現役ドラフト(プロ野球)

登録日:2024/01/20 Sun 18:30:00
更新日:2025/05/12 Mon 22:53:45
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現役(げんえき)ドラフトとは、日本のプロ野球(NPB)において出場機会に恵まれない中堅選手の移籍活性化や俗に言う「飼い殺し」の防止を目的とした、2022年オフから導入された移籍制度のこと。


概要

MLBの「ルール・ファイブ・ドラフト*1」を参考に、選手会が出場機会に恵まれない中堅選手の移籍活性化を目的とし、導入を希望したことで2018年中旬から選手会とNPBが議論を重ね、2019年3月に正式に選手会がこの制度の導入を提案した。
その後も選手会・NPB・プロ野球実行委員会が議論を重ね、2020年初旬から実行委員会が取りまとめた案が正式に提示され、12球団の方針も大筋合意に達したため、選手会の意見を聞き、選手会が導入を了承すれば2020年から導入される予定であった。

しかし、コロナ禍によってシーズン開幕が延期されるなど球界にも大きな影響が出たため、この年の導入は見送られることになった。
その後も議論を重ねて2022年9月に指名方式が判明し、10月に選手会とNPBは2022年オフからの導入に合意。12月に第1回が開催されることが正式に決まった。


ルール

現役ドラフトではNPB12球団が提出した選手が指名対象となる。
しかし、以下の7例に該当する選手は指名することはできない。
  • 外国人選手
  • 複数年契約を結んでいる選手
  • 翌季の年俸が5000万円以上の選手(ただし、1人だけ年俸5000万~1億円未満の選手を対象にすることが可能)
  • FA権を保有している、もしくは過去に行使した経験がある選手
  • 育成選手
  • 前年の日本シリーズ終了以降にトレードやFA(人的補償)など、選手契約の譲渡により獲得した選手
  • シーズン終了後に育成から支配下契約に昇格した選手
2023年の第2回からは、最低2人以上は年俸5000万未満の選手を指名対象として提出することが義務付けられるようになった。


指名方式

まず12球団が基本年俸5000万未満の対象選手を最低2人はリストアップし、各球団が指名したい選手1人に投票を行い、最も多くの票を集めた選手を出した球団から指名を開始することができる。最多得票数の球団が複数出た場合は同年のドラフト会議におけるウエーバー順(順位の低い順)で指名権を獲得する。

つまり簡単に言えば、まずどの球団も選手を2人以上選択し、他の11球団から「この選手欲しい!」と言われるほど他球団からの評価が高い選手を出したチームから、他の11球団の選手を自由に選べる権利の優先順が高いという仕組みである。

2巡目以降も存在し、2024年には初めて広島が2人を指名した。

ドラフト会議とは違って非公開で行われており、終了後に移籍が決定した選手が発表されるようになっている。
各球団が提出した選手リストは口外厳禁の秘密情報として扱われ、指名を受けた選手の名前以外の情報については各球団が秘密保持の義務を負う。


歴代現役ドラフト移籍者リスト





現役ドラフト選手の移籍後の活躍について

「現役ドラフトでの移籍が選手やチームにとって有益となり得るのか?」という点について結論を導くのは、まだ制度導入から数年しか経過していないので時期尚早ではあるが、それでも前所属球団で燻っていた姿が嘘のように覚醒し、いまやチームに欠かせない存在となった事例も第1回から既に存在する。
その筆頭がソフトバンクから阪神に移籍した大竹耕太郎と、DeNAから中日に移籍した細川成也であろう。

大竹はソフトバンク時代には好投しても無援護でなかなか勝てない投手としてネタにされ、移籍前の2年間に至ってはストレートの球速が130km/h弱まで落ちてしまい、防御率9.82と成績までボロボロになってしまっていた。
前年の後半からはコーチの助言を受け入れて落ち込んでいた球速の回復に努め、140km/h前後まで戻して首脳陣から復活の期待も高まっていた中で現役ドラフトへかけられることとなり、名の知れた有望株がリストアップされたことはソフトバンクファン以外からも驚きを持って受け止められた*2
移籍後は精密なコントロールを武器に21試合の登板で12勝2敗・防御率2.26と大ブレイクし、5月には月間MVPを受賞。先発ローテーションの一角として18年ぶりのリーグ優勝と38年ぶりの日本一に貢献。この年だけでソフトバンク時代以上の勝ち星を挙げており、年俸も推定2000万円→6700万円と3倍以上の増額を果たした。

細川はDeNA時代には1年目からプロ初打席を本塁打で飾る*3など期待を集めたものの伸び悩み、結局プロ通算6本塁打にとどまっていた。
それに対し、移籍後は和田一浩打撃コーチとの出会いや新外国人アリスティデス・アキーノの大不振もあってシーズン序盤から大奮闘を見せ、5月には大竹と一緒に月間MVPを受賞。早々に前年までの通算本数を軽く超える本塁打を放ち、あっという間に打線の中心に。終盤こそやや調子を落としたが、最終的に初めて規定打席打率に到達し、打率.253・24本塁打・78打点・OPS.780と大ブレイクし、チームが2年連続最下位に沈む中で明るい材料になった。
ここ数年はとにかく攻撃面の至らなさ、特に長打力不足が槍玉に上がり続ける中日において、「細川がいなかったら打線は完全に崩壊していた」と言っても過言ではない活躍ぶりだった。年俸も推定990万円→推定4500万円と約4.5倍にアップ。昇給率だけで言えば大竹より上である。

ただし、大竹や細川のような光もあれば当然闇もあり、笠原・成田・渡邉・古川・正髄・松岡の6人に至ってはわずか1年で戦力外通告ないし育成への降格といった辛酸を舐めることになった。
これは、この制度がよく言えば「出場機会に恵まれない中堅支配下選手の移籍による活性化」、悪く言えば「チーム構想によっては戦力外寸前の支配下中堅選手にラストチャンスを与える」という目的によるものであることを如実に表していると言える。

阪神・広島・オリックスで指導者を歴任し、現役時代にトレードの経験もある岡義朗氏によると、入団して4~5年経つとその選手に対する固定観念とも言うべき評価がある程度固まり、選手の飛躍の妨げになることがあると指摘。その点、現役ドラフトによって新しいチームに行くことで評価がいったんフラットになり、「招かれて行く」ということでチャンスが増えて新たな可能性を見出してくれると分析する。
一方で、逆に言えば古巣にとっては出しても問題がない選手、つまり必要とされない選手という側面もあるが、その崖っぷちのメンタルによって選手の闘争心に火が付き、新たな可能性が生まれるとも語る。

第2回以降は大竹・細川の覚醒が各球団に大きなインパクトを与えたことが影響したか、第1回よりも一軍実績のある選手が多く対象になった傾向がある。実際、過去2~4年以内に一軍主力としてバリバリ働いていた選手も少なくない。
この年の目玉はソフトバンクから日本ハムに移籍した水谷瞬であろう。四軍まで存在する古巣では層の厚さもあって一軍出場すらかなわなかった彼だが、移籍後はみるみるうちにその才能を開花させ、交流戦では18試合のうち16試合で安打を記録し、うち8試合でマルチ安打・7試合で長打を放つなどセ・リーグを震撼させ、最終的には2015年の秋山翔吾(.432)を超える交流戦史上最高となる打率.438を記録し、交流戦MVPを獲得*4。最終的に打率.287・9本塁打・39打点の成績を残すなど大ブレイクを果たし、2年連続最下位に沈んだチームのAクラスおよびエスコンフィールド初のCS開催に大きく貢献した。
9月28日のソフトバンク戦では自分とは逆に日本ハムからソフトバンクに移籍した長谷川威展と対戦し、本塁打を放っている。
彼以外にも佐々木千隼や長谷川・鈴木博志らが好成績を残したほか、1期生のオコエ瑠偉も後半に出場機会を増やして4年ぶりのリーグ優勝に貢献している。

このような成功例が生まれたこともあり、未だ改善の余地がありながらも、導入を自ら希望した現役のプロ野球選手は当然として、プロ野球ファン・OB・解説陣からも肯定的に扱われることが多い。
少なくとも大竹・細川・水谷の活躍を目の当たりにした3チームのファンでこの制度に否定的な者はいないと言っていいだろう。
上記のように完全非公開であることから、年末になるとファンやメディアの間で予想合戦が繰り広げられるようになっており、今やオフシーズンの新たな目玉イベントになっており、さながら「12球団トレード大会」とも呼べる盛り上がりと化している。


余談

野球ゲーム『実況パワフルプロ野球シリーズ』においては本来実装初回となったであろう『2022』には全くの非実装になった。
本作は他にも日本ハム関係の変更に対応できておらず、エスコンフィールドは2023年度シーズン版データには実装そのものがない・投手→指名打者の守備位置変更を認めるために整備された「大谷ルール」も完全に非対応*5であるなど開発環境の混乱がうかがえる。
実装できなかった要素が多いこと、先述のように相談がまとまったにも関わらず新型コロナの影響で導入時に混乱したために取材が間に合わなかったのが推測できることから、シンプルに納期を落として断念した可能性が高い。

次の作品の『2024』には上記の2つに加えて現役ドラフト制度も実装されており、ペナントモードでは「あり」+「プレイヤーが手動で指名する」に設定すればプレイの一環として現実と同様の掘り出し物的な選手の獲得・ポジティブな放出が可能。また、プレイヤーが操作している選手が指名OKの対象になっている場合、マイライフモードでもこれによる強制的な移籍イベントが発生する(=主人公が現役ドラフトで指名される)可能性がある。相棒枠キャラとなる奥居に関しても、連携練習で上げてやらないと能力が絶妙に中途半端なためか?彼が現役ドラフトで指名されて主人公と別れ別れとなることは結構あるようだ。
少なくともペナントに関しては、OB選手のオールスターチームをメインにして遊ぶためにそもそも二軍選手がいない上に一軍の壁が厚すぎる時代考証としておかしくなるのが気になる場合はコンフィグでなしにすることも可能。



追記・修正は、現役ドラフト選手の奮闘を願っている方にお願いします。

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  • 阪神ファンにとっては嬉しい誤算、中日ファンにとっては神制度
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  • 賛否両論?
  • ホークスの目利き
  • 光もあれば闇もある
  • 水谷瞬
最終更新:2025年05月12日 22:53

*1 名前の由来はMLB規約の第5条に規定されていることから。

*2 球団と現場の意思疎通に問題があることや、そもそもソフトバンク自体が球速やパワー型投手偏重で大竹のような技巧派を軽視している問題を指摘する意見も挙がってはいた。

*3 ちなみに、この際の相手投手が入れ替わるように移籍した笠原祥太郎である。

*4 球団では2007年のライアン・グリン以来で、打者としては史上初。

*5 NPBでは2023年から規定されたが、ゲームにおいてはエスコンフィールドと同じく2023年度データ版には実装されなかった。