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アポリアすごろく


概要

 アポリアすごろくは、リンベルーク・アカデミア付属サー・フォス・カレッジの公認(❓️)サークル遊理部が考案した、
盤上の危険遊戯である。魔法災害の一種であるアポリアを盤の上で意図的に起こし、参加者は災害の只中で駒を進めてゴールを目指す。

誕生秘話(部室は犠牲になった)

 アポリアすごろくの出発点は、明治の日本から流れ着いた霧島兵一郎が部室で漏らした、故郷の正月遊びの思い出話にある。紙の盤に描かれたマス目をサイコロの出目で進み、止まったマスの指示に従いながら、丁稚から大将までの出世を競う絵双六の話で、本人は懐かしさ半分の雑談のつもりだった。聞き終えた部長スーラ・ヴィ・レクサーニの第一声は「え、止まったマスの言うこと聞くだけ? 物足りなくない?」。……いや、正月の遊びに何を求めているのか。部長は同じ晩のうちに手描きの盤をこしらえ、部内のボードゲーム大会で既存の盤の裏に仕込んでおいた一枚が、世に出た最初の版となった。改良の方向を決めたのは、部長が講義で聞きかじったアポリアの性質で、法則の破綻が積もって歪みとなり、ある時点で形を取って噴き出す流れを、そのまま遊びの山場に使えると閃いたらしい。閃かないでほしかった。月例の爆心地ワークショップで作られた改良版は、当初こそ現象魔法で風や物音を添える演出の域にあったものの、試作を重ねるうちに部長の凝り性が暴走し、本物のアポリアを呼び込む仕掛けへと化けていく。初の試遊で部室は半壊し、駆けつけた風紀委員会の介入を招いた。試遊に加わった部員の何人かは、盤の上で見たものを今も言葉にできずにいる。以降の改良は「安全対策を施した新版」の看板を掲げて進められたものの、根本の危険は一つも取り除かれていない。話の出どころとなった兵一郎は、完成品を前に腕を組み、「双六に謝れ」の一言だけを残して稽古場へ引き上げたという。

盤の仕様(取扱注意)

 盤の心臓部は、付属のルールブックを盤の内側に限った法則として読み込む術式で、遊戯の最中は冊子の文面が一字一句たがわず盤上の世界の決まりに変わる。サイコロにも同じ系統の現象魔法が組み込まれており、振られた出目を盤の法則へ書き込む役を受け持つ。通常のマス目に混じって要所に配された特殊区画が歪み蓄積マスで、止まった参加者に両立しようのない命令を下す。「一マス戻りつつ二マス進め」「次の手番まで動くな、ただし毎秒一歩ずつ前へ」の類で、どちらに従っても片方に背く羽目になり、背いた分の食い違いが法則の破綻として盤の底に沈んでいく。沈殿が閾値を越えた瞬間、溜まった破綻が一斉に形を取り、盤の上に小さなアポリアが噴き出す仕組みである。災害を盤の外へ漏らさない封じは、遊理部の手製による。盤の縁は内と外を分ける境として術式に組み込まれ、噴き出した作用は縁の手前で折り返して内側に戻る。非常時の止め方は単純明快で、盤を二つに畳めば法則の読み込みが途切れ、遊戯は即座に強制終了となる。畳むには盤の外にいる者の手が要るため、試遊の場には必ず畳み役が一人、盤から離れた椅子に座らされる。初の試遊では蝶番が歪んで畳めず、部室半壊の一因となった。現行の盤は蝶番を三重に備えており、部長いわく「三回畳めるから三倍安全」。……畳むのは一回でいい。

遊び方(生還推奨)

 参加者は二人以上で盤を囲み、手番ごとにサイコロを振って駒を進め、最初にゴールへ駒を届けた者が勝者となる。ここまでは普通のすごろくと同じで、違いは盤の上で現実の事象災害が起こる点にあり、参加者の身体の安全は誰にも保証されない。アポリアが噴き出した際に盤の外へ弾き出された者と、意識を手放した者は、その時点で脱落として失格が決まる。先を急いで蓄積マスを踏み荒らせば自分の手番で災害を引き当てるため、歪みの沈み具合を見極め、危ない時機を他人に押しつける判断が勝敗を分ける。噴き出すアポリアの中身は毎回違い、盤上を突風が吹き荒れる回もあれば、幻影の魔物が駒を追い回す回もある。空間が狂う回にはマスの並びが入れ替わり、目前にあったゴールが盤の反対側まで遠のく。時間が逆に流れる回では直前の手番が巻き戻り、参加者の記憶まで一緒に戻るため、同じ出目に二度喜ぶ者が出る。現象魔法の素養を持つ者は歪みの蓄積を肌で感じ取れるぶん有利とされるが、完全な予測は誰にもできず、最後に物を言うのは運と度胸である。困ったことに、令咏術の防壁は噴き出したアポリアを素通りさせてしまう。アーツ使いの部長は自作の遊戯で最弱の部類に入り、考案者が真っ先に脱落する光景は、もはや試遊の開始の合図に等しい。本人いわく「作った人が勝てるゲームはクソゲー」。……自覚はあったらしい。

禁止令との鬼ごっこ

 風紀委員会はアポリアすごろくに再三にわたって禁止命令を出してきたが、遊理部は禁止されるごとにルールを微調整し、「別の遊戯である」と主張して事実上の存続を勝ち取ってきた。マスの名前を一つ変えれば新作、ゴールを一マスずらせば新作というのが部長の見解で、禁止命令が届いた翌朝には、改訂版の番号を一つ増やしたルールブックが部室の机に積まれている。問題は改訂のやり方にあった。差し替えた頁と差し替え損ねた頁が同じ冊子に同居し、盤の術式は新旧どちらの文面も法則として読み込むため、蓄積マスを誰も踏まないうちから盤には食い違いが溜まっていく。禁止を逃れようと改訂を重ねるほど、遊戯は危なくなる理屈である。部長は改訂版を出すたびに「前より安全になりました!」と胸を張っており、……なっていない。学園内での悪名は言わずもがなで、危険の大きさから参加者は限られるものの、刺激を求めて志願する学生は後を絶たない。生き残った者は参加経験を一種の勲章として語り、何番目の改訂版から生還したかで、参加者同士の先輩後輩が決まる慣わしまで生まれた。最古参を名乗る部員が数える番号は、今も禁止命令が届くたびに更新を待たされている。

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最終更新:2025年12月07日 01:20