バラムツ/アブラソコムツ

登録日:2022/05/06 Fri 16:14:25
更新日:2024/04/22 Mon 20:16:07
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バラムツ(Ruvettus pretiosus)アブラソコムツ(Lepidocybium flavobrunneum)は、スズキ目サバ亜目クロタチカマス科に属し、温帯から熱帯の水深400〜850mに生息する大型の肉食深海魚。

鱗に生えた薔薇のような鋭い棘が名前の由来。捌く時は素手で触って裂傷を負わないように注意しよう。
名前にムツとついているがムツやクロムツはスズキ目スズキ亜目ムツ科で、コイツはどちらかと言うとサバタチウオに近い。

体長は150cm前後のものが多いが、200〜300cmに達する個体も確認されている。

筋肉に含まれる油で浮力を調節するため「オイルフィッシュ(oil fish)」という異名を持ち、夜になると餌を求めて水深100m近くへ浮上する。
それゆえ他の魚を目当ての夜釣りで網や釣り針に掛かって巻き添えになることが多い。
マグロやサバ、クエなどとは違う雰囲気を醸し出し、その質量感からスポーツフィッシングの対象としても人気である。

利用

食用

味はマグロ、特に脂が乗った大トロに近く、非常に美味である。




























   *   *
 *   + うそではないです
  n ∧_∧ n
+ (ヨ(*´∀`)E)
  Y   Y  *




















美味なのは確かだが、ひとつ重大な欠点がある。
先に述べた通り、彼らは浮き袋を持たず、代わりに脂(というか蝋)を体に約28%も蓄えて浮力を調節する。*1
この蝋…ワックスエステル*2と呼ばれる成分が曲者で、こいつはヒトの消化器官では全く消化できない。


そのうえ、消化吸収できなかった(ワックスエステル)自体の毒性は比較的低い。
「もうこいつを排出すべき」という排便時の信号を促すこともなく、油なので腸液とも混ざらず自由に動く。
つまり 自律神経に余計な刺激を与えない ので食べた人間が異常を感じることはない。

…なに?「じゃあ問題ないじゃないか」だって?そんなことはない。






この魚を多量に(少量でも)食べると約18時間~2日後に腹痛もなく便意すら催す事なくから脂が漏れてくるのだ。

体に害を与えることなく、勝手気ままに流れて、そっと漏れ出す─────
………そばにいる他の存在も伴って。

異常を感じないため自力で制御する(トイレに駆け込む)ことさえできず、尻から垂れ流して初めて異変を察知することになる。気がついた時には既に手遅れなのだ。
そして気がついた後、たとえトイレに 座って 頑張っても、腸内の各所に引っかかって残留し 横になって 体もアソコも緩んだ布団の中で再会する…というのも恐ろしいところ。
自分の意志で出すことも止めることもできないため、対策といえばせいぜい成人用オムツを履いて人目を避けて過ごすくらいだろうか。

また毒性が低いとはいえ、さすがに限度を超えた量を摂取すると重症化することがあり、下痢からの脱水症状、皮膚から油が漏れ出る皮脂漏症、最悪の場合は昏睡を引き起こす恐れもある。

このような特徴や食べすぎた時の症状から沖縄県では「インガンダルマ」と呼ばれている*3

そんな海鳥たちも食べようとはしないオムツ必須なバラムツは偶然混獲されたものを干物や練り物にして油を抜いて食べられていたようだが、食品衛生法で1970年、アブラソコムツは1981年に販売禁止された。1983年の山梨県ではクエと間違えて販売され、ある家族が多量に食べて地獄を見たという事件が起きている*4

それでもしばしば釣って食べたというレビューが見られるように日本は「食用不適切だから売るな」と言っているだけで、「食うな」とも「食えない」とも言っていない
とはいえ、自分で釣って食べるならバラムツという名前や食べるとどうなるかくらいは普通に調べるところだし、ましてや何も知らない相手に黙って出したりすれば下手しなくても傷害罪で訴えられかねない*5ので、もし釣れたとしても食べるかは完全に自己責任だ。

自分で釣るか漁師に分けてもらう必要があるが、実際に食べた人によると、「無臭だがラー油のような赤み」「匂いは完全に機械油で、酸化したグリスのような工場の機械のような匂いがした」という興味深い感想が出ている。
かつて「探偵!ナイトスクープ」で漁師の忠告を聞き入れず1匹食べたところ、夜に悪臭を放つ脂が垂れ流しになるという地獄絵図となった。
このため多量に食べることは厳禁。食べるなら二切れぐらい*6にしておくといいだろう。

海外だと韓国ではやはり食中毒と偽装表示が原因で2011年から販売禁止になったが、北欧や東南アジア、アメリカではスーパーで普通に市販されている。もし食べたいなら現地に行ってみるのも良いかもしれない。

下剤

下剤として利用している国もあるらしい。
前述の通り刺激を与えて腸の蠕動を起こす作用はないが、単純に潤滑油として出しやすくする作用が期待できる。
うかつに腸に刺激を与えると危険なので水分や潤滑を与えるだけの下剤は他にもある。

ろうそく

ろうそくに加工できないか?と検討され研究が行われている。

近縁種

アブラボウズ

学名はErilepis zonifer。全長150cm、最大183cm。こちらの脂は人体でも消化できるため流通は禁止されていないが、やはり特に胃腸が弱い人が食べすぎるとバラムツと似たような症状が起きる。
また肝臓にも高濃度のビタミンAを含んでおり、食べると激しい頭痛、発熱、吐き気などの症状が現れるため取り扱いには注意が必要。なおアブラボウズはカサゴ目でありスズキ目のバラムツ・アブラソコムツとは遠縁である。
……なのだが高級魚として人気のあるクエに見た目が似ているので稀にクエと偽って出回り、事件化することも*7

クロシビカマス

学名はPromethichthys prometheus。クロタチカマス科クロシビカマス属の魚。全長は最大で80cmほどになる。脂の多い白身魚で食用魚として流通する。
見た目がモンスターチックな上に小骨が硬く食べづらいため人気のある魚とはいいがたいのだが、相模湾や駿河湾の沿岸では珍重され、スミヤキ、ヤッパタ等の地方名で呼ばれる。
料理法は皮を引かず骨切りをして刺身にしたり、身をこそげとってなめろうやつみれにしたりする。

余談

  • クロタチカマス科以外でもワックスエステルを体内に含有する魚は存在する。特筆すべきはマトウダイ目マトウダイ亜目オオメマトウダイ科のオオメマトウダイで、コイツはバラムツよりも小型でワックスの含有量自体も少ないため地域によっては干物とかでの販売が可能。とはいえワックスエステルを含んでいるのは変わりないので、よく加熱し油脂を落として食べる事が前提である。
    他にもボラの卵巣の加工品であるからすみにもワックスエステルが含まれるのだが、からすみは一度に大量に食べるようなものではないので、一般的な食習慣の範囲内では問題ないとされている。

  • ワックスエステルは人の皮脂の成分でもあり、経口摂取さえしなければ健康上の問題はまずない。なので化粧品、例えばハンドクリームにも含まれている。
    割とポピュラーなのはホホバの種から採れるホホバ油、ミツバチが分泌する蜜蝋などだろう。オレンジラフィー油は南半球に生息する深海魚のオレンジラフィーから採れる。マッコウクジラから採れるマッコウクジラ油は「常温で液体のワックスエステル」として特に工業用潤滑油としての需要があり、鯨乱獲の一因となった。

  • アブラソコムツはその見た目からゾンビマグロ、或いはマグロのゾンビなる愛称で呼ばれている。

  • 体脂肪を体外へ排出するダイエットサプリメントの中には、この記事で紹介した様な形で、強制的に自覚無しに尻から垂れ流させられるタイプのモノもある。
    原理は違うのだが症状が似ているため「バラムツ効果」と呼ばれている。


追記・修正は尻から脂を垂れ流さないようにお願いします

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最終更新:2024年04月22日 20:16

*1 これは深海では水圧が高く(水深400m〜850mなら40〜85キログラムの圧力がかかっていることになる)、普通の魚のような浮き袋は深海から急浮上した時に水圧から解放されたことにより爆発する恐れがあるため。ちなみに浮き袋のある深海魚もいるが、やはり普通の魚とは違い中に脂肪を蓄えている。

*2 いわゆる「アブラ(oil)」のうち、よく燃えるが燃え方自体はゆっくりだとか、常温で固体か粘性の高い液体で融点が高いとかの「化学的性質が安定しているアブラ」のことをワックスエステル(日本語で蝋)と呼んでいる。ワックスエステル自体にはさまざまなな種類があり唯一固有の物質という意味ではない。バラムツのワックスエステルは化学的に安定しているからこそ人の臓器で吸収されにくいとも言える。

*3 の胃がゆるみ、下痢をするという意味

*4 一連の事件で5人が逮捕され、地元で広く報道され、一時的に近場のスーパーでの魚の売り上げが激減した

*5 きちんと説明しても食べると言うことなら食べさせてもいいが、相手の予後や少しでも揉める可能性まで考えると止めた方が賢明。

*6 脂が多いため二切れ程度でもずっしりとした満足感があり、自然と手が止まるとも言われているが

*7 アブラボウズ自体も地域によっては高級魚の部類ではあるが、身の旨味が身上であるクエと脂の甘味が身上であるアブラボウズとでは食味が大きく異なる。