ジョーカー(映画)

登録日:2019/10/16 (水) 23:08:05
更新日:2019/11/05 Tue 18:11:17
所要時間:約 14 分で読めます






本当の笑顔の中にある








概要


『ジョーカー(JOKER)』とは、19年公開の米映画。
DCコミックス社のコミックヴィラン「ジョーカー」の実写化作品である。

現在進行中の『ジャスティス・リーグ』に代表される世界観共有のユニバースシリーズ、DC Extended Universe/DCフィルムズ・ユニバースだけでなく、これまでのどの作品とも世界観を共有していない完全な独立作品として製作された。
そのため、ジョーカーのオリジンを描いているものの、シーザー・ロメロ版、ジャック・ニコルソン版ヒース・レジャー版ジャレッド・レト版のいずれのジョーカーの過去でもない。
また、2021年公開予定の『The Batman』とも世界観を共有しない。

狂気の犯罪王子としてアメコミ界でもっとも知名度の高く、カリスマ的才能のあるヴィランとして名高いジョーカー。
本作は彼が如何にして悪の道に進んだか、そのオリジンが描かれている。
そして本作には、原作におけるジョーカーのエピソードを一切使用しておらず、完全な映画オリジナル作品として製作されており、原作におけるエッセンスはキャラ名と地名程度しかない。監督は「コミックは一切参照していないので、古参のファンを怒らせるかも」(意訳)とまで言い放っている。
(ブルース・ウェインの一家も登場しているが、かなり独自のアレンジが加えられており原作の面影はほとんどない。基本的に、ウェイン家側の人間は露骨なまでに醜悪に描かれているが、ラストにはバットマンには外せないある場面が描かれている)

本作の何よりの特徴は、当初善人として登場した主人公アーサー・フレックが、矢継ぎ早に訪れる苦境に晒され続け、最終的に狂気の淵へと落ち、「ジョーカー」として覚醒していくシナリオである。
現代のアメリカの病理を反映した貧困にあえぐ社会的弱者、決して埋められない貧富の格差、そして精神を病み、妄想と現実が入り混じる描写により、従来のアメコミ作品とは全く異なる、狂気的な映画として完成した。
まさかの「観客と共感できる」ジョーカー像に観客は様々な反応を見せ、さらにその憐憫すら、後半でひっくり返るどんでん返しには賛否両論が寄せられた。
今作のシナリオには、マーティン・スコセッシ監督作品の『タクシードライバー』や『キング・オブ・コメディ』がオマージュとして捧げられている。
という事でこれまでのDC映画作品を事前に観ておく必要は無いが上記2作品を観ておくと更に楽しめる。
劇中で一部シーンが流れるチャップリンの『モダン・タイムス』も本作とテーマが似ている所があるので観る事をオススメする。

DC映画としては『ウォッチメン』以来となるR指定(日本ではR15+)となったが、同作の国際配給はパラマウントが担当した関係で、日本では本作が「DCコミック映画初のR指定作品」として扱われている。

監督は『ハングオーバー!』シリーズなどのコメディ作品を多く手掛けてきたトッド・フィリップス。フィリップスは本作の企画を2016年秋頃にワーナーに持ち込んだが、彼はMCUの大成功を意識し過ぎていた当時のDCEUに不安を感じており、DC映画自体の将来も考えた結果、「DCはマーベルに勝てない」とはっきり進言すると同時に、MCUに出来ない事がDCでは出来るとして、既存の映画と全くリンクしない独自の世界観かつ低予算での映画制作を企画し、本作の制作を実現させた。その1年後、制作上の紆余曲折を経て公開された『ジャスティス・リーグ』はDCEUの過去作を下回る不振に陥り、予定されていた作品の多くが企画の見直しを余儀なくされたりと、フィリップスの予感は的中してしまう事になる。

劇場公開に先駆けてヴェネツィア国際映画祭で世界初上映されるや否や、凄まじい高評価を与えられ、コンペティション部門の最高賞にあたる金獅子賞を受賞。主演のホアキン・フェニックスの演技にも絶賛の声が寄せられ、既にアカデミー賞主演男優賞の最有力候補との呼び声もある。

だが高評価の一方で、本国では犯罪を誘発しかねない作品として批判も受け、一部の州では劇場を警官が警備する羽目に陥った。作中のウェイン家の描かれ方なども含め、「(コミックの)ジョーカーが人を扇動するために撮った映画」というジョークまで囁かれた。

なお、日本では字幕版のみの公開となり、現時点で吹き替え版は存在しない。ワーナー側もホアキンの台詞から息遣いに至るまでの細かい演技に注目してほしいとアピールしており、観客からはホアキンが発作的に発する狂気の笑いを吹替で再現するのは困難どころか不可能なのではという声も挙がっている。
観賞後は彼の笑い声が脳裏にこびりついて離れない事だろう。







ストーリー


1980年代のアメリカの都市・ゴッサムシティ。
貧困層と富裕層の格差は大きくなる一方で、街にはネズミが蔓延り陰鬱な空気が蔓延していた。
そこに暮らす母親と二人暮らしの中年男、アーサー・フレックは、コメディアンになることを夢見て大道芸人のバイトをしながら生計を立てていた。
だが、脳神経に疾患を持ち勝手に笑いだす症状に悩まされる彼は、仕事も失敗ばかりでろくな友達もおらず、一人病気の母ペニーの介護を続けていた。
二人の心を支えるものは、ペニーは街の名士トーマス・ウェインへの手紙、そしてアーサーは人気コメディアン・マレーのテレビショーだけだった。
そしてある日、社会福祉のサービスを打ち切られ、挙句同僚から渡された拳銃が原因で仕事を解雇されてしまった彼は、帰りの電車でガラの悪い商社マンに絡まれ、所持していた銃で彼らを撃ち殺してしまう。
それが、彼の真の解放の始まりだった。
やがて、ペニーとトーマス・ウェインの関係が明かされ、憧れのマレーのショーにゲストとして招待されたことを機に、彼の中の何かが変わり始める。
そして、「金持ちを殺す殺人ピエロ」の噂はゴッサム中に広まり、貧困層の中で彼を崇める運動が加速していった。
その狂乱は、一人の男をひとつの「悪の権化」―――「ジョーカー」へと仕立て上げていく…。





登場人物


  • アーサー・フレック
演:ホアキン・フェニックス
ゴッサムシティに暮らす、コメディアンになることを夢見る中年男。
しかしコントのセンスはゼロに等しく、しがないピエロとして小銭を稼ぐしか出来ない貧困層の住人。
しかも仕事中は失敗ばかりで客から暴行を受け、上司に理不尽に怒られることもザラ。
おまけに生まれつき脳に神経性の病気を患っており、突然笑い出してしまう特異な症状に悩まされている。
物語後半のある描写から記憶障害や人格障害も患っている可能性がある。
かつて精神病院に入院していた件もあって福祉カウンセラーに日常的に罹っているが、ろくに相談に乗ってくれず、基本的に善良な人間ながら精神疾患と過去の経歴から彼をまともな目で見てくれる人間も存在しない。
要するに、他人から見るととにかく悲惨な人生を送っている。
そんな悲惨な暮らしを少しでも和らげるために妄想の世界に浸ることがあり、特に憧れのコメディアン・マレーに褒められる妄想に浸るのがお気に入り。
だが、同僚から強引に持たされた拳銃がきっかけで少しずつ自らの狂気に安住の地を見出すようになる。
やがて、母の手紙から自分がトーマス・ウェインの隠し子ではないかという期待に胸を膨らませるが、ウェイン家からは残酷な仕打ちを受け、そして自らの出生の真実を知り、絶望と憎悪を募らせ真の狂人として覚醒していく。
そして、彼の与り知らぬところで貧困層の「救世主」として祀り上げられていき…。

別の世界では狂気を目の当たりにする側だった。

  • マレー・フランクリン
演:ロバート・デ・ニーロ
ゴッサムシティの間で人気のベテランコメディアン。
週に一度のトークショーはお茶の間で話題沸騰中であり、アーサーが最も尊敬しているコメディアンである。
ゴッサムの近況を風刺として皮肉るのが持ちネタの様子。人格者ぶってはいるが所詮はゴッサムの上流階級であり、アーサーの居る「外の世界」を知らない。
アーサーはいずれは彼に認められるという妄想を抱いており、妄想の中では人格者として振る舞っている。
そして、ステージに立ったアーサーを「冗談屋・ジョーカー」としてテレビで紹介し、話題に上ったため彼を自分のショーに招待するが、それは「笑えないジョークを言うスベリコメディアン」として晒し者にするためだった。
だが、初めて対面したアーサーは、彼が名付けた「ジョーカー」を名乗り*1、彼の狂気に引きずり込んでいく。

別の世界では、貧困と不遇から狂気に飲まれていく、まさにアーサーと生き写しの主人公を演じたが、今回はジョーカーに翻弄される善良な市民代表である。

  • ペニー・フレック
演:フランセス・コンロイ
アーサーの母。
現在病気を患い、ベッドに寝たきりの老女。
いつも虚ろな笑みを浮かべ息子におんぶに抱っこの生活を続けており、自分たち親子の暮らしを良くしてもらおうと、地元の有力者トーマス・ウェインに手紙を書き続けている。*2
しかしある日、アーサーに手紙を読まれたことを機に、かつてウェイン家の使用人として働いていた際にトーマスと関係を持ち、そこでアーサーを妊娠したと告白。
それを真に受けたアーサーはトーマスに固執するようになるのだが、その裏には残酷な真実が隠されていた。

  • ソフィー・デュモンド
演:ザジー・ビーツ
アーサーのマンションで同じ階に住むシングルマザー。
超ラッキーなヒーローではない。
エレベーターで偶然一緒だったことをきっかけに親しくなり、アーサーの数少ない心の拠り所となる。
初めて立ったステージでも唯一笑ってくれて、病院に駆け込まれたペニーのお見舞いにも来てくれるよく出来た女性。

  • トーマス・ウェイン
演:ブレット・カレン
次期大統領候補と称される、大財閥ウェイン産業の社長。
今度の市長選に立候補しており公明正大な人格者として市民の憧れの的であり、貧富の格差を失くし、住みよい街づくりを進めることをマニフェストとしている。
しかし、ピエロの殺人者を崇める貧困層の住民を「落伍者」「ピエロ」と見下す発言をし、現代社会を我々(富裕層の人間達)が作ったと嘯く等本性は傲慢な成金そのもの。
ペニーがかつて働いていた恩で慕っており、自分と息子のアーサーを認知して救うように手紙を書き続けているが、悉く無視されている。
それどころか、ペニーを「イカレ女」とみなし気味悪がり、息子のアーサーすらも不審人物扱いしており、完全に二人を見放している。
監督曰く、モデルは現大統領のドナルド・トランプ氏。最初にキャスティングした俳優が「トランプ過ぎた」ため、トランプ要素を抑えるために急遽配役が変更された。
そして、『怪傑ゾロ』の舞台を家族で見に行った直後、今までの傲慢さへの「報い」が訪れる…。

  • ブルース・ウェイン
演:ダンテ・ペレイラ=オルソン
トーマスの幼い息子。
まだあどけない、外の世界の恐怖を知らない少年である。
当初は自分の異母兄弟と思っていたアーサーがフェンス越しに彼に手品を披露して笑わせていた。
しかし直後、アルフレッドと諍いを起こした彼の姿を見て恐怖する。

  • マーサ・ウェイン
演:キャリー・ルイーズ・プテレッロ
トーマスの妻。
今作では夫同様成金妻の印象が強いが、ぶっちゃけ台詞が殆ど無いので人となりに関しては良くわからない。真珠のネックレスがトレードマークなのが相変わらず。

  • アルフレッド・ペニーワース
演:ダグラス・ホッジ
ウェイン家の執事。
今までの作品では年老いた執事として出てくる事が多かったが今作では執事というよりガードマン的なガタイの良い中年の大男として登場。
御曹司に話しかける一見不審者のアーサーを脅し、逆上した彼に掴みかかられる。

  • ランドル
演:グレン・フレッシュラー
アーサーの同僚のピエロ。
表面上はアーサーに同情し、気にかけてはいるが、裏では上司に告げ口をし見下している、裏表の激しい偽善者。

  • ゲイリー
演:リー・ギル
アーサーの同僚の小人芸人。
同僚からはしょっちゅう体格のことでイジられている。
唯一アーサーを心から気にかけていたが、彼の狂気にはついていけなくなっている。

  • ホイト・ヴォーン
演:ジョシュ・パイス
アーサーの上司であるピエロ派遣会社社長。
日頃からトラブルを起こすアーサーを苦々しく思っており、序盤で彼が仕事中に不良達に襲われた際にはケアどころか、襲われた事実すら信用することなく一方的に責めていた。今で言う自己責任論。

  • カウンセラー
演:シャロン・ワシントン
精神疾患を抱えるアーサーと面談している福祉士。
しかし、毎回するのは同じ質問ばかりで、やる気があるのかないのかわからない。
市の福祉が終了したことを理由にアーサーのカウンセリングも泣く泣く打ち切ると宣言するのだが…。

  • バーク刑事
演:シェー・ウィガム
  • ギャリティ刑事
演:ビル・カンプ
ゴッサム市警の刑事。
ピエロによる殺人事件を捜査する中で、不審な行動が相次ぐアーサーをマークしている。

  • ウェイン産業の社員3人
ウェイン産業に務めるエリート社員…なのだが、いかにもなパリピで体育会ウェーイ系の、オタクの敵と言える奴ら。
女を落とすことしか考えていない、下半身でモノを考えているクズの集まりである。
電車内でも女性をナンパしていた所で突然笑い出したアーサーが気に障りフルボッコにしたが、拳銃を手に反撃したアーサーにより全員撃ち殺された。
この事件を機に、ピエロの殺人者は「金持ちを殺す救世主」として崇拝されることとなる。
ぶっちゃけるとアーサーが発砲したのは正当防衛な所があり殺されたのは自業自得としか言えない。




余談


  • アーサー役のホアキン・フェニックスは役作りのために24キロも減量していた。
  • 本作におけるジョーカーのメイクは、リアル殺人ピエロで有名なジョン・ゲイシーを参考にしたとの事。因みに劇中でアーサーが立ったコメディクラブの名前はジョン・ゲイシーがピエロの芸名として名乗っていた『ポゴ』である。
  • 製作を開始した当初はレオナルド・ディカプリオがジョーカー役の候補に挙がっていた。
  • 本作の劇場パンフレットは、詳細な設定解説に始まり、監督・ホアキンのロングインタビュー、散りばめられたオマージュの解説、ジョーカーというキャラの歴史、ガチの評論家によるコラムなど、内容盛りだくさんであり、考察勢は必読である。ただし盛りだくさん過ぎて、冒頭のあらすじで内容を95%くらいネタバレしているので、くれぐれも鑑賞前に読んではいけない。









「何がおかしいの?」

「項目を思いついて…」

「どんな追記修正を?」


「…誰にも理解できないことさ」

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