登録日:2022/08/15 (月) 01:51:36
更新日:2024/09/27 Fri 00:06:55
所要時間:約 13 分で読めます
『星のカービィ ディスカバリー 新世界へ走り出せ!編』とは、角川つばさ文庫より出版している
小説版星のカービィシリーズの一作である。
作:高瀬美恵
絵:苅野タウ・ぽと
対象年齢:小学中級から
価格:720円(税抜)
概要
星のカービィ30周年に発売された『
星のカービィ ディスカバリー』のノベライズ。
今回は『スターアライズ』から4年ぶりに、後編が一ヶ月後に発売されることになっている前後編構成なのだが、本作では序盤~
エンディングまで
の範囲を一通りに描いている。
じゃあ後編はどうなるのかと言うと、
なんとエンディング後の隠しエリアのストーリーを描いた『星のカービィ ディスカバリー 絶島の夢をうちくだけ!編』。
まさかのクリア後ストーリーも描かれることにファンの驚愕を呼んだ。
前編となる本作は、1エリア&
ボスだけハブられているもののそちらはボスがビースト軍団と関係ないため、原作ストーリーを「VSビースト軍団」の構図としてかなり忠実に沿っている。
全体的にそつなくまとまった内容。厚さも今までと比べて少し分厚い。
……ただ、やはりエンディングまでをミチミチに詰め込んだ弊害か、多少駆け足気味なのはご愛嬌。むしろ
一冊で終わらせてまで後編は何する気なのか
と戦々恐々の人もいたとか……。
それでも話自体がどこか破綻しているわけではなく、ノベライズとして安定のクオリティ。
原作では謎だった描写に補完が入ったり、ラスボスの心境にも突っ込んでいたりと小説独自の補強も多く、見どころ満載である。
中には
元の流れを知っている人ほど「えっ!?」となる衝撃の展開
があり、クリア済みの読者にもじゅうぶん勧められる。
ちなみに、表紙のイラスト下側にはデデデ、キャロライン、レオンガルフらビースト軍団の幹部がいるのだが、
新刊などで帯が付属していると殆どが隠れ、帯を取った時に初めて見えようになる……というお遊びが仕込まれている。
このお遊びは従来の小説版や『
天駆ける船と虚言の魔術師』でも見られた。
あらすじ
プププランドの空に、とつぜん、ナゾのうずが
あらわれた! ワドルディ達やデデデ大王、
そしてカービィも、うずに吸いこまれて、たどり
ついたのは、見たこともない新世界。ここでは、
獣王レオンガルフひきいるビースト軍団が、
ワドルディたちをつかまえて、連れ去る事件が
起こっていた。カービィは、バンダナワドルディや
新世界で出会った仲間・エフィリンといっしょに、
ワドルディたちを助け出す、あらたな冒険に出発する!
大人気ゲーム『星のカービィ ディスカバリー』の小説だよ!!
(裏表紙より引用)
登場人物
ポップスター
食いしんぼうで元気いっぱい。
吸いこんだ相手の能力をコピーして使える。
さらに、あたらしい能力も登場!?
「どうなってるの? ぼくら、いっしょに吸いこまれたのに」
ある日プププランドに現れたナゾのうずに巻き込まれ、新世界に飛ばされてしまう。
その過程で起きた体の異変の影響で「ほおばりヘンケイ」が使えるようになった。
ビースト軍団から助けたエフィリンとはすぐ仲良くなり、バンダナワドルディとの三人組でワドルディ達を助ける冒険に出発していく。
案の定と言うべきか、新世界を取り巻く謎については不思議に思えども興味が薄く、
バンダナワドルディやものしり達の考察を聞いてもさっぱりといった様子。
デデデ大王の部下でカービィの友だち。
「デデデ大王様やカービィのこと、何日も何日も、探してたんだ」
ナゾのうずに吸い込まれ、カービィよりもだいぶ早くに新世界へと迷い込む。
エフィリンやワドルディ達と一緒に町を築いて暮らしていたが、ビースト軍団の襲撃によって壊滅。
カービィと合流したことで、共に冒険へと出発する。
だが、ホワイティホルンズで主のデデデ大王が襲いかかってきた時にはさすがのバンダナワドルディも躊躇し、勝つためとはいえ傷つけたことに自分の心も痛めてしまう。
忠誠心の厚い彼のことを思うと、今回の仕打ちはもはや尊厳ブレイカーである。
新世界の謎には鋭い考察を見せることも多々あり、カービィと読者でも極力わかりやすい説明に努めるなど地頭の良さがうかがえる。
ラストバトルの彼は完全にスタアラ後編のメタナイトである
常に仮面をつけていて、
すべてが謎につつまれた騎士。
「わかりやすい例を見せたまでのこと」
ゲームではカービィ達を追い越して調査を行い、ホワイティホルンズまで到達したかのように描写されていたが、
本作では最初からホワイティホルンズに飛ばされた。
そこで負ったケガを隠しながらワドルディの町がある方向に移動したようで、ちょうど辿り着いたところで町を襲っていたガルルフィ達を撃退。
カービィ達と合流した後は、新世界に謎が多すぎること、及び元の宇宙に帰る方法を調査することも併せ、ワドルディ達に頼まれ用心棒役を引き受けることになった。
ケガをしている事情があるため、流石にコロシアムでカービィと戦いを望むといったいつものバーサーカーぶりは無い。
……のだが、レンジャーのコピー能力の弱点を教える際、
衆人環視の真っ只中でカービィにいきなり剣で襲いかかる
という奇行に及び、カービィ達を困惑させた。これだからバーサーカーは
「わあ、バンダナせんぱい! エフィリンも!」
「それに、カービィさん!? カービィさんも、ここに!?」
ゲーム同様、ビースト軍団に次々とさらわれてしまったため救出対象となる。
ただしゲームと違ってワープスターが分裂する設定など無く、途中からは距離の問題でそのまま町に帰らせるわけにいかなくなる。
そこで、カービィがビースト軍団の幹部を倒すたびにワープスターで一緒に帰る……という流れを定期的に繰り返した。
この辺りはゲームでボスを撃破後、町に帰らされることのうまい理由付けと言える。
「そのぼうしは、ポップスターにあるコピー能力のぼうしと、非常に似ています」
ワドルディ達の中でも特に賢い個体で、バンダナからは「ものしりくん」と呼ばれる。
学者の帽子を被り、眼鏡をかけている。
ゲームでは謎の本で急に色んなことを知れるようになったという設定だったが、
本作では元々本好きであったところ、新世界に飛んだ後は考える時間が増えたことにより、ますます頭が冴えたという風に変更されている。
バンダナワドルディよりも的確な推理や考察を見せるが、例によってカービィは有益な情報以外まともに聞いていない。
「光栄です! 他のせっけい図も使って、どんどんぼうしを作りますね」
新世界でカービィのコピー能力ぼうしを作ったワドルディ。
頭にゴーグルをつけている。
最初のぼうしはものしりワドルディに協力してもらい、夜も寝ずに昼寝だけして完成させた。
その後もぼうしを作り続け、カービィの戦いを陰ながら支えていく。
エフィリンとビースト軍団
新世界で出会った、しんぴてきな子。
カービィたちの冒険を手助けしてくれる、大切な仲間。
「ボクも……いっしょに行ってもいい? ボク、戦えないし、あんまり役には立てないけど……」
ビースト軍団に襲われていた、ネズミのような姿の子。
ワドルディ達と出会ったことで仲良くなり、共に町で暮らしていた。
明るい子だが、他の面子と違って戦える力が無いことを気にしており、自分がカービィ達と一緒にいていいのだろうかと迷いも抱いていた。
しかし、新世界を案内してくれたことや、せっけい図を見つけてくれた活躍などから、カービィはエフィリンのことも仲間だと言い切ってくれたため、自信を持って冒険についていった。
本作はカービィ、バンダナワドルディ、エフィリンら三人組の友情が強調された側面も併せ持っており、ゲーム版に輪をかけて「大切な仲間」である印象が強まっている。
ホワイティホルンズの戦いではデデデ大王に不意を突かれ、連れ去られてしまうが……
その正体はラボ・ディスカバールで眠り続ける真の黒幕、ID-F86の片割れ。
実験事故の影響で本体から分離したが、エフィリンにはその自覚が全く無かったため、なぜビースト軍団に追われているのか理解できなかった。
さらわれた後は基本的にゲーム版と同じ経緯をたどる。
……ゲームでは様々な事情も重なり、ラストにはエフィリンが元気な姿で戻ってスタッフロールに続くのだが、
本作ではエフィリンが戻ってくることは無いまま物語は終わりを迎える。勿論、ワドルディ達やデデデ大王らがどうなったのかも分からない状態である。
いくら後編に持ち越しとはいえ、まさかの展開に衝撃を受けた読者は少なくない。
なお本作は『星のカービィ 30周年記念ミュージックフェス』を間近に控えた日の刊行であり、読んでしまったがために情緒を滅茶苦茶にされたまま当日を迎えた読者もいる
「ガルルルル……」
ビースト軍団の主要な下っ端。
新世界のあちこちでカービィに襲いかかるが、案の定カービィには手も足も出ないことの方が多い。
なお下記の幹部も含め、レオンガルフ以外で人語を喋るビーストは一切存在せず、台詞のフォントもカービィ達とは違う書体に統一されている。
「ンゴォォォォォォー!」
最初に出くわしたビースト軍団幹部。
ネイチェル草原のショッピングモールを縄張りにしている。
ショッピングモールに溜め込んでいたバナナをカービィ達が勝手に食ったため、怒って襲いかかった。
「ニャアアアアア!」
二番目に戦ったビースト軍団幹部。
ワンダリア跡地のサーカステントを縄張りにしている。
他の幹部と違って立ち位置が特殊なのだが、本作時点ではまだそのような素振りは見せない。
「ギャォォォォォォ!」
四番目に戦ったビースト軍団幹部(三番目は後述)。
オリジネシア荒野大地の洞窟を縄張りとし、カービィ達を待ち構えていた。
ゲームでもやたら印象的だった大量のカービィ手配書がホラー扱いされており、戦闘でもカービィしか眼中にないという謎の徹底ぶり。
「ワドルディ! オレ様につかまれ……!」
ナゾのうず出現時、吸い込まれそうになったバンダナワドルディに手を伸ばす。
しかし抵抗かなわず、結局吸い込まれてしまった。
デデデの行方はワドルディ達もずっと気にしており、遂にホワイティホルンズでカービィ達と再会するが……
「ガァァァァァー!」
この時点で既に正気ではなく、目が赤く染まった凶暴な姿で襲いかかってくる。
どうやら言語能力も失っているようで、雄叫びを上げるのみで終始言葉を話すことはないものの、カービィの戦術的な弱点を見抜くなど思考能力は決して低くない。
原作に沿った戦い方をし、追い詰められた際には柱を振り回したが、さすがに謎の力で氷を生み出すことまではしなかった。
撃破された後、エフィリンをさらって本拠地に逃げてしまうが……
なおやはりと言うべきか、
デデデが操られやすいのは割と周知されている事実
らしく、
少なくともメタナイトは一連の話を町で聞いて「デデデ大王のことだ」と
いつもの事のように語った。
「きさまの名は、猛獣仮面ワイルドデデデ。大王より、よほど良い名だろう?」
ビースト軍団の首領。
ゲームでは直接対決まで名前が伏せられていたが、本作では序盤も序盤からエフィリンによって名前ごと存在を明かされた。
その後、カービィ達がレッドガル禁足地に出発する前、デデデ大王を呼びつけて上記の台詞とともに怪しい仮面を授ける。
カービィ達がラボ・ディスカバール最上階の制御室に到着後は、原作通りの流れで対決、退場する。
手下が怖気づいた後の「ええい……生ぬるい!」をはじめ、上記場面を含めて新規の台詞は少し増えているが、そこまで独自の台詞は多くない。
彼について本格的に掘り下げられるのは後編での事となる。
やっと……やっと手に入れた……これで……もどれる……!
ビースト軍団を操っていた真の黒幕。
かつて新世界を侵略したが、当時の住民らによって囚われ、研究に利用される。
住民がいなくなった後はラボ・ディスカバール最上階のエターナルカプセルで眠りにつきながら、ビースト軍団を操り、ナゾのうずで利用価値のあるものを引き寄せていた。
レオンガルフが敗北後はカプセルから飛び出し、「フェクト・フォルガ」としてビースト軍団を取り込みおぞましい化け物となってカービィ達を追い回した。
巨大な敵が追いかけてくる状況ではカービィ達も逃げながら戦うしかなく、どうにか撃破されたものの悪あがきにエフィリンを取り込み、完全体の「フェクト・エフィリス」となって決戦が始まる。
おまえのような者、われの計画にはなかった! おまえなど、われの計画には不要!
一人称は「われ」。カービィ達には言葉が思念となり伝わっている。
基本的な設定や展開はゲームと差異は無いが、台詞の追加に加えて元々ゲームで示唆されていた「新世界の住民に囚われ、ツアーと称して見世物扱いされ続けたことへの憎しみ」がフォーカスされている。
当時の出来事は彼にとって何とも耐え難い屈辱であり、その事をバンダナワドルディが見抜いた際には「だまれだまれだまれ! おろか者ども!」と激怒する姿も。
計画もカービィのせいでぶち壊され、エフィリンも奪われたエフィリスは更に憎しみを募らせ、最後の力を振り絞りポップスターを新世界に衝突させようとするが……
設定など
本作の舞台。なお作中では「新世界」という呼称は使われていない。
ポップスターとは別の宇宙に存在する星で、高度な文明が栄えていたが、現在は住民が一人も残っておらず、建物はボロボロで緑に覆われているものもある。
住民の代わりにビースト軍団が生息しており、なぜかワドルディとエフィリンを狙っている。
舞台としては、エバーブルグ海岸以外の全エリアが登場。一応海岸を越えてという地の文はあるため、存在はしている模様。
しかしネイチェル草原とワンダリア跡地以外、各エリアの詳細な描写は結構あっさりしているため、終盤の熱い展開である幹部再戦や本拠地カチコミステージもカット。残念。
一方で、かの超重要施設「
ラボ・ディスカバール
」については、レッドガル禁足地に向かう計画を立てる時点で早くから存在が明かされている。
ポップスターに突如現れた、文字通り謎の巨大な渦。
カービィ達をことごとく吸い込み、新世界に送り込んでしまった。
バンダナワドルディ曰く、内側は時間がねじれているようで、ワドルディ達と同じタイミングで吸い込まれたカービィは彼らよりもだいぶ後に到着した。
ゲームでも
吸い込まれたばかりなのにもう町が作られている
という形で時間のズレが示唆されていたが、本作では上記のようにハッキリと明示されている。
カービィがナゾのうずで得た、新しい能力。
自分よりも大きな物体を強引に吸い込み、その形状を活かすことができる。
本作では口が塞がっている影響で、その間は喋れないという事実が判明した。
新世界に連れて来られたワドルディ達が築いた町。
カービィが来た時はビースト軍団によって壊滅していたが、ワドルディ達を助けては連れて帰るにつれ、少しずつ復興。
いつかデデデ大王が戻ってきた時のために全員張り切って町を立て直している。
なおゲームで真っ先に建てられていた映画館は後に回されている。さすがに娯楽最優先とまではいかなかったらしい。
本作のカービィは敵から能力をコピーするのではなく、
カービィが普段コピー能力で被っているぼうしとよく似た、この世界に元々落ちているorせっけい図をもとに作ったぼうしを被って得る、という形になる。
話が複雑になるからか、本作ではコピー能力の「進化」については取り上げられていない。
ちなみにぼうしの材料は
その辺の木の枝や石ころ
。お手軽すぎでは?(一応、メタナイトに材料の木や石にはこの星の不思議なパワーが宿っていると捕捉されてはいるが…)
……そもそもゲームからして
なんでコピー能力のせっけい図が新世界に落ちてるの?
と首を傾げたくなるのだが、
ものしりワドルディが言うには
かつて何らかの手段で、コピー能力のぼうしがポップスターから持ち込まれて研究・開発されたのではないか
、とのこと。
つまり、彼の考察が仮に真実であれば新世界の住民はポップスターの存在を認知していたという、考えようによっては恐ろしいことに……
その疑惑は後編でついに決定的なものとなる。
追記・修正お願いします。
- 7200円…? -- 名無しさん (2022-08-15 02:41:48)
- 新作出たのか。初めて知った -- 名無しさん (2022-08-15 10:44:35)
- エフィリン戻ってこない→新世界に戻る手段無し(ハルバードという手段はあるが・・・)→デデデ達も帰れず kwsk「詰んだんじゃないの~?」 -- 名無しさん (2022-08-15 15:24:13)
- まさか、バルフレイナイトまた出てくるのか...?(まあ、誰も思うことだろう。この時点で。) -- 名無しさん (2022-08-15 16:24:02)
- ↑現に表紙に例の蝶がいた -- 名無しさん (2022-08-15 16:38:36)
- ほおばり中は喋れないのはゲームでも音声ないから薄々気がついていた人も多そう -- 名無しさん (2022-08-15 17:25:15)
- 本筋は駆け足気味かもしれんが 原作からの補完や取捨選択がしっかりしてるので薄味には感じない -- 名無しさん (2022-08-15 19:15:18)
- コピー能力のことを知っている新世界人って何もんだよ あれはゲームの都合だからで済ませてたが小説で組み込まれるとなると・・・ -- 名無しさん (2022-08-17 21:15:49)
- よく見ると表紙のレオンガルフの目が… -- 名無しさん (2022-10-12 21:29:48)
- トロピカルウッズ「俺ビースト軍団ではなかった…」 -- けんしん (2024-08-02 15:37:55)
最終更新:2024年09月27日 00:06