塔の上のラプンツェル(ディズニー映画)

登録日:2012/09/17 Mon 00:50:48
更新日:2025/06/02 Mon 10:51:05
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これは、俺がどうやって死んだかを描いた物語……。

塔の上のラプンツェル』は、ディズニー映画の一つ。

概要

ディズニー・クラシックスの記念すべき第50作目で、初の「3Dで描かれるプリンセスストーリー」。

原作はグリム童話の『髪長姫』だが、原作のキャベツは魔法の花に、王子が盗賊に変更されるなどの大胆なアレンジが加えられている。
前作に当たる「プリンセスと魔法のキス」は興行不振に終わっており、その原因が、プリンセスものであることを強調し過ぎて男子層の支持を得らなかったことにあると考えられた。
そのため、男女双方に売り込みをかけられるようにとの意図で、男性主人公のフリンを押し出す方針がとられた。(原題の「Tangled」もその意図によるもの)

ヴィランズであるマザー・ゴーテルとラプンツェルの親子の絆の断絶を裏テーマの「毒親からの自立」としてとらえることもできる。
そして本作あたりからディズニーヒロインがアグレッシブに戦い始め、現にラプンツェルがターザンかスパイディ、あるいはラブ・デラックスのごとく長い髪を振り回して飛び回っている。

ヒーローの性格は前作「プリンセスと魔法のキス」と同様にヴィラン寄りだが、あちらが不良王子に対してこちらは盗賊という違いがある(盗賊のヒーローは「アラジン」が先出)。
ヴィランズに監禁されて育てられた主人公が年上の異性と出会って外界に触れ、義理の親との対決を決意するストーリー展開は1996年に公開されたディズニー映画「ノートルダムの鐘」を、特殊な力を持つヒロインが情緒不安定な母親に抑圧される点では、1976年に公開されたホラー映画「キャリー」を彷彿とさせる。
タランティーノが2010年のベスト映画の一つに挙げたことでも有名。

90年代に「美女と野獣」などで知られる有名アニメーターで本作の製作総指揮とスーパーバイザーを務めたグレン・キーンが構想し、2008年にグレン監督で公開予定されていたが2007年に病気降板、「ズートピア」のネイサン・グレノとバイロン・ハワードが監督を引き継いだ。
グレンは油絵をイメージした手描きアニメ化を希望していたが、前作「プリンセスと魔法のキス」の興行的な不振を踏まえて手描きアニメーションのタッチを意識した3Dアニメーションで制作された。
製作総指揮にはピクサーのジョン・ラセターも携わり、グレンの娘クレア・キーンがビジュアルアーティストを担当した。
アニメ映画史上最も製作費がかかった作品で、その額はなんと2.6億ドル。日本円に換算すると約280億円。現在までに製作された全映画の歴代5位の制作費がかけられている。

音楽は8度アカデミー賞を受賞した「アラジン」や「美女と野獣」などでおなじみのアラン・メンケンが作曲。
王都に到着したラプンツェルとフリンが民族楽曲風の軽快な音楽で踊る「王国でダンス」や、灯りの下でラプンツェルとフリンが歌う『輝く未来』は画面の美しさも相まって非常にロマンチック。
登場人物の設定や、クライマックスからエンディングまでの流れなどで、「美女と野獣」と比較されることも多い。


【あらすじ】

太陽の光から太陽の滴がこぼれ、あらゆる傷や病気を癒す魔法の力を持った金色の花が生まれた。
時は流れ、金色の花が咲く場所にはとある王国ができ、一人の女が花を自分だけのために使った。さらに時は流れ、子供を身ごもった王妃が病に倒れ、王は花を探させる。

王国の森の奥深くにそびえ立つ高い塔の中に、ラプンツェルという長い金色の髪の少女が暮らしていた。
ラプンツェルは育ての親であるマザー・ゴーテルから塔の外に出ることを禁じられ、生まれてから1度も外へ出ることが出来なかった。
それでも彼女は、自分の誕生日が来ると遠くの空に現れる無数の灯りを不思議に思い、外の世界への憧れを強くしていった。
18歳の誕生日が迫り、ラプンツェルは今年こそあの灯りを見に行きたいとゴーテルに伝えるが、いつものように説き伏せられてしまう。

その日の朝早く、城からティアラを盗み出した大泥棒フリン・ライダーは森へと逃げ込み、塔を見つけて侵入していた。
が、油断したところをラプンツェルに気絶させられてしまう。
ラプンツェルはティアラを隠し、目を覚ましたフリンに条件を突きつける。

自分を「灯り」が現れる場所まで案内し、それが済んだら塔まで送り届けること、そうすればティアラは返すと。
フリンはしぶしぶ条件を受け入れる。

そしてラプンツェルは生まれて始めて外の世界へと踏み出すのだった。


【登場人物】

  • ラプンツェル
70フィート(21メートル)にも及ぶ金色の長い髪*1を自在に操る少女で本作の主人公。
「外の世界には悪者が溢れているから塔から出るな」というゴーテルとの約束を守り、生まれてから一歩も塔から出ていないが、誕生日に飛ぶ灯りを近くで見たいを思い続けている。
フライパンでの殴打が異様なまでに強く、身体能力も塔の中に引きこもっていたとは思えないほど高い。
朝7時までに家事をこなし、読書や絵描きなどの趣味で暇をつぶす毎日を送っていたが、
18歳の誕生日を前にフリンに灯りへのガイドをさせ、自由への喜びとゴーテルに背いた罪悪感で情緒不安になりながらも塔を出た。

その髪には、特別な歌を歌うと癒やしの力が使える秘密があり、その秘密を「悪者」から守るために塔の中に隠れていた。
正体はフリンが序盤でネタバレした通り、ゴーテルに誘拐されたプリンセス。髪の力目的で赤ちゃんの頃に監禁され、正体がばれないよう外出を禁止されていた。
フリンとの逃避行で死の恐怖が迫る中、彼に秘密を打ち明けられ、隠し通してきた髪の秘密を明かした。

中盤の花を飾った超ロング三つ編みも、ラストのヘアスタイルもかわいい。

  • フリン・ライダー
指名手配もされている王国で一番の泥棒。女性社員同士のホットマンミーティングでルックスを厳選された公式イケメン
犯罪者でずる賢く自惚れが強い小心者だが、陽気で面倒見がいい部分もあり作中の扱いはギャグ要員。
ティアラを盗み、その罪で追われており逃亡中に侵入した塔でラプンツェルにフライパンでぶん殴られてとっ捕まる。
ラプンツェルとの約束を面倒に思い、荒くれ者の溜まり場「アヒルの子」にわざと連れて行って追い払おうとしたが、逆にラプンツェルに窮地を救われることに。

原作の王子に相当するが、指名手配されるぐらいの泥棒で、人を騙して陥れる、平気で仲間を裏切るなど、王子というよりはヴィランっぽいキャラでキャラデザ自体もどことなくヴィラン寄りの雰囲気。
しかし、ラプンツェルと接していく内に心に変化が訪れる。
そして、自分のせいでラプンツェルを死の瀬戸際まで巻き込んだ責任を感じ、誰にも話していない秘密を打ち明ける。



  • マザー・ゴーテル
ラプンツェルの育ての親で、塔に出入りするただ一人の人間。妖艶な美女にして本作のディズニーヴィランズ。
その正体は金色の花の力によって若さを保っていた400歳の老婆。プライドが高く、やや情緒不安定。
開幕早々からフリンのナレーションでまだ悪いことしていないのにディスられる*2
金色の花を摘まずに大事に隠していたが、王妃の病気を治す為に金色の花を探していた王に摘み取られてしまったことで、花の力を受け継いで生まれたラプンツェルを誘拐して塔に閉じ込め、ラプンツェルを恐ろしい外の世界から守っていると教えて育てていた。
彼女の目的は自身の「若さ」を保つことで、そのためなら殺人も辞さないが、逆に言えば若さを保つことができれば悪さはしない。

誘拐したラプンツェルを騙して幽閉しており、その育て方が毒親*3だと批判される一方で、あくまで花の力で若さを保ちたいだけで誘拐も当初はする気がなかった*4

金色の花を王が取らなければ悪事をしなかったことやラプンツェルに対しても愛情があったとも言えるし、髪のことしか見てないと劇中の描写などからそれぞれ解釈する人がおり意見が分かれている*5

  • パスカル
ラプンツェルと暮らす小さなカメレオン。ラプンツェルにとっては唯一の遊び相手で、何でも話せる大切な友達。
好奇心が強い性格だが、ラプンツェル以外の人間を警戒している。ゴーテルが塔にいる間はラプンツェルにカーテンに隠されている。
終盤で重要な役割を果たす。

「ゴーテルと2人きりではラプンツェルが暗い性格に育ってしまう」という懸念から生まれたキャラクター。
名前の由来はスタッフの一人が飼っていたカメレオン

  • マキシマス
警護隊長を乗せて走る白馬のように優れた嗅覚を持つ。なんとなくジム・キャリーっぽい。
フリン追跡に執念を燃やす。王家に忠実ながら、正義感と温情味を兼ね備えた有能な漢。馬だが。

ディズニーのアニメには人語を解する頭のいい動物が付き物だが、その中でも群を抜いて知能が高い。衛兵よりもよっぽど頼りになる。
終盤の無双っぷりは必見。

  • 酒場の荒くれ者たち
街外れのレストラン「アヒルの子」を根城にしている。
強面の荒くれ者ぞろいだが、それぞれピアニスト、恋に憧れる純粋な心、ユニコーン集め、お菓子作りなどの夢を隠し持っている。
店にはフリンの手配書が飾られ、フリンを捕まえようとした。
ラプンツェルと夢を語り合い、フリンを捕えにきた衛兵からラプンツェルとフリンを匿って秘密の通路を教えた。

  • スタビントン兄弟
フリンと手を組みティアラを盗み出した共犯者。追っ手から逃げる途中でフリンに裏切られ、彼への復讐を狙っている。
ゴーテルに言葉巧みに操られ、フリンを刑務所送りにしてラプンツェルの髪の力を狙ったが、ゴーテルに裏切られて刑務所に送られた。
続編映画ではなぜかラプンツェルとフリンの結婚式に参列していた。
一応、テレビシリーズでその辺りのフォローはされている。

  • 王妃
王国の国王と妃であり、ラプンツェルの実の両親。
国民たちからも慕われ、行方不明の娘の誕生日には必ず娘を想いながら灯りを飛ばすいい人たち。
だが、王妃が妊娠中の時に病に倒れ、王が治療の為に金色の花を摘んでしまい、王が一連の事態の元凶になってしまったところはある。
しかし、そうしなければ王妃は死んでしまったし、ラプンツェルも生まれてこれずに死んでしまったかもしれない。
またゴーテルが花を使っていたことも、そもそも歌えば癒やしの力が何度でも使えることを知らなかったので、王の非については殆ど触れられない。



余談

  • 後日談となる短編映画「ラプンツェルのウェディング」や、テレビシリーズ「ラプンツェル ザ・シリーズ」も制作されている。




あなたは私の新しい夢……




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最終更新:2025年06月02日 10:51

*1 スタッフのケリー・ワードのインタビューによれば、髪の総重量は27~36キロにまで及ぶ。

*2 テレビシリーズでは「気味悪い」「ボソボソ頭」なども言われている。というのも初対面が初対面なので、ボロクソに貶すのはフリンの彼女に対する恐怖の裏返しだろう。

*3 序盤からラプンツェルをボロクソに貶してマウントを取ったり、それを冗談だと言って済ませるなどの精神的DVをやっている。とはいっても好物や欲しい物を与えてはいるのだが、それも髪の力を使わせて欲しいが為のご機嫌取りと言えないこともない。

*4 花の力で若さと命を保っており、髪だけで済むなら髪だけ切ってすませようとしたが、髪を切ると魔法の力が無くなってしまい、仕方なく誘拐した。

*5 現実では虐待と愛情は両立し、劇中のゴーテルの描写はラプンツェルに愛情があるともないとも言える絶妙な匙加減になっている。改善に最も有効な方法は距離を取ることだが、それも本作の場合は通用しない。ゴーテルはヴィランズなので、ラプンツェルを連れ出したフリンではなく彼女の反抗心自体を敵視し(フリンを殺したのも、口封じだけではなくラプンツェルの反抗心を挫く為という理由がある)、同じ理由で虐待をやめることもない。実際、監督が複数の女性スタッフに母親との関係をインタビューし「とんでもなく過保護で操作的な母親」として生み出したのがゴーテルである。しかし、もしも、ラプンツェルが親離れして塔をでていった場合、ゴーテルは老化して死亡してしまうのでゴーテルが情緒不安定なのはそれのせいかもしれない。