フォー・ルームス(映画)

登録日:2023/12/31 (日) 08:13:27
更新日:2024/08/30 Fri 17:35:43
所要時間:約 9 分で読めます




1996 NEW YEAR タランティーノ軍団 世界席巻!


概要


『フォー・ルームス』(原題:Four Rooms)は、1995年12月25日にアメリカで公開されたオムニバスコメディ映画。
日本では1995年12月9日に公開された。

本作の企画は、インディーズ映画の登竜門、サンダンス映画祭が縁となって始められた。
1992年には『レザボア・ドッグス』で映画界を席巻したクエンティン・タランティーノ、『ガス・フード・ロジング』の女流監督アリソン・アンダース、
『イン・ザ・スープ』でグランプリを受賞したアレクサンダー・ロックウェル。
翌年には7000ドルで製作された超低予算アクション映画『エル・マリアッチ』のロバート・ロドリゲス。*1
4人は自分たちのことを、新たなムービー・ブラット世代*2やフランスのヌーヴェルバーグと並び評されるものとして見るようになっていた。
そして会うごとに、それぞれのスタイルでアンソロジー映画を作りたいという話で盛り上がるようになった。
アンダースは女優たちのアンサンブル、ロックウェルは昼メロモチーフ、ロドリゲスは『スパイキッズ』の原型とでも言うべきファミリー映画。
そしてタランティーノは、往年のテレビシリーズ『ヒッチコック劇場』の一編『リオから来た男』*3のパロディ。

かくして気鋭の映画作家たちによる夢の企画が動き出したわけだが……待っていたのは試練だった。

当時インディーズ映画界において絶大な影響力を持っていたのがミラマックス社であり、同社を率いていたハーヴェイ・ワインスタインである。
後の#MeToo運動で失脚した彼であるが、セクハラ問題だけでなくパワハラで相手を恫喝し、脚本やフィルムをズタズタに切り刻むことでも極めて悪名高かった
本作もまたワインスタインの犠牲となり、合計2時間半の所を大幅にカットされることとなった。
タランティーノは一番のスター監督*4であり、長回しメインで切る場所がなかったのと、ロドリゲスのパートは24分と短めだったことからカットを免れたが、残る二人のパートが犠牲となった。
おまけに監督同士の連携も上手く取れない状態が続き、興行的にも批評的にも振るわなかった。
実際タランティーノも黒歴史扱いしているのか、自身の公式な監督作にカウントしていない。
そればかりか、『キル・ビル』の原型に当たる脚本執筆が本作の撮影でストップしたのもあって、「大嫌い」とまで言われている。*5
ロドリゲス自身もまた「実際に出来上がるまで、どんな作品になるのかまるで見当もつかなかった」と発言しているので、かなりの見切り発車で作られたことが窺える。

そんな本作であるが、吹き替え版は大変豪華な面子が揃っている。
例えば第一話の魔女たちは『セーラームーン』声優が揃い踏み、第二話の夫婦は『スペースコブラ』のコブラとレディの組み合わせ
……しかしこの吹き替え版は、とある理由で現在事実上の封印作品になっている。
二重の意味で黒歴史になるとは、つくづく報われない作品である。
もし吹き替えありのソフト(VHS、東芝盤DVD)を持っていたら大切にしよう。

あらすじ


大晦日の老舗ホテル・モンシニョール。
新米ベルボーイのテッドはたった一人で、一晩中奇妙な客たちの相手をさせられることになる。

ルーム321/お客様は魔女 監督:アリソン・アンダース


ハネムーンスイートに集まった女性たち。
実はその正体は魔女で、40年前に石にされた偉大な魔女「女神ダイアナ」の復活の儀式を執り行おうとしていた。
それぞれ復活に必要な材料を大釜に捧げる中、イヴァが泣き出した。
「彼があまりに激しすぎて、精液を飲みこんでしまいました……」
するとそこに、テッドがやって来て……

ルーム404/間違えられた男 監督:アレクサンダー・ロックウェル


パーティー中の客から氷の手配を頼まれたテッド。
しかし部屋の指示が間違っており、訪れた404号室にいたのは下着姿で縛られた女と、357マグナムを突きつけてくる男だった!
どうやら彼はテッドのことを、妻の浮気相手だと勘違いしているようだが……

ルーム309/かわいい無法者 監督:ロバート・ロドリゲス


309号室にシャンペンを届けに来たテッド。
客はヤクザな雰囲気で怖そうな一家。テッドはパーティーに行く夫婦から、子供たちの世話を500ドルで請け負うことに。
しかしこの子供たちはとんでもない悪ガキな上、部屋には恐るべき秘密が隠されていた……!

ペントハウス/ハリウッドから来た男 監督:クエンティン・タランティーノ


おかしな客たちに振り回され、散々な新年を迎えたテッド。
上司のベティに退職することを伝えるが、最後に上客チェスター・ラッシュの面倒だけは見てほしいと言われる。
さっさと用事を済ませ帰りたいテッドだったが、チェスターに丸め込まれて危険な賭けに参加させられてしまう。

登場人物


  • テッド
演:ティム・ロス
吹替:田代まさし

ホテル・モンシニョールの大晦日の夜をたった一人で任された新米ベルボーイ。
これだけでも相当なブラックぶりだが、搾精されたり、いきなり銃を突きつけられたり、上の階の客からゲロをぶつけられたり、悪ガキたちに翻弄されたり……
イカれた客たちに散々振り回されて退職を決意する。
しかし金にがめつい上、最後はある種のしたたかさを発揮し、彼なりにいい新年を迎えることができたようだ。

ちなみに本来はスティーヴ・ブシェミが演じること前提で作られたキャラクターだった。
しかしブシェミは『バートン・フィンク』で自分が演じたベルボーイに役が近すぎると、このオファーを断っている。
そして吹き替えはご覧の通り、封印された原因そのものである*6


ルーム321

  • イヴァ
演:アイオン・スカイ
吹替:三石琴乃

女神ダイアナ復活のために集まった魔女の一人。
復活に必要な精液を飲みこんでしまったため、代わりにテッドに狙いを定める。
なお、実際は助産師になることを希望しており、魔女の集会に参加したのは女子力について知るためらしい。

  • アシーナ
演:ヴァレリア・ゴリノ
吹替:富沢美智恵
  • エルスペス
演:マドンナ
吹替:深見梨加
  • ジゼベル
演:サミ・デイヴィス
吹替:久川綾
  • ライブン
演:リリ・テイラー
吹替:篠原恵美
  • キヴァ
演:アリシア・ウィット
吹替:田中加奈子

女神ダイアナ復活の儀式のために集まった魔女たち。
復活に必要な精液の回収に失敗したイヴァに対し、一時間以内にそれを入手するよう命じる。
ちなみにキヴァのみ普通の人間であり、最初は儀式に乗り気でなかった。

  • 女神ダイアナ
演:アマンダ・デ・カディネット

魔女たちが崇める偉大な存在。なおその姿はどう見てもSMの女王様
しかし40年前の結婚式、嫉妬したライバルに呪いをかけられ、夫はピンクの魚に、彼女は石にされた。
母乳、処女の血、五人の男の太腿から得た汗、1年分の涙、そして精液によって復活する。


ルーム404

  • シグフリード
演:デヴィッド・ブローヴァル
吹替:野沢那智

テッドが部屋に入るなり、妻の浮気相手と勘違いして銃を突き付けてくる危ない男。
運の悪いことに、浮気相手の名前がテッドと同じテオドアだったため信じてもらえない。
それでも妻の耳を噛めと言われて毅然とした態度を取ったテッドに好意を抱きキスまでしてくるが……心臓発作を起こし倒れる。
強心剤のニトロを見つけられなかったテッドはトイレの窓から脱走しようとするが失敗。
妻からも夫が死んだとなじられるが……実は愛情を確かめるために演技していただけだった。

  • アンジェラ
演:ジェニファー・ビールス
吹替:榊原良子

404号室で猿ぐつわを噛まされ、椅子に縛り付けられていた女性。
夫に愛情を試されたことを知って激怒し、男性器の様々な呼び名で罵倒するシーンは必見
また、後述するチェスターの友人であり、最終話にも再登場する。

演じたジェニファー・ビールスは、当時ロックウェルの妻だった。


ルーム309

  • サラ
演:ラナ・マキシック
吹替:坂本千夏
  • ファンチョ
演:ダニー・ヴェルデュスコ
吹替:野沢雅子

309号室に宿泊した一家の悪ガキ姉弟。
親がいない間にアダルト番組*7を見たり、部屋の絵画に落書きしたり、なぜか部屋にあった注射器でダーツをしたりテッドにブッ刺したり、飲酒に喫煙と狼藉の限りを尽くす。
また、部屋の異臭を感じており、当初はお互いの足が臭いからだと思っていたが、ベッドには腐乱死体が隠されていたのだった……!

演:アントニオ・バンデラス
吹替:大塚明夫
演:タムリン・トミタ
吹替:佐々木優子

309号室に宿泊した夫婦。
500ドルで子供たちの世話をテッドに頼みパーティーに行くが、最悪のタイミングで戻って来てしまう。
「……いい子にしてたか?」


ペントハウス

  • チェスター・ラッシュ
演:クエンティン・タランティーノ
吹替:広川太一郎

ホテル・モンシニョールの上客である、デビューに成功したばかりの映画監督。
要するにタランティーノ自身のセルフパロディである。
『ヒッチコック劇場』の一編『リオから来た男』を元に、ライターを10回連続で点火させれば自身の車をプレゼント、失敗すれば小指を切り落とすという賭けを開く
テッドに木のブロック、釘、麻紐、氷の入ったバケツ、そして肉切り包丁を要求したのもこのエピソードが元ネタ。
映画の蘊蓄話を繰り広げつつ、巧みな話術と1000ドルの大金をちらつかせて、テッドに指切り役をやらせるよう仕向ける。

  • レオ
演:ブルース・ウィリス
吹替:樋浦勉

チェスターの仲間。
妻と仲が悪く、電話で大ゲンカした挙句にキレ散らかしていた。

演じたブルース・ウィリスは本作にノーギャラで出演しているが、SAG(俳優組合)の規定に違反しているためクレジットされていない。

  • ノーマン
演:ポール・カルデロン
吹替:羽佐間道夫

チェスターの仲間。
ライターを10回連続で点火させる賭けに参加する。


余談


〇OPのアニメで、タランティーノの映像制作プロダクション「A Band Apart」のロゴからテッドが登場する。
「A Band Apart」のロゴ自体『レザボア・ドッグス』を模したものだが、ロスが演じたMr.オレンジの中からテッドが表れる演出にはニヤリとさせられた方もいるのでは。
ちなみにこのアニメ部分は、『ルーニー・テューンズ』シリーズなどで知られるアニメ界の大御所チャック・ジョーンズが関わっている。

〇二話目の直前、テッドに氷を持ってくるように要求した客は、タランティーノ作品のプロデューサー、ローレンス・ベンダー。
他にも本作には、タランティーノのビデオ屋時代の同僚や知人も出演している。


追記・修正は、無事に新年を迎えてからお願いします。


参考文献

キネマ旬報1995年12月下旬号
クエンティン・タランティーノ 映画に魂を売った男(フィルムアート社)
『スウィート・シング』:アメリカン・インディペンデントの幸せな系譜

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  • ブルース・ウィリス
  • 豪華吹き替え
  • 田代まさし
  • 1995年
最終更新:2024年08月30日 17:35

*1 さらにもう一人『バッド・チューニング』のリチャード・リンクレイターも参加する予定だったが降板し、現在の『フォー・ルームス』となった

*2 1970年代における、スティーブン・スピルバーグやマーティン・スコセッシなどの世代

*3 原作はロアルド・ダールの短編『南から来た男』

*4 ミラマックス社が巨大化できたのはひとえに『パルプ・フィクション』の大ヒットのおかげであり、ワインスタインもタランティーノには頭が上がらなかった

*5 出典:「キル・ビル」&タランティーノ・ムービー インサイダー P31

*6 まあ吹き替え声優を変更すればいいだけではあるのだが。そこまでするほど売り上げが見込める作品ではないと判断されているのだろう。

*7 ちなみにストリッパーを演じているのはロドリゲス作品の常連、サルマ・ハエック