いぬやしき

登録日:2022/02/21 Mon 18:10:47
更新日:2025/03/23 Sun 04:23:34
所要時間:約 10 分で読めます






俺が悪役で……じじいが…ヒーロー……か




いぬやしきとは、奥浩哉による日本の漫画作品。

【概要】


漫画雑誌『イブニング』に2014年4号から2017年16号まで連載。全10巻。
同出版社の雑誌である『週刊少年マガジン』にも描き下ろしの読み切りが出張掲載されており、奥自身にとっても初の少年誌での執筆となった。
連載の開始時期は作者の代表作である『GANTZ』の完結から半年後の他社雑誌での新連載だったため、そういう意味でも注目を集めていた。

奥は後に本作について「GANTZの連載終了時にハリウッド版鉄腕アトム(『ATOM』)を見てアイデアを思い付いた」と振り返っている。
初期構想では主人公は童貞の不細工な少年を想定していたがデザインが決まらず、試しに老人にした案をそのまま採用したようだ。

作品の大まかな内容としては、人外の機械と化した2人の主人公の対照的な行動を描いた人間ドラマ。
奥の特徴である3DCGを活かしたリアルな作画は本作でも健在で、『GANTZ』よりも頻繁ではないがバトル描写も描かれる。
また、作者の前作の『GANTZ』や『週刊少年ジャンプ』などの実在の作品が劇中劇として描かれ、どこかで見たことのある人物やサイトなども登場するといったネタが特に多い。一部のネタは私怨の発散というもっぱらの噂

作品の結末や(展開までの伏線こそしっかりとあるが)作者の個人的な感情が邪推されるような実在関連のネタに関しては賛否両論
一方で持ち味である作画のクオリティや2人の主人公による価値観の違いと衝突の描写は好評を得ており、全10巻というまとまりもあって読みやすいという声も多い。

商業的な評価は高く、単行本の発行部数は300万部を突破。アニメ化や実写映画化などのメディア展開も行われた。
メティア展開の方面では前作『GANTZ』に及ぶヒットとまではいかなかったが、結果的には前作から続いて奥はヒット作を輩出することになった。

【あらすじ】


老人のような外見のサラリーマン・犬屋敷壱郎。
念願のマイホームを建てるが妻子には頼りにされずに疎まれ、優しき正義感を持ちながらもそれを活かす機会もなく、暗い日々を送っていた。
やがて末期の胃がんという悲劇を宣告された犬屋敷は絶望から途方に暮れる夜の中、公園にて突如飛来したUFOの墜落に巻き込まれて死ぬ。
宇宙人の隠蔽工作の末に兵器ユニットを搭載した機械の体に生まれ変わった彼は、困惑しながらもその体で人助けをしたことで正義の心を開花させていく。

一方、犬屋敷と同じ場所で偶然にも事故に巻き込まれた男子高校生・獅子神皓。
機械化した己を自覚した獅子神は幼馴染の安堂直行をいじめから救うが、やがて機械の力を使った殺人行為で人々の命や生活を踏みにじっていくようになる。

他人への無償の正義で人間性を自覚する犬屋敷と他人の殺害で人間性を自覚する獅子神は、やがて対峙する運命に突き進んでいくが…。

【主な登場人物】


犬屋敷サイド

  • 犬屋敷壱郎
CV:小日向文世
演:木梨憲武
主人公。58歳の男性で世帯持ちのサラリーマンだが、年齢に反した異常に老け込んだ容姿と頻繁に小刻みに震える挙動が特徴的。
頼り無い雰囲気で家族からも疎まれる人生を送っており、密かに秘めた熱い正義感と他者に対する優しさも発揮できずに評価を受けることもなかった。
胃ガンによって余命3か月という現実に苦悩する最中、偶然公園で宇宙人による事故に巻き込まれて死亡し、隠蔽工作で自身を再現した機械兵器へと変貌する。
機械化した自分に悩みだすが、その身体を活かして人助けをして感謝されたことから、他人を助けることで自身の存在意義を感じるようになる。

  • 犬屋敷麻理
CV:上坂すみれ
演:三吉彩花
犬屋敷の娘で長女の女子高生。両親とは全く似ていないかなりの美少女でスクールカーストの上層にいる。獅子神や安堂とはクラスメイト。
思春期ということもあって父親には反感を抱いているなど生意気かつ強気で、獅子神には性格悪いと評されていた。お前に言われたかないが。
漫画家志望という夢を持っているという一面があり、幼い頃は父親にかなりベッタリとしている少女だったようだ。

  • 犬屋敷剛史
CV:朝井彩加
演:福崎那由他
犬屋敷の息子の男子中学生で麻理の弟。麻理とは逆に父親の面影があるが、性格は中学生の時点で既に父親から正義感を抜いたような卑屈な人物。
友人との会話や自身へのいじめなどから家庭や未来に対する希望を失っており、他人に対して立ち向かう勇気も捨てて隠れて生きようという人生観を抱いている。
父親が機械化を告白した際にあっさりと受け入れた姉や母親に対して一人しばらく唖然と困惑する(後に受け入れるが)など、ある意味常識人とも浮いているとも言える様子も見せていた。

  • 犬屋敷万理江
CV:西宏子
演:濱田マリ
犬屋敷の妻の中年女性。スーパーでパートアルバイトをしているようだ。
気怠げで小言が多いという悪い意味で典型的中年母親像であり、夫への感情も攻撃的という領域にまではなっていないが冷めきっている。
それでも全く夫への情がない訳ではなく、進路について麻理と揉めた際には夫を話の席に同席させてもいる。

  • はな子
犬屋敷が新居を購入した際に動物愛護センターから譲り受けた柴犬。
家庭での評価は悪かったが人懐っこくて愛らしい様子も多い本作の癒し枠で、犬屋敷の心の支えとなっている。
犬屋敷の機械化を認識している唯一の存在であり、事故の巻き添えを逃れているという点でも地味に強運である。

獅子神サイド

  • 獅子神皓
CV:村上虹郎、藤田奈央(小学生)
演:佐藤健
本作のもう一人の主人公で、犬屋敷と同じ日に公園で宇宙人の失態に巻き込まれて機械兵器と化した男子高校生。
優れた容姿と一定以上の友人関係を持つリア充で『ONE PIECE』を初めとした漫画好き。好きな女性のタイプはナミ
両親は離婚していて母親に引き取られた母子家庭だが、再婚した父親とその子供達となる義理の兄弟とも関係は良好。
一方で友人や身内以外はどうなろうが無関心という感情が極端に強いというデミサイコパスの性質を持ち、感情豊かでありながらも不気味さも見せる。
機械化して以降は犬屋敷とは逆に「他人の死による自己の確認」に目覚めて殺人鬼へと覚醒するが、身内贔屓の情から不安定さも見せる。

  • 安堂直行
CV:本郷奏多、北川里奈(小学生)
演:本郷奏多
獅子神の幼馴染の男子高校生。彼からは直行という名前から「チョッコー」と呼ばれている。
心優しき性格ながらもスクールカースト底辺という人物で不良に虐められたことから引きこもりとなっていたが、機械化した獅子神の援助で救われる。
獅子神とは何だかんだで強い信頼関係を築いていたが、やがて殺人に躊躇の無い彼の様子に恐怖を感じて苦悩しながらも絶交を決意。
絶交後は考察の末に犬屋敷の存在に辿り着き、犬屋敷の善性から獅子神に対するカウンターとして友情関係を築き、サポーター役として援助を行う。
ちなみにGANTZの大ファンだが、立ち読みで呼んでいた獅子神や本作のネットで「クソ漫画」と評されていることにキレていた。

  • 獅子神優子
CV:加藤有生子
演:斉藤由貴
獅子神の母親。夫とは既に離婚したことから母子家庭で、イオンの婦人服売り場のパートをしている(アニメ版ではイオンへの言及は避けられている)。
末期の膵臓ガンを患うが機械化した息子の力で完治(本人は奇跡と認識)し、投資で資金を得たと嘘を付く息子によって豊かな生活を手にする。
優子はサイコパスの節がある息子とは異なって常識的な感性のある普通の女性で、息子が殺人鬼と判明してからは良心の呵責で自殺。
自殺という行動は息子との会話からの有言実行だったのだが、当の息子はマスコミやネットによる誹謗中傷へと憎悪を向けたことで殺人鬼化が加速する(マスコミやネット住民が原因の一端なのも事実ではあるが)。

  • 獅子神の父
CV:白熊寛嗣
演:渋川清彦
獅子神の父親。本名不明。妻とは既に離婚後に再婚しており、新しいパートナーとの間に子供も2人いる。
離婚こそしたが息子との親子としての関係は良好なまま続けていたようで、プライベートでも遊びに誘うなど幸せな再スタートを送っているはずだった。
ところが息子が殺人鬼と判明して元妻も自殺するとマスコミの対応に追われて謝罪を繰り返していたが、取材中に息子が報道陣を殺戮する中で命乞いをしたところ手を出されることはなかった。
その後の動向は不明だが、上述までの流れについては様々な考察がある。

  • 渡辺しおん
CV:諸星すみれ
演:二階堂ふみ
獅子神や麻理のクラスメイトの女子。クセ毛の目立つ髪から「チンゲ」と呼ばれている。
両親はガンで亡くしたことから祖母と二人暮らしで生活をしており、大人しいが優しい性格。
安堂のいじめの一件から獅子神に惚れたことで彼に告白、自宅で共に過ごすようになる。
獅子神の正体や殺人鬼としての本性を告白されても受け入れたことで一時的に改心させるなど、獅子神にとっては大切な存在と認識されるようになる。

  • しおんの祖母
CV:谷育子
しおんと二人暮ししている彼女の祖母。本名不明。
性格は穏やかだがテレビを視聴しないことから世間に関する知識に乏しく、獅子神の世間での扱いを知らずに「家出している美少年」くらいの認識だった。
獅子神はしおんの祖母を殺害対象から外した後に穏やかな関係を築くことになり、SATの作戦に巻き込まれた際には救出された。

その他

  • 宇宙人達
原作のみ登場。といっても第1話で通信の様子が文字で出るだけで、作中では一切姿を現さない。
通信の様子から複数体いると思われる。
事故で犬屋敷と獅子神を殺害し、2人の死を偽装するため、有り余りの兵器ユニットで2人を表面的に復元した。
復元の際、地球に危機が及ぶ事を連中の一体が警告したものの、「知るか!!できるだけはやく離脱するぞ!!」と無責任な発言と共に早々に地球を去っていった。

  • 鮫島
CV:黒田崇矢
特定危険指定暴力団「講談会」系の幹部のヤクザの男性。
性癖がバイで性欲の塊と言うような人物で、女性の誘拐と強姦の末の殺害やサウナで男性にフェラさせるといった行為からヤクザの基準でも異常極まりない残忍な人物。
日本刀で切られても重傷を負わないなど地味に人間離れした肉体を持つ。相手が悪かったが。
目を付けたふみのに執着するが、最終的には犬屋敷に部下と共に返り討ちにされた末に眼球などの器官を破壊され、死よりもきつい状態で生きることを告げられるが反省した様子は見せなかった。
アニメ版では中の人が「堂島の龍」であり、筋を貫く“漢”と残忍極まるヤクザのギャップで視聴者の度肝を抜いた。

  • 井上ふみの
CV:金元寿子
弁当屋で働いている女性。背が低いことがコンプレックスだが容姿も性格も完璧な美女で、恋人の悟に惚れ込んでいる。
自身を気に入った鮫島に拉致された末にレイプされかけるが抵抗して逃亡する強い意志を見せるも、再度拉致されて薬漬けにされる。
最終的に犬屋敷に救われたことで悟の元へと帰ることが出来た。

CV:阪口大助
ふみのと同居している彼氏。容姿も下のレベルで年収も普通の若手サラリーマンで、ふみのが何故付き合っているのか疑問に抱かれる存在。
しかし性格はとても誠実でふみのが誘拐された際にも男気を見せる。鮫島の手によって死にかけるも犬屋敷に救われた。

  • 仲尾
CV:渋谷はるか
ガンを患って薬による闘病生活を送っていた女性会社員。職場の上司こそ優しかったが身内の支えなどはなく、人生に絶望していた。
ところがしおんによって一時的に改心した獅子神と偶然的にSNSで接触、彼の治療を受けて病気を克服した。

【スペック・機能紹介】


杜撰な宇宙人の隠ぺい工作により、機械兵器となった犬屋敷と獅子神。
そのスペック・機能は計り知れないもので、地球に存在する現代兵器では歯が立たない。
それどころか、奥浩哉氏の別作品、GANTZに登場する星人達を、簡単に屠れるのではないかと思わせるほど

スペック紹介


機能紹介

※作中では各機能に対する名称は存在しないため、以下の名称は全て仮称になります。

【他媒体展開】


アニメ

2017年10月から同年12月まで、フジテレビ系列『ノイタミナ』枠で放送された。制作はMAPPA。
アニメ版の一部キャストは実写版でもそのままキャラクターを演じるという試みも行われている。
総監督はさとうけいいちだが、氏は原作者の前作である『GANTZ:O』でも総監督として制作を仕切っている。

一部設定に変更はあるが基本的なベースは原作に忠実であり、最終巻の話まで全てアニメ化されている。
イオンなどの単語は出てこないが、同じ放送局だったことが幸いしたのか『ONE PIECE』などへの言及は変更なく再現された。
作画の演出などから原作ファンを含めた視聴者からの評価は高い。声優の演技力については賛否分かれるが、獅子神などはむしろサイコっぽさが出ていると高評価する声も。

OP:My Hero/歌.MAN WITH A MISSION
ED:愛を教えてくれた君へ/歌.クアイフ

実写映画

2018年4月20日に公開。監督は原作者の前作である『GANTZ』の実写映画版を担当した佐藤信介。
主人公を木梨憲武が演じることが話題を呼んだが、対する獅子神を演じたのは佐藤健だったことから偶然にも「ヒーローと認められなかった男VSヒーローだった男」という役者ネタが出来上がっている。
基本的な話の流れは原作がベースだが、設定面で少なくない変更点があり、結末も異なっている。

【余談】


  • 奥は後に本作と『GIGANT』について自身のTwitterで「売りを考えずに個人的なネタで描いたが、充分黒字になるくらいには売れた」として読者に感謝を述べている。
    また、奥の妻が一番好きな作品とのこと。




追記・修正は夜中の公園で宇宙人の事故で死んだ末に機械に改造されてからお願いします。

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最終更新:2025年03月23日 04:23

*1 実写版では味噌汁やスポーツドリンク等の、塩分が含まれるものは接種できないとという設定が追加されている

*2 正確には目に内蔵されたカメラ

*3 宇宙空間の為会話は体内の通信で行われた