ウルトラ・スーパー・デラックスマン

登録日:2012/07/15 Sun 00:30:05
更新日:2025/06/25 Wed 14:24:53
所要時間:約 4 分で読めます





私は正義の味方ウルトラ・スーパー・デラックスマン

善良な人 弱い人 困っている人びとを救うため

日夜働いているのです


藤子・F・不二雄の短編の1つ。「カイケツ小池さん」は本作のパイロット版でテーマや展開が類似している。

SF短編の中では比較的有名な作品であり、「ミノタウロスの皿」「ひとりぼっちの宇宙戦争」などとともにアニメ(OVA)化された事もあった。

藤子がインタビューで答えたところによると「普通の人間が超能力や特殊なアイテムを得て活躍する」という作品をたくさん描いてきたが、
パーマン(66年版)を完結させた後に思ったのは「パーマンのような超能力を得て活躍するヒーローはきっと『普通の人間』といいつつも かなり強固な自制心とか高潔な精神を持っていないとできないだろう 」というものだった。
そこで本当の意味で「普通の人間」が超能力を持つヒーローになったら…というのが本作を描くきっかけであった。

◆あらすじ


月星商事*1に勤める待機室長・()(らく)(けん)()は、新聞に何の大事件も載っていない事をボヤいていた。
特にする事もないので帰ろうとした所、同期の片山と出会う。
最近会えなかったことから、旧交を温めるため「飲みに来いよ」と誘いをかけ、句楽は帰宅。

夜になり、車で句楽邸へ向かう片山。
と、そこに女性の影が。
なんとかよけるが、電柱に激突、車が大破してしまう。
……その時、空から一人の超人が舞い降りた。
彼の名はウルトラ・スーパー・デラックスマン。
弱き人、善良な人を助けるために日夜働いている、正義の味方らしいが……?

本作は、超人的能力を得た一人の平凡な人間が止めどない力と正義感の赴くまま暴走していく姿を通し、人間の偽善心や、暴走する正義に潜む恐怖、正義とは何かを強烈に風刺する作品である。

悪いやつは容赦しないんだ。

虫のいどころによってはな、

やりすぎることもたまにはな。

◆登場人物

  • 句楽兼人/ウルトラ・スーパー・デラックスマン
声:龍田直樹
ご存知ラーメン大好き小池さん......によく似た人物。名前の読みは「くらく けんと」。まんまである
異常な程の正義感を持ち、世の中の不正に怒りを感じているが、業務中の新聞への投書以外に悪に対して何もできない自分への無力感も覚えていた。
ある日、突然超人的な能力に目覚め、正義の味方ウルトラ・スーパー・デラックスマンとして活動を始めたのだが……。
アニメ版の狂人じみた演技には一見の価値あり。龍田さんノリノリである。

  • 片山
声:増岡弘
句楽の同期。そしてこの漫画の真の主人公
要領が悪く、純朴な人柄のため出世できずにいる。しかしそれゆえに妻など慕う人も多く、あの句楽ですらも地球で唯一気を許す存在であった。
句楽の下へ行く事を妻に止められるが、制裁を恐れて廃墟の中にある句楽邸へ向かう。

  • 謎の女
声:柳沢三千代
句楽邸へ向かう片山の前に現れた女性。
何やらただならぬ雰囲気だが……?

◆「正義の味方」の行く末

ウルトラ・スーパー・デラックスマンとなった句楽は、様々なこの世の悪をひねり潰していった。
暴走族、汚職代議士、無能な国会、公害を垂れ流す企業……あるいはケチなかっぱらいまで。
元ネタであろうスーパーマンは大人の事情からか悪人を倒す「暴力」だけではなく善人を危機から「守る・救う」という描写をたくさん行っているのだが、
こちらは自分が悪と判断した相手に暴力をふるうだけで他者を守るような行為は 作中で描かれてはいない。

しかしそれは、文字通りの殺戮でもあった。そんな無法が、法治国家で許されるはずがない。
警察・文化人・マスコミと、様々な手段を持って句楽の鎮圧を試みる社会だったが、無敵の超人たる彼を止める事は不可能だった。

句楽を逮捕しようとした警官隊は逆に首や腕を引きちぎられ、皆殺しにされた。
マスコミはビルごと叩き潰され、自衛隊の攻撃でも句楽の体に傷一つつける事さえできない。

ついには句楽が寝ている隙に近所一帯の住民を避難させ、小型核ミサイルを撃ち込んだものの、句楽はそれでも死ななかった。
現在、句楽が住んでいる家の周り一面が世紀末でヒャッハーやってるモヒカンが現われそうな廃墟と化しているのも、そのせいであろう事は間違いなかった。

とうとう句楽の抹殺を諦めた社会は、句楽を刺激する事のないように「待機室長」という実務の無い役職のみのポストを与え(国が直接「句楽を刺激させるな」と会社に命じた可能性あり)、一般市民には「ウルトラ・スーパー・デラックスマンなどという荒唐無稽な人物は存在しない」と発表。
句楽の殺人行動を促さないように重大事件の報道を禁止した。

そして──
  • 会社に行っても、目が合った途端に他の社員が一斉に逃げ出す
  • 句楽の要求には誰であろうと何でも応じる
    • 具体的には破壊された自宅を豪邸として廃墟の中建て直してもらったり、アポなし電話1本で人気アイドルをデリヘルのように即座に呼びつける事もできる。
  • 句楽に頼まれて出前に向かった寿司屋も「お代は要らない、その桶(の返却)も結構」と怯えながら逃げるように去る
このように、いつの間にか片山も含めた人々は句楽に対して腫れ物に触るように接するようになっていた。ひとたび事あれば句楽が何をしでかすかわからないからだ。
句楽は、社会が自分に活動されると困るから真実を隠す事を知っている。だからこそ、彼は憤っていた。
「おれを甘く見るな。」と。


気晴らしにテレビをつけると、アイドル歌手が歌っていた。
その姿に一目惚れした句楽は、無理やりテレビ局にアポをとってアイドル歌手を自宅に誘う。

その時、片山が轢いてしまいそうになったあの女が包丁を手に現れた。
句楽を刺し殺そうとする女だが、句楽のウルトラ・スーパー・デラックス細胞は刃を通さない。

句楽によると、女は先日ひねったかっぱらいの彼女で、仇をとろうと何度となく襲ってきたらしい。
句楽は「今度来たらギタギタにする」と女を脅して追い払う。

「ひねったというと…つまりこう…グイッと?」
その光景(・・・・)を想像して怯える片山に、他の連中が自分を見るのと同じ目線を感じた句楽は、片山にまで怒りの矛先を向け始めた。

「なんでそんな目でおれを見るんだ。おれの力は世の不正を正せと神があたえたもうたものだ。そのおれに逆らうものはすなわち悪だ。悪を抹殺するのがなぜ悪い!?」

一触即発──だが句楽はすぐに落ち着きを取り戻し、時々湧き上がるという気持ちを片山に告げる。

「こんな気持ちってわかるか。ひとりで車にのってんだ、ブレーキの無い車に。ひょっとしておれ一生死ねないんじゃないかと…いや死ぬまで死ねないんじゃ……」


やがてアイドル歌手が句楽邸に来た。
「仕事があるので早く用事をすませてほしい」と言われたため、さっさと彼女を抱こうと寝室に案内する句楽。
そして、句楽を狙う女が今度はハンマーを手にして現れた。

片山の制止も聞かず、アイドルと悦楽の行為に及ぼうとしている最中の句楽を襲う女。
肉欲を妨げられた句楽は、女を殺そうと襲いかかった。

片山は女を連れて廃墟の地下に逃げるが、弾丸よりも速く飛行し、あらゆる物を見通すX線眼を有する句楽には無意味だった。

「女を渡すなら許してやるが、渡さないならお前も同類とみなす」と恫喝する句楽。
あまりにも理不尽な要求に片山も我慢の限界だった。







いったな!!


生 き 埋 め に し て や る !!!


自分の正義を完全に否定された句楽は逆上し、ついに片山と女を殺そうとする……


が……


句楽の攻撃が突然収まった。
片山が恐る恐る外に出ると、句楽は膝を地につけ、血を吐いていた……。





「吐血の原因は胃ガンだった。」

「公平に言って、ウルトラ・スーパー・デラックスマンは現代が成しうる最高の医療を受けたと言えよう。」

「しかし、ウルトラ・スーパー・デラックスガン細胞の増殖を抑える事は不可能であった」


片山に出来ることは、強大な力を持った句楽の呆気ない最期を見届ける事だけだった......。

◆アニメ版での追加・変更点

  • 片山に「茂雄」という中学受験を控えた子供がいる。茂雄自身に台詞はない。
  • 句楽がひねる描写をマイルド化。
    • 自分を逮捕しに来た警官隊を返り討ちにする回想と自衛隊と戦う回想の間に機動隊との戦闘シーンが追加されており、本家スーパーマンめいた突風並みの吐息で機動隊を壊滅させる。
  • 句楽を説得しに来た文化人の一人(声:田中亮一)がテレビの討論会で「彼は最早正義の味方ではありません!」と批判し、それを見た句楽が激昂してテレビ局に乗り込みその文化人を壁に叩きつけるシーンが追加。
  • 小型「核」ミサイルとは明言されなくなった。
  • 句楽の独白で「自分が不死身である(と思い込んでいる)」を追加。
  • 謎の女の武器がナイフ短機関銃に変更されている。
    • また、謎の女の恋人はかっぱらいではなく、句楽の方から「悪口を言った。」と言いがかりを付けられて殺されたとされている。
    • そもそも原作の謎の女は目元が見えない顔立ちだったがこちらではちゃんと目や表情がわかるようになっている。これにより謎の女の感情が明瞭になった。
      原作でははっきり言ってブサイクで怪しい外見の女だったので「美女だったら片山はスケベ心が入ったかもしれないがブサイクなので単純な善意で救ったのだろう」と感じさせる効果があったのが薄れている。
  • 謎の女から二度目の襲撃を受けた句楽は不気味な笑いをあげるようになり、片山に血に飢えた化け物と糾弾された際は原作とは違い逆上しなかった所か、「オマエモコロス。」と冷たく言い放つ。
  • 句楽は能力を手に入れてから数年間、前述の思い込みから健康診断に行っておらず、それ故にガンが手遅れになっていたとされている。
  • 句楽の手術(の失敗)と、死後のシーンが追加されている。
    • 最後は片山が句楽のいたベッドの前で、彼の棺にウルトラ・スーパー・デラックスマンのコスチュームを納めない事を決める独白で終わる。

私は、彼の棺にこの服を入れるのはやめようと思う。

彼は、ウルトラ・スーパー・デラックスマンではなく……

平凡な一人のサラリーマン・句楽兼人として、

一生を終わりたかったに違いないから……。



追記・修正は正義とは何か考え続けられる人にお願いします。

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最終更新:2025年06月25日 14:24

*1 原作の雑誌掲載時は「月星商事」「日星商事」が混在していておそらく校正が不足していたと思われる。このため現在の単行本では概ね月星商事、後述のアニメでは日星商事。