思いながらも、その短い呼びかけに込められた思い遣りに、重責に凍りつきそうになっていた心が暖められるのを感じていた。
「……ありがとう、義父さん。……この子となら、きっとできる」
静かな決意を伴って、自分に言い聞かせるように、アッシュは答える。
「……アーディ、やろうか。敵戦力の評価は?」
『敵性部隊、97機を視認。部隊最後尾までフレイムバーストの射程内』
「……紅焔砲を使います。セーフティロック第2段階まで解除を承認。……照準、敵陣中央、発射シークエンスをアーディに移譲」
山吹色の太陽を掲げる集団の先頭に立つ純白の幻装兵が、自身の身長を超えるほどの〝柱〟を迫り来る巨大な群れに向ける。
『プラズマチャンバー内加圧開始……圧力上昇中……圧力、規定値の30%、ラジエイション・ヴェール、ラジエイション・テール・スタビライザー展開、余剰熱量の放熱開始』
ザラシュトラを覆っていた力場が後方の部隊を包み込むように大きく広がり、銀色に煌めく。
『プラズマチャンバー内圧力、規定値の80%……さらに上昇中、発射可能まで15秒……テンタクル・アンカー、ロック。機体固定完了。ランチャーレール射撃位置にスイング完了。発射準備完了。タイミングを操手に移譲。いつでも発射可能です』
——閃光が疾る。
膨大な光の塊が、荒野を駆けていた巨大な群れを両断する。
光に直接触れた機兵の群れは跡形もなく灰と化し、その周囲の機兵もまた、膨大な熱量に晒された魔力収縮筋が耐えきれず崩折れていた。
———
その様子を、放たれた光の奔流のその根元、立ち昇る陽炎の中から〝修祓〟が眺めていた。
放出された膨大な熱量を受けとめた魔導障壁が放つ白銀の輝きを纏う姿は、さながらシルクのベールを纏った花嫁のようであり、その美しさと先程、疾った閃光のもたらした惨状の不釣り合いさは見るものに畏れすら感じさせる。
———
侵攻してくる軍隊に甚大な被害を与えた。……先程まで生きていた多くの人が、光に消えた。
そんなことは、確かめるまでもなく、演算するまでもなく明らかだった。
そんなことは、確かめるまでもなく、演算するまでもなく明らかだった。
「……アーディ、状況報告」
それでも、彼女は確かめずにはいられない。
『敵性戦力の40%の消失を確認。敵性残存兵力のうち脅威度喪失もしくは脅威度軽微に該当する機体は60%と推定。脅威度中以上の敵機との接敵まで40秒』
『魔導障壁、飽和臨界、消失します。再起動まで20秒。紅焔砲急速冷却を開始、冷却完了まで460秒、第2射、間に合いません。分離を推奨』
『魔導障壁、飽和臨界、消失します。再起動まで20秒。紅焔砲急速冷却を開始、冷却完了まで460秒、第2射、間に合いません。分離を推奨』
「……紅焔砲およびテンタクル・アンカーをパージ。近接戦闘用意。……私は右翼の敵を迎え撃ちます……義父さんは左翼の敵を!」
ザラシュトラの踝から伸びていた巨大な爪が分離し、抱えるように保持していた〝柱〟が放たれる。
ザラシュトラは腰から幻紅剣を引き抜くと光によって2つに別たれた群れの片側を見据え跳ねるように駆け出した。
……まるで迷いを振り切るように。
……まるで迷いを振り切るように。
ルント・デルフィンは徐々に小さくなるザラシュトラを見送りながら、僅かに顔をしかめる。
(彼女を家族に迎え入れたのは、こんなことをさせるためではなかったはずだ……)
——「……私も、みんなを守りたいんです。私の力が役に立つなら……あの機体に……ザラシュトラに乗せてください」——
まるで、昔の自分を映したような決意を口にする彼女を止める事は、ルントにはどうしても出来なかった。
……これで、良かったのか……
ポツリと漏らした言葉に、答えは返ってこない。
思考の渦に呑まれそうになる自分をすんでのところで引き止める。先ほどの閃光が戦力の大部分を削いだとはいえ、帝国の軍勢は未だ、同盟軍と同数以上が健在である。
——いつまでも立ち竦んでるわけにはいかない。背中に背負っているのは多数の命。ここを突破されるわけにはいかない。
「……これだけのものを使って、やっとトントンとはな……帝国は余程本気で同盟を潰すつもりらしい。
だが、ここを抜かせるわけにはいかんのだ。全機抜刀、鶴翼陣形で包囲をかける!」
だが、ここを抜かせるわけにはいかんのだ。全機抜刀、鶴翼陣形で包囲をかける!」
………………
…………
……
…………
……