エジプト神話

登録日:2025/03/09 Sun 12:22:16
更新日:2025/04/18 Fri 02:23:56
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エジプト神話とは、その名の通り紀元前3500年頃より記録に残されるようになった古代エジプトにて興ると共に*1、人々により信仰されていたとされる神々と、その信仰・宗教説話の総称。


【特徴】

基本的な形態は、古代エジプトの風土に根付いた土着の自然神信仰である。
そして、優れた星読み(天体観測)の技術から宇宙の創造に関する壮大な神話も盛り込まれているのが特徴。

現代に於いてもその実態は解明しきれてはおらず、大ピラミッドオベリスクの他、スフィンクスといった古代エジプトにて生み出されたと考えられる遺物はエジプト神話に関連したモニュメントであると見做されるのが基本であるものの、それに反論する異説も存在している。

エジプトは地形的に同一の土地内の部族闘争が主であり、殆ど他地域の民族との争いは起きなかったとされているものの、それでもギリシャ神話やウガリット神話、更にはバビロニア(メソポタミア-シュメール)神話の影響は受けている(若しくは与えた)と見られている。

尚、同一の神性であっても複数の誕生神話を持っている場合も少なくなく、更には同じ神性とは思えない程に神話内での役割や性格が違う場合も少なくない。


【4つの総本山】

古代エジプトは紀元前3000年にメネス王に統一されて第1王朝が樹立される以前には、上エジプト(現在のカイロ南部〜アスワン)と下エジプト(現在のカイロ南部〜地中海)という生活様式の違う二つの地域に大別され、更には双方の地域でそこに住む部族間の争いが繰り返されていた。

牧畜民が多く一つ処に定住せずに争いも多かった上エジプトに対して、下エジプトは古代よりナイル川の恩恵を受けた肥沃な土壌に根付いた農耕民族が多く暮らしていた。
そして、そうした環境もあってか下エジプトには各々に別々の神系譜を掲げる以下の4つの学術都市とも呼べる拠点が存在しており、それぞれがエジプト神話に於ける4つの総本山として機能していたという。
特に大きくかつ特に影響力が強かったのはヘリオポリスなのだが、他の宗教とは違って古代エジプトでは他の宗派とさすがに争いが無かったというわけではないのだろうが、だからといって完全に否定したり無かったことにするようなことはなかったらしく、民衆は非常に大らかなスタンスで複数の神話や信仰体系を受け入れていたらしい
以下に、4つの総本山の軽い解説。

ヘリオポリス/イウヌウ/オン

先王朝時代から下エジプト(現在のカイロ近郊)にて一大学術センターとして存在していた。ファラオを現人神とする太陽神学が生み出された、信仰と支配の総本山となっていた学術都市。
後には、王朝と神官団との強い結びつきによりヘリオポリスの神官団自体からファラオが排出されている。
ヘリオポリスが多大な影響力を持っていた王朝は第6王朝にて一度は潰えるが、思想と信仰自体は強い影響力を以て残り続け、後に再び全エジプトを統一したテーベ王朝の信仰と合一したことにより現代にも通用するエジプト神話の基盤となった。
現代に於いて、エジプト神話の“主神”として扱われている太陽神ラー(ケプリ)やヘリオポリス9柱神(エニアド)、前述のメネス王の氏神であったホルス(ラー・ホルアクティ)、オシリス、イシス、セト……は、このヘリオポリスを(エジプトに於いては)出自とする神である。
9柱神は原初の水(ヌン)より出でた創造神アトゥムを起源として、アトゥムから大気(シュー)と湿気(テフヌト)が生まれ、ここから大地(ゲブ)と天空(ヌト)から生まれ……と世界を形作る神々であったが、後に9柱神を越える概念として太陽神ラーが生み出されるに至り、やがてはラーの下にヘリオポリス以外の総本山の神話も集約されていくことになった。

◆ヘルモポリス/ヘメヌウ

古王国時代には、ヘリオポリスと並ぶ下エジプトの神学センターとして存在していた学術都市。
ヘリオポリスとは別の創生神話を打ち出しており、月神トートとヘルモポリス8柱神(オグドアド)が信仰の中心に置かれていたが、後には太陽神ラーも列に加えられている。
ヘリオポリス神話に於いては原初の水そのものとして扱われるヌンが最初の男神として扱われているのが特徴であり、上記の8柱神は男神がカエルの、女神がヘビの頭部を持つ4組の夫婦神であり、生命の源としての水を重要視していたようだ。
前述のようにヘリオポリスと並ぶ一大学術センターではあったものの、ファラオの権威と結びついて太陽神学を生み出したヘリオポリスとは違い、ヘルモポリスの神官団は政には関わろうとはしなかったようだが、それ故に後の中王国・新王国時代には主流から外れていった。

◆メンフィス/メン・ネフェル

現代のギザ近郊に存在していた古王国時代の首都であり学術都市。
意志(心臓)と言葉(舌)により世界を創造したとされる創造神プタハと、その配偶神であるセクメト、その息子のネフェルトゥムによる三柱神としての信仰を打ち出していた。
意志と言葉により世界を創造するという考え方は、後にヘリオポリス、ヘルモポリス、テーベの信仰にも盛り込まれており、更にエジプトで虜囚とされたあの民族の信仰とその主神にも影響を与えたと考えられている。
やはり、太陽神ラーの威光の下に信仰が集約されると共にメンフィス神話自体は影響力を失っていったようで、プタハは創造神としての役割を失った後は鍛冶神としての信仰を集め、セクメトはラーの娘とされると共にハトホルやバステト、テフヌトと同一視されるようになった。

◆テーベ/ウァセト

第6王朝崩壊後の第1中間期と呼ばれる混乱の時期を越えて、再び全エジプトを統一した下エジプトの都市であり学術都市。
ヘリオポリス神話に基づく信仰の基盤を持ちつつも、部族の氏神を尊んでいた。
古王国時代に於いてはテーベの主神はメンチュと呼ばれる神であったのだが、この第11王朝より主権を簒奪して第12王朝を樹立したアメンエムハト王はメンチュに代わり、自身の部族の氏神であったアメンを主神としての権威を付けるべく太陽神ラーと習合させて至高神アメン・ラーとしたことにより、元の姿である太陽神ラーですらが多数の神話を習合させつつも妥協せざるを得なかった部分もあった過去の信仰上の対立の歴史を過去のものとした。

【多彩な神々の姿】

エジプト神話には人間に近い姿の神性が居る一方で獣(鳥、虫)の頭を持つ……或いは両方の姿を持つ神々が存在している。
━━これは、一説によれば獣の姿(頭部)で現されている神々は元々の記録すら残っていない頃に起源を持つエジプト古来の神々であり、人型のものは他地域の民族が彼等の神話と共に入り込む中で取り込まれた神々と考えられている。
双方の姿を持つ神々は、その他地域の信仰の中に土着の神々が取り込まれると共に新たな属性(神話)を獲得した姿とも研究されている。

【主要な神々】

※個別項目があるものはそちらも参照。

●ヌン

役割:原初の水
ナイル川の化身であり、生命の源たる原初の水そのもの。
男神の姿で現されるが、固有の人格を持つ神として扱うのはヘルモポリス神話ぐらいのもので、他の神話では一種の空間や場所といった扱い。
ヘリオポリス神話でもヘルモポリス神話でもメンフィス神話でも創造神(アトゥム、トート、プタハ)はこの原初の水より自身を生み出した後に世界を創造した。
こうした構図は古代オリエント神話に共通する構図である。
太陽神ラーを生み出したともされていたが、後には太陽を支える構図で描かれるようになった。

ラー(レー)/ケプリ

役割:太陽神/世界の創造神/神々の王
ヘリオポリス神話の主神
ナイル川(ヌン)から生まれる(上がる)太陽そのものであり、宇宙の中心となる創造神。
太陽神学では、ファラオは現世に於けるラーの化身とされた。
太陽(日輪)そのものや、日輪を頭に掲げる隼の頭部を持つ男神の姿で描かれる。
また、特に日没を象徴する場合にはケプリと呼ばれ、頭部にスカラベ*2を重ねた姿で描かれる。
ヘリオポリス神話に於いては元々は存在していなかったものの、世界に活力を与える太陽そのものとして規格外の神となり9柱神に加えられたり、それを超える存在と捉えられるようになった。
古代エジプト文明の遺したモニュメントとして知られるピラミッドやオベリスクは“ラーからの光”を現すとされるのが有力。
その(文字通りの)威光はヘリオポリス以外の神学にも強く影響を与えることとなり、信仰の統一が進んでいった。

大ホルス/小ホルス

役割:天空神/英雄神
古代エジプトでも最も古い神性の一つと考えられるが、後にメソポタミア神話に起源を持つと思われるオシリス-イシス神話に組み込まれたことにより、彼等の子供でもあり不具にして父親の復讐を遂げる英雄神としても語られるようになった。

天空神としては大ホルスと呼ばれ、ラーの息子。
隼そのものか、隼の頭部を持ち月と日を両眼とする男神として現された。

英雄神としては小ホルスと呼ばれ、オシリスとイシスの息子。
母イシスが弟のセトに謀殺されてバラバラにされて殺された、兄にして夫のオシリスを不完全な状態で蘇らせた後に交わった影響で不具の子として生まれた男神であり、叔父のセトを倒してオシリスの王権を引き継いだ。
小ホルスがイシスに抱かれた姿は聖母子像の原型である。

また、ホルスは父(祖父)であるラーとも習合し、ファラオの化身としても信仰された。
一説には、スフィンクスはそのラーとホルスの習合体を現した姿とも考察される。

●アトゥム

役割:世界の創造神
9柱神の一つ。ヘリオポリス神学の創造神
原初の水から自らを生み出した後に、自慰により大気と湿気を生んだ。
故に両性具有とも捉えられる。
後に太陽神ラーと同一視され、アトゥム・ラーとしての信仰を集めた。

●シュー

役割:大気の神
9柱神の一つ。アトゥムの息子。
大気そのものとされる。

●テフヌト

役割:湿気の神
9柱神の一つ。アトゥムの娘。
湿気そのものとされる。

●ゲブ

役割:大地の神
9柱神の一つ。アトゥムの孫。
大地そのものであり、シューとテフヌトに生み出された時より妹にして妻のヌトと抱き合って離れようとしなかったが、世界創造の為にアトゥム(ラー)はシューとテフヌトを夫婦(兄妹)の間に強引に入り込ませて引き離したことでゲブの四肢は引き千切られ、それが山々となった。

●ヌト

役割:天空の神/神々の母
9柱神の一つ。アトゥムの孫。
天空そのものであり、生まれ出た時より兄のゲブと固く抱き合っていたが、父母であるシューとテフヌトに引き剥がされたことで世界が生まれた。
古代エジプトでは天空そのものであることから、ラーはヌトの股から生まれて(日の出)彼女の上を昼の船マンジェトに乗って渡り口に入り(日没)、夜の船メスケトに乗って彼女の胎内を渡った後に再び股から生まれるのを繰り返すとも考えられた。
この時にラーの船を漕ぐ従者はセト、或いはをトートだという。
どうやら非常に古い起源を持つ神格らしく、性別は逆転しているもののギリシャ神話のウラヌスや、バビロニア神話のティアマト、或いはウガリット神話のアナト等と共通する要素を持つ。

オシリス

役割:豊穣神/冥府の神/地上の神々の王
9柱神の一つ。アトゥムの曾孫。
ゲブとヌトの長兄であり王権を受け継ぐ資格を持っていたが弟のセトに謀殺されてバラバラにされて殺されるが、妹にして妻のイシスにより復活させられ、息子のホルスにより復讐が果たされる。
……しかし、死んだことにより冥界に渡ることとなりそこで死者を裁く冥界の王となったという。

イシス

役割:聖母/地母神/魔術の女神
9柱神の一つ。アトゥムの曾孫。
カノプス壺を守る4柱の女神の一つ。
オシリスの妹であり正妻。
オシリス神話に於ける前半の主役であり、セトに謀殺された後に死体をバラバラにされたオシリスの肉体を集めて不完全ながら復活させて交わり、小ホルスを生んだ。
オシリスと同様に彼の配偶神としてエジプトに入り込んだ部族により持ち込まれた外来神であったと見られており、元はメソポタミア神話系統の大地母神だったとも考えられている。
名の意味は玉座であるともされ、主神の王配となる女神のエジプトでの名であったとの考察もある。

セト

役割:戦乱の神/砂漠の神/嵐の神
9柱神の一つ。アトゥムの曾孫。
オシリスとイシスの弟。
または、単にラーの息子とされていた頃もある。
オシリス神話に於いては、嫉妬により王権を引き継いだ兄オシリスを謀殺し、小ホルスに復讐される悪役として描かれている。
獣の姿を持つことから、元から古代エジプトに存在していた神性だったと考えられているが、戦闘神として争いに於いては戦勝を祈願する対象であったためか、農耕民族が増えて一つ地にて定住する部族が増えたことで争いの機会が減っていった下エジプトでは人気を失っていき、それとは反対に下エジプトにて信仰が高まっていった豊穣神であるオシリスとイシス神話では悪役扱いになったと考えられている。
それでも、第15王朝を支配した異民族のヒクソスは勇猛なセトを自分達の元々の主神であるバアルと同一視して信仰したのだが、その支配が解かれた後にはエジプト人達は恨みも込めてかセトをバアル神ではなくヘブライにより悪魔化された魔王バエルと同一視して蔑んだり、はてまた嵐の神であることからセトをギリシャ神話最強の怪物テュポンとも同一視したという。
更には、元々はラーの息子にしてラーの従者として昼と夜の船の漕ぎ手を務め、ラーを呑み込まんとするアポピス(日食の意)から守護するとされていたのに、悪名の高まりから正反対にもアポピスと同一視されるようにもなった。
誕生の際に母親の脇腹を食い破って生まれたとされる等、蛇のような説話が増やされたり、現代のゲームやアニメで蛇みたいなイメージが付けられてるのはそのせい。

●ネフティス

役割:葬祭の神
9柱神の一つ。アトゥムの曾孫。
カノプス壺*3を守る4柱の女神の一つ。
オシリス、イシス、セトの妹。
次兄セトの正妻だが、不義により長兄オシリスとの間にアヌビスを生んだ。
その後、オシリスがセトにより殺されてバラバラにされた後にはイシスに協力してオシリスの復活に手を貸している。
玉座を意味するイシスに対して、玉座を受け継いだ者の住む城を意味するとも考えられており、元々は一つの女神だった可能性もある。

アヌビス

役割:ミイラ作りの神/死神/死者の守護者
ジャッカル(或いはオオカミやその他のイヌ科の動物)の頭部を持ち、ラーの天秤を用いて死者の悪行を計る神として非常に有名。
ここで高潔と判断された魂は転生が叶い、現世に戻されることになる。
獣の頭部をしていることからも解るように、元々はアヌビス自身が非常に古い起源を持つ古代エジプトの冥府の神であったとも考えられるが、オシリス神話が完成されるとその中に組み込まれ、オシリスの息子として、冥府の神となったオシリスに仕える神として描かれるようになった。

●マアト

役割:正義/審判
正義を司る女神。
ラーの娘。また、ラーやトートの代行者とされた。
頭にダチョウの羽根を飾った姿で描かれるが、人面鳥身や鳥類の翼を持つ女神と解釈されることもある。
オシリス神話では、アヌビス同様にホルスによる復讐を見届けた後に冥界に渡るオシリスに同行し、アヌビスと共に死者の魂を計る役目を請け負うようになったと伝えられる。
アヌビスが死者の魂と共にラーの天秤に乗せるのはマアトの羽根であり、羽根より重い場合には罪人として扱われアメミットに心臓を食われた後に、転生が叶うまで罰が与えられた。

●アメミット

役割:罪人の心臓を食らう
アヌビスの裁きに同行する、鰐の頭と獅子の上半身と河馬の下半身を持つ獣
罪人と判断された者の心臓を食らう。

●メジェド

役割:???
いや、誰やねん*4

●セベク

役割:軍神/水神/豊穣伸/鰐の神
ナイル川に依存して生きる古代エジプト人が畏怖していた鰐を神格化した神。
マイナーながら一部の創生神話に於いては主神を務め、オシリス神話の中にも含まれる場合もある。
彼の母は同じく軍神として信仰されるネイトであり、彼女はギリシャ神話ではアテナと同一視される。

●ネイト

役割:軍神/鰐の乳母
セベクの母神。
カノプス壺を守る4柱の女神の一つ。

●セルケト

役割:蠍の女神
蛇や鰐と共に古代エジプトで恐れられた毒蠍の神格化
カノプス壺を守る4柱の女神の一つ。

●トート(ジェフティ)/トト(ジェフゥティ)

役割:月神/知恵の神/時の神/創造神
ヘルモポリス神話の主神。
獣の頭を持つことからも解るように、エジプトにて非常に古い起源を持つとされる神性。
ヒエログリフはトートによって生み出されたと伝えられており、即ち文字の創造者にして記録(書紀)の守護者である。
ヘルモポリス神話に於いては主神とされ、世界を生み出しては眠りにつく8柱神を目覚めさせる役目を持つとされた。
ヘリオポリス神話に組み込まれた後には、月の神であることから太陽であるラーの補佐とされ、共に昼と夜の船に乗って、ヌトの上と胎内を旅するとも伝えられる。
また、文字=言葉に関連しているということで魔術も司り、イシスの師匠となったとする神話もある。
姿は朱鷺(トキ)そのもの*5か、その頭部を持つ男神か、狒々(ヒヒ)の姿で具像化される。
神秘学上ではギリシャ神話のヘルメスと同一視されて習合し、空想上の賢人ヘルメス・トリスメギストスとなった。

●プタハ

役割:鍛冶神/創造神
メンフィス神話の主神。
元々は古い起源を持つ神という説もあるが、詳細は不明。
古代エジプト由来ながら人型で現され、その姿はミイラの原型ともなったと伝えられている。
世界を意志と言葉の力で生み出したとされるが、メンフィス神話は独自性というよりは、ヘリオポリス神話を自分達の都合のいいように解釈するという方法での基盤の築き方*6であった為にヘルモポリス神話のように一部が残ることもなく廃れていった。
ヘリオポリス神話に組み込まれた後は万物を生み出した鍛冶神としての信仰を集めた。

●ハトホル

役割:乳母神/天空神/愛と美の女神
牝牛の角を戴く美しい女神
頭に角を戴いていることからも解るようにメソポタミア神話の金星の女神=イナンナやイシュタルと同系統、或いは彼女達がエジプトに入り込んでから後の姿であると考えられており、即ちギリシャ神話のアフロディーテ、ローマ神話のヴィーナスとも同一の起源を持つ女神である。
イシス、セクメトと同一視される。
古代では大ホルスの王配(后)だった考察されるが、その役目を失う。
一方、その名残からか小ホルスの乳母とする神話も残る。

●セクメト

役割:血と殺戮の女神
獅子の頭を持つ女神。
プタハの配偶神で、メンフィス神話では大女神だが、ヘリオポリス神話ではイシスやハトホルと習合し、特にハトホルが怒りにより変身したという、ギリシャの月の三女神の三相やインド神話のパールヴァティとドゥルガー、カーリーとの関係のような扱いをされてしまっている。

●バステト

役割:猫の守護者/家庭の守護者
古代エジプト人が愛玩目的で家畜として以来、人に飼われて生きることを覚えたぬこ様達の守護者
一応、ぬこは家庭への災いを避けてくれてるらしいのでみんな飼おう。
そのまま猫の頭部を持つ女神として有名。
元々は上記のセクメトと同一視された獅子の頭を持つ戦闘神であったようなのだが、バステトはぬこの頭を持つ穏やかな女神とされて家庭の守護者となった。
……何故かクトゥルフ神話では異常に邪悪な存在として取り込まれてしまっていることで有名。
セクメトさんと勘違いされてるのではないだろうか?

●アペプ/アポピス

役割:混沌/闇/日食の化身
古代エジプト人が畏れた毒蛇を神格化した存在であり、単一の神や悪魔というよりは負の概念そのものであり、黒くて巨大な大蛇の姿で現される。
一説によれば、最初に原初の水より生まれ出でた太陽神であったが、その役割をラーに奪われたが故に彼を憎み、ラーが昼の船に乗っている所に襲いかかり呑み込もうとするのだと考えられた。
毒蛇をも食らう獣がモチーフだったのか、元々は共に昼の船に乗り込むセトには敵わずに撃退されるとされていたのだが、前述の通りで後にはセトの悪名が高まりすぎてアポピスと同一視されるようになってしまった。
また、ラーを守るのはメヘンと呼ばれる、同じく蛇の姿をした神か生物とされる場合もあり、メヘンは自らの尾を咥えて円環を作りその内にラーを収めてアポピスから守る。
このメヘンの姿がフェニキアを経て古代ギリシャに伝わり“ウロボロス”の名を与えられたという。

アメン・ラー

役割:至高神/宇宙の創造神/神々の王
エジプト神話の主神。
第12王朝の樹立と共に誕生した、世界どころか宇宙の創造神
ラーの威光を他の神々との習合ではなく、太陽の放つ生命の力そのものを具現化した男神として現したと云える存在であり、現人神であるが故に人としては死ぬ地上のファラオに対して、天空に於ける神であり不滅のファラオ
ラーと同じく神々の王でもあるが、アメン・ラー>>他の神々という関係性であり、単独でも存在が成立してしまっている。
古代ローマ人も自分達の主神ユピテルとアメン・ラーを同一視した。
存在すること自体が信仰となるためにラーにすら存在していた諸々の誕生神話や、他の神々との血縁関係などは設定されていなかったのだが、後にエジプト特有の信仰形態に併せるためにムトを妻、コンスを子として三柱神として祀る形式も取られるようになった。

●アテン/アトン

役割:唯一神()/創造神()
↑……と、言う訳で高まり続けるアメン・ラー信仰と神官団の権威を嫌った第18王朝を引き継いだアメンホテプⅣ世が自身の治世の際にアメンに代わって信仰を強要した(アマルナ革命テーベのマイナー神。アメンホテプⅣ世も自身を「アトンを歓ばせる者」を意味するアクエンアテン(イクナートン)と改名した。
姿はラーと同様に太陽の円環そのものだが光線が手の形になっていて何か気持ち悪い。
世界最古の唯一神と語られることが多いものの、寧ろ現代の唯一神教に近いのは本来の信仰の場でのギリシャのゼウス信仰や、それこそアメン・ラー信仰のが近く、現在の研究ではアテン信仰は寧ろ拝一神教(既存の信仰を排斥して新たな信仰を強制する)か単一神教(他にも神が居るのは分かるが単一の神のみを信仰する)と呼ぶ方が正確であるとの意見もある。
尚、唐突に持ち出されたイメージがあるが、実際には先代のアメンホテプⅢ世の頃よりアメン・ラー信仰の高まりからか太陽神信仰が高まっていた中で名前が挙がっていたので利用したものだったらしい。
尚、そこまでしてゴリ押したものの人気はやっぱり出なかったらしく(ファラオが名前まで変えたのに……)、後には結局はラーと習合させて延命を図った(アテン・ラー)が上手くいかず、次のファラオの代には廃れてただの太陽神(太陽の一側面、作用の一つの神格化)に戻った。尚、アテン信仰を取り止めたのはアクエンアテンの息子であるトゥトアンクアメン、かのツタンカーメンである。(まぁ、それも神官団の言いなりだった説が強いが。)
そして、アテンと言えば前述の通りエジプトで虜囚となっていたユダヤ人の信仰する四文字様の原型なのでは?とする説が有名になっていた訳だが、上述の通りで少し微妙な言説となりつつあるようだ。尚、この説を言い出したのはかのジグムント・フロイトである。

【ヒエログリフ】

日本では聖刻文字と訳される古代エジプトの象形文字。

【ミイラ】

古代エジプトに於いては、死者の魂は一度は冥界に渡るが、裁きを受けた後に何時しか地上に帰ってくると信じられており、その器となる肉体の保存方法として遺体をミイラとして処理して保存していた。
元々はファラオの遺体を保存する為に始まったが、後には民間にまで膾炙し、遂にはペットや家畜のミイラまで作られていたことが確認されている。
尚、やっぱりというかファラオや特権階級の遺体処理は丹念に行なわれていたものの、庶民の遺体はぞんざいに扱われていたらしい。
かの有名な『死者の書』は、題名だけ聞くと仰々しいが、実際には厳しい冥界の裁きを上手く切り抜けるためのハウツー本というのが実態だったりする。


【題材として用いた作品の例】

遊戯王

連載が進むにつれ、作中の世界観や背景設定にエジプト神話が大きく関わる作品となった。
全ての発端である千年アイテムがエジプト王家の遺品であり、作中にはエジプト神話を由来とする主要登場人物や固有名詞が数多く登場する。
主人公が最も愛用する「神のカード」がオシリス、主人公と対立する悪役(後にライバル)の名前が「瀬人(セト)」といった神話に由来する要素も。

遊戯王オフィシャルカードゲームオリジナルカードにも、エニアドに由来する聖刻、オグドアドに因む溟界といったカード群が存在する。
初期は「GOD」という表現を海外版表記では使用できず他の単語で代用されて来たが、近年では原作の「神のカード(三幻神)」に対応する用語として「Egyptian God(エジプトの神)」をカード名に使用する例も現れ始めた。

ジョジョの奇妙な冒険

第3部「スターダストクルセイダース」の後半はエジプトが舞台となっており、登場する「エジプト9栄神」たちのスタンド名はエジプト神話の神から名前を付けられている。

●女神転生シリーズ

いつもの。
シリーズ全体として、悪神であるセトは強敵、それ以外はアヌビス・イシス・トートなどがレベル高めで光属性を比較的得意とする傾向にある。特にセトは原典の西谷史の小説において二匹目のボスで、真・女神転生Ⅱでもサタンセト起源説を採用しているなど存在感が大きい。また真・女神転生if...の裏シナリオとも言えるアキラルートはシュメールの神々VSエジプトの神々という構図を持つ。
また、アヌビスはペルソナシリーズでは審判アルカナ最初の1体として登場することが多め。最初の1体、つまりアルカナの中で最弱ながらレベルが中堅クラスで、光・闇属性双方を得意とする。

ONE PIECE

エジプトがモチーフのアラバスタ王国という国家が登場しており、王家が「ネフェルタリ家」、その守護獣が隼とジャッカルといったエジプト神話を下敷きとする要素が散見される。

ZONE OF THE ENDERS

主人公機ジェフティを始め、主要登場兵器の多くにエジプト神話の神々の名前が引用されている。
多くは命名のソースというだけだが、ジェフティの兄弟機アヌビスは「黒と鈍い金が主体のカラーリング」「前方に長く突き出た頭部と、細長い二本のアンテナ」という正にアヌビスを彷彿とさせるデザインになっている。

ナイトミュージアム

博物館の展示物たちに命を与えるキーアイテムとして古代エジプトのファラオ、アクメンラー(本作のオリジナル人物)が持つ黄金の石板が登場する他、
展示物の一種であるアヌビスの像はアクメンラーに忠実であったり、続編ではアクメンラーの兄、カームンラーが石板の力でホルスの姿をした冥界の軍勢を召喚するといった形でエジプト神話が物語に関わって来る。

鬼灯の冷徹

主人公の鬼灯がアヌビスと交流するエピソードがたびたび登場しており、獄卒運動会のスペシャルゲストに彼と彼の同僚のスカラベが招かれた。
また鬼灯とシロがアヌビスと一緒に五官庁を訪問したり、映像化されていないが…鬼灯がエジプト旅行に行くエピソードでアヌビスやトトとの邂逅が描かれている。
そして宋帝庁の動物獄卒・漢が自身のご先祖様がバステトに仕えていたという噂を聞き、噂の真相を確かめようとするエピソードも存在している。


●新ガンダムフォース グレートパンクラチオン

ハリウッド映画的世界観を繰り広げてきたコマンド戦記の第4部。
天空神ホルスガンダムと太陽神ダークアトンが敵味方陣営のトップとして登場。
ダークアトンは光背をコブラとして頭上に立て角を開いて黒幕プロメウスドラゴンに精神を侵され暗黒超神へと悪堕ち。
ホルスガンダムはダークアトンを倒し聖神アモン・ラー・ガンダムへと転生する。玩具ではホルスガンダムにダークアトンのパーツを取り付けて再現可能。
なお残りパーツでみんなヤツにもってかれちった邪闘神ダークアトンが作れるが、設定で語られていないのでいまいち謎の存在となっている。


追記修正は裁きを受けた後に心臓が無事だった方のみお願いします。

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最終更新:2025年04月18日 02:23

*1 勿論、信仰の萌芽自体は更に記録にも残されていない程に古くから存在していた。

*2 フンコロガシ。丸めた糞を運ぶ姿が太陽の運行と重ねられた。

*3 ミイラ作りの際に取り除かれた内臓を保存するための壺。

*4 『死者の書』に描かれているオシリスファミリーの一人……か、その化身。インパクト十分の姿からネット上では妙な人気がある上に“打ち倒す者”の異名から似たような異名のあったアメン説が出されるなど後付け設定モリモリだが原典ではそんなことはない。心臓を食らう設定もアメミットのものであり、原典では全く記述も匂わせも存在しない。

*5 トキはトキでも、薄い朱色の羽が特徴的なトキでなく、アフリカに生息する、黒い顔が特徴のアフリカクロトキである。

*6 「アトゥムが世界を創造した……それはプタハが思考したことで起こったんだよ!」→「な、なんだってー!!」……みたいな感じ。そりゃあ怒られるて。