噂の真偽
聖華暦833年 11月28日
当然ながら帝国内でもそのニュースは衝撃的だった。
同盟よりもさらに大陸の南から、数万匹を数える魔獣が北上しており、その進路上をことごとく蹂躙しているのだから。
同盟よりもさらに大陸の南から、数万匹を数える魔獣が北上しており、その進路上をことごとく蹂躙しているのだから。
そうなれば戦いは必至、いや、下手をすればどれ程の被害が出るか、想像もつかない。
帝国軍はこの事態を重く見ていて、どう動くべきか検討を行なっており、近日中に正式な発表が為されるらしい。
そしてこれは、(ルイースさん曰く)かなり信頼出来る筋の情報らしいのだけど、同盟と国境を接しているジルベール侯爵領への増援として、帝国軍主力艦隊とともに暗黒騎士十数名とその弟子が派遣される、らしい。
らしいらしいばかりで、本当にそうなるかは未だにわからない。
らしいらしいばかりで、本当にそうなるかは未だにわからない。
わからなかったけれど、それは本当の事になった。
帝国統轄騎士會から先程戻って来た師匠に、支度をするように言われたから。
帝国統轄騎士會から先程戻って来た師匠に、支度をするように言われたから。
僕達はジルベール領の国境守備の増派として派遣される事が正式に決定したとの事だった。
僕達の他にはアーダルベルト卿とヴィンセント姉弟、ケイ卿とリューディアさん、その他暗黒騎士10名、その弟子23名。
全部で40名にもなる。
僕達の他にはアーダルベルト卿とヴィンセント姉弟、ケイ卿とリューディアさん、その他暗黒騎士10名、その弟子23名。
全部で40名にもなる。
*
聖華暦833年12月2日
暗黒騎士13名、弟子27名の派遣が正式に発令された。
明後日の12月4日にはジルベール領へ向けて出立する。
僕達も明日には帝国統轄騎士會で集合し、陸上艦に乗り込む事になる。
僕達も明日には帝国統轄騎士會で集合し、陸上艦に乗り込む事になる。
期間は未定、持って行くのは必要最低限の物、心なしか不安が込み上げてくる。
もちろん同盟が善戦して魔獣を撃退すれば、僕達の出番は無い。
それが一番良い。
もちろん同盟が善戦して魔獣を撃退すれば、僕達の出番は無い。
それが一番良い。
そう上手くいってくれる事を祈りたい気持ちになる。
*
出発する朝。
「リコス様、ご武運をお祈りします。どうか、ご無事で。」
「エミリさん、行ってきます。」
エミリさんは一度、僕をしっかりと抱き締めて、もう一度、ご武運を、と囁いた。
口数は少ない。
喋っている人もいるけれど、空元気なのがすぐに判る。
喋っている人もいるけれど、空元気なのがすぐに判る。
「リコスさん、おはようございます。」
「お、リコス、来たな。」
「おはようございます。」
これから僕達はユークリッド領を通り越してジルベール領へと向かい、四隻のラスハーはジルベール領の国境に沿って点在する4つのエーレンヴェルグ城塞に振り分けられる事になる。
城塞は北から南にかけてそれぞれ第一の砦、第二の砦、第三、第四とあり、同盟方面への防衛網を構築する重要拠点だ。
城塞は北から南にかけてそれぞれ第一の砦、第二の砦、第三、第四とあり、同盟方面への防衛網を構築する重要拠点だ。
僕と師匠はエーレンヴェルグ城塞第二の砦へ行く事になっている。
アーダルベルト卿とルイースさん達は、第一の砦に行く為、別の艦に乗っている。
アーダルベルト卿とルイースさん達は、第一の砦に行く為、別の艦に乗っている。
僕と同じ艦に乗っているのはケイ卿と、リューディアさんだ。
他の暗黒騎士はあまり知らない。
その中でも一番目を引いたのは、『フギン』で通っている暗黒騎士だった。
『フギン』は本名ではなく通称なのだとか。
他の暗黒騎士はあまり知らない。
その中でも一番目を引いたのは、『フギン』で通っている暗黒騎士だった。
『フギン』は本名ではなく通称なのだとか。
彼?は、とても背が高く、全身を真っ黒に染め上げた鎧兜に身を包み、フェイスガードの隙間から覗く紫眼以外に外見的な情報が無い。
あまり言葉を発する事が無く、会話は最低限のジェスチャーで済ませる事がほとんどだ。
それに、白いワタリガラスをいつも肩に乗せている。
それに、白いワタリガラスをいつも肩に乗せている。
いろんな暗黒騎士がいるけれど、彼は特に変わり者だろう、と師匠は言っていた。
ただ、その実力は本物だとも。
ただ、その実力は本物だとも。
あ、目が合った。
つい見ていたのを気付かれたようだ。
僕は慌てて会釈をする。
つい見ていたのを気付かれたようだ。
僕は慌てて会釈をする。
彼方は僕の無礼を咎めず、会釈を返してきた。
そしてそのまま行ってしまった。
そしてそのまま行ってしまった。
しばらく彼の行ってしまった方を見ていたけれど、ここでぼぉっとしていても仕方がない。
割り当てられた船室へ戻る事にした。
割り当てられた船室へ戻る事にした。
*
12月6日 エーレンヴェルグ城塞第二の砦
目的地に到着した。
眼前に堅牢で長大な防壁、無数に並ぶ大口径の対艦魔道砲、居並ぶ数十機の機兵と陸上戦艦群。
眼前に堅牢で長大な防壁、無数に並ぶ大口径の対艦魔道砲、居並ぶ数十機の機兵と陸上戦艦群。
よって、機兵の到着はおそらく明日になるだろう。
それまでに魔獣が大挙して押し寄せる事も無いとは思うけれど、やはり機兵が無いのは心許ない。
それまでに魔獣が大挙して押し寄せる事も無いとは思うけれど、やはり機兵が無いのは心許ない。
何事も無く過ぎる事をただ祈るのみだ。