消化試合

登録日:2018/02/05 (月) 21:05:17
更新日:2025/01/04 Sat 05:20:39
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自分にとっては消化試合だが、相手にとって重要な勝負こそ全力を尽くす

―米長邦雄



消化試合とは、重要な物事や目的が終わった後のイベントや試合を指す。
既に結果が確定しており、本当にただ消化されるだけの試合。

プロスポーツにおける消化試合


主にリーグ戦形式のプロスポーツで生じやすい現象。

参加者(チーム)同士で対戦を繰り返し、その結果の総合成績で順位を決めるリーグ制プロスポーツにおいて、優勝が最終戦まで決まらない事はまずない。
ほとんどの場合は全試合の終了を待つことなく、シーズン途中の成績で優勝するチーム・選手が決定されてしまう。
その後行われる試合は、優勝チームはどれだけ負けても1位の座を奪われる危険性がないし、
2位以下のチームはどれだけ勝っても優勝することはできないという、プレイヤー側も観客側もやや張り合いに欠けるものとなる。
これを一般的に「消化試合」と呼ぶ。

消化試合では何を見ればいいの?


  • 一つでも上の順位を目指す

……というか、それが認められる環境ならもはや消化試合ではないとも言えるので、どちらかというとこれは成り立たない前提となるか。
もちろん順位を上げたい気持ちは誰でも大なり小なりあるだろうが、特にチームスポーツの場合、その気持ち一つでまとまるのは難しい。
順位ごとの賞金や、シード権などの来シーズンにおけるメリット、優勝まで行かずとも上位に入ることでの何らかの出場権獲得など、魅力的な報酬が設定されていれば、この目標を有意義なものにすることができる。
逆に新人ドラフトの権利やハンデなど下位への救済措置があるとややこしくなる。

  • 個人タイトル争い(野球の首位打者争いや本塁打王争いが代表的な例か。仕組みと状況によっては見栄えしない争いになる*1こともあるが)
  • 新人・若手選手や2番手3番手として控えにいる選手のテスト
  • 成績が微妙な選手のテスト(そこで結果を残せなければ解雇に繋がるので当人は必死)
  • 引退選手の引退試合
  • 試合出場数などの通算成績記録の積み上げ

こうして見ると、消化試合と言いながら意外と見るべき部分は少なくない。

特に若手や今まで出場が少ない選手が一番見られる時期であり、デビューの前後から応援してきたファンには嬉しい時期になることも。
…中にはこの消化試合の出場が選手人生の中で数少ない出場だった……なんて残酷なことも起きるが。

一方で、主力選手は上記の選手達のテストの影響や出場中の事故防止、あるいはダメージ回復のために休場し出番が減る。特にこの後にプレーオフが控えている場合は露骨に減ることが多い。
主力選手目当ての人は個人タイトル争いでもしていない限り、やや観戦には寂しい時期となる。

実際問題、個人タイトル争いの渦中にいる選手や若手的には消化試合感はないと思われる。
しかし観客目線では、マニア的なファンでもない限り盛り上がりにどうしても欠けるのも事実である。


消化試合をなくすには?

消化試合が生じるのは、選手や観客はもちろん、チームや興行の主催者にとっても好ましい事ではない。盛り上がりが減れば観客動員数も減り、ひいては収入が減るのだ。
プロ野球クライマックスシリーズをはじめ、リーグ戦でも消化試合が生じづらいようなシステムを取るスポーツは少なくない。

  • 野球
日本のプロ野球のリーグ戦は現在年143試合制で行われるが、シーズン途中から優勝可能性のないチームが分かってくるため、どうしても消化試合が発生してしまう*2
このためシーズン後半に張り合いが無くなってしまうことに危機感を持った日本野球機構は、プロ野球再編問題を機にクライマックスシリーズ(CS)*3を導入。
以降プロ野球においては露骨な消化試合は減少傾向にある。ただ、6チームという少ないチーム数で戦う都合上、最終盤ではもはや順位変動が期待できないというケースは起こりやすい。
もっともCSはCSでシーズン中に1位まで頑張る意義が薄れてしまうという問題もあるのだがそれはまた別の話。

また、年162試合をで行うMLBでは消化試合を特定条件下で消滅させるルールが存在する*4


  • 大相撲
大相撲では、力士の強さを一覧にした「番付」というシステムがある。
本場所で沢山勝つと「番付」が上がって上位への出世の道がひらけ、一方で負けが込むと「番付」が下がって給料はじめ各種待遇が露骨に低下する。
さらに1場所辺りの試合数に当たる番数が15番と少ない事もあり、優勝の可能性がなくなった力士たちも最終日まで気の抜けない相撲が続くのである。
もっとも、こうしたシステムが八百長を招いてしまったのは皮肉というほかない。

  • サッカー
多くのプロサッカーリーグは、Jリーグにおける「J1」「J2」「J3」のように、「強いチーム同士が戦うリーグ」と「強くないチーム同士が戦うリーグ」を設けている。
下位のリーグで優勝もしくは上位の数チームは上位のリーグへ昇格できるが、上位リーグで低い順位になったチームは下位のリーグに降格となる*5
降格圏内から脱出するための「残留争い」は、優勝・昇格争いに匹敵する熾烈な戦いとなるため、こういった環境においては順位の低いチームも消化試合とは無縁である。
基本的にはリーグのカテゴリーごとに待遇や環境に天と地ほどの差があるため、一度降格すると主力がボロボロと抜けて再度昇格するチーム力を保てず、復帰失敗してさらに主力が抜ける……というドツボに嵌る。逆に昇格から残留し続けることができればチームそのものが大出世できるチャンスでもある。
リーグによって昇降格の仕組みは様々で、昇降格権を広く取ってプレーオフを挟んだり、昇格候補VS降格候補の入れ替え戦を行う場合もある。
また、最上位のリーグではUEFAチャンピオンズリーグやAFCチャンピオンズリーグ(アジアチャンピオンズリーグ)といった大陸別国際大会などの出場権が上位チームに付与されることが多いため、優勝だけでなく上位の一定範囲が全て競争の対象となってくる。稀にクライマックスシリーズのような上位同士での決戦プレーオフも採用されているリーグもある。
しかし、どの要素にも当てはまりにくい中位帯に留まっていると消化試合が発生しやすい。

  • F1
F1の場合では個人タイトルのドライバーズチャンピオンシップとチームタイトルのコンストラクターズチャンピオンシップの2つがあり、開発が噛み合ったりものすごいドライバーによって圧倒的実力差で最終戦を前にチャンピオンが決まることが稀にある。
その場合、チャンピオンになったチームは消化試合だからもう全力を出さなくてもいい、と言えばそうでもない。
むしろ来季に向けてのデータ収集に力を注げるので、連続チャンピオンを取る体勢を築きやすい。今のマシンのセッティングではこうだから来年はこうしよう、といったように視点を変えられるのだ。
2000~04年のフェラーリとミハエル・シューマッハや2010~13年のレッドブルとセバスチャン・ベッテル、2017~21年のメルセデスとルイス・ハミルトンがまさにそのケースに該当し、大きなレギュレーション変更がない限り、連続チャンピオンになりやすいのはこの為である。
下位チームはチャンピオンを取れなかったに限らないが、来年の契約に向けて現チームや他チームにアピール出来るチャンスな為、開発が進んで戦闘力が上がったマシンでグランプリ毎に上位に食い込もうと必死になる。
チームにとってもコンストラクターズの順位によって与えられる分配金の他、スポンサー獲得へのアピールチャンスがあるので、チャンピオン確定後も下位チームは現行マシンの開発を進める。

プロテニスはリーグ制ではなくトーナメント形式の大会を繰り返す形*6であるが、大相撲の番付と似たランキングシステムがある。
過去一年間の成績を表すポイントで選手の順位を決め、これによって出場できる大会のグレードが決まる形をとっている。
どんなグレードの大会であれ、基本的に試合1勝ごとに賞金とランキングポイントが付くためシーズン終盤になっても完全な消化試合というものは発生しにくい。
団体戦形式で3日間かけて行われる国別対抗戦は2日目で決着が着く場合があるため、その場合は3日目分の試合が選手にとって消化試合となってしまうくらいか。

将棋や囲碁のリーグ戦では、前年の成績によりあらかじめ順位(ランキング)が付けられており「勝敗数が同じ場合は順位(ランキング)の上下で最終順位を一意に決める」ことになっている。
これにより「順位が低かったがために昇級を逃す・降級の憂き目にあう」という事案が発生する(特に深浦康市はたびたびこの手の経験をしている)ため、1つでも勝ちを増やして順位を上げることが重要になっている。
また、制度面とは関係のないメンタル面の話になるが冒頭の米長邦雄が提唱した「米長哲学」の存在も一役買っている。

優勝者がタイトル挑戦となるA級順位戦や王将戦リーグでは相星になった場合プレーオフが行われるが、ここでも「順位が下の者から先に登場するパラマス式トーナメント(A級順位戦)」「原則として、相星の者のうち順位上位2名のみで実施(王将リーグ)」など順位の上下が絡んでいるため、この点でも重要。
順位が下だったが故にプレーオフで悲劇を味わった例としては第76期A級順位戦・前代未聞の6人プレーオフとなったときの豊島将之の例*7が有名。

選挙における消化試合


政治の世界では、候補者間であまりにも差がある選挙戦が消化試合と呼ばれることがある。

ある候補に対して有力な対立候補がおらず、勝ち負けが見えているような場合、選挙当日までの日程が消化試合と言われる。
例えるなら、地方の首長選挙での「現職4期目・連立与党&有力野党連合推薦」vs「無所属新人 弁護士 左派政党推薦」というような感じか。
もっとも、プロスポーツリーグとは違って結果は当日まで分からないので、限りなく低いとはいえ大どんでん返しの可能性は常に秘められているのだが。


フィクションにおける消化試合


物語上のラスボスを撃破した後の敵との戦い(エピローグ)が「消化試合」と称されることがある。

消化試合扱いされる敵は「ラスボスの一味の残党」「これまでの物語に影響していないぽっと出の小物・チンピラ」「以前戦った敵の復活」とか。
ラスボスを倒すまでに至った主人公の力を前には見せ場もなく倒されるのがオチ。
一応「物語のラストで戦った相手」には違いないため、形式上は作品のラスボスという立場ではある。
…尤もファンの間や公式媒体でラスボスとして扱われることはほぼないが。

一方で、物語上のラスボスを撃破した後に現れた上述したような敵でも、作品中トップクラスに強いというパターンもある。
その場合は消化試合と皮肉られることは少なく、「裏ボス」「隠しボス」といった扱いを受ける。
つまりまとめると、消化試合扱いされる敵は「主人公の脅威になれない」ことが理由でそのように言われる全てだろう。

ただし、消化試合扱いされる戦いでも「主人公の戦いはこれからも続いていく」という表現としては重要な描写なのは間違いない。

また、バトルものにつきものの大会編展開で起こりがちなものとして、チーム戦における主人公以外のキャラの戦いや、主人公グループ以外同士での戦いなどで
作劇上どうでもいいし、結果が見え透いているor結果もどうでもいい」というタイプの消化試合もよくある。

双方に大きな差があり、やる前から結果が見えている場合に例えとして「消化試合のよう」と言うことがある。
ゲーム作品においては、主人公(プレイヤー)が強くなり普通に遊ぶ分にはほぼ負けることがない場合にこうなる。。
バランスブレイカーの入手・使用や、つよくてニューゲームのような周回プレイによる引き継ぎなどで起きる他、
弱いボスや、RPGにおける過去の地域の再訪など、相手が弱い場合は普通に遊んでいても起きる。

人生は消化試合


我々の人生を消化試合だと呼ぶ(自虐する)パターンもある。

「俺の人生何の目的もないや…」「何のために生きてるんだ」と、人生に意義が見いだせない悪い意味で使われることが多い。
しかし、悪い解釈だけではなく考え方次第では前向きな解釈も可能で、良い意味で使われることもあるっちゃある。
消化試合は勝敗があまり関係ない物なので「人生を消化試合とする=人生に勝ち負けなどない」なんて捉え方もできる。

そもそも消化試合という単語は何も意味がないという表現とは微妙に=の関係にならない。
つまり人生消化試合と自虐するのはどこかで人生に希望を持っている裏返しではないだろうか。
それに人生とは消化試合ではなく罰ゲームとか煉獄という見方もある。


注意


優勝といった大局に影響しない、あるいはフィクションで物語の本筋が終わっているために消化試合と思えるような勝負はあるのかもしれない。
また、あまりにも実力差がありすぎて傍から見れば消化試合にしか見えない組み合わせだってあるかもしれない。
しかし忘れてはならないのは、傍からみて消化試合に見えても当事者にとっては人生のかかった大一番であり、選手・チーム・キャラクターが好きで応援しているファンも必ずいるということである。
ある勝負について消化試合という感想を抱くのは自由であるが、当事者やファンの近くで「これって消化試合じゃないの?」などと口にするのは慎むべきであろう。
我々が気楽に眺めている勝負だって、その先には全力で戦っている人々や本気で応援している人々がおり、そういった人々がいるからこそ存在するということを忘れてはならない。



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最終更新:2025年01月04日 05:20

*1 例えば首位打者=打率は試合することで上がるか下がるか半々であるため、ライバルが上積みしても逃げ切れそうな状況なら「試合に出ない」という手が使えてしまう。

*2 とはいえものすごい追い上げで下位からまくることも無いわけではない。

*3 シーズン3位までのチームでトーナメントを行い、勝ち抜いたチームが日本一を決める日本シリーズに進めるシステム。

*4 ペナントレースの最終日が決められていて、その日までに終わらなさそうな場合はダブルヘッダーを行ってでも消化する。それでも終わらない、かつ優勝やプレーオフ争いに関係ないならばその日の時点で打ち切りになる。

*5 上位リーグに残留できる成績であっても、チームの経営難や八百長などの違反行為、上位リーグ参戦に必要な条件を満たしていないなどの理由で下位リーグに強制降格となる場合もある。

*6 年間最終戦のATPファイナルなどごく一部の大会では総当り形式も採用している。

*7 最終戦前の時点で久保利明と豊島が星1つリードしており、最終戦で勝てば最悪でも2人のプレーオフだったのだがよりにもよって2人とも負けて6人プレーオフになってしまう。久保と豊島は6人の中で順位が最も低く名人挑戦のために5連勝が必要になった上に、同時期に王将・久保、挑戦者・豊島として戦っていた王将戦七番勝負も重なってしまい、最大でプレーオフ5+王将戦3+αを1ヶ月の間にこなす想定の過密日程を設定された。結局豊島は王将奪取(2-4で久保に防衛される)も名人挑戦(4回戦で羽生善治に屈する)も逃し、後に『戦っても、戦っても、どれだけ強敵を倒してもまるで豊島だけが報われないルールのゲームをしているかのようだった。』と白鳥士郎に書かれることになる。