イングラムM10

登録日:2011/07/27(水) 22:16:34
更新日:2025/09/03 Wed 20:49:28
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性能

全長:296mm(ストック展開時548mm)
銃身長:146mm
重量:2850g
口径:9x19mm/.45ACP
装弾数:32(30/40(.45ACP))
発射速度:1280RPM
動作方式:オープンボルト ストレートブローバック



概要

ゴードン・ベイリー・イングラム氏により1964年に設計された短機関銃
過去作であるM5短機関銃*1とその系譜であるM6~M9から方針転換し新規設計されたものとなる。



歴史

Erquiaga Arms社で設計後はサプレッサー製造会社のSIONICE社で試作開発、MAC社に移って1970年から本格的な生産が始まった。そのためMAC-10と呼称されるようになるが前述の通り正式名称はM10。

SIONICE社は元OSS*2諜報員のミッチェル・リビングストン・ワーベル3世が戦後にM16のサプレッサーを制作するために設立した会社で、M10の携行性に惚れこみイングラムと共同で改良を施していった。
MAC社(Military Armament Corporation)も本来は2人が出資者を募って設立した会社でSIONICE社を吸収しM10とM11の生産を行っていたものの、1973年に2人は出資者に追い出された。その上MAC社も2年後に倒産している。
製造権はPBPインダストリーズに移ったが82年に倒産したためSWD社に移ったとされる。

イングラムはその後ソマリアで突撃銃(M14に似ているが7.62x51mm以外にも5.56x45mm、7.62x39mmに対応)を試作したりしていたが2004年に逝去。
ワーベルはコブレイ社に移りM10、M11の生産と訓練教官などを行ったものの、1983年に訓練学校の乗っ取りを目的にロサンゼルスで毒殺されたとされる。
コブレイ社はその後のゴタゴタで営業を実質停止している。

その後マスターピース・アームズ社やバルカンアーマメント者など数多の会社でクローンが制作されたが、大抵フルオート改造がしづらいようにクローズドボルトに変更されている*3

また、本銃は下記のように法規制に振り回された銃であるといえる。
1970代、サプレッサーの輸出に制限がかかるようになりMAC社はサプレッサーの販路を失った。
1986年には銃器所有者保護法(FOPA)によりフルオート火器の新規製造が禁止され、フルオート改造がしやすいものも改められる時期であった。クローンが作られた時期と一致する。



特徴

製作当時に存在しなかった 特殊部隊用の小型短機関銃 というコンセプトで設計されたのでそれに見合った特徴がある。製作当時 である点に留意。

  • サプレッサー装着前提
銃口部にはネジが切られており、装着した状態なら集弾性もある程度向上する。
サプレッサーがかなり優秀で、.45ACP弾を用いた場合はほぼボルトの動作音しか聞こえないほどといわれる。

  • フルオート射撃
発射速度が非常に高く、32発を1.5秒ほどで撃ちつくしてしまう。
標的に大量の弾丸を撃ち込めるので殺傷能力は高い。
しかし射手の制御によるバースト射撃でも限度があり、弾倉交換や弾薬消費に気を遣う必要がある。

  • 生産性
多くの部品にて複雑な形状を排しスチール板プレス加工で形成しているので生産性が高く、頑丈である。

  • 精度
オープンボルトで、API式や発射速度の制御などの配慮も特になされておらず重いボルトが前後する構造。
そのため銃のブレが激しく、セミオートであろうと精度に難があるので誤射も少なからず発生したもよう。
SWD M11/9にはフォアグリップ替わりのストラップが付いているがお粗末。

  • 小さい
ストックは長く軽い伸縮式ワイヤーストックで、サプレッサーを外して折りたたむと大型拳銃並みであり隠し持ちやすい。
その代わりストックはガタが多く反動制御以外の性能は期待できない。
照門と照星の間隔も短く長距離になるほど狙いが定めにくい。
後々のシュタイアーTMPやH&K MP7などに比べるとかなり重い点もマイナスポイント。



運用

開発当時はこのクラスの短機関銃は殆どなく、特殊部隊やSWATで採用されていた。
アメリカ、イスラエル、ブラジル、キューバ、イギリス等で採用が確認され、SEALSでも使用され、ベトナム戦争湾岸戦争に参戦している。
現在では精密射撃の得意なMP5やより秘匿性の高いベレッタ93Rグロック18Cがその役割を担っており本銃は警察、軍では使用されない。

犯罪者やテロリストでは構造が単純でフルオート改造しやすく乱射できるとなれば使わずにはいられない銃であったと思われる。ただしすでにかなり古い銃であることから現在ではあまり見られないという。

射撃競技には向かないが、各社から発売されている競技用改造キット次第ではMP5並の集弾性になるとも言われている。クローズドボルトのピストルカービンが流通するまではそこそこの人気を博していたようだ。



バリエーション

  • イングラムM11(MAC-11)
小型モデル。内部構造と外見は同様だが、使用弾は一回り弱い.380ACP弾。その代わりボルトストロークが短縮されたので発射速度が1500RPMに高速化されている。
市販品はセミオートだけだが、初期モデルは改造すればフルオートも可で、犯罪者御用達でもある。

  • SWD M11/9(又はコブライ SMG)
SWD社とコブライ社の改良型。安定性と操作性を高める為に全長を延ばし発射速度を落とすなどの再設計を行った。最も高性能と言われる。

  • メカム BXP(南アフリカ)
  • SAM X9(フィリピン)
クローン



フィクション

UZIが入手しづらい状況が続いたため、M10のプロップガンを改造してUZI状にした通常ウジグラムが登場することもあった。

  • あぶない刑事…舘ひろし
  • マトリックス(一作目)…エイポック(ビル脱出時に使用)
  • バトル・ロワイアル…桐山和雄と七原秋也が使用
  • メタルギアソリッド…3、4、MPO、MPO+、PWに登場
  • バイオハザード…CODE:Veronicaにてクリスとスティーブが使用
  • 屍姫…主人公が発展型のM11を使用
  • コンドル
  • エル・マリアッチ
  • ニューヨーク1997…スネーク・プリスキン(カート・ラッセル)がスコープとサプレッサーが付いたM10を使用
  • パルプ・フィクション…ブッチ(ブルース・ウィリス)が使用。
  • トゥルーライズ…階段で落としてしまうが、暴発しながら転がり落ち、敵を攻撃するという神業
  • マックQ…主人公の刑事マック(ジョン・ウェイン)が使用。
  • バイオレント・サタデー…物語の終盤で、CIAの特殊工作員がサプレッサーモデルに加え、レーザーサイトが装着されたモデルを使用。
  • うぽって!!
漫画はラムちゃん、アニメはえむてんちゃんと名前が違う。
銃同様に凄まじい早口で喋るが、あっという間に弾切れを起こしてフリーズしたりする。
ちなみにトップヘビーなため、ものすごいロリ巨乳

その他、ガンスミスキャッツ、NOIRCANAAN等に登場



余談

.45ACP弾モデルのマガジンはM3グリースガンと互換性がある。

コロンビアやフィリピンでは選挙期間中に大活躍。

日本は今年の4月に神奈川で本銃を所持したキャバクラ店経営者が逮捕されている。

ちなみに生産社の殆どが倒産するなど曰わく付きの銃である。
これについて、「UZIとのニッチの競合を危惧したイスラエルが圧力をかけているのではないか」という「ユダヤ陰謀論」がまことしやかに囁かれている。
今は亡き月刊Gunにて、「そんな話が出るほど、イングラムは優秀だった」と、イングラムの評判の一例として紹介されたことがある。



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最終更新:2025年09月03日 20:49

*1 M3グリースガンとその後のモデルに次ぐ、という意味を込めM5としている。M1トンプソンに近い形状。

*2 Office of Strategic Services、アメリカ戦略諜報局。戦中に活躍しのちのCIAの先祖と呼べる存在。

*3 近しい時代のTEC-9なども同様