蟹工船


「おい地獄さ()ぐんだで!」

文芸誌『戦旗』で1929年に発表された小林多喜二氏の小説『蟹工船』に登場する船。
蟹工船「博光丸」のモデルになった船は実際に北洋工船蟹漁に従事していた博愛丸(元病院船)である。
この小説には特定の主人公がおらず、蟹工船にて酷使される貧しい労働者達が群像として描かれている点が特徴的である。

戦前にオホーツク海のカムチャツカ半島沖海域で行われた北洋漁業で使用される漁獲物の加工設備を備えた大型船である。
搭載した小型船でたらば蟹を漁獲し、ただちに母船で蟹を缶詰に加工する。
その母船の一隻である「博光丸」が本作の舞台である。

蟹工船は文字通り「工船」であって「航船」ではないため、航海法*1は適用されず、危険な老朽船を改造して投入された。
また、工場でもない事から労働法規も適用されなかった*2ため、蟹工船は法規の空白域であり、
海上の閉鎖空間である船内では東北一円の貧困層から募集した出稼ぎ労働者に対する資本側の非人道的酷使がまかり通っていた。
また、北洋漁業振興の国策から政府も資本側と結託して事態を黙認する姿勢であった。

情け知らずの監督である浅川は労働者達を人間扱いせず、彼らは劣悪で過酷な労働環境の中、暴力・虐待・過労や病気で次々と倒れてゆく。
ある時転覆した蟹工船を流れ着いた先のロシア人*3が救出した事がきっかけで、労働者達は異国の人も同じ人間と感じるようになり、
中国人の通訳も通じ、「プロレタリアートこそ最も尊い存在」と知らされるが、船長がそれを「赤化」とみなす。
学生の一人は現場の環境に比べれば、フョードル・ドストエフスキー氏のロシア小説『死の家の記録』の流刑場はマシな方と語る。
当初は無自覚だった労働者達はやがて権利意識に覚醒し、指導者のもとストライキ闘争に踏み切る。
会社側は海軍に無線で鎮圧を要請し、接舷してきた駆逐艦から乗り込んできた水兵にスト指導者達は逮捕され、最初のストライキは失敗に終わった。
労働者達は作戦を練り直し、再度のストライキに踏み切る。

本作は所謂プロレタリア文学の代表作とされている。
2006年(平成18年)以降、イタリア語版、韓国語新訳版、台湾からの中国語新訳版、大陸での中国語旧訳再版、
「マンガ蟹工船」と合本の中国語新訳版、フランス語版、スペイン語版などが各地で出版されており、国際的評価も高い。

1929年3月30日に完成し、『戦旗』5月号・6月号に発表され、「昭和4年上半期の最高傑作」と評された。
『蟹工船』の初出となった『戦旗』では当時の基準の検閲に配慮し、全体に伏字があった。
同年6月号の編が新聞紙法に抵触して発売頒布禁止処分を受け、
1930年7月に小林氏は『蟹工船』で不敬罪(※皇室への無礼による罪、現在は刑法上罪自体が廃止)の追起訴となる。
その理由は作中に献上品(※現在は制度上撤廃されている)のカニ缶詰めに対する「石ころでも入れておけ!かまうもんか!」という記述が検閲の対象であった。
戦後、1968年にほぼ完全な内容を収めた『定本 小林多喜二全集』(新日本出版社)が刊行された。

再ブームのきっかけは作者の没後75年にあたる2008年、
毎日新聞東京本社版1月9日付の朝刊文化面に掲載された高橋源一郎氏と雨宮処凛氏との対談と言われる。
同年、新潮文庫『蟹工船・党生活者』が古典としては異例の40万部が上半期で増刷され例年の100倍の勢いで売れ、
5月2日付の読売新聞夕刊一面に掲載。読者層は幅広いが、特に若年層に人気がある。
毎日新聞等では日本共産党党員が近年増加しているのは蟹工船の再ブーム等の影響もあるのではないかと論じられた。
2008年の新語・流行語大賞で流行語トップ10に「蟹工船」が選ばれた程。

(以上、Wikipediaより引用・改変)

+ 蟹光線
余談になるが、菊池たけし氏によるTRPGリプレイ『セブン=フォートレス アルセイルの氷砦』(1991年)に登場する必殺技に「蟹光線」というものがある。
読みは「イブセマスジー」。
イラストレーターの鈴木猛氏が演じた闇の魔術師キタローが背負う「カニアーマー」から放たれる破壊光線だが、
『蟹工船』の作者を井伏鱒二氏(代表作『黒い雨』)と勘違いした事でこの読みになり、指摘を受けても「こっちの方が語呂が良い」で押し通した。
後に「始祖蟹光線」として「コバヤシタキジー」も登場している。確かに若干語呂が悪いかもしれん

更に古いネタでは『仮面ライダーV3』(1973年)に登場するデストロン幹部「ドクトル・G(ドイツ語読みで「ゲー」)」の怪人態は、
本人がサソリ大好きで人間態の時からサソリを模した紋章まで付いているにもかかわらず「カニレーザー」であり、
元々持っていた斧と盾での近接戦闘に加え、その名の通り額から怪光線を発射してくる。
また、盾を持つ左手も密かにカニのハサミになっており、素の格闘能力も向上している。ある意味カニアーマーの始祖かも知れない。
他にもお笑い芸人のカズレーザー氏の芸名の元ネタでもあるとか。

こうしたネタ以外でも、カニ型メカの切り札が光線兵器というネタはちょくちょく見かけるので、
「蟹光線」ネタは様々な作品で隠れモチーフとして密かに受け継がれている可能性がある。


MUGENにおける蟹工船

ちりめん氏による手描きキャラが存在。何故作った
現在は弾丸マックス氏のロダ(むげん代理公開場8)にて代理公開されている。

蟹を投げ付けたり、巨大な蟹のハサミから光線を放つ超必殺技「蟹神」などを駆使して戦う。
ただし、蟹の回数には制限があるため、Cボタンの「蟹捕獲」で溜める事ができる。
また、オプションで「凶」「狂」「発狂」の3つのモードなども変更可能。
AIもデフォルトで搭載されている。
プレイヤー操作

出場大会

プレイヤー操作



*1
「航海法」という法律は小説内の創作で、現実の日本には存在しない(何か別の船舶法律の俗称かもしれないが)。
なお、それと別に「船舶安全法」が定められたのは作者の死後である。

*2
当時も「工場法」という一応年少者・女子を保護する法律が存在し、成年男子は対象外だが労災への扶助の規定はあった。

*3
当時は経済水域の概念が無かったため、
「領海(当時は沿岸から3海里が主流)の外なら咎められない」と異国まであと数kmの距離で操業する漁師があちこちにいた。
当然ながらそんな外国の漁師達は良く思われておらず、ちょっとでも入ったら捕まえるつもりでいた相手国の漁師や軍艦と暴力的に衝突することがよくあり、
その有り様を前述の浅川監督は「戦争」と例えている。


最終更新:2025年09月01日 00:16
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