モササウルス科(古代生物)

登録日:2016/01/27(水) 12:54:08
更新日:2024/11/06 Wed 09:25:20
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爬虫類の時代とも称される、恐怖とロマン溢れる中生代。

陸上は恐竜やワニが生態系の上位を支配し、空には皮膜を広げた翼竜や空に進出した恐竜である鳥たちが悠々と舞う時代であった。
そして海の中も例外ではなく、イルカそっくりの姿をした魚竜、長い首や巨大な顔で獲物を逃がさない首長竜、彼らに負けじと繁栄を続けた海生ワニなど、多種多様な動物たちが繁栄をしていた。

そんな中生代の終わり頃、海の中に新たなメンバーが加わった。
その名は「モササウルス科(Mosasauridae)」。海を縦横無尽に泳ぎまわり、どんな動物も餌食にしてしまう獰猛なハンターたちであった。

この項目では、中生代のラストを飾った海の「猛者」、モササウルスと仲間たちについて解説する。

【目次】


【概要】

まず最初に。今回取り上げるモササウルス科は、魚竜や首長竜と同様に恐竜とは関係ない動物である。
それどころか、モササウルスや仲間たちは「トカゲ」や「ヘビ」の仲間、『有鱗目』の一員なのである。

実はモササウルス科は分類上コモドオオトカゲやアシナシトカゲ、ドクトカゲなどが所属する「オオトカゲ上科」に分類されており、「海トカゲ」と呼ばれることもしばしばある。
また、骨格の構造や大きく開く口、獲物を丸呑みしていた事を示す化石から、現在のヘビと同じ先祖から進化したグループではないかと言う説もある。



海のトカゲと聞いてしょぼいと思った人もいるかもしれないが、モササウルスたちはただのトカゲではない。
その大きさは最小でも90cm、最大では18m前後と言う、トカゲやヘビの仲間では史上最大クラスなのである。
しかも非常に貪欲な肉食動物だった事が知られており、映画『ジュラシック・ワールド』での大活躍も記憶に新しい。
「海のギャング」と呼ぶにふさわしい存在だったのは間違いないだろう。

かつてはトカゲの仲間と言う事もあり、太い尻尾を持ち鰭を生やしたトカゲのような復元図で描かれる事が多かった。
しかし近年になり、保存状態の良い化石の尻尾部分に「尾鰭」があった事を示す証拠が発見されており、
現在はむしろイルカやシャチのようなスマートな姿で描かれる事が増えている。



<図1:かつての復元図(モササウルス)>
画像出典:『モササウルス』 - wikipedia - Dmitry Bogdanov - Originally from ru.wikipedia; description page is/was here.
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%82%B5%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%82%B9
2016年1月29日閲覧



<図2:現在主流になっている復元図(プラテカルプス)>
画像出典:『モササウルス科』 - wikipedia - Creator: Dmitry Bogdanov - dmitrchel@mail.ru
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%82%B5%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%82%B9%E7%A7%91
2016年1月29日閲覧


なお、魚竜や首長竜と同様にモササウルス科も卵を体の中で孵し成長した赤ちゃんを出産する「胎生(卵胎生)」である。
お体に触りますよ…

【研究の歴史】

モササウルスは、古代生物の研究の歴史においても重要な役割を持っている。

モササウルスの頭の化石がオランダにある鉱山の町・マーストリヒトで最初に見つかったのは1764年
「恐竜」という言葉が存在しないどころか、進化に関する論の事実上の祖であるアルフレッド・ウォレスや、「化石貴婦人」メアリー・アニングすら生まれていない頃である。
当時はそこまで重要視されていなかったが、知識人の間で「科学」を見直す動きが起こり始める中、1770年に2つ目の化石が発見され、大いに注目を集めた。
町の司教の礼拝所に飾られていた化石は、「マーストリヒトの怪物」と呼ばれていた。
その頃町は当時勃発したフランス革命戦争に巻き込まれてしまも、フランス軍の将軍はこの価値をよく理解しており、礼拝所に砲撃をしないよう命令したと言われている。
化石はフランス軍に持ち出され、首都パリへと移送された。
魚か、クジラではないか、ワニの頭じゃないかなど様々な仮説が出される中、いくつかの科学者はこの化石とトカゲが似ている事を発見した。
そして1808年、科学者ジョルジュ・キュヴィエが「マーストリヒトの怪物」は古代に生息していたトカゲに似た巨大生物である事を見抜いたのである。
その後、1829年にこの化石は、発見地を流れるマース川と、本種の研究に貢献したドイツの軍医ヨハン・ホフマンにちなみ「モササウルス・ホフマニイ(Mosasaurus hoffmanni)」と名づけられる事となる。



<図3:「モササウルス」と言う名が与えられた2つ目の化石>
画像出典:『モササウルス科』 - wikipedia - FunkMonk - 投稿者自身による作品
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%82%B5%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%82%B9%E7%A7%91
2016年1月29日閲覧


この大発見を機に古代生物への関心がさらに高まり、やがて「恐竜」へと繋がっていく。
そして、このモササウルスが生息していた白亜紀最後の年代は、後に「マーストリヒチアン(マーストリヒト期)」と呼ばれる事となる。

その後も現在に至るまで、モササウルス科の化石は世界中で見つかっている。
勿論日本も例外ではなく、かつて恐竜と勘違いされた「エゾミカサリュウ」が代表格である。
また、一部の標本からは骨格ばかりではなくザラザラした鱗の跡や心臓、肺など内部組織の跡、さらには皮膚のコラーゲンまで発見されている。
今後も続々と新事実が判明するかもしれない。

【進化の歴史】

モササウルス科が最初に現れたとされるのは白亜紀前期。
当時のモササウルス科は1mにも満たない(比較的)小さな姿で、鰭もまだ「足」に近い形状だった。
しかも当時の海はジュラ紀から引き続き繁栄を続ける首長竜や魚竜、海生ワニが隆盛を極めており、新参の彼らは弱い立場だったのである。
当時のモササウルス科は、大雑把に言えば現代のオオトカゲが少し海に適応した程度の生き物だった。


そんな彼らに転機が訪れたのは9200万年前。史上最大規模の海底火山の噴火を始めとした様々な要因で海の環境が激変。
海を支配していた首が短く頭が大きい首長竜や魚竜、海生ワニが姿を消してしまったのである。そう、彼らが担っていた生態系の地位が空白になったのだ。

この席を乗っ取るかのように、モササウルス科は一気に進化を始める。そのまま、あっと言う間に海の生態系の頂点に……はならなかった。
確かにティロサウルスなど超巨体の種類も現れてはいたのだが、当時の海には彼らと互角以上の力を持つ存在がいたのだ。
それが古代のサメ、クレトクシリナである。

現在のホオジロザメそっくりのフォルムを持つこのサメは、
多くの魚のみならず首長竜フタバスズキリュウや巨体を有するモササウルス科をも餌食にしていたと考えられており、
実際モササウルス科の小型種(それでも3mほどの全長だが)からはサメに噛まれた様な跡や何とか難を逃れた跡が見つかっている。
しかもその多くは、急所であるの近くにその跡が見つかっている。
白亜紀後期の海では、二大「海のギャング」がしのぎを削っていたのかもしれない。

だが8000万年前、そのクレトクシリナは何故か絶滅。
そしてこれと歩調を合わせるかのように、モササウルス科は今度こそ一気に大繁栄を遂げ始めた。
当時のモササウルス科は海に関係するあらゆる動物を餌にしていた事が知られており、
魚は勿論、海鳥やサメ、首長竜、さらには自分より小型のモササウルス科まで丸呑みしていた
硬い殻や甲羅で身を守っていたアンモナイトや海亀、貝も容赦なく狙われており、
頑丈な歯を持つモササウルス科の仲間によって噛み砕かれ、腹に収まってしまったのである。
大きさもさらに増し、10mを超える種類も次々に現れている。さらに生息域も一気に広がり、世界のあらゆる海でモササウルス科の姿を見るほどだったという。

白亜紀の終わり頃にもさらに新たな進化の動きを見せ始めたモササウルスだが、タイミング的には遅かったかもしれない。
6550万年前に起きた大絶滅に、恐竜やアンモナイト、翼竜、古代の鳥などと共に巻き込まれたモササウルス科は、なす術なく絶滅してしまったのだから。

【主な種類】

※アイギアロサウルス・ダルマティクス(Aigialosaurus dalmaticus)

分類:アイギアロサウルス科
生息場所:ヨーロッパ
生息年代:白亜紀前期
モササウルス科の先祖に近い動物とされる、海に適応したトカゲの仲間。
細長い体つきに鰭を生やした脚を持ち、当時大半が海だったヨーロッパに生息していた。

正確にはモササウルス科ではないが、関係が深い動物なのでここで紹介。

◇ダラサウルス・ターネリ(Dallasaurus turneri)

分類:モササウルス亜科
生息場所:北アメリカ
生息年代:白亜紀前期
モササウルス科の中で最も古い時代の地層から発見された種類。
まだ手足は完全な鰭になっておらず、大きさも1m足らずと「海のギャング」にはまだ遠い下っ端のような姿だった。

◇クリダステス・プロフィソン(Clidastes propython)

分類:モササウルス亜科
生息場所:北アメリカ
生息年代:白亜紀後期
大型化を始めた最初の頃のモササウルス亜科で、全長3mと(モササウルス科にしては)小型の種類。
そのため、大型のティロサウルスや古代ザメ・クレトクシリナの餌食にされる事もしばしばだった。

◇プロトサウルス・ベニッソニ(Plotosaurus bennisoni)

分類:モササウルス亜科
生息場所:北アメリカ
生息年代:白亜紀後期
スマートな体つきをした種類。
尾鰭も含め、その姿は原始的な魚竜にそっくりだったらしい。

◇モササウルス(Mosasaurus)

分類:モササウルス亜科
生息場所:北アメリカ、ヨーロッパ、日本など
生息年代:白亜紀後期
モササウルス科の代表格。世界中で多数の化石が見つかっており、大きさも最大18mクラスとかなり巨大。
鋭い歯で獲物を捕らえ、硬いアンモナイトも容赦なく食べてしまった。また体に怪我を負った化石も多く、日々争いが耐えなかったらしい。
海のギャングも大変なのである。

ジュラシック・ワールド』にも登場。恐竜たちに比べて出番は少ないが(色々な意味で)非常に美味しい役を勝ち取っている。
また、銀河の彼方に有る惑星Ziにもモササウルスとよく似た人造ゾイドが存在するらしい。
最近では『騎士竜戦隊リュウソウジャー』の騎士竜モサレックスとリュウソウゴールドのモデルにもなった。

◇グロビデンス・アラバマエンシス(Globidens alabamaensis)

分類:モササウルス亜科
生息場所:北アメリカ
生息年代:白亜紀後期
何か格好いい名前の種類だが、それより重要なのは歯の構造。多くの種類のように鋭くなく、まるでキノコのように丸っこい形状なのである。
この変わった歯を活かし、グロビデンスは二枚貝の堅い貝殻を容赦なく砕き、殻ごと食べてしまったとされている。

◇プログナトドン(Prognathodon)

分類:モササウルス亜科
生息場所:北アメリカ
生息年代:白亜紀後期
強靭な顎や丸みを帯びた歯を持つ種類。
こちらもその頑丈さを活かして海亀やアンモナイトを襲っており、歯の跡がくっきりと残っているアンモナイトの殻の化石や胃の中で消化されたウミガメの成れの果ても見つかっている。

◇メガプテリギウス・ワカヤマエンシス(Megapterygius wakayamaensis)

分類:モササウルス亜科
生息場所:日本
生息年代:白亜紀後期
2006年に和歌山県で発見された化石を基に、2023年に新種として発表された種類。和名は「ワカヤマソウリュウ(和歌山滄竜)」。
尾椎は未発見なので尾の形は不明だが、それ以外はほぼ全身の骨が残っており、その研究の中で背中に「背びれ」があった可能性が指摘されている。
また、発見された頭部の化石は比較的小さく、主に素早い小魚を主食にしていたのではないか、と考えられている。

◇ティロサウルス(Tylosaurus)

分類:ティロサウルス亜科
生息場所:世界各地
生息年代:白亜紀後期
モササウルスが大型化を始めた最初の時代に現れた、最大15mと言う超巨大な種類。古代ザメ・クレトクシリナも流石にティロサウルスには敵わなかったらしい。
上の顎が非常に硬く、これを利用して獲物を突いたり他の個体と喧嘩(縄張りや餌をめぶっての争い)していたとされている。海のギャングに仁義は無い。
日本を含んだ世界中で化石が見つかっている。

◇タニファサウルス(Taniwhasaurus)

分類:ティロサウルス亜科
生息場所:南半球、日本など
生息年代:白亜紀後期
ティロサウルスの仲間。
主に南半球で化石が発見されているが、日本でも北海道・三笠で確認されている。
ただ、この三笠で発見された化石は「恐竜」のものとされていた過去があり…。

詳細は「エゾミカサリュウ」の項目を参照。

◇フォスフォロサウルス・ポンペテレガンス(Phosphorosaurus ponpetelegans)

分類:ハリサウルス亜科
生息場所:日本、ヨーロッパなど
生息年代:白亜紀後期
大きさは3mとモササウルス科の中では小型の種類。
眼が大きく、夜行性で主に魚やイカなどを食べていたと考えられている。
当時の日本の海には大型のモササウルスや首長竜の一種が多数生息していたため、夜に活動することで彼らとの生存競争を避けていたのだろう。

◇プラテカルプス(Platecarpus)

分類:プリオプラカテカルプス亜科
生息場所:世界各地
生息年代:白亜紀後期
古代ザメ・クレトクシリナと同年代に生きた種類で、大きさも最大6mとほぼ互角。
全身骨格が発見されており、その研究から「モササウルス科に尾鰭があった」「クジラに似たフォルムの肋骨を有していた」など様々な新事実が明らかになっている。
また、深海に潜る事も可能だったらしい。

カルピスではない。

【余談】

モササウルス科が絶滅した現在、トカゲやヘビの仲間のほとんどは陸上、もしくは川や湖に近い場所に暮らしているが、
ウミイグアナやウミヘビの仲間など僅かながら海で暮らす種類が存在している。

長崎県にあるテーマパーク、ハウステンボスにはモササウルスに襲われる気分を味わえるアトラクションが存在している(2021年12月現在)。



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最終更新:2024年11月06日 09:25
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