アルガス・サダルファス

登録日:2012/02/19 Sun 18:02:34
更新日:2025/10/14 Tue 07:05:56NEW!
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家畜に神はいないッ!!



アルガス・サダルファスとは、日本のゲーム『FINAL FANTASY TACTICS』に登場する架空の人物。
この作品の重要なテーマである『貴族と平民の格差』を強烈に体現しているキャラクター。

プロフィール


年齢:16歳(第1章開始時)
性別:男性
誕生日:処女の月7日(現実日時だと8月29日生まれ)
守護星座:処女宮《ヴァルゴ》
固有ジョブ:見習い戦士(初登場時)→ナイト(敵対時)→デスナイト(PSP版限定)
CV:吉野裕行(イヴァリースクロニクルズ以降)

概要

チャプター1で盗賊団に殺されかけた所をラムザ一行に助けられ、行動を共にすることになる、大貴族エルムドア侯爵の部隊に所属する平隊員。
ラムザたちに救助された際には見栄を張って騎士を名乗ったが、実際にはまだ騎士の称号を授かっていない見習い。騙りもディリータに即バレた。

ラムザ一行に骸旅団に攫われたエルムドア侯爵の救助を依頼する。
仲間としてはNPCであり、ラムザやディリータとはまた異なる一部ナイトの技を使用できる特別仕様の見習い戦士。

元々は貴族の家系だったが、祖父が五十年戦争で味方を売った(という疑惑を掛けられ死亡した)ため没落してしまった一族の出身。
家の再興を望んでおり、『身分』や『貴族らしさ』というものに人一倍強いこだわりを見せる。
「ブレイブストーリー」によると、そういった執着や血気に逸る姿から騎士団内では疎まれていたらしい。

作中の動向

エルムドア救出のため、また命を救われたこともありラムザたちにしばらく同行。
救出後もしばらくは骸旅団殲滅戦に同行してくれる。

当初は主君のために無鉄砲に奔走し、没落貴族としての苦しみを吐露したりと、野心に燃える血気盛んな青年に見える。
だが、骸旅団との戦いの中で彼の内面が徐々に露見していき、その印象を覆すこととなる。

正義感からとはいえ、捕虜にした骸旅団員にエルムドア侯爵の居場所を吐かそうとする際のあまりに行き過ぎた(ラムザが止めなければ殺しかねない勢いだった)暴力行為。
そして平民を人間扱いしない暴言の数々。
特に骸旅団のリーダー・ウィーグラフの妹ミルウーダと戦った際に放った上記のセリフはあまりにも有名。

なお、経緯としては
平民は貴族の家畜じゃない!

平民は生まれた瞬間から貴族の家畜だが?

そんなこと誰が決めた

神が決めた

神の前では何人たりとも平等のはずだ

というレスバ反論に次ぐ反論の流れの末に出てきたものであり、
平民は(家畜だから)人ではない、よって神が『何人たりとも』平等に扱う必要もない」という理屈である。

その差別極まる発言にはミルウーダも返す言葉がなかったようで、リアクションは

ミルウーダ「!!!!

で、そのまま会話が終わってしまうという……。文字通り絶句である。
そのためこの台詞そのものをどう思ったかは誰の口からも語られない。

極めつけは平民出身のディリータの妹・ティータが攫われた際にディリータの目の前で嫌みったらしく「平民出身の娘など助ける価値もない」と言い放つ。
当然これはディリータを激怒させ、彼に殴られ、温厚なラムザにすら「失せろ!二度と自分の前に現れるな!」と言われて2人と袂を分かつことになる。


末路

そして、舞台はチャプター1の最終地点・ジークデン砦へ……

骸旅団に捕らえられたティータをゴラグロス*1が盾にした際、アルガスは何故かラムザの次兄にして北天騎士団団長ザルバッグの配下として現れる。
そのザルバッグの命令を受けたアルガスは躊躇無く盾にされたティータを射殺。ディリータとラムザの目の前で。
(意図的にティータから狙ったのかは不明だが、いずれにせよ人質の盾をあっさり奪われたゴラグロスは驚愕しているうちに第二射の餌食となったため、有効ではあった)

これにより、彼はラムザと怒り狂ったディリータに刃を向けられることになる。
アルガスは向こうが食って掛かってきたのを願ったり叶ったりという感じで挑発して戦いに持ち込み、
初っ端から「さあ、かかってこいよ! 家畜は所詮家畜だってことを教えてやるッ!!」と言い放ち、
ディリータを嘲り、「ヤツとヤツの妹はここにいてはいけなかった! 花でも売って暮らしていればよかったんだよッ!」*2などと吐き捨てる始末。
過激すぎる表現のためかリマスター版では「豆のスープでも食ってりゃよかったんだよ!」になっている。ミルウーダが平民の窮状を訴えた時の台詞の引用であり、そんな訴えを「平民にはお似合いの姿」という意味で引用するというこれはこれで最悪な台詞になっており、唐突な印象もある花売りに対して物語としての連続性ができている点から評価する声も。
一方、名門貴族にあるまじき甘ちゃんのラムザに対しても激しい苛立ちを露わにする。こちらはリマスター版で台詞自体が増量された。

最期の言葉「く…くそッ……おまえたち……な、軟弱者どもに………やられ……」
彼は最期まで反省することなく、その生涯を閉じた。


敵ユニットとしてのアルガス

シナリオで大きな印象を残したアルガスであるが、敵としても中々の強敵でChapter1ラストに相応しい激戦となる。
正確には彼本人はそこまで強くなく、直前のウィーグラフやミルウーダの方が戦士としては上手なのだが、ステージ構成が巧みなのが特徴。
アルガスさえ倒せば戦闘終了なのだが、自動弓「ナイトキラー」を装備しているため前2者と異なり突出することが少ない。
盾を装備している上にオートポーションで自動回復までするのでめちゃくちゃしぶとい。とはいえアルガスはBraveが32とかなり低いので発動しないことも多々ある。
アルガスは意外とFaithが高く彼と戦うジークデン砦は天候が雪なこともあり、黒魔法で大ダメージを与えられる。
もっと言うと、ナイトキラーの攻撃力は大したことがない。

一番厄介なのは脇を固める3体のナイトと2体の黒魔道士。
この黒魔道士の攻撃が存外痛く*3、ナイト3体が壁役をしながら突出したこちらのユニットをタコ殴りにしてくる。
あれだけ大口を叩いておいて、基本味方頼りで自分は生き残ることに腐心するというのはなんとも彼らしい扱い。


考察

現代の日本人視点だとひたすら嫌なやつ、というかただのゲスであるものの、FFTの舞台背景としては、間違いなくラムザより格段に「一般的な人間」と言えるだろう。
悲しいが現実でもどこの国にもこういう「貴族」は複数いたのだ。

まず何かと没落貴族のくせに「オレは貴族、貴族は正しい、よってオレは正しい」と偉ぶっているように見える部分が目につくが、
諸々の描写を見れば自分が没落貴族にすぎない自覚がないはずもなく、名前しかないからこそ貴族という肩書きに縋り付いているのだろう。
劣等の自覚があるからこそ、このような言わば「身分コンプレックス」の塊になり、過剰な平民差別もそこから生じているものであることは想像に難くない。

骸旅団への差別的な言動の数々については、アルガスは骸旅団に仲間を全滅させられたという事も忘れてはならない。
彼にとってどんな理由があろうと骸旅団は主君をさらい、仲間を皆殺しにした悪党なのだ。実際には差別が先に来てそうに見えるが、過剰に強く出てしまっても責められる謂れはない。
骸旅団は基本的にはテロリストであり、彼らに入れ込むラムザやディリータの言動もリスクを鑑みれば褒められたものではない。
プレイヤーは主役であるラムザに感情移入してしまうが、実の所チャプター1のラムザはいわゆる現実の見えていない甘ちゃんでしかないのだから。

アルガスを象徴する問題発言の数々も、言っていること自体は(少なくともこの世界の中で)正論の部類であることも少なくない。
ラムザへの「武家の棟梁としての名門貴族ベオルブ家の責任を果たせ」は言葉だけなら間違いなく正しい。
アルガスの平民への発言も要約すると「平民なら平民らしく暮らしているべき、貴族の近くにいること自体が間違い」といったもので、その趣旨は「身分をわきまえろ」という意味に集約される。*4

実際にリマスター版ではミルウーダ自身、「家畜」という表現が相応しい形容であることを認めるような描写が描かれている。
彼女にとっては言われたくないことではあったとしても、それは紛れもない現実として受け止めている。

最大の悪行と言えるティータ殺害の件は本人も「おまえの兄キの命令だぜ。何故はないだろ?」と吹かす通り、ザルバッグの命令に従っただけであり、その命令もおかしなものではなく逆らう道理はない。
ディリータがアルガスに(それまでの発言も加味して)殺意を抱くのは当然だが、かと言ってアルガスが居なければティータが助かったかと言えば否、他の誰かが代わりに撃つだけだろう。

羨ましくて仕方のない境遇を無駄遣いするラムザ、平民にもかかわらず大貴族の庇護を受けているディリータに対し、コンプレックスを爆発させるのは当然の帰結ではあった。
ラムザに関してはリマスター版では激しい嫉妬と嫌悪の感情をぶつけており、最悪の組み合わせであったようである。
なお、ディリータに関しては上から目線の台詞が多いが、実は嫌っている描写自体は少ない。互いに険悪になったのはディリータがミルウーダを庇う発言をしてからである。*5
彼の死因となるジークデン砦の戦いは、アルガスが望まなければ別にしなくても良かったであろう戦いである。
そのために骸旅団そっちのけでザルバッグの部下まで使っており、勝ったら勝ったでどう正当化する気だったんだろうか。
なお、これに関しては上記の通りリマスター版でラムザへの嫉妬の感情が爆発するシーンが多く描かれ、こうなった原因が示唆された。

最終的には口を開けば身分身分となる彼だが、登場当初には本人もあまり身分の差を弁えることができていない部分も目立った。
特に彼はラムザ一行に救助された直後、ラムザの長兄ダイスダーグに「仲間の仇討ちのために兵士100人を与えてほしい」と突然直訴したシーンが分かりやすい。
アルガスは被害者であるエルムドア侯爵の部下とはいえガリオンヌにおいては単なる余所者の一兵卒。
そんな奴が「自分の主君より身分が上の大貴族の領内で」「その大貴族の兵士を借りて」「何の権限もないけど軍事行動させろ」と言ったのである
当然この発言にはダイスダーグも「身分をわきまえぬか、アルガス殿!」と叱責している。
その他、ラーグ公が来た際に一人だけ跪くのが遅れていたり、根本的に教育を受けているのかそもそも怪しい部分があった。

つまり、彼は最初から身分の差を気にしていたわけではなく、この件などの挫折を経験して徐々にそういった思想に染まっていったというのが恐らく正しい。
ある意味では他者の言葉の受け売りをしているだけとも言える。

なお、彼は能力面においても疑問符がつく。ラムザとディリータが博識で骸旅団の関係者の知識を披露したり、地理感を発揮している場面でも近くにいるだけ。戦術や今後の行動をどうするかということに口を出すことが一切ない。
挙句の果てにはザルバッグの「骸旅団は思想テロリストだから今回の事件はおかしい」という意見も「そんなことはない!奴らは薄汚い盗賊だ!」と否定してしまう始末。兄さんはこんなやつをよく手元に置く気になったな。
ラムザのことを散々罵倒した彼だが、ぶっちゃけラムザがいなかったら普通に死んでたし、生き残ったとしても彼の身分・能力ではエルムドア侯爵は絶対に探し出せなかったし、ザルバッグの部下にもなれなかったであろう。
また、本人にさほど非がなかったとしてもほぼ弁解しないという彼自身に何もメリットがない事をするなど変な行動も多い。

このように彼は大人ぶってはいるものの、実際は精神的に未熟でしかないというのが透けて見える部分が多い。
まぁ、ある程度は年齢的に仕方ない部分もあるかもしれないが....
なんなら、ブレイブストーリーで「功に焦って独走する事が多く、自分勝手な男だと言われる事も多い」と言われてる辺り、身内の間でも白い目で見られていた可能性が高い。

一応、解釈次第では彼はラムザ・ディリータと共に成長をしていたと言えなくもないが、アルガスはあまりにも悲観的な思考であり、身分の差などに関しても現状を改善する気はなく結局「仕方ない」という結論を出して諦めているだけな所が多い。
最後も正直、ザルバッグにただ利用されているだけである。幸せになりたかったならもっと自らの運命に抗うべきだっただろう。

総合して彼は「常識的」で、その現状をどうにかしたいと嘆いている様子はありつつも、それをどうにかできるだけの能力は持ち合わせていない、ひたすら不遇な人物だったと言える。
皮肉にも、そういった意味では彼自身が「家畜」と罵倒した骸旅団とかなり似たような一面も持っていた。

上記のように少しずつ精神的な成長を見せている部分はあったものの、途中でラムザ・ディリータと決別して以降はその成長も止まってしまい、彼も骸旅団たちと同様に、貴族たちに利用されるままで結局のところ基本的に何も運命に抗えていないという口だけの存在に終わっている。
それがアルガスの評価されない決定的な要因だろうか。


結局、ラムザは貴族の都合に翻弄され、ティータを助ける事が出来なかった。
ディリータは持たざるものである事実に絶望し、ラムザとも袂を分かち、あらゆるものを利用しのし上がっていくことを決意する。
そしてその射殺を命じたのが兄ザルバッグだったという事実も重なり*6、ベオルブ家からの出奔を決意させる。

彼自身は大局に何の影響を及ぼすこともない凡人として生を終えるが、彼の言動(と、それを裏付けるに足りた出来事)がラムザとディリータに決定的な影響を与えたのは間違いないだろう。
徹底的な嫌われキャラであることは間違いないが、冒頭で言った通りFFTの世界観を象徴するキャラであり、物語を大きく動かしたキャラであることもまた事実である。*7



移植版『獅子戦争』では


PS版ではこれでおしまいだが、PSP版ではエルムドア侯爵との戦闘前にゾンビ化してラムザと戦う追加シナリオがある。
なおこのシナリオは原作の松野氏ではなく別の方が担当した事もあり、『獅子戦争』要素があらかた削除されたリマスター版では収録されていない。

何気に生前の主君に再び仕えることになった。まぁ『獅子戦争』時点でのエルムドアはルカヴィが彼の死体を動かしているだけの実質別人だが。
そもそもエルムドアからしてもわざわざ蘇生させてでも手元に置いておきたいほどの部下だったとは思えないので、間違いなくラムザと関係があるからというだけで復活させられている。*8
本人は「オレは選ばれたんだよ。強大な力にふさわしい者としてな」と得意の絶頂だが、死んでからも他人に利用され続けている…

ちなみにこのときの彼の肩書きはただの「アルガス」(生前は「剣士アルガス」だった)。

ついでにいかにデスナイトになって暗黒剣が使えるようになったからって、今更ヘタすりゃ努力を極めて暗黒騎士になっている事すらあるラムザに敵うわけもなく、フルボッコされる運命にある。
しかも、何故か装備品以外でのステータス異常への耐性がない。
蛙にするなり鶏にするなり好きにいじめてあげよう。
……設定ミスだと思うが、何分アルガスなので、制作側もわかってて放置していたと受け取ってもいい気がしなくもない。

倒すと母親に助けを求めながら死ぬ。

「か…かあ…さん…た…たすけ……て…」

この時点のラムザはシスコンである為、アルマしか眼中になく、今更アルガス等どうでもよく、ラムザからは特にそれについて反応してもらえない、見事に惨めな最期を遂げた
ただしプレイヤーには「あのアルガスが最期に縋った相手が母親である(あるいは、縋れる相手が母親しかいなかった)」点は色々と考えさせられるものがあったようで、彼がどのような家庭環境で育ったのか考察の対象になることも。


さらに共同戦線では10体のアルガスを討伐するミッションまで。
最強の暗黒剣「ヴァルハラ」はこのミッションでしか手に入らないため、大量のアルガスたちが虐殺されることとなった。
スタッフ狙ってやってるだろ……

もはやただの戦闘員黒いアイツモブキャラである。
アルガスの明日はどっちだ!?



おまえでなければできない追記・修正がたくさんあるんだ!
それができないヤツの代わりに果たさねばならない!

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最終更新:2025年10月14日 07:05

*1 骸旅団の副団長。前任のギュスタヴがウィーグラフに粛清された後、副団長に就いた。

*2 そういう意図がなかった可能性もあるが、花を売るとは売春の隠語である。ちなみに本作には本当にスラム街の花売りが出てくるが無関係であろう。

*3 炎のロッドを装備しており、属性強化されたファイラを使用するため火力が高い

*4 ただしディリータとティータを身近に連れていたのはラムザの意思もあれど、その武家の棟梁であるラムザの父バルバネスの遺言によるものなので、実情としてはアルガスがとやかく言うのはお門違いである

*5 ディリータの方もミルウーダへの暴言とそこからのこじれが生じる以前はそこまで悪感情を抱いておらず、スウィージーの森では軽口を叩き合っていたくらいだった

*6 と言っても、ザルバッグが立場上その命令を出さざるを得ないという事は受け入れたようで、憎んでいる様子は一切ない。

*7 たまに勘違いする人がいるが、この評価は矛盾しない点である事は留意されたし。簡単に言えば、『アルガスは嫌いだが、一部の発言には一理ある』『発言や身振りは酷いが、背景や立場を考えたらやむを得ない面もないとは言えない』とか。

*8 逆に言うとリマスター版のエルムドアはルカヴィになっても本人の人格が残っている上に「民の事を思う高潔な武人だったが、救いたかった民にすら絶望してしまった」というバックボーンが描かれており、明らかにアルガスと性格的に噛み合わなかったと思われるので『獅子戦争』とは違い復活させなかった理由もある意味ついている。