なんと、なんと、なんと!大逆転裁判2のラスボスにして『大逆転裁判シリーズ』全体における黒幕であった!!知 っ て た。
そしてバンジークスに纏わりつく呪いこと「死神」の正体。
何かしらの形で対峙することになると予感したプレイヤーも多かったが、まさかの裁判長との対決という展開であり、シリーズ初となる「裁判長がラスボス」という地位を得た。
バンジークスの裁判において無罪となった被告人を彼が
グレグソンらに命じて次々と殺害させ、架空の「死神の伝説」を創り上げることで犯罪への抑止力にしようとしていた。
そして10年前、”プロフェッサー”の真の正体ことバロックの兄、クリムト・バンジークスの犯行をいち早く見抜くことに成功し、
それを脅迫材料にして自身の邪魔になる人間を殺害させていた
「プロフェッサー事件」における黒幕。(全5件の犯行のうち、2~4件目がヴォルテックスの指示によるもの。)
さらに、同じくクリムトの犯行に辿り着いていた亜双義玄真を、複数の捜査関係者を巻き込んでの脅迫や取引の末に、その罪を全て着せて”プロフェッサー”に仕立て上げた。
この際、死刑判決を受けた玄真を秘密裏に脱獄させることで、クリムトが書き残し玄真に託していた「ヴォルテックスの所業が全て書き記された文書」を受け取る手筈になっていたが、
運悪く脱獄現場を目撃してしまった人物がいたため、止むを得ず脱獄の協力者だった
日本の現外務大臣こと
慈獄政士郎に命じて玄真を射殺させた。
これだけでも外道の極みではあるが、そこから突き抜けて今度は司法長官の座を狙うため、自身の過去を知る当時の協力者を抹殺しようと交換留学にかこつけた交換殺人を計画。
英国からは
ジェゼール・ブレットことアン・サッシャーを送り込みジョン・H・ワトソン教授を殺害させ、日本からは
亜双義一真を刺客として招きグレグソンを殺害させようとした。
一真が道中で事件に巻き込まれたことで頓挫しかけるが、その後
記憶喪失となっていた一真を正体を見抜いた上で検事局に迎え入れ、記憶を取り戻させたのち
暗殺に向かわせた。
(尤も、一真自身は端から暗殺を実行するつもりは皆無であったため、彼の命令無視によって代わりに
他の人物が暗殺を遂げることとなったが。)
ここまで見れば分かる通り、彼はこれらの国際問題にも十分発展し得るほどの大犯罪を「自らの手は汚さず、全て他人に犯させている」のである。
この卑劣漢に対し、龍ノ介はその本性を「ここまでくると人を操る天才だ」と侮蔑交じりに評価している。
ちなみに内心は龍ノ介ら日本人も見下していたようであり、裁判の際にはそうした本音がセリフの端々に見受けられる。選択肢を間違えた時が尤も顕著だろう。
なぜこれほどの大立ち回りをしたのかという動機について、本人曰く「闇と戦うためには闇が必要」とのことであり、これらの大それた犯罪も、すべては自身が権力を握ることで犯罪と戦うことを目的とするものだと述べる。
英国といえどそもそもが明治時代、それも法の黎明期だけあって現代と比べるといくらでも誤魔化せてしまう現状を憂いており、法治国家のシステムを全うさせようとする真意そのものは純粋な情熱であると言えるだろう。
決して汲むべき事情がない単なる極悪人ではないことが窺える。
だが、その戦うべき犯罪者以上の外道という正体を見抜かれたことで、ついに龍ノ介達と法廷で対決。
初めは優勢だったものの、徐々に自身の計画が明るみに出始め、最後には唯一にして最大の
弱点ともいえるクリムトの遺書が発見されてしまったことで全てが露呈した。
それでもしつこく食い下がり、今度は極秘裁判の傍聴に訪れていた司法関係者に呼びかけることで、自分の犯罪の正当性を訴えて味方につけようとした。
この頃には余裕たっぷりだった当初の態度から一転、上記の「直接は何もしていない」ことを理由に開き直りとも言える呆れた理論を振りかざすなど、
もはや自分を守ることにしか固執していない醜悪な姿を晒している。
しかしこれまでの犯罪行為をあえて認めた上に、そうした無様な姿を見せたことが仇となった。
閉廷の寸前、なんと大探偵
シャーロック・ホームズがそれまでの裁判の様子を全て大英帝国の女王陛下に生中継していたことが判明。
大英帝国に巣食う死神の正体が知られてしまったことで、直々に女王陛下から
「与えられた権限を永久に抹消すると共に、後日公開裁判にてその罪を裁く」というお達しを受け、
これまで積み上げてきた自分を守る盾が全て消えてしまった。
‥‥ハート・ヴォルテックス卿。
あなたが、この10年間
隠れていた"闇"は、もう存在しない。
‥‥今度こそ。
あなたは、もう《首席判事》ではない。
司法に関わる"未来"もない。
女王陛下の名のもと、法によって
正当に裁かれる《罪人》なのです!
全てを失った男についていく者などもう誰もいない。極秘裁判であるがゆえに、訴えかけるべき陪審員もいない。
とうとう追い詰められ、龍ノ介からの一喝から逃げるように閉廷を宣言するも意味をなさない。
‥‥閉廷! ‥‥閉廷! ‥‥閉廷!
‥‥閉廷! ‥‥閉廷!
あああああああああああああああああ
ああああああああああああああああッ!
力任せに叩きつけたことで、裁判長の命ともいうべき木槌替わりの杖すら折れてしまった。
杖のように折れたヴォルテックスは失意のうちに倒れ、裁判長席から裁きの庭へと転がり落ちていく。
すると落下した衝撃で陪審員席のシステムが発動し、先刻に慈獄の有罪判決で傾いていた天秤に更に火炎弾が撃ち込まれた。
まるで「計り(秤)しれないほどの重い罪」と言わんばかりに、天秤は限界を迎え崩壊。直剣のようになった秤は、台座から離れてヴォルテックスの方へ倒れていく。
有罪を告げる黒い秤が彼の真後ろまで到達した直後、その罪を示すかのように普通に大事故レベルの爆炎が噴き出す。これまでの闇を、中央裁判所ごと全て焼き尽くすかのように。
そしてヴォルテックスは、業火の中で身を焦がしながら慟哭するのだった。
その姿は、かつて自身が語っていた「犯罪者たちを法の業火で焼き尽くす」という言葉を自らの身で成し遂げたという皮肉な結果ともいえる。
おおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおッ!
このブレイクモーションは、現時点で逆転シリーズ史上最もド派手な演出にして彼の一挙一動に意味が感じられる、まさに大逆転裁判のフィナーレに相応しいものとなっている。
最後には、黒焦げになった姿で己の所業を証言台で細々と口にするなどとことん堕ちた姿を晒し、大英帝国を覆っていた闇は彼の失脚と共に姿を消したのだった。
その後は、英国警察の手で逮捕されたものと思われる。
紛う事無き外道だったヴォルテックスではあるが、優秀な人物であることは疑いようがなく、シリーズでも屈指の強敵。
とりわけ人心掌握力に長けており、決して脅迫だけに頼ることなくグレグソンやコートニー・シスらに道を踏み外させ、そこから10年後の今日に至るまで手駒として利用し続けていた。
切り捨てられ先に罪を暴かれた慈獄ですら、最後まで自分の背後にいるヴォルテックスの存在を明かさなかったのを見るに、彼の人並み外れたカリスマがうかがえる。
上述した裁判中の傍聴席への演説についても、それによって一度は完全に司法関係者を味方につけることに成功しており、状況を打開できたのはホームズのオーバーテクノロジーによる離れ業があってこそ。
「
同情によって罪を隠そうとする」でも「
権力によって罪を揉み消そうとする」でもなく、
「罪を暴かれながら民意によってそれを許させる」という、ある意味究極の戦法を披露している。
何より、上記の通りヴォルテックスの動機はあくまで「犯罪と戦うための力を手に入れる」というもの。
手段は兎も角、彼の謀略と暗躍によって大英帝国における犯罪発生件数が大いに低下していたこともまた事実である。
今後彼は公開裁判で裁かれることになるが、それは即ち全ての国民に司法の瓦解が知れ渡ることに他ならず、裁判で彼が危惧していた通りの大混乱は避けられないだろう。
そしてそれは外務大臣・判事でありながら共犯関係となっていた慈獄についても同じであり、この一件が日本に与えるであろう影響も決して小さくはない。
しかし、彼の理想は致命的に画竜点睛に欠いていた。
なぜなら弱みに付け込んで脅迫し、権力を振るって人々に犯罪を強要し、都合が悪い証拠は握り潰す、英国でも指折りの大犯罪者を平然と野放しにしていたのだから。
その悪党の名は、ハート・ヴォルテックス。そう、彼自身である。
正義を名乗って人を殺していいならそれは法ではない。最高の司法を謳うなら、遅くとも罪を暴かれた時点でそれを受け止め、大人しく裁きを受けるべきだった。
が、彼はそれを拒絶し、見苦しく民衆と法を盾に身の安全を図ろうとした。
これは、彼が犯罪撲滅のために目指した弱者救済のシステムが、外道が中心に居座りどれほどの犯罪も都合次第でもみ消せてしまう悪魔のシステムへと変貌を遂げていたことの証明である。
果たして両国の司法の未来はどうなるのか。
それは真実から目を逸らさずにこの裁判に立ち会った成歩堂龍ノ介、亜双義一真、御琴羽寿沙都、バロック・バンジークス、ジーナ・レストレード、マリア・グーロイネらに掛かっている。
彼らの本当の戦いは、これからなのだ――――。
面倒な奴ばっか残った英国側が詰んでる?頑張れバンジークス卿!
余談だが、彼は様々な要素からシリーズ歴代ラスボスの集大成とも言われている。
そして名前のハート・ボルテックスを英語に変換して日本語に再翻訳するとheartは「心」、voltexは「渦」。
voltexは直訳通り渦巻きを指す他に、何かを混ぜる・撹拌する機械や手段を指す意味としても使われるので、それを汲んで意訳すると「心を掻き乱す人」となり、あとから見返すと名前がもうネタバレだったと言える。
海外版での彼の名前は『Mael Stronghart』
おそらく巨大な渦巻きを意味する「maelstrom(メイルストロム)」と「strong heart」を組み合わせて捩ったと思われ、日本版の名前を大きく崩さず翻訳されている。
そして巨悪ではあるが、成歩堂にとっては恩人ともいえる存在でもある。
亜双義が死んだ際に自分が弁護士になるといったある種無茶な主張を(亜双義の任務を引き継いだと勘違いしたとはいえ)認め、弁護士としてキャリアをスタートさせたことを許したのは紛れもない彼である。
その後1-5で成歩堂陣営が違法行為や英国を敵に回す行為を行い、強制送還されてもおかしくなかった状態だったのをヴォルテックスは成歩堂に一定期間の謹慎とレポート提出という寛大な措置で済ませている。
しかもそのレポートはすべてヴォルテックスが忙しい時間の中、きちんと全部確認している。
亜双義の任務である暗殺を知らない留学生だと分かった以上、交換殺人の事を考えれば彼をイギリスに置いていく意味はないのにもかかわらずである。
理由は明言されてないが、彼もまた犯罪と戦う法曹人であり「違法行為をして権力に逆らってでも被告人のために犯罪者と戦った弁護士」である成歩堂は、野望に関係なく弁護士として相応しい人間だと思ったのかもしれない。
もしそうだった場合、その成歩堂にとどめを刺されたのはある意味皮肉ともいえる。