現役ドラフト(プロ野球)

登録日:2024/01/20 Sun 18:30:00
更新日:2025/10/27 Mon 22:33:56
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現役(げんえき)ドラフトとは、日本のプロ野球(NPB)において出場機会に恵まれない中堅選手の移籍活性化や俗に言う「飼い殺し」の防止を目的とした、2022年オフから導入された移籍制度のこと。


概要

MLBの「ルール・ファイブ・ドラフト*1」を参考に、選手会が出場機会に恵まれない中堅選手の移籍活性化を目的とし、導入を希望したことで2018年中旬から選手会とNPBが議論を重ね、2019年3月に正式に選手会がこの制度の導入を提案した。
その後も選手会・NPB・プロ野球実行委員会が議論を重ね、2020年初旬から実行委員会が取りまとめた案が正式に提示され、12球団の方針も大筋合意に達したため、選手会の意見を聞き、選手会が導入を了承すれば2020年から導入される予定であった。

しかし、コロナ禍によってシーズン開幕が延期されるなど球界にも大きな影響が出たため、この年の導入は見送られることになった。
その後も議論を重ねて2022年9月に指名方式が判明し、10月に選手会とNPBは2022年オフからの導入に合意。12月に第1回が開催されることが正式に決まった。


ルール

現役ドラフトではNPB12球団が提出した選手が指名対象となる。
しかし、以下の7例に該当する選手は指名することはできない。
  • 外国人選手
  • 複数年契約を結んでいる選手
  • 翌季の年俸が5000万円以上の選手(ただし、1人だけ年俸5000万~1億円未満の選手を対象にすることが可能)
  • FA権を保有している、もしくは過去に行使した経験がある選手
  • 育成選手
  • 前年の日本シリーズ終了以降にトレードやFA(人的補償)など、選手契約の譲渡により獲得した選手
  • シーズン終了後に育成から支配下契約に昇格した選手
2023年の第2回からは、最低2人以上は年俸5000万未満の選手を指名対象として提出することが義務付けられるようになった。


指名方式

まず12球団が基本年俸5000万未満の対象選手を最低2人はリストアップし、各球団が指名したい選手1人に投票を行い、最も多くの票を集めた選手を出した球団から指名を開始することができる。最多得票数の球団が複数出た場合は同年のドラフト会議におけるウエーバー順(順位の低い順)で指名権を獲得する。

つまり簡単に言えば、まずどの球団も選手を2人以上選択し、他の11球団から「この選手欲しい!」と言われるほど他球団からの評価が高い選手を出したチームから、他の11球団の選手を自由に選べる権利の優先順が高いという仕組みである。

2巡目以降も存在し、2024年には初めて広島が2人を指名した。

ドラフト会議とは違って非公開で行われており、終了後に移籍が決定した選手が発表されるようになっている。
各球団が提出した選手リストは口外厳禁の秘密情報として扱われ、指名を受けた選手の名前以外の情報については各球団が秘密保持の義務を負う。


歴代現役ドラフト移籍者リスト





現役ドラフト選手の移籍後の活躍について

前所属球団で燻っていた姿が嘘のように覚醒し、1年でチームに欠かせない存在になった事例も第1回から既に存在する。特に顕著な活躍を見せた選手は以下の通り。

大竹耕太郎(ソフトバンク→阪神、第1回)

ソフトバンク時代には好投しても無援護でなかなか勝てない投手としてネタにされ、移籍前の2年間に至ってはストレートの球速が130km/h弱まで落ちるなど振るわなかった彼だったが、前年の後半からはコーチの助言を受け入れて落ち込んでいた球速の回復に努め、140km/h前後まで戻して首脳陣から復活の期待も高まっていた中で現役ドラフトへかけられることになり、名の知れた有望株がリストアップされたことはソフトバンクファン以外からも驚きを持って受け止められた*2
移籍後は精密なコントロールを武器に21試合の登板で12勝2敗・防御率2.26と大ブレイクし、5月には月間MVPを受賞。先発ローテーションの一角として18年ぶりのリーグ優勝と38年ぶりの日本一に貢献。この年だけでソフトバンク時代以上の勝ち星を挙げており、年俸も推定6700万円と3倍以上の増額を果たした。
その後もローテーション投手として活躍し、2025年6月21日の古巣との交流戦では育成出身選手として初の12球団勝利の快挙を達成した。


細川成也(DeNA→中日、第1回)

DeNA時代には1年目からプロ初打席を本塁打で飾る*3など期待を集めたものの、以降は二軍では好成績を残しながらも一軍の壁に阻まれて伸び悩み、結局6年間で通算6本塁打にとどまっていた。
しかし、移籍後は和田一浩打撃コーチとの出会いによってシーズン序盤から奮闘し、5月には大竹と一緒に月間MVPを受賞。早々に前年までの通算本数を軽く超える本塁打を放ち、あっという間に打線の中心に。終盤こそやや調子を落としたが、最終的に初めて規定打席打率に到達し、24本塁打・78打点と大ブレイク。球団日本人選手として13年ぶりとなるシーズン20本塁打を達成するなど、チームが2年連続最下位に沈む中で明るい材料になった。年俸も推定4500万円と約4.5倍にアップしており、大竹をも上回る昇給率になっている。
ここ数年は特に長打力不足が槍玉に上がり続ける中日においては貴重な長距離砲と言っても過言ではない活躍ぶりで、今ではすっかりチームの主砲として定着している。
続く2024年は全試合出場を達成して現役ドラフト選手初のベストナインを受賞し、2025年の開幕前には強化試合とはいえ現役ドラフト選手初の侍ジャパントップチーム選出になるなど、現役ドラフト選手のパイオニア選手になりつつある。


水谷瞬(ソフトバンク→日本ハム、第2回)

四軍まで存在する古巣では層の厚さもあって一軍出場すらかなわなかった彼だが、移籍後はみるみるうちにその才能を開花させ、交流戦では18試合のうち16試合で安打を記録し、うち8試合でマルチ安打・7試合で長打を放つなどセ・リーグを震撼。最終的には2015年の秋山翔吾を上回る交流戦史上最高となる打率.438を記録してMVPを獲得*4。最終的に打率.287・9本塁打・39打点の成績を残すなど大ブレイクを果たし、2年連続最下位に沈んだチームのAクラスおよびエスコンフィールド初のCS開催に大きく貢献した。
9月28日のソフトバンク戦では自分とは逆に日本ハムからソフトバンクに移籍した長谷川威展と対戦し、本塁打を放っている。
その後も外野のレギュラーの一角として活躍しており、2025年の開幕前のオランダ代表戦では細川とともに侍ジャパンに選出されている。


田中瑛斗(日本ハム→巨人、第3回)

日本ハム時代は実働4年間でわずか10試合の登板に過ぎなかったが、新天地では阿部慎之助監督からシュートの質を評価され、主に右打者相手に活躍。約6倍となる62試合に登板し、プロ初ホールドを含めた36ホールドを記録するなど中継ぎとしてフル回転しており、複数の試合で無死満塁の危機を無失点で抑えるなど大きく飛躍を遂げた。

これほどの活躍ではなくとも一定の結果を残した選手は存在するが、一方でこの制度はよく言えば「出場機会に恵まれない中堅支配下選手の移籍による活性化」、悪く言えば「チーム構想によっては構想外寸前の支配下中堅選手にラストチャンスを与える」という趣旨である以上、上記のように新天地でもチャンスを掴めなければ1年で戦力外通告ないし育成降格といった辛酸を舐めることになった選手もまた多い。
阪神・広島・オリックスで指導者を歴任し、現役時代にトレードの経験もある岡義朗氏によると、入団して4~5年経つとその選手に対する固定観念とも言うべき評価がある程度固まり、選手の飛躍の妨げになることがあると指摘。その点、現役ドラフトによって新しいチームに行くことで評価がいったんフラットになり、「招かれて行く」ということでチャンスが増えて新たな可能性を見出してくれると分析する。
一方で、逆に言えば古巣にとっては出しても問題がない選手、つまり必要とされない選手という側面もあるが、その崖っぷちのメンタルによって選手の闘争心に火が付き、新たな可能性が生まれるとも語る。

ともかく、このような成功例が生まれたこともあって未だ改善の余地がありながらも、導入を自ら希望した現役のプロ野球選手は当然として、プロ野球ファン・OB・解説陣からも肯定的に扱われることが多い。
少なくとも上記の選手の活躍を目の当たりにした4チームのファンでこの制度に否定的な者はいないと言っていいだろう。
上記のように完全非公開であることから、年末になるとファンやメディアの間で予想合戦が繰り広げられるようになっており、今やオフシーズンの新たな目玉イベントになっており、さながら「12球団トレード大会」とも呼べる盛り上がりと化している。


余談

野球ゲーム『実況パワフルプロ野球シリーズ』においては本来実装初回となったであろう『2022』には全くの非実装だった。
本作は他にも日本ハム関係の変更に対応できておらず、エスコンフィールドは2023年度シーズン版データには実装そのものがなく、先発投手と指名打者の兼任も可能な「大谷ルール」も完全に非対応*5であるなど開発環境の混乱がうかがえる。
実装できなかった要素が多いこと、先述のように相談がまとまったにも関わらずコロナ禍の影響で導入時に混乱したために取材が間に合わなかったのが推測できることから、シンプルに納期を落として断念した可能性が高い。

続く『2024』には上記の2つに加えて現役ドラフト制度も実装されており、ペナントモードでは「あり」「プレイヤーが手動で指名する」に設定すればプレイの一環として現実と同様の掘り出し物的な選手の獲得・ポジティブな放出が可能。また、プレイヤーが操作している選手が指名OKの対象になっている場合、マイライフモードでもこれによる強制的な移籍イベントが発生する(主人公が現役ドラフトで指名される)可能性がある。相棒枠キャラとなる奥居に関しても、連携練習で上げてやらないと能力が絶妙に中途半端なためか彼が現役ドラフトで指名されて主人公と別れ別れになることは結構あるようだ。ゲームの都合上、現役ドラフトで移籍したばかりの選手がまた移籍する可能性があるのはご愛敬*6
少なくともペナントに関しては、OB選手のオールスターチームをメインにして遊ぶためにそもそも二軍選手がいない上に一軍の壁が厚すぎる時代考証としておかしくなるのが気になる場合はコンフィグでなしにすることも可能。



追記・修正は、現役ドラフト選手の奮闘を願っている方にお願いします。

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最終更新:2025年10月27日 22:33

*1 名前の由来はMLB規約の第5条に規定されていることから。

*2 球団と現場の意思疎通に問題があることや、そもそもソフトバンク自体が球速やパワー型投手偏重で大竹のような技巧派を軽視している問題を指摘する意見も挙がってはいた。

*3 この際の対戦相手が奇しくも、入れ替わるように中日からDeNAへ移籍した笠原祥太郎である。

*4 球団では2007年のライアン・グリン以来で、打者としては史上初。

*5 NPBでは2023年から規定されたが、ゲームにおいてはエスコンフィールドと同じく2023年度データ版には実装されなかった。

*6 例えば2023年に移籍したばかりの愛斗がゲームでの2025年の現役ドラフトで西武に復帰するといった事例も起こりえる。