■正体
なんと、なんと、なんと!大逆転裁判2のラスボスにして『大逆転裁判シリーズ』全体における黒幕であった!!知 っ て た。
そしてバンジークスに纏わりつく呪いこと「死神」を取り仕切っていた。
何かしらの形で対峙することになると予感したプレイヤーも多かったが、まさかの裁判長との対決という展開であり、シリーズ初となる「裁判長がラスボス」という地位を得た。
■暗躍と末路
バンジークスの裁判において無罪となった被告人を彼が
グレグソンらに命じて次々と殺害させ、大英帝国における架空の「死神の伝説」を創り上げていた。
そして10年前、”プロフェッサー”の真の正体ことバロックの兄、クリムト・バンジークスの犯行をいち早く見抜くことに成功し、
それを脅迫材料にして自身の邪魔になる人間を殺害させていた
「プロフェッサー事件」における黒幕でもある。
さらに、同じくクリムトの犯行に辿り着いていた亜双義玄真を、複数の捜査関係者を巻き込んでの脅迫や取引の末に、その罪を全て着せて”プロフェッサー”に仕立て上げた。
この際、死刑判決を受けた玄真を秘密裏に脱獄させることで、クリムトが書き残し玄真に託していた「ヴォルテックスの所業が全て書き記された文書」を受け取る手筈になっていたが、
運悪く脱獄現場を目撃してしまった人物がいたため、止むを得ず脱獄の協力者だった
日本の現外務大臣こと
慈獄政士郎に命じて玄真を射殺させた。
これだけでも外道の極みではあるが、そこからさらに今度は司法長官の座を狙うため、自身の過去を知る当時の協力者を抹殺しようと
交換留学にかこつけた交換殺人を計画。
英国からは
ジェゼール・ブレットことアン・サッシャーを送り込みジョン・H・ワトソン教授を殺害させ、日本からは
亜双義一真を刺客として招きグレグソンを殺害させようとした。
一真が道中で事件に巻き込まれたことで頓挫しかけるが、その後
記憶喪失となっていた一真を正体を見抜いた上で検事局に迎え入れ、記憶を取り戻させたのち
暗殺に向かわせた。
尤も、一真自身は端から暗殺を実行するつもりは皆無であったため、彼の命令無視によって代わりに
他の人物が暗殺を遂げることとなったが。
「犯罪への抑止力としての死神」を謳っていた彼だが、その戦うべき犯罪者以上の外道という正体を見抜かれたことで、ついに龍ノ介達と法廷で対決。
初めは優勢だったものの、徐々に自身の計画が明るみに出始め、最後には唯一にして最大の
弱点ともいえるクリムトの遺書が発見されてしまったことで全てが露呈した。
それでもしぶとく食い下がり、今度は極秘裁判の傍聴に訪れていた司法関係者に呼びかけることで、
自分の犯罪の正当性を訴えて味方につけようとした。
この頃には余裕たっぷりだった当初の態度から一転、
「直接は何もしていない」ことを理由に開き直りとも言える呆れた理論を振りかざすなど、
もはや自分を守ることにしか固執していない醜悪な姿を晒している。
しかしこれまでの犯罪行為を敢えて認めた上に、そうした無様な姿を見せたことが仇となった。
閉廷の寸前、なんと大探偵
シャーロック・ホームズがそれまでの裁判の様子を全て大英帝国の女王陛下に生中継していたことが判明。
大英帝国に巣食う死神の正体が知られてしまったことで、直々に女王陛下から
「与えられた権限を永久に抹消すると共に、後日公開裁判にてその罪を裁く」というお達しを受け、
これまで積み上げてきた自分を守る盾が全て消えてしまった。
‥‥ハート・ヴォルテックス卿。
あなたが、この10年間
隠れていた"闇"は、もう存在しない。
‥‥今度こそ。
あなたは、もう《首席判事》ではない。
司法に関わる"未来"もない。
女王陛下の名のもと、法によって
正当に裁かれる《罪人》なのです!
全てを失った男についていく者などもう誰もいない。極秘裁判であるがゆえに、訴えかけるべき陪審員もいない。
とうとう追い詰められ、龍ノ介からの一喝から逃げるように閉廷を宣言するも意味をなさない。
‥‥閉廷! ‥‥閉廷! ‥‥閉廷!
‥‥閉廷! ‥‥閉廷!
あああああああああああああああああ
ああああああああああああああああッ!
力任せに叩きつけたことで、裁判長の命ともいうべき木槌替わりの杖すら折れてしまった。
杖のように折れたヴォルテックスは失意のうちに倒れ、裁判長席から裁きの庭へと転がり落ちていく。
すると落下した衝撃で陪審員席のシステムが発動し、先刻に慈獄の有罪判決で傾いていた天秤に更に火炎弾が撃ち込まれた。
まるで「計り(秤)しれないほどの重い罪」と言わんばかりに、天秤は限界を迎え崩壊。直剣のようになった秤は、台座から離れてヴォルテックスの方へ倒れていく。
有罪を告げる黒い秤が彼の真後ろまで到達した直後、その罪を示すかのように普通に大事故レベルの爆炎が噴き出す。これまでの闇を、中央裁判所ごと全て焼き尽くすかのように。
そしてヴォルテックスは、業火の中で身を焦がしながら慟哭するのだった。
その姿は、かつて自身が語っていた「犯罪者たちを法の業火で焼き尽くす」という言葉を自らの身で成し遂げたという皮肉な結果ともいえる。
おおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおッ!
このブレイクモーションは、現時点で逆転シリーズ史上最もド派手な演出にして彼の一挙一動に意味が感じられる、まさに大逆転裁判のフィナーレに相応しいものとなっている。
最後には、黒焦げになった姿で己の所業を証言台で細々と口にするなどとことん堕ちた姿を晒し、大英帝国を覆っていた闇は彼の失脚と共に姿を消したのだった。
その後は、英国警察の手で逮捕されたものと思われる。
果たして両国の司法の未来はどうなるのか。
それは真実から目を逸らさずにこの裁判に立ち会った成歩堂龍ノ介、亜双義一真、御琴羽寿沙都、バロック・バンジークス、ジーナ・レストレード、マリア・グーロイネらに掛かっている。
彼らの本当の戦いは、これからなのだ――――。
面倒な奴ばっか残った英国側が詰んでる?頑張れバンジークス卿!
■評価
上記の国際問題にも十分発展し得るほどの大犯罪を、自らの手は汚さず全て他人に犯させているのが特徴。
この卑劣漢に対し、作中でも龍ノ介がその本性を「ここまでくると人を操る天才だ」と侮蔑交じりに評している。
ちなみに内心は龍ノ介ら日本人も見下していたようであり、裁判の際にはそうした本音がセリフの端々に見受けられる。選択肢を間違えた時が尤も顕著だろう。
何故、現状の地位に甘んじることなくこれほどの大立ち回りをしたのかという動機については、
曰く「闇と戦うためには闇が必要」で、すべては自身が権力を握ることで犯罪と戦うことを目的とするものだと語る。
手段は兎も角、彼の謀略と暗躍によって大英帝国における犯罪発生件数が大いに低下していたことは事実であり、
歪んだ野心や愛国心が背景にあったとは言え、法の黎明期において法治国家のシステムを全うさせようとした意志そのものは、純粋な情熱だったと言えなくもない。
…尤も、その最初の一歩が自分の出世の障害である何ら瑕疵のない高潔な首席判事を、弱みを握った人物を脅迫することで殺害させるというものなので、
同情の余地は極めて薄く、やはりヴォルテックス個人については全く汲むべき事情のない極悪人と言える。
そもそも彼が「死神の呪い」に頼り続けたことも、裏を返せば「真っ当な手段では犯罪を抑止できない」という敗北宣言のようなものであり、
他ならない彼が、自身と自身が信じるはずの大英帝国の無力を証明してしまっているとも言える。
また、本編後は彼が裁判で危惧していたように大英帝国民に司法の瓦解が知れ渡ることとなり、混乱や治安の悪化はほぼ避けられないわけだが、
これについても元々「死神」のシステムを未来永劫維持するのは不可能に近いことを考えれば、彼が真に司法の未来を憂えていたかどうかには疑問が残る。
結局のところ、彼の理想は致命的に画竜点睛に欠いていた。
何故ならば、弱みに付け込んで脅迫し、権力を振るって人々に犯罪を強要し、都合が悪い証拠は握り潰す、英国でも指折りの大犯罪者を平然と野放しにしていたのだから。
その悪党の名は、ハート・ヴォルテックス。そう、彼自身である。
正義を名乗って人を殺していいならそれは法ではなく単なる私刑である。
最高の司法を謳うなら、遅くとも罪を暴かれた時点でそれを受け止め、大人しく裁きを受けるべきだったが、彼はそれを拒絶し、見苦しく民衆と法を盾に身の安全を図ろうとした。
これは、彼が犯罪撲滅のために目指した弱者救済のシステムが、外道が中心に居座りどれほどの犯罪も都合次第でもみ消せてしまう悪魔のシステムへと変貌を遂げていたことの証明である。
紛う事無き外道だったヴォルテックスではあるが、論戦はシリーズでも弱い部類で、番外戦術の方が印象に残りやすい。
打倒時のカタルシスこそ申し分ないが、プレイヤー目線で真に「強大なラスボス」だったかというと疑問の声もちらほら。
掲げる「犯罪の抑止」という大義の割に、作中における実際の行動は「出世」と「保身」を目的とするものばかりで、
人心掌握術…というか相手を自分に都合の良い方に誘導する能力には長けるものの、その手口も基本的には優位な立場からの交渉・命令・脅迫が殆ど。
10年もの間彼が思うままに動けていたのは、協力者かつ実働部隊であるグレグソンやコートニー・シスらの優秀さに助けられていた部分が大きい。
事実上先に切り捨てられた慈獄についても、最後の瞬間まで自分の背後にいるヴォルテックスの存在を明かさなかったが、
それも忠誠心による行動というよりは、更なる過去の罪(=玄馬の殺害)まで暴かれることを恐れた故だと考える方が自然。
上述したように、作中で「
同情によって罪を隠そうとする」でも「
権力によって罪を揉み消そうとする」でもなく、
「罪を暴かれながらも民意によってそれを許させようとする」という、ある意味究極の戦法を披露しているが、
これにより一度は完全に司法関係者を味方につけることに成功したものの、最後には女王陛下に一蹴されてしまった。
■余談
様々な要素からシリーズ歴代ラスボスの集大成とも言われている。
名前を英語に変換して日本語に再翻訳するとheartは「心」、voltexは「渦」。
voltexは直訳通り渦巻きを指す他に、何かを混ぜる・撹拌する機械や手段を指す意味としても使われるので、
それを汲んで意訳すると「心を掻き乱す人」となり、あとから見返すと名前がもうネタバレだったという声も。
海外版における名前は『Mael Stronghart』。
おそらく巨大な渦巻きを意味する「maelstrom(メイルストロム)」と「strong heart」を組み合わせて捩ったと思われ、日本版の名前を大きく崩さず翻訳されている。
打ち倒すべき巨悪ではあるが、主人公・龍之介にとっては恩人とも言える存在でもあるという面白い立場の人物でもある。
死んだ亜双義の代わりに弁護士になるという無茶な主張を(亜双義の任務を引き継いだと勘違いしたとは言え)認め、そのキャリアをスタートさせることを許したのは紛れもない彼である。
さらにその後、1-5話において龍之介陣営が違法行為を含む大英帝国を敵に回しかねない行動をとった際も、強制送還ではなく一定期間の謹慎とレポート提出という寛大な措置で済ませている。
亜双義の任務を知らない只の留学生だと判明した以上、交換殺人のことを考えれば龍之介を大英帝国に置いておく意味はないのにもかかわらず、である。
オマケにそのレポートについても、忙しい時間の中でヴォルテックス本人が全て目を通していることが2-3話で分かる。
ヴォルテックスがそうした判断を下した理由は作中では明言されないが、腐っても彼もまた犯罪と戦う法曹人ではあり、
1-3・4話で大方の予想を覆して被告人の無罪を勝ち取り、1-5話では「権力に屈さず、時に手段すら選ばずに犯罪者と戦った(=真犯人を暴いた)」龍之介を、
自身の野望とはまた別に、純粋に弁護士として相応しい人間であると評価していたのかもしれない。
勿論、大方の思惑としては「任務を知らないならば、逆に計画の障害にもなり得ない」という慢心ないし無関心ではあったのだろうが、
ともあれ、自身が可能性を見出した龍之介にトドメを刺されることとなったのは、ある意味皮肉な結末とも言える。