ビン坊


アメリカの「アニメのゴールデンエイジ」と称された20世紀初期において、フライシャー・スタジオにより作られたキャラクター。
同社の主力作品だった『トーカルーンズ』シリーズの『Hot Dog』が初出で、一時期主要キャラを務めていた存在である。
声の担当は1931年までが ビリー・マリー 氏。それ以降は、 ウォルター・ヴァン・ブラント 氏が担当している。

「ビン坊」は日本に輸入された際に和訳された名前だが、「貧乏」が元ネタではないようで、
元々の原作の名前が「Bimbo」もしくは「Bimbo The Dog」であり、翻訳後に妙な意訳をされているわけではない。
(ただし「Bimbo」はイタリア語の普通名詞で赤ちゃんを意味する「bambino」に由来するのだが、
 それが転じて「あほ」というスラングで用いられることもある)。
なお、設定が固まっていなかった頃は「フィッツ」という名前が使用されていた時期もあった。
デザインは時期によってマイナーチェンジされているが、上画像のような後期のボーダーコリーのものが一番有名である。
また、出番は少ないがアロイシウスという赤ん坊の弟がいる。

邦題「ビン坊と秘密結社」(パブリックドメイン)

フライシャー・スタジオはゴールデンエイジにおいて覇権に君臨していたディズニー社と唯一競い合うことができた会社であり、
ビン坊が出る作品は、フライシャーの作品ではメディアミックス作品である『ポパイ』『スーパーマン』と並んで代表作として知られるが、
何より有名なのは、『トーカルーンズ』においてビン坊の恋人として登場し、
後にアニメ史初の女性主人公、そして大きなお友達向けアニメの元祖となる「ベティ・ブープ」との主人公交代劇である
(なんで犬の恋人なのにベティは人間なの?と思うかもしれないが、実は初期の彼女は擬人化プードルだった。特徴の耳飾りも当時は垂れ耳)。

そもそもゴールデンエイジにおいて作られたアニメは、大半が先達者である「フィリックス・ザ・キャット」か、
覇権に君臨していたディズニー社の模倣や派生であることが多かった。
当のウォルト・ディズニーもフィリックスに多大な影響を受けた末に才能を開花させたことは有名である。
対して、フライシャー・スタジオの代表であるフライシャー兄弟は、
背景を立体模型で作成して手前にセル画を置いて撮影する「ステレオプティカル撮影法」を確立させるなど、
既存のアニメ作品のトレンドからかけ離れ、なおかつクオリティの高い作品を作る傾向のある、
いわば異端の奇才であった*1

実例(パブリックドメイン ※1920年代の作品)

ベティ・ブープの原型となるキャラも上記の通り当初は犬であったが、やはりビン坊と同じくデザインの変更を経て、
最終的にベティ・ブープという人間のキャラとして落ち着いた経緯がある。
しかし、一部団体からビン坊とベティ・ブープの恋人設定は獣姦を連想させると抗議を受けるようになり、
フライシャー・スタジオはベティ・ブープを主役にしてビン坊を脇役ポジションにするという大胆な路線変更を決行。
次第にビン坊はスクリーンから姿を消したが、代わりにベティ・ブープは大きなお友達向け作品として、
ハイターゲットを中心に人気を獲得するようになった。

しかし、1934年に開始された「ヘイズ規制」によりベティはお色気描写を抑制せざるを得なくなり、
これによりフライシャー・スタジオは大きく勢いを落とし、
さらに第二次世界大戦の打撃や兄弟の対立などが追い打ちとなり、1942年に倒産。
制作部門はパラマウント映画に買収され、その後はフェイマス・スタジオとして受け継がれたが、
フライシャー兄弟は二度と業界に戻ることは無かった。
フライシャー・スタジオだった企業はフライシャー兄弟の子孫により、
兄弟が作り出したキャラクターを用いたグッズやCM等への使用認可のみを取り扱う名目のみの企業として残されているが、
もはやアニメーション制作からは完全に手を引いている。

しかし、フライシャー兄弟の独創的な作風に魅了されたクリエイターは多く存在し、
1960年代の差別や規制の緩和を求めるカウンターカルチャー運動に伴い、
フライシャー兄弟はアニメの先駆者として再評価されるようになった。
日本のアニメーション作家においても、手塚治虫氏、宮崎駿氏、高畑勲氏などはフライシャーに影響を受けたと公言している。

ビン坊がベティ・ブープの前座という評価は否めない。
付け加えるならば、そのベティ・ブープも知名度ではフィリックス、オズワルド、ミッキーというアニメ史三傑に一歩劣る。
しかし、当時ですら子供を主なターゲットとしていたアニメという媒体において、
ターゲット層を大人にも広げたベティ・ブープの存在はアニメ史において大きな意義を持ち、
そのベティの誕生と台頭に不可欠だったビン坊もまた、重要な存在であったと言える。
ベティと主役交代したのは成り行きだが、ビン坊からワンクッション置いたことが、
規制されるまでとはいえ、当時としては異端の主役であったベティというキャラを大衆に受け入れさせる潤滑油となったのは確かである。

余談だが、2010年代にはとある海外の作曲家が作ったイメージ曲「Betty Boop / Charlie Puth」が、
ゴールデンエイジのレトロな意匠を持ちつつスタイリッシュで軽快に仕上がった曲調から話題となった。


MUGENにおけるビン坊

コンパチキャラに定評のあるCrow Sar氏の製作したキャラが公開中。
氏のレトロアニメシリーズの第四弾のキャラである。
遠近ともにバランスの取れたオールラウンダーなキャラとなっている。
特に、飛び道具の発生とスピードが非常に早く、距離を問わず優位に立てる。
超必殺技では、高速で何度も突進する攻撃の他、ナイフを多数飛ばしたり、爆弾で攻撃したりする。
また、飲み物を飲んで体力を回復させる特殊なゲージ技もある。
AIもデフォルトで搭載されている。
DLは下記の動画から

出場大会

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*1
決してフライシャー・スタジオが流行を軽視していたわけではないが、
ともかく世に送り出した作品の作風は他のライバル社とは明らかに毛色が異なっており、
それでいて評価が高く、当時は「ディズニー≧フライシャー>(超えられない壁)>その他の会社色々」という三分割の勢力図となっていた。


最終更新:2023年08月19日 17:02
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