ファイアーエムブレム 聖戦の系譜(大沢版)

登録日:2012/01/24 Sun 17:53:43
更新日:2024/09/13 Fri 21:31:04
所要時間:約 5 分で読めます




この項目では、大沢美月氏(現:うさ銀太郎)によって描かれた『ファイアーエムブレム 聖戦の系譜』のコミカライズ作品について説明する。
1996年から2001年まで執筆された(雑誌連載はなし)。

スコラ社から11巻まで発売された後、出版社が倒産。その後メディアファクトリーから再度刊行されることになり、それまでの内容を6巻にまとめ再出版、7巻以降ストーリーの続きが描かれ、全16巻が刊行された。
その後発売された文庫版は、全10巻である。
また、画集も存在する。

本来のタイトルはゲームと同じだが、同タイトルのコミカライズ作品はほかにも何点かあるため、ファンからは「大沢版」と呼ばれることが多い。
ちなみに、他の聖戦の系譜コミカライズ作品では、冬季ねあの『光を継ぐもの』や、藤森ナッツのもの(いずれもエニックス刊)が有名。


【概要】

聖戦の系譜の、ゲームでは序章から10章までの展開および終章の一部エピソードを描いている。
終章についてはほぼ描かれなかったため、マンフロイやユリウスとの決着はつかず、アルヴィスと対決したところで終わってしまった。
また、連載中に発売されたトラキア776の設定は原則として反映されていないが、一部ゲストキャラとアイテムが登場する。

少女マンガ風の作画が特徴であり、シリアス・コミカルと、表情の幅も広い。美人の横顔に定評がある。任天堂作品のコミカライズにもかかわらず、ベッドシーンが何度も出てくる。

漫画らしい自由な展開も特徴で、他社から刊行されたノベライズの影響も受けていると言われる。
もちろん、ストーリーや設定については、全て原作開発元のインテリジェントシステムズからチェックを受けていることはあとがきでも何度も言及されているが、それでも原作ファンからのクレームは絶えなかったようで、連載当時の作者の苦労がうかがえる。

親世代では、

子世代では
  • ゲーム中では二者択一のドズル兄弟がどちらも生き残る
  • アレスとリーンの青春からの、ブラムセルに囚われた後の『あんまり大丈夫じゃない』の詳細
  • 敵と味方に分かれながらも説得を試みるセティとそれを拒むイシュタル
  • 終盤に『トラキア776』のマリータもゲスト出演し、偶然かはたまた運命なのか、ファバルと出逢う(詳細は各項目と二人の『母親』の関係性を調べてみてほしい)

このあたりは割と良評価されている。

敵陣営の人々も、原作のイメージを大きく崩さないように丁寧に掘り下げられているキャラが多数いる(アンドレイ・ランゴバルト・レプトール・イシュトーなど)

特に、アグストリア編におけるシャガールは秀逸の極み。
悪役としての濃さ、小物さ、カオスっぷり……その様は他の悪役が霞むほどきん出ており、大沢版における最高のキャラはシャガールともいわれている。本当に凄まじい。
(まあ、他の悪役はだいたい悪に手を染める事情があるけど、アグストリア諸侯は純粋な小悪党が多い)

そのほか、原作では名前があったものの、ほとんど喋らなかったボスクラスの敵に関しても、ストーリーに深く関与するように描かれている者が多数いる。

絵柄については、シレジア編あたりから、一気に進化している。
  • そしてイード砂漠~バーハラ編が、最も絵を極めている。なにかとりついているんじゃないかという程、神懸かっていたともいわれている。
  • そのまま続けば良かったものを、その後は緩やかに悪化してしまい、ついにはある巻でトーンの締め切りが間に合わないとあとがきで愚痴っている(結果的には、校正中にある程度トーンを追加することができた模様)。

【読者の評価がわかれる点】

大沢版において、むしろこちらの方が話題にあげられるのではないだろうか。
スレッドではお祭り状態である。
以下は、『作品の問題点の一部』である。

  • 致命的に省かれる戦闘シーン。だいたいレックス・アイラ・アゼルの三人トリオでその場をごまかしている。
  • ティルテュの落馬→トローンの流れ
  • ザイン戦
  • シレジア編
  • レックス&アイラvsランゴバルドの城内戦
これは素晴らしいの一言だというのに。つまり、戦闘は描けないわけではないというのに。
聖戦は恋愛が醍醐味。それはちがいないのだが……。
キャラの背景を描きすぎたせいか、一部余計な性格を付加しているものがある。
  • 中でも代表的なのがラケシス。原作通りにブラコンなのだが、大沢氏の独自の主観で『異性として』お互いに愛しあった兄エルトシャンの死を知って、大地の剣で自傷行為を繰り返す。今で言う「メンヘラ」呼ばわりする読者もいたとか。
ラケシス程ではないものの、メンヘラ予備軍として描かれてしまったキャラクターも多いのは事実。
特にトラバントはなぜか後々にエスリンに想いを寄せ、彼女を奪うためにレンスターを滅ぼすといってしまう、王としてどうなのという恋愛脳な設定にされている。アルテナを育てた動機を描いているとも言えるが。
しかし一番割を食っているのは、聖痕がでたから認知してやったとまで言われたトラバントの妻とアリオーンである。
また、二世代に渡る物語という仕様上仕方ないのだが、カップリングが固定されてしまっている。

作者の主観か、それともストーリー性を重視したのかは分からないが、ドラマのあるカップルはわりかし丁寧に描かれており、レックスとアイラ、アゼルとティルテュ、フィンとラケシスの恋愛は子世代にまで繋がる系譜で物語にくみこまれており、原作のファンなら一見の価値がある。しかしそれ以外のカップルは少々雑であり、クロードとシルヴィアの恋愛の唐突さ、どうみてもブリギッドミデェールだったのになぜか子世代でデュー×ブリギッドがあげられる。
特定のカップリングによるファンを増やしすぎたせいか、後の作品である『トラキア776』において、デルムッドナンナの父(=ラケシスの夫)が公式で設定された際に、ファンからの激しい抗議があり、設定取り消しという悲劇が生まれた。
  • ……という話があるが、これはソースが無いデマ。事実のように流布されていたが、近年根拠がまったくないことが明らかになっている。
ただしネット上で大沢版から根強い人気があるのは本当であり、あまりうるさく騒ぐと煙たがられる。ラケシスのみならずカップリング談議は本当に荒れやすいので、取り扱い注意である。
 キャラクターのファンにとって最大の問題は、ホリンとベオウルフが登場していないということ。
流石に全てのキャラを出すとストーリーが破綻するかもしれないし、ある程度仕方ない(闘技場に勤しむ姿など描けないし、戦場で金のやり取りとか無理)が、単行本で「ベオウルフがあまり好きではない」という感じのあとがきを載せてしまった。
  • 後に作者は「作品に私情は挟まない」とコメントしており、キャラクターの未登場やカップリングは、単に展開上の都合、またはキャラクターを減らせという上からの指示であるとしている。

また、前述のラケシスのことがあって、エルトシャン王の妻である王妃が割を食う形となっている。
ゲーム本編では名前も含めて直接登場せず村人の会話やアレスの口頭のみで存在が示唆され、後に設定資料集で「グラーニェ」という名前や人物像などが明かされたがこの漫画では「イリア」という別のキャラクターになっており、歪んだ性格にされてしまったあんまりな女性像で描かれているのは一部のファンから賛否両論とされている。

ただし、グラーニェの設定は上記のようにいわゆる裏設定的なもので、しかも設定資料集が出たのは本作(スコラ版刊行当時)よりも後であることをしっかり留意すべきことでもある。
(グラーニェはファンからコアな人気をもつキャラクターではあるが、そもそもゲーム本編には一切登場しないのでほぼ後付け的な面も強い)

近親相姦がテーマの聖戦においては当時から人気の高いセリス×ユリアのカップルにスペースを割きすぎて、子世代の他のカップルのドラマ性が薄いことを指摘する人もいる。
最近はファンも落ち着いて来たのか見直しをされ、冷静な評価も出てきている。

実は、性格も性根も矛盾の塊にされてしまったキャラはシグルドと言われている。
  • まず彼の凄さは闇魔法で部下達が死にかけているというのにもかかわらず、キュアンの優しさに縋って一人軍を離脱。そこで偶然、裸のディアドラと再会して捕縛したあたりからなにかが、言い表せないなにかが狂い……もといはじまり、こうしている間も部下が苦しんでいるというのにのんびりいちゃいちしながら帰軍。司令官失格である。
  • その後、サンディマを総リンチして自分が危険な目にあう間抜けぶりを披露したあとは、エルトシャンとラケシスの恋愛……つまり聖戦士として破滅への道を、キュアンと諌めも止めもせずにむしろ幸せなことと応援する。
  • はてはディアドラがさらわれたという知らせに、シャナンの前でプギャる(すぐにおさまるが)。
  • ランゴバルドとの関係に悩み、ぶっきらぼうに振る舞っているレックスに大人気ない態度で責めて、周りから諌められる始末。
以上の出来事をおこす割に、普段は冷静。というより、正直冷たいリアリストにされている。ゲームの性格に沿った場面は少ない。
しかし、ダーナにおけるティルフィング初使用時、バーハラ城のアルヴィスと対峙するシグルド、死への道(ディアドラ)を見つめるシグルドを背に、生への道(城の外はメテオの雨&敵兵)へ歩いていくクロード神父、これらのシーンは今なお鳥肌ものといわれている。
ちなみに、シグルドさん。父・バイロンの最期とアルヴィスを許すシーン……すなわち死ぬ間際のシーンが唯一、ゲームの性格を忠実に再現されている。
アルヴィスと戦う決意をしてティルフィングをぬいた後の悟りシグルドが色々と格好良すぎて見落しがちだったが。
疑問に思った方、その疑問、正解です(※作者もあとがきでネタにしている)。

……このように、ついつい熱く解釈・批判したくなるファンが多数生まれるほど、ゲーム内ではシステム上表現しきれないドラマを鮮やかに描ききったのが、大沢版FEなのである。
ただし、上にも書かれているが、ストーリーの最終盤を描かずに終わってしまったので、これから読む方は注意が必要だ。


追記・修正はこの漫画のカップリングを完全再現してからお願いします。



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最終更新:2024年09月13日 21:31