メビウス結晶
[解説]
聖華暦727年に最初の実用型モデルが聖王国錬金学会によって開発された、情報の記録と蓄積そして出力を行う機能を持った、特殊な錬金金属の結晶体。サイズは実現されている記憶容量によって様々だが形状は共通であり、数cm~十数cmの幅がある厚み数mm~1cmほどの錬金金属の板で構成された、メビウスの輪だ。これは起動前は透明だが、起動して情報を蓄え始めると虹色に煌く様になる。
これは単独では役には立たず、この結晶本体と同質の双方向エーテル通信ケーブルにより接続された、魔導計算機を中核にしたクライアント端末(呪紋原盤記述装置)と組み合わされて、はじめて意味を持つ。これを中心にして都市単位の情報ネットワークであるメビウス・ネットワークが開発され、聖華暦793年にはアルカディア帝国、カーライル王朝・聖王国、自由都市同盟の三大国で広く普及した。
そして830年現在に於いては、このメビウス結晶を中心としたメビウス・ネットワークは三大国の社会にとって、無くてはならない物にまでなっている。
これは単独では役には立たず、この結晶本体と同質の双方向エーテル通信ケーブルにより接続された、魔導計算機を中核にしたクライアント端末(呪紋原盤記述装置)と組み合わされて、はじめて意味を持つ。これを中心にして都市単位の情報ネットワークであるメビウス・ネットワークが開発され、聖華暦793年にはアルカディア帝国、カーライル王朝・聖王国、自由都市同盟の三大国で広く普及した。
そして830年現在に於いては、このメビウス結晶を中心としたメビウス・ネットワークは三大国の社会にとって、無くてはならない物にまでなっている。
このメビウス結晶は通常時は無色透明の、まるでガラスの様に見える錬金金属の結晶体だ。もっとも値段はガラスなど問題にならない程高く、性質的にも電気を通すし叩けば金属音を返す。ちなみにメビウスの輪の様な形状は、その様に作ったわけではなく、あくまで錬金金属の合金の分子が結晶化した際に、何故か理屈は不明なもののメビウスの輪の構造を生成したのである。
更にこの錬金金属は電気だけではなく、それ以上に高い効率でエーテルを伝導する性質を持っていた。このメビウスの輪状の結晶に、循環的にエーテルを流してやると、そのメビウスの輪の中心部の空間が歪み、その歪みの中に結晶を循環するエーテルの一部が凝り固まる。
凝り固まったエーテルはやや不安定な疑似物質化し、その疑似物質の密度の濃淡によりメビウス結晶外部から入力された情報が記録されるのだ。
更にこの錬金金属は電気だけではなく、それ以上に高い効率でエーテルを伝導する性質を持っていた。このメビウスの輪状の結晶に、循環的にエーテルを流してやると、そのメビウスの輪の中心部の空間が歪み、その歪みの中に結晶を循環するエーテルの一部が凝り固まる。
凝り固まったエーテルはやや不安定な疑似物質化し、その疑似物質の密度の濃淡によりメビウス結晶外部から入力された情報が記録されるのだ。
ところでメビウス結晶内部で循環するエーテル流は、いったん結晶を起動してやれば基本的に途絶える事は無い。自然のエネルギーロスにより失われる分は、起動状態のメビウス結晶それ自体が周辺魔力を取り込んで補完する。そのため損傷しない限りは、メビウス結晶のエーテル流循環は止まる事は無いのだ。
メビウス結晶を破壊するなどして、無理に停止させた場合は、映像データは映像の形で、音声データは音声の形で、その他のデータはエーテルのノイズ的波動となって、周囲にまき散らされるだろう。
メビウス結晶を破壊するなどして、無理に停止させた場合は、映像データは映像の形で、音声データは音声の形で、その他のデータはエーテルのノイズ的波動となって、周囲にまき散らされるだろう。
なお起動前のメビウス結晶は無色透明だが、エーテルを流して起動を開始すると虹色に発光して見える様になる。もっとも実際にこの結晶が発光するわけではなく、外部から取り込んだ光が内部を流れるエーテルに干渉され、虹色に屈折分解されるのだ。
この事により、一時期は虹結晶、レインボウ・メビウス、万色結晶などと呼ばれる事もあった模様。しかしながらいつの間にか、見た目通りのメビウス結晶という呼び名に落ち着いた。
この事により、一時期は虹結晶、レインボウ・メビウス、万色結晶などと呼ばれる事もあった模様。しかしながらいつの間にか、見た目通りのメビウス結晶という呼び名に落ち着いた。
ちなみに価格は都市国家の国家予算級であり、裕福な家庭であっても個人や家族でこのメビウス結晶及びネットワークを私有する事は難しい。もっともたとえ購入できるだけの資金力があったとしても、基本的に公の組織、機関で用いられるのがほとんどであるため、私用のために製造の順番が回って来る事は、まず無いだろう。
もしかしたら、大会社などならばあるいは占有が可能であるかも知れないが、普通そういう大きな組織でも、公用のメビウス・ネットワークの領域を借りている事の方が多い。
もしかしたら、大会社などならばあるいは占有が可能であるかも知れないが、普通そういう大きな組織でも、公用のメビウス・ネットワークの領域を借りている事の方が多い。
ところで都市と都市の間でのデータのやり取りだが、魔獣禍の影響や野盗など犯罪者が多い事もあり、荒野に直接にケーブルを引いて、他の都市とネット接続することは無理と言う物である。また無線接続も、新人類の技術力が不足しているため、現実的ではない。
そのため830年現在では、手のひら大のサイズの黒い樹脂製データカートリッジにデータを記録して、それを人の手で輸送、運搬する事で、他の都市のメビウス・ネットワークとデータをやりとりしている。
更にはアルカディア帝国などでは、治安のよい場所にある極めて近隣の都市間だけではあるのだが、直通ケーブルを敷設し始めている。20年ほど前から実験的に始められた事業ではあるのだが、今のところかなり効果は出ている模様。
そのため830年現在では、手のひら大のサイズの黒い樹脂製データカートリッジにデータを記録して、それを人の手で輸送、運搬する事で、他の都市のメビウス・ネットワークとデータをやりとりしている。
更にはアルカディア帝国などでは、治安のよい場所にある極めて近隣の都市間だけではあるのだが、直通ケーブルを敷設し始めている。20年ほど前から実験的に始められた事業ではあるのだが、今のところかなり効果は出ている模様。
[開発史]
聖華暦717年:
シリウス戦役勃発。この頃、呪紋原盤記述装置のデータを特殊な処理をした記録用スフィアで運ぶことが出来る様になる。
実はその方法以外に、直接に呪紋原盤記述装置同士を錬金金属のケーブルで繋いでデータ転送しようというアイディアもあった。しかし各国の錬金学会が研究させていたチームのうちで、記録用スフィアをカートリッジに使う方式を研究していた錬金術師たちが、もっとも早く完成させたのである。
シリウス戦役勃発。この頃、呪紋原盤記述装置のデータを特殊な処理をした記録用スフィアで運ぶことが出来る様になる。
実はその方法以外に、直接に呪紋原盤記述装置同士を錬金金属のケーブルで繋いでデータ転送しようというアイディアもあった。しかし各国の錬金学会が研究させていたチームのうちで、記録用スフィアをカートリッジに使う方式を研究していた錬金術師たちが、もっとも早く完成させたのである。
聖華暦719年:
シリウス戦役終結。シリウス船団の遺した情報により、サーバー・クライアント式情報システムの概念が各国研究者に知られる様になる。聖王国錬金学会の研究チーム、自分たちが諦めずに研究していた錬金金属ケーブルによるデータ転送方式が役立ちそうだと狂喜する。
シリウス戦役終結。シリウス船団の遺した情報により、サーバー・クライアント式情報システムの概念が各国研究者に知られる様になる。聖王国錬金学会の研究チーム、自分たちが諦めずに研究していた錬金金属ケーブルによるデータ転送方式が役立ちそうだと狂喜する。
聖華暦724年:
聖王国錬金学会の研究チームが実験のための錬金金属ケーブルを作成中、研究員が失敗をしてしまい、ケーブルにする予定だった錬金金属が結晶化してしまう。このとき、メビウスの輪状に結晶化したこの錬金金属に、失敗に慌てていた研究員の錬金術師が自身のエーテルを流し込んでしまった。
その際、メビウスの輪の中心部に空間の歪みが発生。更に慌てた研究員が、結晶を取り落として破損。すると破損した結晶から、その研究員がエーテルを流した瞬間に見ていた視界の情報が、映像となって流れ出してきた。
研究チームの長はこの現象に目を付ける。そして意図的に、メビウスの輪状の結晶体を作り出す研究を開始した。
聖王国錬金学会の研究チームが実験のための錬金金属ケーブルを作成中、研究員が失敗をしてしまい、ケーブルにする予定だった錬金金属が結晶化してしまう。このとき、メビウスの輪状に結晶化したこの錬金金属に、失敗に慌てていた研究員の錬金術師が自身のエーテルを流し込んでしまった。
その際、メビウスの輪の中心部に空間の歪みが発生。更に慌てた研究員が、結晶を取り落として破損。すると破損した結晶から、その研究員がエーテルを流した瞬間に見ていた視界の情報が、映像となって流れ出してきた。
研究チームの長はこの現象に目を付ける。そして意図的に、メビウスの輪状の結晶体を作り出す研究を開始した。
聖華暦727年:
最初の、そして最大のメビウス結晶が聖王国錬金学会によって開発される。この特殊な錬金結晶は、クライアント端末から送られる情報の記録と蓄積、端末からの要請により情報をその端末へ送り出す情報サーバー機能を持っていた。
これはクライアント端末(呪紋原盤記述装置)と接続され、最初のメビウス・ネットワークとなった。
最初の、そして最大のメビウス結晶が聖王国錬金学会によって開発される。この特殊な錬金結晶は、クライアント端末から送られる情報の記録と蓄積、端末からの要請により情報をその端末へ送り出す情報サーバー機能を持っていた。
これはクライアント端末(呪紋原盤記述装置)と接続され、最初のメビウス・ネットワークとなった。
聖華暦741年:
各国の錬金学会を通じて、メビウス結晶とクライアント端末の技術が三大国に流れる。これにより、各国でメビウス結晶とクライアント端末が運用される様になる。
ただしこれは、聖王国の政庁には寝耳に水の事態だった様で、このあとしばらく聖王国錬金学会は聖王国政庁から睨まれる事になる。
各国の錬金学会を通じて、メビウス結晶とクライアント端末の技術が三大国に流れる。これにより、各国でメビウス結晶とクライアント端末が運用される様になる。
ただしこれは、聖王国の政庁には寝耳に水の事態だった様で、このあとしばらく聖王国錬金学会は聖王国政庁から睨まれる事になる。
聖華暦792年:
この頃にはメビウス結晶は安定的に、なおかつ品質を揃えての製造が可能になる。原理的な理由から単独でのメビウス結晶性能アップは難しいが製造技術の向上により、複数のメビウス結晶を揃えて結果的に大量の情報を蓄積できる様にはなった。
この頃にはメビウス結晶は安定的に、なおかつ品質を揃えての製造が可能になる。原理的な理由から単独でのメビウス結晶性能アップは難しいが製造技術の向上により、複数のメビウス結晶を揃えて結果的に大量の情報を蓄積できる様にはなった。
聖華暦811年:
メビウス結晶の生まれ故郷である聖王国では、複数のメビウス結晶をレイド(Raid)として稼働させる事で、安定性の担保と不慮のデータ消失事故に備える様になっている。
他国に於いても、聖王国とは方向性が違うが順調にメビウス結晶技術は発展している。
メビウス結晶の生まれ故郷である聖王国では、複数のメビウス結晶をレイド(Raid)として稼働させる事で、安定性の担保と不慮のデータ消失事故に備える様になっている。
他国に於いても、聖王国とは方向性が違うが順調にメビウス結晶技術は発展している。
聖華暦820年:
この年の中頃、各国の錬金学会より完全に同時に、新型のデータカートリッジが発表された。発表時期が同時になったのは、これによって一国だけが有利になって三国のバランスが崩れる事を、錬金学会が憂慮したためではと言われている。
このデータカートリッジは、手のひら大のサイズの黒い樹脂製ケースに、直径3cmほどの環状のメビウス結晶を封入した物である。これまでは都市間でのデータのやりとりは、データ転送速度の遅い音録用カセットを転用し、それを人の手で運ぶことでまかなわれていた。
しかしながらこの新式のカートリッジは、それまでとは比べ物にならない速度でメビウス・ネットワークのメビウス結晶とデータ交換が行える。また重量もサイズも、衣服のポケットに入る程度であるため、運用面でもかなりの改善が見られた。
もっとも改善し過ぎて、それを利用したデータ泥棒たちが現れる事にもなるのだが……。データ転送速度が圧倒的に速まったおかげで、データ泥に必要な時間まで削減されてしまったのである。
この年の中頃、各国の錬金学会より完全に同時に、新型のデータカートリッジが発表された。発表時期が同時になったのは、これによって一国だけが有利になって三国のバランスが崩れる事を、錬金学会が憂慮したためではと言われている。
このデータカートリッジは、手のひら大のサイズの黒い樹脂製ケースに、直径3cmほどの環状のメビウス結晶を封入した物である。これまでは都市間でのデータのやりとりは、データ転送速度の遅い音録用カセットを転用し、それを人の手で運ぶことでまかなわれていた。
しかしながらこの新式のカートリッジは、それまでとは比べ物にならない速度でメビウス・ネットワークのメビウス結晶とデータ交換が行える。また重量もサイズも、衣服のポケットに入る程度であるため、運用面でもかなりの改善が見られた。
もっとも改善し過ぎて、それを利用したデータ泥棒たちが現れる事にもなるのだが……。データ転送速度が圧倒的に速まったおかげで、データ泥に必要な時間まで削減されてしまったのである。