神さまのいない日曜日

登録日:2014/01/22 (水) 13:29:19
更新日:2021/06/28 Mon 01:04:44
所要時間:約 10 分で読めます






神様は月曜に世界を作った。
無すらなかった場所に有と無ができた。

神様は火曜に整頓と混沌を極めた。
自由と不自由が定義され、根本的な方向性が決まった。

神様は水曜に細々とした数値をいじくった。
細かく、面倒な作業は素晴らしい多様性を産んだ。

神様は木曜に時間が流れるのを許した。
値は爆発的に広がって原初のスープが生まれた。

神様は金曜に世の隅々まで見た。
億の時が過ぎ去って、世界は理想的な広がりを見せた。神様はその世界を愛した。

神様は土曜に休んだ。
空間が光とともに百億も過ぎ去った。



そして神様は日曜に――




神さまのいない日曜日は、富士見ファンタジア文庫から刊行されているライトノベル
作者は入江君人。第二十一回ファンタジア大賞、大賞受賞作品。
主な略称は「神ない」

神に見捨てられ、「人間が死なず、新たに生まれることもない世界」を舞台にしたファンタジーライトノベル
荒廃した世界の中で「世界を救うこと」を夢見る少女・アイとその仲間たちの旅を描く。

2014年5月25日、9巻の発売をもって完結した。


ストーリー


「あの世はもはや満杯だ。この世もすぐに行き詰まる。ああ失敗した」

15年前、神様は突然人類の前に現れ、こう言い放った。
その日から人類は死ななくなり、新たに生まれることもなくなった。
心臓が停止しても人は動き続け、すぐにこの世は生ける死者で溢れかえった。
だが世界を見捨てた神様は最後に奇跡を起こし、死者を埋葬するための存在「墓守」を地上に遣わした。
墓守は死者を土に埋め「埋葬」することで、死者を完全に機能停止させることが出来た。

辺境の村に住む墓守の少女・アイは村の人々とともに幸福な日々を送っていた。
アイを尊敬し、親切にしてくれる村人たち。実の母親を亡くしたアイに、両親のように接してくれる村人のヨーキとアンナ。
彼らの愛を受け、アイは平穏な日々を過ごしていた。

しかし、ある訪問者の登場により村の平穏は破られる。
「人食い玩具(ハンプニー・ハンバート)」を名乗る青年は村人を虐殺し、彼の手によって一日にして村は壊滅状態となった。
だが彼は、アイだけは殺そうとしなかった。アイは村を出て行く彼に無理やり同行し、ハンプニーの動機を見極めようとする。

そしてアイはハンプニーを追うなかで、秘められた真実に迫っていく……。


概要や作風など

いわゆる「終末もの」に属する作品であり、
終わり行く世界の中で「世界を救う」という夢を抱くアイと、その仲間たちの旅が描かれる。
物語のスタートとなる一巻を除いては、おおまかに言えば、
「旅をしていたアイ達が、立ち寄った場所で事件に巻き込まれ、それをなんやかんやで解決する」というパターンで物語が進んでいく。

日常系を想起させるほのぼの・コミカルな場面も多々あるが、基本的に物語はシリアス。
アイが掲げる「世界を救う」という夢は、2巻にして非情な現実と突き当たり、それ以降も残酷な真実や別な人々の夢とぶつかって摩耗していく。
様々な事情を抱える死者たちと相対し、ただ死者を埋葬するだけでは救えないと知ったアイが、
どのように死者たちを救うのかが、物語の見ものである。

3巻辺りからは能力バトルの要素も随所に登場する。
ただ、能力バトルも物語のスパイスであり、あくまで主体はアイの旅物語にある。


登場人物

谷間の村に住む、墓守の少女。本作の主人公。12歳。
8歳の時に実の母・アルファを亡くし、その後は村人のヨーキとアンナに育てられる。
その後は村の人々に愛される日常を送っていたが、ハンプニーの襲来により世界の、そして己の真実と向き合うことになる。
12歳の少女相応に無邪気で快活なほか、一度決めたことをやり通す芯の強さを持つ。
1巻を終えた後は「世界を救う」という壮大な夢を抱き、夢に関して「諦めるまで諦めない」と言い放つ程の強い意志を持つ。
しかしその芯の強さは時に病的であり、周囲の人々に諌められることも。

墓守ではあるが他の墓守と異なる点が多く、人間と変わらないメンタルを持つ。
反面墓守が持つ「死者の探知能力」を持っていない。
異能は持っていないが、墓守特有の超身体能力を持つ。
愛用のシャベルは母アルファの形見。

  • 人食い玩具(ハンプニー・ハンバート)(CV:浪川大輔)
アルビノ体質の、色白の青年。
この世に蔓延る死者を容認できず、死者を殺して回ることから「人食い玩具」のあだ名で呼ばれる。
放浪しながら、恋人であった「ハナ」という女性を探している。
性格は気だるげで皮肉っぽい。
彼がアイの住む村で行った殺戮行為が、アイを真実と対面させるきっかけとなる。
よく間違われるが、人”食”い玩具であって人”喰”い玩具ではない。

異能は「不老不死」。死亡しても死者にならず、傷一つなく蘇生する。
非常に便利な能力であり、死亡することで疲労やダメージがまるごとリセットされる。
そのためハンプニーは旅の中で便利な回復手段として多々自殺し、蘇生する。
また銃器の扱いに長けており、拳銃やサブマシンガンを使って戦う。

  • ユリー・サクマ・ドミートリエビッチ(CV:藤原啓治)
ハンプニーの親友。「江東の虎」「ドミトリの息子」「猟兵」などの異名を持つらしい。
まっとうな生者。死者となった妻に懇願され墓守の埋葬を受けずに妻とともに暮らしていたが、
死者を許容しないハンプニーによって妻を殺され、あげくその死体を火葬されてしまう。
そのため、妻の敵であるハンプニーを追っている。
1巻以降はアイとの旅に同行し、車の運転手や料理を務める。

まっとうな良識人であり、いい大人。暴走するアイのストッパー役でもある。
ハンプニー同様銃器の扱いに長ける。

墓守の女性。右眉からまぶたにかかった傷を持ち、そのことから「傷持ち(スカー)」の通称で呼ばれている。
本人も「傷持ち」の名で呼ばれることを好む。
いわゆる「普通の墓守」であり、常に笑顔を保つがそこに感情はない。
一方で「傷持ち」の名を好むなど一般の墓守とは違う面を見せることも。
これは1巻以降アイたちの旅の仲間に加わった後顕著になり、彼女もまた他の墓守とは異なる個性を持つことになる。

墓守特有の超身体能力と死者の探知機能、そして生者からの質問に答える「質問・検索」の機能を持つ。

2巻の「オルタス編」にて登場。
アイ達が偶然見つけた車の中で、袋に押し込まれていたところを発見された。
死霊都市オルタスの姫であるウッラに使える従者。

2巻の「オルタス編」にて登場。
オルタスの姫。通称「コロシオハケ」。オルタス唯一の生者。
姫という立場ではあるがオルタス行政上の実権は持っていない。
しかし民衆からの支持は絶大であり、影響力は高い。
普段は眼と肌を革紐で封じられ、会話も口頭ではなく筆談で行っている。

オルタスという都市の運営に深く関わる、強力な異能を持つ。
ネタバレ:その異能は「五感で接触した生者を即死させる」力。
ウッラの肌に触れれば死に、視界に映れば死に、声を耳にすれば死ぬ。

2巻の「オルタス編」にて登場。
オルタス在住の仮面職人。ライオンの面で素顔を隠しており、顔を見せることはない。
オルタスのルールをよく知らないアイの世話を焼く。

3巻の「ゴーラ学園編」にて登場。正確には2巻の最終盤にてちらっと顔を見せている。
アイと同じ「世界を救う」願いを持ち、そのためにディーと行動を共にする。
3巻以降、ディーと共にアイの旅に同行する。

異能「拳銃喰らい(ブザービーター)」の持ち主。
その能力は「物を狙った場所に飛ばす」こと。
バスケットボールを得意とし、学園のバスケコートで一人バスケに興じている。

アリスと行動を共にする少女。
「幽霊」を自称しており、その自称の通り浮遊する、物を通り抜けるなど幽霊めいた性質を持っている。
が、その割に怪談が苦手だったりする一面も。
3巻以降、アイの旅に同行する。


用語

  • 死者
先述したが、この世界において肉体の死は活動停止を意味せず、
心臓が止まろうとなんだろうと死者は生前と同じく動き続け、生前の人格を保持し続ける。
しかし肉体は「死体」であり、時間経過とともに腐敗していく。
この腐敗は脳も例外ではなく、前頭葉を初めとした理性を司る外部から徐々に機能が低下していき、
次第に死者は生存本能ばかりが肥大した「わがまま」な状態となってしまう。
生前と同じく活動は脳に依存しているため、脳を破壊すれば一応機能を停止させることは可能。
しかし、墓守に埋葬されない限り本当の意味で死者が「死ぬ」ことはない。

  • 墓守
死者が死ななくなった後、この世界に突然現れた存在。
外見は人間そのもので、死者を埋葬するためのシャベルを持っている。
死者を埋葬することを行動原理とし、死者の意思とは無関係に埋葬を実行しようとする。
そこに感情はなく、ただ死者を埋葬するだけの存在である。
いずれの墓守も、人間を越える身体能力を持っている。

ハンプニーから「ハエよりも節操なく湧いてくる」と評されており、世界各地にその姿が確認されている。
「神様がこの世界を捨てる前に与えた最後の奇跡」とも言われているが、その正体は不明。

  • 異能
本当に心の底から強く「願う」ことで、世界の住人に「願いを叶える」ような形で発現する力。
この世界においては心の底から願った強い願いは叶う、とされており、それが異能と言われている。
主な異能はハンプニーの不老不死、アリスの拳銃喰らいなど。

  • 死霊都市オルタス
死者人口120万を数える、死者だけが暮らす街。
行き場を亡くした死者たちが集って作られた都市であり、死者は寛容に受け入れる一方で生者には厳しく対応する。
死者の肉体を保存する技術を持っており、それにより死者が劣化することを防いでいる。
膨大な死者を抱えるため多くの墓守を呼び寄せるが、それら墓守をすべて殺すことで街の平穏を保っている。

  • ゴーラ学園
この世界に残された数少ない教育機関。
異能を持つ生者を集めている。


アニメ

2013年7月から同年9月まで放送された。アニメーション制作はマッドハウス
多くのスタッフが「織田信奈の野望」と共通している。

原作の1巻~5巻までを映像化した内容になっている。
しかし展開が全体的に早足であり、そのため主に序盤で超展開めいたぶつ切りやダイジェスト感のある展開が目立つ。
その上4巻の世界塔のくだりが削除されており、ゴーラ学園が中盤2話(約50分)で処理されるなどいい出来とは言い難い内容であった。
話を短縮するために、ディーの従える異能者たちなど、5巻以降の内容に繋がる登場人物の存在もオミットされている。
削除された世界塔編の代わりに、世界塔編の内容を一部抜粋し再構成したアニメオリジナルエピソード「墓守が生まれる場所」が挿入されている。

内容の改悪に反して作画はキレイであり、販促としての役割はある程度果たせたようである。

オープニングテーマ「Birth」
作詞・作曲:山口朗彦
編曲:河合英嗣 ストリングス・コーラスアレンジ:菊谷知樹 歌:喜多村英梨

エンディングテーマ「終わらないメロディーを歌いだしました。」
作詞・作曲・編曲:ナカムラヒロシ
歌:小松未可子


余談

ライトノベル界ではよくあることであるが、ファンタジア大賞応募時はタイトルが異なっていた。
大賞受賞時のタイトルは「日曜の人達」。このタイトルは一巻のプロローグに名残として残されている。

2008年に「これはゾンビですか?」がファンタジア大賞佳作に選ばれ、
翌年には本作がファンタジア大賞を受賞、さらにスニーカー大賞・大賞に「シュガーダーク」が選ばれている。
更にその翌年・2010年には電撃大賞にて「シロクロネクロ」が対象を受賞している。
これらの作品は全て死人やゾンビなどといった要素を作品の根幹に組み込まれており、
そのため2008年~2010年は一部のライトノベル読者から「ゾンビブーム」などと呼ばれたとか何とか。





Wiki籠りは月曜に記事を作った。

Wiki籠りは火曜に推敲と校閲を極めた。

Wiki籠りは水曜に細々とした記述をいじくった。

Wiki籠りは木曜にネタっぽい追記・修正を許した。

Wiki籠りは金曜にコメントを隅々まで見た。

Wiki籠りは土曜に休んだ。



そして冥殿が、日曜にスレマゲドンした。


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最終更新:2021年06月28日 01:04